
『くそガキの告白』の主演俳優・今野浩喜と鈴木太一監督が1時間にわたってトークセッション。映画の話題からどんどん脱線して、人気監督への妬みが爆発することに。
1本の映画を完成させ、劇場公開を果たしたことで人生が大きく変わった男がいる。『くそガキの告白』(12)でデビューを飾った鈴木太一監督だ。低予算ながら映画製作への狂おしい情熱をブチまけた荒削りな内容が評判となり、「2012年ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」で史上初となる4冠受賞、さらにテアトル新宿での公開初日は大入り満員でスタートした。『くそガキ』の評判は業界で広まり、鈴木太一監督は人気ドラマ『みんな!エスパーだよ!』(テレビ東京系)で園子温、入江悠に続く3番手のディレクターに抜擢されるに至った。一介のフリーターから大出世ではないか。『くそガキ』に主演したキングオブコメディの今野浩喜も俳優としての力量を認められ、テレビドラマや舞台に引っ張りだこ。映画を撮ったら人生変わった!? 『くそガキ』のDVDリリースにあたり、鈴木太一監督とキンコメ今野が『くそガキ』がもたらした現状を赤裸々に語った。
──本日は鈴木太一監督とキンコメ今野さんに、“映画を撮ったら人生変わった!?”というテーマで語り合ってもらおうと思います。
鈴木 どこかで聞いたことのあるフレーズですね。映画を撮ったら人生変わったか? う~ん、何も変わってませんね。
今野 もう結論出しちゃうの(笑)。対談、1分足らずで終わっちゃったじゃないですか。
鈴木 あぁ、そうか。じゃあ、今日はじっくり語り合いましょう! 『くそガキ』が公開された2012年は、僕にとって最高の1年でしたね。「ゆうばり」で賞をもらって、テアトル新宿で劇場公開されて。僕の映画監督としてのピークだったと思うので、あとはもうそこから落ちていくだけです。
今野 なるべく、ゆるやかにね(笑)。でも太一さん、2013年は仕事がバンバン入ったんでしょ?
鈴木 2013年はね。忙しくて、バイトに行けなくなっちゃった。
──バイト生活からの卒業。人生変わったと言っていいんじゃないですか?
鈴木 2013年は忙しかったけど、2014年の予定はまるで決まってない。『くそガキ』の劇場収益は僕がひとり占めできるものでもないし。バイトはせずに済んでいるけど、相変わらずギリギリの生活だよ。
今野 『くそガキ』を撮るために、親から借りた借金は返したんですか?
太一 母親から借りたお金は返したけど、ほかにも借金があって、まだ20万円くらい残ってる。だから、DVDが売れてくれないと困るんだよ。
──今野さん、実績のない無名監督のデビュー作によく出演OKしましたねぇ。
今野 太一さんのこと知らないし、どういう映画なのか分からずに出演してしまったんです。事務所に「映画主演の話がきてるよ」と言われて、とりあえずどんな内容なのかプロットを送ってもらったんです。『ニコニコキングオブコメディ』の収録のときにプロット渡されて、読むのが面倒くさかったんで、番組の女性スタッフに「読んで感想聞かせて」って頼んだんです。そうしたら「今野さん、キスシーンがありますよ!」って。それが決め手でしたね(笑)。あと、もうひとつ理由を挙げるとすれば、自分のプロフィール欄に「主演男優賞受賞」って欲しかったんです。
──なんと、賞狙いでの出演だった!
今野 えぇ、まぁ。主演男優賞をもらうには、まず映画に主演しなくちゃいけませんからね。

『くそガキ』のラストシーンは撮影当日の朝、修正台本が渡された。「セリフが多くて、僕も田代さやかさんも大変だった。でも、太一さんが徹夜で粘って書き直してよかった。キスを振りに使った、斬新なコメディシーンに仕上がったと思います」と今野は振り返る。
──今野さんは『ちょんまげぷりん』(10)や『高校デビュー』(11)で脇役ながらイイ味を出していましたが、主演となると背負うものが違った?
