
空撮映像で全国各地の風景や建物を紹介する『空から日本を見てみよう』、「童貞史」「スカートめくり史」といった一風変わった切り口で日本文化史を調査する『ジョージ・ポットマンの平成史』など、数々の話題作を世に送り出してきたテレビ東京の高橋弘樹ディレクター(プロデューサー)。
そんな彼が先日、著書『TVディレクターの演出術 物事の魅力を引き出す方法』(ちくま新書)を出版した。この本では、限られた予算で魅力的な番組を作るためのノウハウが紹介されている。相次ぐやらせ問題など、何かと目の敵にされやすいテレビ業界の片隅で、「若き奇才」は何を思うのか?
――著書を書く上で苦労したことや、気をつけたことはありますか?
高橋弘樹氏(以下、高橋) テレビって、映像じゃないですか。それを文章に表すのは、なかなか難しいなとは思いましたね。だから、そこは意識していろいろ工夫しました。
――映像に関する話題は、具体例を挙げたりしてかなりわかりやすくなっていますね。
高橋 まあ、番組を作るときも同じですからね。視聴者にわかりやすく見てもらうようにするのが基本なので。そのクセは出ているかもしれないです。
――この本の中で、「ディレクターが自分で台本やナレーションを書き、自分でカメラを回し、タレントはあまり使わない」という手法を「『手作り』で番組を作る」と表現していますね。手作りにこだわるのは、やはりテレビ東京がほかのキー局よりも、制作費が少ないためなんでしょうか?
高橋 それはありますね。有名なタレントはあまり使えないから、方法論を変えないといけないんですよ。だったら、ディレクターがガッツリ時間をかけて深く掘ることで戦おう、みたいな風潮は、テレビ東京の一部の勢力にはありますね。僕もそれを引き継いでいると思います。
――ということは、この本に書かれている制作のノウハウの中には、先輩から受け継いだこともたくさんあるんでしょうか?
高橋 そうですね、先輩から引き継いだ教えを、自分なりにかみ砕いています。テレビ東京にも何班かあるんですけど、僕は『TVチャンピオン』をやっていた部署にいて。その血を色濃く引いているので、そこでの教えが詰まっている気はしますね。
――この本では、インターネットで情報を調べるための検索術についても詳しく書かれているのが面白いと思いました。これは、ご自分で編み出した方法なんですか?
高橋 そうですね。結局、リサーチって、適当にやると非効率的じゃないですか。ネットでは効率よくサクサクと調べ尽くして、その次にやっと現場に行けるわけで。そのためにはやっぱり、網羅的にやるというのが重要だと思うんです。現場で何かを見つけても、それがネットにすでに出ていたら、その情報価値は下がるわけじゃないですか。網羅的に調べる必要性は、やりながらずっと感じてましたね。その上で、自分の中で体系化していった感じです。
――著書の中で「僕は大抵のテレビ番組が嫌いです」と書かれていますが、入社する前からテレビは嫌いだったんですか?
高橋 好きな番組もありましたけど、いわゆるバラエティとかお笑い番組はあんまり見てなかったです。だったら本を読めばいいや、と思っていたので。今は必要に駆られて見ることはありますけど。
――好きな本のジャンルは?
高橋 なんでも読みますけど、どちらかというと、フィクションよりはノンフィクションが多いですね。
――好きな書き手は?
高橋 西村賢太さんは好きです。あの人が書いているのは、ノンフィクション寄りのフィクションですよね。ノンフィクション系の人では、上原善広さん、石井光太さん、佐藤優さんも好きです。社会でタブーとされているところや、あんまり人が光を当てないようなところを変な切り口で切っていったりする人は好きですね。それは『ジョージ・ポットマンの平成史』の作り方と、似てるかもしれないです。
――テレビをほとんど見ないというのは、作り手としては珍しいですよね。
高橋 まあ、よくないとは思いますけどね。でも、普段テレビをつけてる人の割合(総世帯視聴率)は、ゴールデンタイムでも60%ぐらいじゃないですか。だとすると、テレビつけてない人が40%ぐらいいるわけだから、テレビを嫌いな人も結構いると思うんですよね。そこに向けて番組を作っていければいいのかなと思いますね。
――「テレビ嫌いが見たいと思う番組を作る」というのが、高橋さんのモットーだそうですね。
高橋 そうそう、僕の中ではずっとそのコンセプトがあって、なるべくそういう方向に持っていこうとはしています。
――最近のバラエティ番組はテロップやナレーションなどで説明過剰になってきていますが、高橋さんはあまりそういうのが好きではないそうですね。
高橋 あんまり好きじゃないですね。ボケました、ツッコみました、ワッハッハ、みたいなのが、ちょっとありきたりに見えるというか。全部説明しないで、違和感を出してシーンとさせるくらいのほうが好きは好きです。
――見ている人に考えさせる演出、ということですね。
高橋 ちゃんと見てる人は、そういうところも楽しんでくれると思うんですよね。でも、これがなかなか難しくて。こういうのを総称して「センス芸」というんですが、「センス芸を発動させる番組は数字が取れない」という定説がありますね。やっぱりなるべくわかりやすく作って、笑いどころには笑いを足して、つっこんであげると。そういう王道の番組作りをするほうが、数字は取れるんですよ。だから、センス芸を発動させるのは悪だとされる雰囲気はありますけどね。
――最近、『ほこ×たて』(フジテレビ系)でやらせが発覚して番組が打ち切りに追い込まれるという事件がありました。「やらせ」と「演出」の違いはなんだと思いますか?
