
『犬と猫と人間と2』の飯田プロデューサー(画面右)。『犬と猫と人間と』(09)の続編と
発表され、全国から多くのカンパが寄せられた。
■前編はこちらから
『犬と猫と人間と2』の後半は、福島第一原発事故の警戒区域に残された牛たちの世話をするボランティアスタッフたちがクローズアップされる。その中心となっているのが岡田久子さん。2011年3月下旬から避難指示区域に残された犬や猫たちに水や餌を与えに、宮城から片道2時間かけて通っていた岡田さんは、同年6月からは牛たちの世話もするようになった。20km区域内の家畜たちは区域外への持ち出しを国から禁じられ、鶏と豚はほぼ全てが餓死もしくは殺処分に。牛も2,600頭が死に追いやられた。殺処分に踏み切れなかった牧場主もいるが、牧舎の中には餓死した牛が倒れ、その横では糞尿まみれで痩せ細った牛たちに死が迫っている。ボランティアの手が足りず、どうにもならない。区域内では獣医を呼ぶこともままならない。人間の都合によって命を左右される動物たちの過酷な現実をカメラは記録していく。
宍戸 実のことを言うと、今回はタイトルにある通り、犬や猫たちのドキュメンタリーにするつもりだったので、岡田さんから牛たちの話を聞いたときは、「取材しても、作品に盛り込めないしなぁ」と消極的でした。牛たちの取材は見送ろうとしたんですが、「農水省や県に牛の惨状を訴えても、なしのつぶて状態。せめて、この状況をweb上で訴えたいので、動画撮影をしてほしい」と頼まれて、「動画撮影だけなら」と協力することにしたんです。牧舎を訪ねたところ、もう驚きました。「これが現実なのか……」と。無関心を決め込もうとしていた自分自身への怒りが湧いてきました。
飯田 僕も追加取材の段階で、宍戸くんの取材に同行しました。宍戸くんの現場に口を挟みたくないので、なるべく行かないようにしていたんです。浪江町の「希望の牧場」と「やまゆりファーム」をもう一度撮影するので一緒に訪ねたのですが、情けないことに僕は牛たちの遺体置き場に近づけなかった。死んだ牛の腐敗臭がすごく、吐き気を催してしまったんです。映像には臭いまでは映りませんが、近づいただけで服に臭いが移るほど強烈でした。夏場の牧舎の中での撮影は、本当にきつかったと思います。
──国は全頭殺処分の方針を、震災から1年後には「区域内で生かすだけならよい」と方向転換。300頭以上の牛を生かしてきた「希望の牧場」に、岡田さんらが世話をする「やまゆりファーム」の65頭の牛たちが迎え入れられていくことに。牛たちが大移動していく様子は、まるで神話「ノアの方舟」を思わせる感動的なシーンです。しかし、感動だけでは済まないシビアな現実が……。
宍戸 岡田さんが「牛の面倒は自分たちでやるから」という条件付きでお願いして、「希望の牧場」の牧場主である吉沢正巳さんが引き受けることになったんです。ですが、吉沢さんとボランティアである岡田さんたち2~3人で、400頭近い牛たちの世話をするのは不可能なこと。生き延びた牛たちの間で生存競争が起き、餌にありつけない牛はどんどん弱っていくんです。
飯田 厳しい状況なんだけど、宮城から片道2時間かけて浪江町まで週5日通い続ける岡田さんに対して、吉沢さんが「なんでそんなに頑張れるの? これって何かの宗教?」って冗談っぽくツッコミを入れるよね。あのシーンが良かった。しんどい状況の中で、ふっと人間味が感じられる。ああいうやりとりをカメラが拾うことで、ドキュメンタリーの雰囲気ってずいぶん変わってくるよね。

福島第一原発の20km圏内に残された牛たち。行政は商品価値のない
経済動物として殺処分を求めたが、踏み切れなかった牧場主も少なくなかった。
──確かに動物ボランティアのスタッフたちの献身ぶりは、一種の宗教のようにも感じさせます。岡田さんは笑って「宗教じゃない」と首を振っていますが、どうしてあそこまで熱心に活動できるんでしょうか?
