
TIF公式サイトより
8月4日、5日にアイドルグループ111組732名が参加した「TOKYO IDOL FESTIVAL(TIF)」。Zepp Diver City、フジテレビ・湾岸スタジオを中心に10の会場が設けられ、ステージ間を一部のアイドルも徒歩で移動するため、ステージ以外でも演者とファンが交流できるという、このフェスならではの光景が繰り広げられた。
アイドルのギャラ・交通費はナシ。その代わり、各グループの物販の売り上げはそのままそのグループのものとなる、というのがこのフェスの特徴だ。2日間ともピーカンの好天の中で行われたアイドル真夏の競演を独自に検証する。
■メジャー級から地下、地方まで個性あふれるグループ競演!! コラボも続出
百花繚乱のアイドルブームというシーンの成熟を感じさせる、多種多様なグループが参加。3回目となった「TIF」でAKB48グループから初登場となったSKE48、河村唯が“川村梅子”名義で朝6時から懐メロ12曲を歌うなどソロ・ユニットでも大活躍だったアイドリング!!!のほか、SUPER☆GiRLS、ぱすぽ☆、東京女子流、川島海荷を擁する9nine、桜庭ななみらのbump.y、YGA、風男塾、吉川友も登場。シーンで最もパンクな存在であるBiS、ダイブするアイドル・アリス十番、usa☆usa少女倶楽部とその派生ユニットのヒップホップグループ・ライムベリーなども参戦。
中でも、東京女子流は、以前からカバーしているSweetSの「LolitA☆Strawberry in summer」のロックバージョンを披露。ラテンギター調のイントロから一転してドラムフィルがヘヴィな世界へと導くダンスナンバー。激しく踊りながら、「LolitA」の歌詞と共にヘソをチラ見せするギミックも含めて、12月22日の日本武道館に向けての彼女たちの気概の高さを見せつけるナンバーだった。
また、ロコドル(ローカルアイドル=地方出身アイドル)である北海道のJewel Kiss、仙台のDorothy Little Happy、新潟のNegicco、名古屋のしず風&絆、OS☆U、大阪のJK21、福岡のLinQ、HR、CQC's!など、各地で注目を集めるグループが一堂に会したのも、このTIFならでは。10会場同時進行で行われるライブは、一種の宝探しのようでもあり、グループの垣根を越えたコラボでも盛り上がった。
■妹分続出!! メジャー級グループのスピンオフ化が“止まンないっ!”
TIFには、メジャー級アイドルの姉妹グループの出演も目立った。8月5日に西武ドームコンサートを行ったももいろクローバーZは出演していないが、その妹分で、同じスターダストプロモーション芸能3部所属の私立恵比寿中学、チームしゃちほこ、みにちあ☆ベアーズ、3B Junior. TEAM BLUE・TEAM REDと5組が参加。エビ中はDefSTAR RECORDSからデビューしており、愛知県で活動するチームしゃちほこはワーナーミュージック・ジャパンからデビューが決定。みにちあ、3B Junior.が一種、ジャニーズのJr.やAKB48の研究生に相当する育成枠の役割で、そこから芽が出たメンバーをグループにさせて売り出す方法論を確立した形だ。
同じく、SUPER☆GiRLSからは、レーベル「iDOL Street」の候補生(ストリート生)から生まれた妹分・Cheeky Paradeが出演し、ストリート生も札幌、東京、大阪などの地域に分かれて出演した。同じエイベックスの中でもrhythm zoneのE-Girlsは、EXILEの所属事務所LDHのDream、Happiness、FLOWER、bunnyなどのメンバーが参加し、アイドルとは一味違う本格派の風格を見せつけた。もう一つ、プラチナムプロダクション系のプラチナム・パスポート所属のぱすぽ☆も、姉貴分・predia、妹分・palet、新グループ・パソラッテと「P」が付く4組が出演。賞味期限の短い女性アイドルだが、妹分を作ることで、ファンに同社、同レーベル内で“推し変”してもらい、囲い込みを行うという手法だ。ファッションブランドでも、若者向けの“セカンドライン”があり、プラダと若者向けのMIU MIU、GIORGIO ARMANIとEMPORIO ARMANIなどの関係と同様だ。
