
集合写真でピースはしない。ゾンビだから。
「まーぁお客様! 気持ち悪くてございますぅー!」
六本木の月1限定バーイベント「ゾンビバー」での1コマである。今回は、本格的なゾンビメイクを施してもらえると聞いて「ゾンビバー」へやって来た。店に入るなり目の前には、カクテルを飲むゾンビ、スマホをいじるゾンビ、世間話をするゾンビ。混雑する店内で、ゾンビフードやゾンビドリンクのオーダーが次々と入り、ゾンビメイクも順番待ちだ。メイクを担当するゾンビスタッフさんは、「いい感じに腐ってきたわね~!」「いいわよ~、気持ち悪くて素敵よー!」と、お客さんを褒めておだてて一人、また一人とゾンビをこしらえていく。日本はこんなにゾンビになりたい人が多かったのか、と驚くほどあふれるゾンビ欲。満ち満ちた生命エネルギー。死んでいる存在であるはずの“ゾンビ”がイキイキしているこの矛盾。

主催の一人・ゾンビーナ2号ナオミさん

バーテンゾンビ

スマホゾンビ

カップルゾンビ
■ゾンビの乳首を食べてみた
この店では、ゾンビの体の一部分を使った料理や、“ゾンビ感染”効果のある飲み物が出される。この日のオススメフードは、「ゾンビの切り落とし肉」(500円)と「ゾンビの大きめ乳首と干し小腸」(500円)。まずは、後者を頼んでみると、こんなものが出てきた。

ナッツじゃないよ。乳首と小腸だよ!

「ゾンビ菌カクテル」。“ゾンビ菌”が下のほうに沈殿している……。
そして、飲み物にはそれぞれ“ゾンビ感染力”が設定されており、「ゾンビの生き血」(900円)は感染力“★4つ/強力”、「ゾンビール」(900円)は“★3つ/強”(★3つ)、そして、看板メニューの「ゾンビ菌カクテル」(900円)は“★5つ/最強”だ。「ゾンビ菌カクテル」の中に入っている菌と思しきツブツブの正体を聞こうとしても、
「搾りたてのゾンビ菌よ~! さっき私のおっぱいから搾ったの」(ゾンビーナ21号コロンさん)
「このゾンビ菌、どこから搾ったか聞きたい?(自身の女性器を指さしながら)」(ゾンビーナ2号ナオミさん)
と、ゾンビの体から搾った菌だということしか分からなかった……。
■ゾンビメイクで顔がグチャグチャに
腹ごしらえが済んだら、いよいよゾンビメイクの時間だ(1回500円)。目の周りを真っ黒にされ、全体に白いドーランを塗りたくられる。

パンダ……?

黒の上に白を重ねる。

メイク道具。
こうしてみるみるうちに鏡の中の自分の顔が汚れていき、その面積が広くなるにつれて、妙に気持ちが高揚していくのを感じた。汚されるのがうれしい、というわけではない。本来美しく飾り立てるものだったはずの“鏡の前でのメイク”で、真逆なことが起こっている、その背徳感からの高ぶり。そして、見たこともないような汚れた人が映る鏡を前にし、「これは自分ではないナニカだ」と頭が思い込もうとしている、そんな感覚もある。
そして、血のりで仕上げて、ゾンビが完成した。