宍戸 岡田さんに限らず、ボランティアのみなさんの声を公約数にすると「動物たちの現状を知ってしまったから。自分が行かないと、動物たちが死んでしまうことが分かっているから」ということです。岡田さんは、ご主人が神奈川に単身赴任していて、休日にはご主人も一緒にボランティア活動を手伝っているんです。岡田さんからは「人手が足りないので、牛の世話を手伝ってくれないか」と、取材していた僕も頼まれました。現場を見てしまうと、やはり断れないんです。「やまゆりファームが軌道に乗るまででいいから」と言われたんですが、なかなか軌道に乗らずに、その後も手伝い続けています(苦笑)。
──『犬と猫と人間と2』は宍戸監督がいろんな状況に遭遇していく、巻き込まれ型サスペンスならぬ“巻き込まれ型ドキュメンタリー”。各取材先で手伝いもしていたそうですが、実際のところ、カメラを回していた時間と手伝いをしていた時間は、どちらが長かったんでしょうか?
飯田 鋭い質問だ!(笑)
宍戸 それはですね……正直なことを言うと、ボランティア作業を手伝っていた時間のほうが、カメラを回していた時間よりも長かったと思います(笑)。「アニマルクラブ石巻」でも手伝い、原発事故で飼い主とはぐれた犬や猫たちを保護している福島市の動物シェルター「SORA」でも手伝い、「やまゆりファーム」でも牛の世話を手伝っていました。どこも人手が足りていない状態でしたから。
飯田 岡田さんも「この人なら、口説き落とせる」と踏んで、宍戸くんに頼んだんじゃないかな(笑)。でも、撮影を忘れなかっただけ、エライよ。最初、「ボランティアをしながら撮影をしたい」と相談してきた宍戸くんに対して、僕は「どちらかにしたほうがいい」とアドバイスしたんです。どっちを取れとは言いませんでした。それは本人が決めればいいことですから。このとき宍戸くんは「撮ります」と答えたんだよね。はっきり言うと、“撮る”ことのほうが難しい。ボランティアとして手伝うほうが、役に立っていることを自分も実感できて、その場での満足度は高い。カメラなんて、その場では何も役に立たないですから。だから両方をやろうとすると、ボランティアのほうに走ってしまうんじゃないかと思った。そのことが僕は心配だった。勘違いしてほしくないけど、僕も取材のときは、最低限の撮影が済んだら相手を手伝ったりすることはあります。取材で相手の時間を奪うわけですし、長期間の取材になると、かなりの精神的な負担も掛けてしまいます。手伝うことで相手とコミュニケーションを図るという一面もあるんです。「撮影だけしろ、手伝いはしなくてもいい」と言ったわけじゃないからね(笑)。
■義援金で購入したペットを手放す、悲しいスパイラル
──終盤、カメラは再び石巻へ。被災者たちは仮設住宅で新生活をスタートさせますが、義援金や給付金で新たにペットを購入。そのペットたちを早々に手放すはめに陥るという悩ましい問題が生まれているんですね。
宍戸 震災で家族や住まいを失った寂しさを紛らわすためにペットを衝動買いしてしまうんですが、結局ペットの世話ができなくなるというケースが生じています。僕が取材したペットショップのペット購入率は、震災後、通常の1.5倍に伸びたそうです。
飯田 失ったものをもう一度手に入れたい、という被災者の心情は理解できる。被災地では車や家電製品も売れていると思います。でも、ペットの場合は生活必需品ではないわけですよね。身近に動物がいてくれることで救われる人もいれば、やっぱり動物と一緒に暮らすのは無理だったと手放してしまう人もいる。
宍戸 そうですね。今回の取材を通して、やっぱり人間は犬や猫や牛たちに対して、緊急時でも責任を持って面倒を見なくちゃいけないということを強く感じました。また、災害によって日常を奪われてしまった人たちに接することで、人生は突然に変わってしまうこともある、それだけに人であれ動物であれ、命と命との出会いは大切にしよう、と今まで以上に考えるようになりましたね。

社会の弱者へ眼差しを向ける飯田プロデューサー。「問題点が浮かび上がり、また問題が解消されて
いない今、公開する意味があると思うんです」
──取材先で「飯田さんの弟子」を名乗った宍戸監督の成長ぶりを、師匠の飯田プロデューサーはどう感じていますか?