■ぱすぽ☆、Negicco、でんぱ組.inc、それぞれが流した涙の意味
楽曲派、顔ファン、認知厨……アイドルやアーティストのファンにもさまざまな人種がいるが、女性が涙を流して心の琴線に触れなければ、それは人外と同義である。「TIF」でも3組のグループのメンバーが涙を流し、それぞれに各グループが背負う歴史をにじませた。
参加した111組の中で、メインステージである「Zepp Diver City」に立てたのは22組のみ。この舞台は一種のメジャーの証なのだ。そのため、今回初めてこのステージに立ったグループには感慨深く、NegiccoのMeguは「一番大きい会場に出させていただき、本当にありがとうございます」と歓喜の涙を見せた。その涙はもちろん、彼女たちが持っているネギが目にしみただけではない。2003年から9年活動し、昨年はJA新潟みらいで行われた「梨の皮むき大会」に参加し、TIFには参加できなかった。そんなNegiccoならではの物語が、この涙の瞬間に垣間見られた。
また、でんぱ組.incは、TIFの出演3回目にして初のメインステージ。夢眠ねむは「皆さんのおかげで出演できました」と目をウルウルさせながら語り、ぱすぽ☆の玉井杏奈は足のケガから1カ月ぶりに復帰し、涙を見せた。最年少で強めキャラの玉井だが、その涙には仲間への友情と、パッセン(ファン)への感謝があふれていたはずだ。それぞれの思いを抱えながら流した彼女たちの涙、夢を追いかける信念はファンの心に間違いなく届いたはずだろう。
■メンバーを成長させる握手会 ファンから受けるアドバイスの効果
会場では、各グループの握手会ブース「「GREETING SQUARE」も設けられた。誤解されがちな握手会だが、多くのファンはメンバーに“触れたい”というよりは、“会話したい”という思いで行っているのだ。特に今回のようにライブ後即話せる場合は、「あの曲のあの部分がよかった」「あの振りをもっと大きくしたほうがいい」など、ファン目線ならではの有益なアドバイスが得られる機会。少なくとも、「ダンス、カッコよかったよ」と言われるだけでも、メンバーにはモチベーションアップにつながるはず。ファンとの交流を作る機会は、実はメンバー、ファン双方にとって有益な部分もあるのだ。
そんな握手会だが、今回のようなアイドル盛りだくさんなイベントでは、アイドルがアイドルの握手に行くという思わぬ光景にも出会える。今回も、私立恵比寿中学が東京女子流の握手会に一般のファンに混ざって握手に行くという、激レアなシーンがあった。
■ファンも演者! 『モテキ』世代のヤングカップルも参加
比較的ユニークな人が多いのがアイドル現場の特徴だが、今回もインディヴィジュアルな個性を放つ人種が散見された。無料で参加できる「SMILE GARDEN」は特に人種のるつぼで、はしゃぎまわるピンチケ世代の無軌道な10代はもちろん、年季の入ったOAD(ヲタ芸・オーバーアクションドルフィン)を披露するヒョッロヒョロの初老男性、サングラス、日傘、ヒジまである手袋の日焼け対策完全装備でステージを見つめる謎の美女、モデル風美人二人組(タレントかとも思いきや、腕には客の証拠である黄色のリストバンド)、ノリノリでMIXを打つ彼氏を冷ややかな目で見る彼女など、シュールな人種に出会えるのもこのTIFならではだろう。だが、年齢、性別を超えて、どのファンもメンバーを盛り上げている様子は「みんな、いい笑顔してんな!」と思え、壮観である。
そして、女性だけの客グループやカップルも1回目よりは明らかに多く訪れており、音楽フェスを『モテキ』感覚で見に行く若者世代がアイドルシーンにも多く増えた印象だ。
