
『聖☆おにいさん イエスとブッダのパネェ秘密』(英和出版)
これは、やりすぎ……なのか? 中村光の人気マンガ『聖☆おにいさん』(講談社)の関連本が、あまりにパクリ過ぎではないかと、担当編集からツイートされ話題になっている。
問題になっているのは英和出版から発売されたムック『聖★おにいさん イエスとブッダのパネェ秘密』だ。この本、帯では「聖人コンビの軌跡から知られたくない過去まで」「最新9巻や外伝の元ネタもバッチリ収録!」と記している。
いったいどこで売っているのかも謎っぽい本なのだが(筆者は店頭で発見できずAmazonで)、8月には『聖☆おにいさん』の担当編集者がツイッターで、「【大拡散希望】某A和出版から『聖☆おにいいさん』関連本らしきものが出ていますが、まったく関係ありません。事前に連絡もなく、もちろん許諾も強力もしていません。しかし、ロゴも装丁も超絶劣化パクリ……。」と、ツイートしたことで、一気に話題になってしまったのである。しかし、ネットでは、話題になったにも関わらず、その後出版差し止めなど具体的な動きはない。便乗系ムックを多数出版している出版社の社員は語る。
「ちょっと、やりすぎの感はありますけれど、許容の範囲内だと思います。これを公式本だと勘違いするのって、そうとうマヌケな人だと思いますよ」と、話す。
そもそも、旬の作品に便乗した解説本・謎本を出版するのは出版業界のセオリーのひとつとなっている。
いわゆる「謎本」の走りとされるのは1992年に飛鳥新社から出版された『磯野家の謎 「サザエさん」に隠された69の驚き』(編:東京サザエさん学会)である。この本は、当然ながら作者には無許可なのだが、本書で紹介されている謎のひとつでは、なぜ『サザエさん』を扱う本なのにサザエさんの画像が一つも使われていないかを、過去の『サザエさん』のパロディや著作権をめぐる問題などを取り上げながら解説していた。
200万部あまりを売り上げ大ヒットとなったこの本だが、最大の功罪は、元ネタの画像を無断で使ったりしなければ、なんでもアリという実績を残したことにある。
この当時から「謎本」に味を占めて、最大手となったのがデータハウスだ。同社では『『ドラえもん』の秘密』など「○○の秘密」のタイトルで、旬の作品の研究本を常に出版し続けている。そのラインナップを見ると『To LOVEるの秘密』『NARUTO大研究』『「進撃の巨人」の謎』『「フェアリーテイル」の謎』……と、もはやなんでもアリ! かつては、一見して公式ではないことがわかる装丁だったのだが、近年ではロゴが微妙に似ていたり、かなりギリギリのところで攻めてきている。とはいえ、果たしてこのような書籍がどこまで需要があるのかが、もっとも謎だ。
こうした関連本はマンガに関するものばかりではない。歴史系のテレビドラマは、必ず非公式の関連本が登場するジャンルだ。『坂の上の雲』がドラマ化された際には、盛んに関連本が出版されたし、今年の大河ドラマ『八重の桜』(共にNHK)のあわせて新島八重を扱うムックは、いくつもある(表紙に『八重の桜』の文字が入っているが公式ではない)。
そもそも、出版業界というのはパクリが横行する業界だ。というのも、企画を出すときに「類書」がどうなっているかは、必ずといってよいほど問われる。「このジャンルの本は、点数がこれくらいあって、こんなに売れていますよ」というのが、企画を通す上で重要なのだ。ゆえに、ひとつ売れるジャンルがあると、柳の下のドジョウを狙って次々と、似たような本が出版される。ある出版社の社員は、こんなエピソードを語る。
「かつて『実話ナックルズ』を皮切りに実話誌がブームになった時なんて、デザイナーに“表紙のデザインは、これと同じにして下さい”ってお願いしたこともありますよ。エロ本で熟女ものがブームだった時も、同じことをしましたね。パクってるという意識はあまりありませんよ。お互い様じゃないですかね」
売れているもののパクリは当たり前。むしろ、売れている本と似たり寄ったりであれば、売り上げの見通しも立つので企画が通りやすい。その結果「ここまでやって大丈夫か?」と思うような非公式の関連本が量産されるのである。しかも、そうした関連本の質はおしなべて低い。モノによっては、ネットからコピペしてきたのではないか? というようなものも。あるフリーライターは関連本の実情について語る。
「原稿料が1ページあたり2000円なんてこともザラです。しかたないので数十ページをまとめてこなすわけですが、資料代も原稿料込みだったりしますから……ネットから拾った情報を、いかにも自分が書いたようにリライトするのが、ライターの腕ですね」
読み捨て当然の関連本は、低迷する出版業界の最先端なのかもしれない。
(取材・文=緑林学)