
個性的な映画を上映してきた「シアターN渋谷」。黒字経営だったものの、デジタル化の波に呑まれ、7年間の歴史を終えた。
肉体が滅んだ後も魂は生き続ける。ドキュメンタリー映画『旅する映写機』を観ながら、そんなことを考えた。映画の冒頭、2012年12月に映画ファンから惜しまれつつ閉館した「シアターN渋谷」のその後が映し出される。“サヨウナラ シアターN”と壁に書かれた館内では撤去作業が行われ、映画館の心臓といえる映写機が取り外されていく。運び出された映写機は鉄屑として回収されるわけではない。すでに日本では製造中止となった映写機は貴重なもの。その価値を知る関係者に引き取られていく。上映システムのデジタル化が進み、長年フィルム上映を続けてきた町の小さな映画館が次々と閉館に追いやられている。だが、回収された映写機たちは、再びスクリーンに夢を投影する機会をじっと待っているのだ。映写機たちはどんな輪廻転生を果たすのか? 『旅する映写機』の森田惠子監督はカメラを手に、映写機の行方を追って全国各地を回った。
旅の起点は北海道の小さな町からだった。人口1万4000人という浦河町で90年以上にわたって営業を続けている驚異の映画館「大黒座」をクローズアップした『小さな町の小さな映画館』(11)を撮り上げた森田監督は、大黒座に鎮座する年季の入った映写機は、1992年に閉館した札幌のミニシアター「ジャブ70ホール」で使われていたものだと知る。札幌で多くの人たちに夢を与えてきた古い映写機は170km離れた浦河町に再就職し、その後も多彩な夢を紡ぎ続けてきたのだ。映写機は映画館と共に運命を終えるわけではないことを知った森田監督の1年4か月に及ぶ撮影旅行はこうして始まった。

高知県安芸郡安田町にある「大心劇場」。集落から離れた山奥にありながら、今も毎月1本ペースで上映を続けている。
広島県尾道市の「シネマ尾道」はNPO法人として河本清順さんが2008年に開業したミニシアター。映画館を立ち上げる直前に映写機を預けていた倉庫が火事に見舞われ、開業を諦めるかどうかの選択を迫られたが、岡山市にある「シネマ・クレール」が1スクリーンを閉じたことで余った映写機に窮地を救われた。埼玉県川越市にある「川越スカラ座」は明治38年(1905)開業という古い歴史を持つ劇場だ。オーナーが高齢となり一度は閉館するも、地元の若いスタッフたちの手によってNPO法人として復活。1967年製の映写機を今も大事に使い続けている。最近の壊れやすい家電と違って、業務用映写機のなんとタフなことよ。川越スカラ座にある映写機はフジセントラルF−7。映写機のメンテナンスを請け負っているベテラン技師の桧原康次さんは「戦時中に零戦のエンジンを生産していた中島飛行機が戦後になって映写機を作るようになった」と語る。
映写機をめぐる旅は驚きの連続だ。四国に渡った森田監督は高知県の山道を進む。人家のない山奥に映画館があるのか? あった! 「大心劇場」だ。支配人の手づくり看板が何とも味わい深い。生きた映画資料館の様相を見せるこの小さな劇場にある映写機は1988年に閉館した「土佐山田東映」から貰い受けたもので、1954年製のフジセントラルF−5。さらに東京都東村山市にある「国立ハンセン病資料館」には1952年製のフジセントラルF−6が保存されていることが分かる。外部から隔離された療養所では映画の上映会が数少ない娯楽の場だった。ちなみに大黒座の映写機は1955年製のフジセントラルF-6。零戦の遺伝子を受け継ぐ名機・フジセントラルは戦後、全国津々浦々で実にいろんな人たちに夢を提供してきたのだ。2013年は零戦の設計者・堀越二郎を主人公にした宮崎駿アニメ『風立ちぬ』とベストセラー小説の映画化『永遠の0』が公開された年となるが、『旅する映写機』も“零戦をめぐるもう1つの物語”として記憶したい。

大正3年に建てられた「本宮映画劇場」だが、東日本大震災にもビクともしなかった。不定期ながら上映会が行われている。
森田監督のファンタスティックボヤージュはまだまだ続く。福島県本宮市にある「本宮映画劇場」は99年の歴史を持つ。常設の映画館としては1963年に休業したものの、館主である田村修司さんはサラリーマンとして働きながら人のいない映画館の電気代を払い続け、映写機の手入れを怠らなかった。サラリーマンを定年退職した後に再度開業するのが夢だった田村さんは、入院した際に世話になった病院関係者を招いての上映会を催す。この噂を聞きつけて町の人たちも集まり、大盛況のイベントとなった。本宮映画劇場にある映写機はカーボン映写機と呼ばれる旧式のもの。田村さんが2本の細長いカーボンを電流に近づけると発光が起き、その灯りによってフィルム映像がスクリーンに浮かび上がる。レトロな映写機は忘却の彼方にあった遠い夢を呼び起こす。
最新のシネコンやオシャレなミニシアターだけでなく、様々な形態で映画は上映され、多くの人たちに受け入れられていることを『旅する映写機』は教えてくれる。さて、冒頭でシアターNから撤去された映写機はどうなったのか? 森田監督に尋ねたところ、日本最後の映写機メーカーに勤めた加藤元治さんの手によってメンテナンスされ、飯田橋の名画座「ギンレイホール」のオーナーが所有する郊外の倉庫に他館から来た映写機たちと共に保管されているそうだ。いつかまた出番が来る日をじっと待つ映写機たち。休眠中の映写機は一体どんな夢を見ているのだろうか。
(文=長野辰次)
『旅する映写機』
製作・監督・撮影/森田惠子 構成・編集/四宮鉄男 音楽/遠藤春夫 語り/中村啓子 配給/『旅する映写機』製作委員会 11月30日(土)~12月20日(金)ポレポレ東中野にてモーニングショー、12月7日(土)より名古屋シネマスコーレほか全国順次公開
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