■lyrical schoolの“サイファー”とAeLL.の看板に見た、ファンとアイドルの共同幻想
生モノであるフェスには、さまざまなハプニングが発生する。今回最も大きなアクシデントだったのが、4日の夜、Jewel Kissのライブ中、ファンの勢いにステージが壊れてしまったこと。さまざまな悪条件が重なった上での出来事だったが、そのため、後に予定されていた6組が出演できなくなった。
そこで、ヒップホップアイドル・lyrical schoolが半ばやけくそ気味に、会場周辺を歩きながら、アカペラで自分たちの曲を歌い始めた。すると、その行進にファンも同調し、ついていき、その流れは“サイファー”となっていった。ラッパーが路上でセッションを行う際に自然発生的にできる人だかりを意味する“サイファー”だが、まさにハンドクラップと声さえあれば表現できるラップならではのファンとの共同幻想が生まれた。tengal6から改名した彼女たちの物語も含めて、“TIF伝説”に刻まれる出来事だっただろう。
もう一つ、今回ファンとメンバーの絆を感じたグループがあった。それは、篠崎愛が参加するAeLL.のステージだった。AeLL.には「耕せ耕せAeLL.村 みんなでがんばるえいえいAeLL.!」など特殊なコールがあり、一緒に盛り上がれば楽しいものの、初見のファンにはコールを即覚えるのは難しい。そこで、ファンの有志がそのコールを書いた看板を、コールの際だけ掲げるのだ。決してステージにはカブらないように、そしてコールが終われば即それを下げ、当然マナーは遵守している。初めて見たファンもコールができるように、重い看板を持参してステージを盛り上げた彼の行為には、一種の忠義すら感じられた。古参のファンは、グループが過度にブレイクするのを嫌がるものだが、新規のファン層をまさに“耕す”かのような思いの現れだろう。
アイドルはアーティストと比較して未完成である。その未完成な部分にファンが握手会でアドバイスし、コールを送り、ステージを盛り上げることで、完成する。そんなアイドルとファンとの共同幻想を垣間見たのだった。
■総括
特殊な世界として語られがちなアイドルシーンだが、その実、詳細を知る人間からすると、相撲、歌舞伎、演歌、大衆演劇、宝塚歌劇団にも通じる連綿と日本で受け継がれてきた文化との関連性が多く見受けられる。相撲、歌舞伎ではタニマチとしてごひいき筋が金銭的支援を行い、演歌では歌手に花束を渡す時間があり、時に、万札の首飾りすらもプレゼントする。
また、大衆演劇でも終幕後、演者自ら出口で観客に挨拶を行い、宝塚にはファンと触れ合う“お茶会”があるのだ。そんな中、握手会は、もはやほぼすべてのアイドルが行っており、かつ今回のTIFのように、ライブ終了後に、メンバーに感想や、アドバイスを送るという方式は新たなスタンダードとなっていくだろう(CDの付加価値として、握手券を付けることには、今後も慎重な議論が必要だが)。
今回で3回目のTIFだが、ステージ遅延のアナウンス法など、改善点も多々あるだろう。また、ファンの側も音楽フェスならではの譲り合いの心や、DIYの精神を学ぶべきだろう。さまざまな出来事があったが、スカイステージの見晴らしの良さや、夜のスマイルガーデンの解放感、周辺を歩いているだけでアイドルに遭遇できる高揚感など、記憶に焼きついて離れない光景だらけだった。特に、オーラスのアイドリング!!!のステージの「やらかいはぁと」のDメロで、ウルトラオレンジのサイリウムで会場が埋め尽くされた瞬間は胸に迫るものがあった。ステージのみならず、無料握手会などもあり、これでチケット・5,000円はリーズナブルだろう。うだるような暑さの中で繰り広げられた真夏の競演。参加したファン、運営サイド、そして出演したメンバーすべての人に感謝したいフェスとなった。
(文=土井ハチロー)