今野 そうですね。『くそガキ』に主演するまでは、お笑い界の人間が映画の世界にゲスト出演しにいくって感じで、自分でも軽さを意識していたんです。でも、『くそガキ』では主演の重荷を一度背負ってみようかと。いや、しかし想像以上に大変な現場でした、『くそガキ』は。
──太一監督は、撮影現場をまるで仕切らなかったそうですね。
鈴木 いやいや、俺に仕切らせたら大したもんですよ。俺が本気で現場を仕切ったら、大変なことになりますよ。
今野 それ長州力のマネですか? ちゃんと仕切ってから言ってくださいよ! 残念なことに、自分のことだけ考えていればいいっていう現場じゃなかったんです。こんな現場は他ではちょっとないですねぇ(苦笑)。
鈴木 今野さんが主演じゃなかったら『くそガキ』は完成してなかった。というか、映画そのものが存在してなかったと思う。
今野 とか言いながら、実は、僕は第一候補じゃなかったんですよね。知り合いの俳優にみんな断られたから、僕のところに持ってきたんでしょ?
鈴木 いやいや、最初はもっとこぢんまりとした自主映画のつもりで、知り合いの役者に声を掛けたんだけど、2人続けて断られてしまって。ほんと今野さんが演じてくれてよかった。誰も引き受けてくれなかった場合、フェイクドキュメンタリーとして、自分がカメラ持って出るつもりでしたから。
今野 じゃあ、自分で主人公を演じて、ヒロイン役の田代さやかさんにキスを迫るつもりだったの?
鈴木 いやいや、それは違う! 違う! フェイクドキュメンタリーとして考えていたときは、まだラストはキスシーンにしようとは考えてなかったから。自分が演じてのキスシーンは気持ち悪いですよ。キスシーンを思いついたんで、ちゃんとしたプロに演じてもらおうと考え直したんです。今野さんと田代さんに出てもらって、本当によかった。2人に出てもらったことで自主映画ではなく、外に開かれた映画になりましたからね。
■園子温は憧れの存在、入江悠は嫉妬する存在
──『みんな!エスパーだよ!』では、田代さんが第5話でゲスト出演していましたね。田代さんともう一度仕事をしようと太一監督から声を掛けたわけですか?
鈴木 『くそガキ』で熱演してくれた主演の2人には、どちらにも出てほしかった。今野さんにも、出てもらうつもりだったんです。第5話で、『みんな!エスパーだよ!』の舞台となっている愛知県豊橋市に高倉健級のスーパースターがやってきて、女子高生みんなでパンチラを見せるシーンがあったんですが、そのスーパースター役に今野さんを考えていたんです。でも台本が長くなってしまって、物語と関係ないシーンなのでカットせざるを得なかったんです。
今野 そんな無理やりなシーン、そりゃカットされるでしょ(笑)。
鈴木 う~ん、スーパースター役は誰かということは、台本では伏せてたんだけど。
──そもそも『みんな!エスパーだよ!』に園子温、入江悠に続く“第三の男”として呼ばれた経緯を教えてくださいよ。
鈴木 第三の男……。まぁ、そうか。プロデューサーに以前、『くそガキ』がきっかけで携帯ドラマの仕事に呼んでいただいたんです。それが好評だったということなんですが、やっぱり1本、長編映画を撮っていることで映画監督という肩書ができたのは大きかったです。そうじゃなかったら、ただのフリーターでしたから。『みんな!エスパーだよ!』では、園監督にいろいろお世話になりました。ロケハンの際に一緒にお酒も飲めたし、第1話とかの撮影現場も見せてもらった。園さん、酒を飲んで暴れる人かと思っていたけど、すごく気を配る人だった。あれだけオリジナリティーのある脚本で常に挑戦していて、ヒットもする。今の日本の映画界にあって、園さんは特別な存在ですね。
今野 園監督が特別な存在なら、太一監督は特殊な存在(笑)。

実家暮らしのフリーター生活が続いていた鈴木太一監督だが、『くそガキ』の劇場公開後、『みんな!エスパーだよ!』のディレクターに抜擢された。「ずっとバイトを休んでいたら、行けなくなってしまった(苦笑)。2014年は何とか新作を撮りたい」と語る。
──特別 vs.特殊。ある意味、いい勝負ですね。「俺も将来は女優を嫁にするぞ~!」とか野心に火が点いたりした?
