
『エヴァンゲリヲン』の鶴巻和哉&コヤマシゲトがコスチュームデザインしたヌイグルマー(武田梨奈)。腰のくびれがキュートです。
ぬいぐるみを解剖すると中には綿しか詰まっていないわけだが、その綿は単なる白綿ではないことに気づいたのが大槻ケンヂだ。ぬいぐるみは多くの子どもたちにとって初めての友達。ぬいぐるみの綿には子どもたちが感じるコドク感や恐怖心、前世の記憶、未来への憧れと冒険心、そういった諸々の想いがヴァージンオイルのように染み付いている。ぬいぐるみは子どもにとってサイコーの仲間であると同時に、やがて子どもが成長していくと忘れ去られてしまう哀しい定めを持ち合わせている。まさに、悪を倒して人知れず去っていく正義のヒーローそのものではないか。大槻ケンヂが2006年に発表したSF小説『縫製人間ヌイグルマー』が、中川翔子主演&井口昇監督作『ヌイグルマーZ』として映画化された。
大槻ケンヂ、中川翔子、井口昇の3人に共通しているのは、学校の休み時間を水飲み場でひとりぼっちで過ごしていたという過去。今でこそ特異な才能を発揮しまくっている3人だが、思春期の頃の彼らは特異な才能を表現する手段を知らず、コドクさに悶々としていた。3人のそんな想いをピンク色の糸でしっかりと縫い合わせてみせたのが、若きアクション女優・武田梨奈だ。井口監督とはホラーコメディ『デッド寿司』(13)でタッグを組み、中川翔子と同じくジャッキー・チェンの大ファン、また空手の黒帯であることから“史上最弱の空手家”大槻ケンヂとは格闘技つながりがある。武田梨奈がピンク色のコスチュームをまとった快人ヌイグルマーに変身することで、3人のコドクな思春期の思い出はひとつに重なり、莫大なエネルギーが生じる。死にたくなるほど退屈だったかつての日常風景は、豊饒すぎるワンダーランドへと変わっていく。本来は裏方であるスーツアクターの武田梨奈がキラキラと輝く。そう、ヌイグルマーが活躍する世界はコドクな人たちこそがイマジネーションたっぷりなリッチマンとなり、イジメや不登校といった暗い過去を持つ人が過去の重石から解き放たれて空さえ飛ぶことができる痛快なパラレルワールドなのだ。

宅配カレーで働くロリータ娘のダメ子(中川翔子)は、綿状生命体が宿るテディベアのブースケと合体することでヌイグルマーに変身する。
原作のエッセンスをしっかり吸収した上で、中川翔子、武田梨奈ら女優陣の魅力が活きるように井口監督らしいオリジナル性が加えられた『ヌイグルマーZ』。天涯孤独で何をやっても失敗ばかりのダメ子(中川翔子)が唯一の肉親である姪の響子(市道真央)を守るために悪の組織と戦う物語となっている。両親のいない響子を見守っているのはダメ子だけではない。亡き母(平岩紙)から誕生日プレゼントとして渡されたテディベアのブースケ(声:阿部サダヲ)には宇宙から飛来してきた綿状生命体が宿っており、響子のことを“姫”として守ることを生き甲斐としていた。響子にゾンビの群れが迫る絶体絶命の瞬間、ダメ子とブースケは合体してショッキングピンクの快人ヌイグルマーへと変身するのだった。
ヌイグルマーと悪の組織が戦う舞台は“日本のインド”と呼ばれる杉並区高円寺。それゆえにインドで修業したターバン巻きの特撮ヒーロー『愛の戦士レインボーマン』の香りがどことなく漂う。ダメ子たちに襲い掛かる悪の組織は『レインボーマン』に登場した“死ね死ね団”によく似ている。悪の組織の幹部たちが実に魅力的なのだ。テレビ番組で一度だけインチキしたことからバッシングされた超能力少年キルビリー(武田梨奈2役)、井口監督の代表作『片腕マシンガール』(08)の姉貴分といえる片腕ロリータ(高木古都)、赤ちゃんなのにエッチ大好きな赤ちゃん人間(ジジ・ぶぅ)と味のあるキャラぞろい。死ね死ね団の女性幹部たちといい勝負できそうだ。

悪の首領・タケシ(猫ひろし)と女性幹部たち。世界中を平等な不幸にしてしまうことが彼らの目的だ。まずは高円寺から。
そして悪の首領には、ロンドン五輪出場の夢を叶えることができなかった猫ひろし。彼の五輪出場の是非はともかく、マラソントレーニングで流した汗の量はホンモノだったはずだ。猫ひろしの破れ去った夢のむなしさの分だけ、ヒール役としてのまがまがしさが際立つ。悪の首領・タケシの願いはただひとつ。世界中の人たちを平等に不幸にすること。みんな不幸になれば、もう社会格差で悩むこともなく、他人の幸せを妬むこともなくなる。某健康食品のセールスのように、彼らは善意から人々を不幸にしようする。それが彼らにとっての正義であり、親切心なのだ。歪んだ善意を押しつけようとするタケシとすべての哀しみに寄り添おうとするヌイグルマーは、必然的に引き寄せ合うことになる。
この世界には言葉にならなかった想いや叶えられなかった夢の残骸といった、世間からはガラクタ扱いされてしまったモノで溢れ返っている。そんな不要品の感情や記憶を、ヌイグルマーはecoエネルギーへと変換する。無尽蔵のエネルギーを秘めたヌイグルマーは無敵の存在だ。コドクに打ち震える人たちに温かい勇気を与え、かつてコドクだった人たちの暗い過去を否定することなく、優しくふんわりと受け止めてみせる。今までにないフェミニンなニューヒーローの誕生である。ヌイグルマーはいつでも、どこにでも現われる。この世にコドクな人がいる限り。黒いボタンの瞳で、あなたのことをじっと見守っている。
(文=長野辰次)

『ヌイグルマーZ』
原作/大槻ケンヂ 脚本/井口昇、継田淳 ヌイグルマーデザイン/鶴巻和哉、コヤマシゲト 主題歌「ヌイグルマーZ」特撮×中川翔子 出演/中川翔子、武田梨奈、市道真央、猫ひろし、高木古都、北原帆夏、ジジ・ぶぅ、斎藤工、平岩紙 声の出演/阿部サダヲ、山寺宏一 配給/キングレコード、ティ・ジョイ 1月25日(土)新宿バルト9ほか全国ロードショー
(c)2013ヌイグルマーZ/フィルム・パートナーズ
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