飯田 今回、編集は僕がかなり主になってやってしまったけど、撮影に関して本当に頑張った。特に牛たちの様子は、密着してよく撮影したなと思います。取材を始めた最初の頃とは全然違っている。ひとりのドキュメンタリー監督の成長記としても観ることのできる作品になったんじゃないかな。今日みたいに取材に答えることで、監督自身が気づかされることって多い。今はドキュメンタリーの監督って、ひとりでカメラを回していることが多く、取材中は頭を下げてばっかり。監督という自覚が持てない(苦笑)。だから、ある意味、ドキュメンタリー監督は作品の公開が決まり、取材を受け、舞台あいさつを重ねていくことで監督らしくなっていく部分があると思います。宍戸くんには、これからも取材を続けてほしいですね。特に牛たちがどうなるのか、最後まで見届けてほしい。
宍戸 もちろん、今回の取材で出会った人たちのその後は、これからも追っていきたいです。実家のある名取市から離れていることもあって、頻繁には行けてないんですが、「やまゆりファーム」には月1~2度は手伝いに行っています。
──最後にもうひとつ。前作『犬と猫と人間と』の公開から4年。ペットの殺処分をめぐる問題は、かなり状況が変わってきたように思います。飯田さんは、どのように現状を見ていますか?
飯田 『犬と猫と人間と』では年間30万頭以上の犬や猫たちが殺処分されているという2006年度のデータに触れましたが、2011年度は17万頭に減っています。これまでは10年間かかって半減していたのが、5年間でほぼ半減している。改善されてきていると評価していいでしょうね。野良猫の不妊手術や棄てられた犬や猫の譲渡先を探す、民間のボランティアスタッフや動物愛護団体、各自治体の職員のそれぞれの努力が実ってきているということだと思います。僕が思っていたよりも速いスピードで、社会が変化しましたね。
──人間の意識が変わることで、殺処分に遭わずに済む動物たちも多いわけですね。
飯田 そうですね。ただし、現場の努力だけでは限界がある。これからは殺処分数を減らしていくことが難しくなるでしょう。制度そのものを見直すことが求められる。ペットを販売している業者などを含め、ペット産業そのものを規制しないと、数字は減らないように思います。17万頭という数字は、まだまだ多いです。より多くの人に動物たちの置かれている状況を知ってもらう必要があるでしょうね。
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『犬と猫と人間と』、そして『犬と猫と人間と2』は動物たちを主題にしたドキュメンタリーだが、動物たちを必要とする人間社会そのものを描いた作品でもある。8年前、“猫おばあちゃん”こと稲葉さんが飯田さんに託した願いが、徐々にだが静かに広まりつつある。
(取材・構成=長野辰次)
『犬と猫と人間と2 動物たちの大震災』
監督・撮影・ナレーション/宍戸大裕 構成・編集・プロデューサー/飯田基晴 音楽/末森樹 製作/映像グループ ローポジション
配給/東風 6月1日(土)より渋谷ユーロスペースほか全国順次ロードショー (c)宍戸大裕
http://inunekoningen2.com
●ししど・だいすけ
1982年宮城県仙台市生まれ、名取市在住。学生時代に飯田基晴主宰の映像サークル「風の集い」に参加し、映像製作を学ぶ。学生時代のドキュメンタリー作品に『高尾山 二十四年目の記憶』がある。福祉関係のNPO勤務を経て、現在は映像製作に携わる。本作で劇場デビューを果たす他、飯田監督の『逃げ遅れる人々 東日本大震災と障害者』(12)を共同取材した。
●いいだ・もとはる
1973年神奈川県横浜市生まれ。新宿で野宿生活する“あしがらさん”の日常を追った『あしがらさん』(02)で劇場デビューを飾った。2006年に「映像グループ ローポジション」を仲間と共に設立。地域猫の世話をしていた稲葉恵子さんから依頼を受けた『犬と猫と人間と』(09)が反響を呼び、ダイジェスト版DVD『いぬとねことにんげんと』(11)も製作した。大震災時に東北沿岸部で犠牲になった障害者の割合が健常者の2.5倍だったことを伝える『逃げ遅れる人々 東日本大震災と障害者』(12)が現在DVDとしてリリース中。