鈴木 いや、園さんに対しては素直に「ご結婚、おめでとうございます!」と言えますけど、ほかの監督たちが女優と結婚したなんて話を聞くと、印象悪いですね。なんかスカした感じがするんですよね。監督は女優を狙っている、みたいな目で自分も見られているかと思うと、イヤになりますよ。
今野 自分だって女優と付き合うことがあるかも知れないんだから、あんまりほかの監督のことを口撃しないほうがいいんじゃない?
鈴木 いや、自分は絶対無理だから。でも、気になるじゃないですか。一体、どういうタイミングで女優と仲良くなったのかなぁとか……。
──やっぱり気になるんですね(笑)。『SRサイタマノラッパー』(09)の入江悠監督も気になる存在?
鈴木 まぁ、言ってみれば僕がもっとも憧れる存在が園さんで、最も嫉妬する存在が入江悠ですね。映画監督として悶々としている自分の状況を、『SRサイタマノラッパー』という映画に全部込めて一気にブレークした。入江悠という存在にはやっぱり刺激を受けます。最近の日本映画界で自主映画から最も成功した男なので、自主映画出身の若手はみんな、心のどこかに「打倒! 入江悠」があると思いますよ。
今野 『SRサイタマノラッパー』の宣伝方法を、『くそガキ』はまんま真似しましたしね。『くそガキ』のちらし配りまで手伝ってくれたし。
鈴木 『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(12)と『くそガキ』の公開時期が近かったんです。それで『SR』のボランティアスタッフだけでなく、主演のマイティー(奥野瑛太)も一緒に『くそガキ』のちらしを配ってくれた。そのときは、入江悠はいなかったけど。
──年下の入江監督のことを、めちゃめちゃ意識してますね。
鈴木 彼はね、作品だけじゃなくて、普段からかっこいいんですよ。『みんな!エスパーだよ!』で入江組の撮影が終わり、続けて僕が撮影に入ったこともあって、若い俳優たちと一緒に飲む機会があったんですが、彼は若い俳優たちの分まで飲み代をサッと出すんですよ。それが、すごくかっこいいんですよ。こっちは財布にあんまりお金が入ってなくて……。「あっ、支払いは?」と聞いたら、「もう、入江さんが払ってくれましたよ」とか助監督に言われると、俺は一体どんな顔をすればいいんだと思ってしまうわけですよ。
今野 映画じゃなくて、いつの間にか飲み会の支払いが話題になってますよ(笑)。
■ダメ監督が愛されるその理由とは……?
──今野さんは『くそガキ』に主演したことで、人生変わりましたか?
今野 『くそガキ』に主演した後、テレビドラマや舞台の仕事が確実に増えましたね。それで現場に行くと、『くそガキ』見たよって声を掛けられるんです。何気に太一監督がマメにプロモーション活動してきたのが、今になって効いてきてますね。映画をつくっている時間より、ちらし配っていた期間のほうが長かったですもんね。
鈴木 そうね。撮影は1週間だったけど、ちらしは劇場公開の1カ月前から配り続けてきたから。主要な新聞社には直接、売り込みに行ったし。まぁ、記事にしてくれなかった新聞社も多かったけど。
今野 田代さんの所属するホリプロに出演交渉しただけじゃなくて、AKB48の仲川遥香さんも太一監督が自分でキャスティングしたわけでしょ。素人の怖いもの知らずのパワーはすごい。
鈴木 仲川さんの事務所からは作品内容じゃなくて「お金は出るんですか?」と疑われてしまった。
今野 そりゃ、疑われますよ。それが普通のリアクションだと思いますよ。でも仲川さん、今はJKT48のセンターでしょ。『くそガキ』のDVD、ジャカルタに持っていけば売れますよ~。
鈴木 そうか、ジャカルタかぁ。インドネシアなら、まだ進出の余地がありそう。早く行ったもんがちだな。
今野 DVDのジャケットを作り替えて、仲川遥香主演作と称すればすっごい売れるんじゃないですか(笑)。
──では最後に、DVDリリースされる『くそガキの告白』のPRで締めてください。
今野 DVDはまだ見てないんだけど、特典とかあるんですかね?