【Before】

【After】
自分ではない何者かに変身する、という意味ではコスプレも同じだが、多くの場合かわいいorかっこいいキャラクターになりきるコスプレは、“自分を魅力的に見せたい”という自意識がつきまとう。だが、ゾンビの場合グチャグチャに汚れていて、かわいい角度や目線も何もない。鏡を見たり、写真を撮ったりする際、写真うつりの良さ・悪さを一切気にせず大胆な表情やポーズをできる。“かわいい”からの解放である。それは、この後の「ゾンビウォーク」で確信に変わった。
■ゾンビウォークで六本木を歩く
スタッフのコロンさん(ゾンビーナ21号)が、店いっぱいに増殖したゾンビたちを、六本木の街を練り歩く「ゾンビウォーク」に連れて行ってくれた。ちなみに、「ゾンビウォーク」はそのときの来客状況によるため、毎回必ず行うわけではないそうだ。
コロンさんは、「はーい、ひよこ組のみなさーん!」と言いながら、幼稚園の遠足よろしく引率する。ゾンビ外出の心得も教えてくれた。
【ゾンビ外出の心得】
その1:はしゃぎすぎて事故を起こして“本物のゾンビ”にならないこと。
その2:街を歩く普通の人間を脅かさず、大人のゾンビの対応をすること。
その3:片足に体重をかけた“ゾンビ歩き”をすること。
この片足に体重をかける歩き方がなかなかどうしてくせ者で、初心者ゾンビがやると、ただ単に足をくじいただけの人のようになってしまう。

人間を捨てきれてないゾンビたち。
「そうよー、その調子よー! 歩くだけで楽しくなってきたでしょー? いいわね、あんたたち頭腐ってきてるよー!」と先輩ゾンビのコロンさんに叱咤激励されながら、ゾンビらしい歩き方をすべく試行錯誤をする。
また、道すがら、何度か写真撮影の許可を求められ、そのたびにみんな、どんどん殻が破れていっているようだった。(おそらく)メイクの下はクールな美人であろう女性も、(おそらく)普段はおとなしいであろう男性も、誰もが積極的に不気味なゾンビポーズをとる。顔が完全にメイクで覆われている分、驚くほど羞恥心が生まれないのである。
そして、最後はバーのある建物に戻るときの階段だ。ゾンビは普通に立って階段を上ってはいけない。四つんばいになり、階段を上りきったら「ううううぅぅ……」とうめくよう、コロンさんに指示される。ここまでくると恥じらう者はいない。15分ほどのウォーキングを経て、人間を捨てきれていなかったゾンビの卵たちは、立派なゾンビへと成長したのだった。

ゾンビをエンジョイしていたお客さんやスタッフさんに話を聞いて回ると、ほとんどが「実は、普段は地味なほうなんです」と言っていた。「ゾンビバー」は回を重ねるごとに女性のお客さんが増えていっているそうだが、それは普段の生活での、小ぎれいにしていなければならない呪縛から逃れたいからなのかもしれない。ゾンビの世界には、上目遣いや美肌信仰もなければ、顔を小さく見せるための手を頬に当てるなどといった写真テクもない。ゾンビに美人もブスもない。ドロドロのゾンビメイクをして死霊になりきることで、生まれたままのフラットな気持ちを呼び起こすことができるのだ。
●極楽浄度
★★★★★
何か嫌なことがあったとき、「死にたい」「一度死んで苦しみから解放されたい」などと冗談で思うことがあるが、ここはまさに“死んで解放される場”だった。そしてひとしきり満喫した後、鏡を見ながらメイクを落とすときが我に返るとき。
(取材・文=朝井麻由美)
●「ゾンビバー」(ゾンビ集団ゾンビーナ)
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http://www.zombiena.net/>
ゾンビ集団ゾンビーナとは、イベントやパフォーマンスをするゾンビ集団。毎月最終日曜日に、六本木のバー「Night gallery cafe CROW」にて、「ゾンビバー」イベントを行っている。ゾンビ感染者を増やし、日本を世界的なゾンビ大国にするのが目的。バーでのメニューは毎月少しずつ変わる。「ゾンビバー」のほかにも不定期でイベントを開催。スケジュール詳細はHPを。なお、今月は「ゾンビバー」は臨時休業で、代わりに「ゾンビ林間学校」(7月28日11:00~)が開催される。事前エントリーの締め切りは7月25日まで。詳細はこちら(
https://www.facebook.com/DaishiDanceXZombiena)。
◆「散歩師・朝井がゆく」過去記事はこちらから