高橋 「やらせ」の定義は、辞書的にいうと「制作者が出演者にお願いして何かをやってもらうこと」ですよね。でも、出演者に何かをお願いしてやってもらうことが、必ずしもやらせになるわけではないと思っています。
もちろん、存在しない事実をでっち上げるのはダメです。例えば、普段は行列ができないラーメン屋さんなのに行列があるように見せる、というのは絶対ダメですよね。でも、真実を伝えるという目的のために、ディレクターが努力することは必要だと思うんです。
例えば、この本でも書きましたけど、ペルーのスラム街を取材したときの話です。そこで周りの人たちに現金収入を得られるように頑張って編み物を教えているおばあさんがいて、みんなからすごく感謝されていたんですよね。その「感謝されている」ということは、真実なんですよ。でも、ディレクターは1年ずっとその人に張り付いてるわけにはいかないので、何もしなかったら1年に1回しかないような感動的なシーンを撮れないんです。
そこで、母の日にお祝いのイベントがあるというのを聞いて、「じゃあ感謝の手紙を書いてみたら?」と提案したんです。そしたら、その人が本当にいい手紙を書いてきたんですよね。その結果、普通にインタビューするだけじゃ、引き出せない感情とかが吐露されたんです。
僕は、それが真実だと思うんです。真実を伝えるためにディレクターがそういう環境に持っていく、ということは、どんどんやるべきだと思います。それをやらないなら、ディレクターなんて必要ないですよね。誰が撮っても同じになるわけですし。それは、演出だと僕は思います。
――今のテレビを取り巻く状況をどう思いますか?
高橋 テレビ業界を目指す若い人が減ってるのは、事実ですよね。なんで減っちゃったかというと、インターネットとかいろいろな娯楽が出てきたから、相対的に減ったというのはあるかもしれないけど……。いまテレビにあんまり信憑性がないですよね。ネットのおかげで、テレビがウソついてたこともある、というのがどんどん露見してますから。
――バレやすくなってるんですね。
高橋 それは真摯に受け止めなきゃいけないと思うんです。そういうことがあるから、テレビなんてうさん臭いし面白くない、とていう空気が世の中に蔓延しちゃってる感じはあるんですよね。ただ、そういうことをやっちゃうのは、本当にごくごく一部の、2~3%ぐらいの人なんですよ。僕が知ってるテレビのディレクターの97~98%ぐらいは、やっぱりかなり真摯に、真面目に番組を作ってますね。でも、そうじゃない2~3%の人の印象が強くて、テレビを志望してくれる人が減ってるのかなという気はしますね。
テレビの仕事は面白いです。自分が興味のあることを調べて、現場に行って取材して、それを視聴者の皆さんにお届けする。こんな楽しい仕事はないなって思うんですけど、ほんのちょっとのネガティブな情報のせいで、テレビ業界を目指す人が減るのはもったいないなあと思いますね。だからこの本を通じて、テレビ作りの楽しさを知ってほしいです。
(取材・文=ラリー遠田)
●たかはし・ひろき
テレビ東京制作局プロデューサー・ディレクター。1981年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。05年テレビ東京入社。『TVチャンピオン』『新説!?日本ミステリー』『決着!歴史ミステリー』『ザ・ドキュメンタリー』『空から日本を見てみよう』などのディレクターを経て、『ジョージ・ポットマンの平成史』のプロデューサー・演出を担当。現在『空から日本を見てみようPLUS』プロデュ―サー、『世界ナゼそこに?日本人』ディレクター。著書に『ジョージ・ポットマンの平成史』(伊藤正宏との共著、大和書房)がある。