鈴木 今野さん、田代さん、撮影の福田陽平さん、俺の4人でやった裏話満載の副音声に、メイキング映像、ラストのキスシーンのロングバージョンが付いてくる。それに初回限定として、『くそガキの告白』という題名になる前の初稿段階のシナリオ『俺』が封入される。
今野 あぁ、最後に一方的にキスを迫るひどいエンディングのやつだ。
鈴木 うん、完成された最終形のシナリオは読む機会あると思うけど、いちばん最初の原型のものを見る機会はそうないんじゃないかな。
今野 こんなシナリオで見切り発車しても、どうにかなるもんだといういい見本でしょうね。ほんと、太一監督って、みんなに生きる勇気と希望を与えていると思いますよ~(笑)。
(取材・構成=長野辰次)
『くそガキの告白』

(c)SUMIWOOD FILMS&Taichi Suzuki
園子温監督が「本気で嫉妬した!」と評した恋愛コメディ映画がついにDVD化。いつまでも映画が撮れずにいるダメ男・馬場大輔(今野浩喜)と売れない崖っぷち女優・桃子(田代さやか)との伝説のキスシーンが甦る!
監督・脚本/鈴木太一 撮影/福田陽平 主題歌/太陽族「YOU」 出演/今野浩喜、田代さやか、辻岡正人、今井りか、仲川遥香、高橋健一、石井トミコほか
http://kuso-gaki.com
■ 12月3日よりDVDリリース。発売元:日活 販売元:ハピネット 価格:3990円 特典映像:メイキング映像「今野の告白」、キスシーンのロングバージョン、劇場予告編 初回限定封入特典:鈴木太一監督の初期脚本『俺』
■NEWS!
2013年12月10日(火)、『くそガキの告白』DVDリリース記念イベント
『キンコメ今野浩喜の誕生日会!~くそガキメンバーでハッピー・バースデイーを祝っちゃおう!~』が19時30分(開場18時30分)よりお台場・東京カルチャーカルチャーで開催。12月12日(木)に35歳の誕生日を迎えるキンコメ今野を『くそガキ』を見た人も見てない人も一緒になって祝おうというイベント。キンコメ今野、田代さやか、鈴木太一監督、太陽族の花男らが出演。料金:前売りチャージ券1800円
●こんの・ひろき
1978年埼玉県生まれ。スクールJCA6期生の同期・高橋健一と「キングオブコメディ」を2000年に結成。M-1グランプリに2002年、2003年出場し、準決勝進出。2010年には「キングオブコント」で優勝。コントで培った演技力を活かし、俳優としても活躍中。『ちょんまげぷりん』(10)『高校デビュー』(11)などに出演。『くそガキの告白』(12)に初主演し、「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」にて審査員特別賞、シネガーアワード、ベストアクター賞、ゆうばりファンタランド大賞人物部門の4冠をもたらした。
●すずき・たいち
1976年東京都生まれ。早稲田大学第二文学部卒業後、ENBUゼミナールに入学し、篠原哲雄監督の講義を受講する。オリジナルビデオ『怪奇!アンビリーバブル』シリーズの演出・構成でキャリアを積み、『くそガキの告白』(12)で長編監督デビューを果たす。『くそガキ』は「ゆうばりファンタスティック国際映画祭」で史上初となる4冠を受賞。2013年は深夜ドラマ『みんな!エスパーだよ!』(テレビ東京系)の第4話、第5話の脚本&演出を担当した。