
個性派俳優としても活躍する井口昇監督。
スマイレージ主演作『怪談新耳袋 異形』を“思春期ホラー”に仕立てている。
10代の少女たちの中に潜む不安、妬み、性への憧れと怯えといった細やかな感情を巧みに映像化してみせる井口昇監督。イジメ問題に言及した『片腕マシンガール』(07)、ままならない人生に押し潰されそうになる中年男の再起動を描いた『電人ザボーガー』(11)を大ヒットさせた売れっ子監督だ。“日本一スカートの短いアイドル”スマイレージを主演に迎えた『怪談新耳袋 異形』でも、相変わらず豊かな映像的イマジネーションを発揮している。人気納涼シリーズを瑞々しい思春期ホラーとしてオムニバス化した井口監督が、アイドル系ホラー映画になぜファンは魅了されるのか、そして撮影現場で起きた不思議な現象について語った。
──今年2月に『ゾンビアス』が劇場公開、『怪談新耳袋 異形』に続く最新作『デッド寿司』(13年公開予定)がワールドプレミア中と大忙しの井口監督。実は今年のカンヌ映画祭で受賞されたそうですね。遅ればせながら、おめでとうございます。
井口昇監督(以下、井口) ありがとうございます。そうなんです、カンヌ映画祭がついにボクのことを認めてくれたんです(笑)。カンヌ映画祭といっても“おもしろ(ridiculous)ポスターコンテスト”なんですけど、ボクの『ゾンビアス』が1位、『デッド寿司』が4位に選ばれたんです。トロフィーとかもらえたわけじゃないんですが、“ベストオブおもしろい映画ポスター”として『ゾンビアス』が映画祭の会場に張り出されていたそうです。毎年開催されているコンテストかどうかも怪しいんですけど、そういうところで評価されるのがボクらしいかも(笑)。とりあえず“カンヌが認めた”というフレーズはうれしいですね♪
──最近の井口作品は勢いを感じさせます。今回の『怪談新耳袋 異形』はあまりの過密スケジュールで心配でしたが、期待以上に楽しめました。

「安易に使うとチープになるので、CGは極力使
ってないんです」と井口監督。低予算なれど、ホ
ラー映画にはこだわりがあるのだ。
井口 『怪談新耳袋 異形』の撮影1週間前まで、『デッド寿司』の撮影だったんです。『怪談新耳袋 異形』の製作チームがわざわざ『デッド寿司』のロケをしていた那須まで来てくれて、撮影の合間に打ち合わせをしました。正直、時間がない状況で製作が進んだんですが、その分あまり余計な“遊び”を入れずに、ストレートなホラー映画になったんじゃないかと思います。といっても、まァ、ボクの作品なんで多少はギャグが入ってますけど。『新耳袋』シリーズは原作者の木原浩勝さんも言ってますが、幽霊ものではなく、実話系の現代の妖怪目撃談なんです。恐怖の正体が分からないまま投げっ放し。得体の知れない、何も解決しない不気味さを描いてるんです。

第1話『おさよ』。新人アイドル・しおり(和田彩花)はグラビア撮影で山奥の旅館に宿泊。
優しくナイーヴな性格ゆえに、とんでもない目に遭う。
■ホラー映画の面白さは“吊り橋効果”と同じ
──平均年齢15歳というスマイレージのメンバーは、映画初出演。
井口 演技自体が初体験だったそうです。スマイレージのみんなは、“スマイル”がトレードマークなだけに、いつもニコニコ笑っているんです。そこで今回は撮影中はもちろん、撮影現場では「笑顔禁止」にしたんです。でも、こんなに笑わせないことが大変だとは思わなかった。スマイレージのみんな、無意識のうちにニコニコ顔になっている。スタッフが声を掛けると笑顔で振り返るんです(苦笑)。普段のボクは穏やかな性格なんですが、今回は彼女たちの父親になったつもりで厳しく演出しました。「今の3倍、悲鳴を上げて!」「今の150倍、怖がって!!」と。かなり厳しく指導していたつもりだったんですが、さっきメンバーに聞いたら「全然、怖くなかった」と言われて、ちょっと落ち込んでいるんです(苦笑)。自分では崔洋一監督みたいな鬼監督のつもりだったんですが……。
──スタッフやキャストから愛される“癒やし系監督”には人知れない苦労があったんですね。過去にも成海璃子主演の『まだらの少女』(05)など優れたアイドル映画を撮っている井口監督ですが、アイドル映画の中でヒロインに求めるものは何でしょうか? やっぱり演技力?
井口 まずは、初々しさですね。監督は、その女優の持ち味をいかに引き出すことができるかが問われるんです。女優の魅力をまず探り、その魅力を大きく膨らませて見せることがアイドル映画を任された監督の仕事でしょうね。特にホラー映画の場合は、怖がるシーンをかわいく見せなくちゃいけない。男性から見たら、女性が恐怖に怯える姿はとてもセクシーで魅力的なものだと思うんです。恐怖に震える表情をいかに魅力的に映し出すかは、常に考えていますね。
──では、いつも笑顔なスマイレージの新しい魅力を『怪談新耳袋 異形』では引き出したということですね。
井口 そうなりますね。最近よく考えていることがあって、ホラー映画は一種の“吊り橋効果”と同じ作用が働くんじゃないかと。「男女が一緒に吊り橋を渡ると、その男女は恋に陥る」と心理学的に言われていますよね。ホラー映画もそれに似ていると思うんです。ホラー映画を観ている男性客は、スクリーンの中で恐怖に怯えている女優と同じ体験をすることで、その女優に恋をしてしまうんじゃないかとボクは思うんです。ボクは自分が監督した作品では、観客のみなさんを主演女優に恋させたいと思いながらいつも撮っているんです。今回の『怪談新耳袋 異形』を観た人が、スマイレージのことをもっと好きになってくれたらうれしいですよね。
──スマイレージは、スカートの短さがセールスポイント。彼女たちの膝小僧の裏側やふくらはぎといった、ステージやテレビでは映らない部分をフェチっぽくクローズアップしてますね。
井口 そうです、そうです! 確信犯的にやっています(笑)。スマイレージは、やっぱり“生足”が魅力ですから。その魅力はちゃんと伝えないとダメだなと思いました。足を撮るためにかなり無理な姿勢をさせたり、膝小僧を撮りたいがために正座させたりしています(笑)。普段はあまり見えない部分を、劇場の大きなスクリーンでクローズアップして見せる。観客にとってうれしいことだと思うんです。「えっ、そんなところを見せてくれるの!?」という部位にカメラが向くことで、ファンは楽しんでくれるんじゃないかな。ボクはそんなふうに想像しながら撮っているんです。

井口昇ファンのためにサービスカットを掲載。巨匠・野村芳太郎監督の
『影の車』(70)もお薦めホラーだそうです。
■アイドルは霊感が強い子が多い!!
──全4話のオムニバス構成ですが、第1話『おさよ』は和田彩花が主人公。アイドルとして芸能界デビューしたものの、優しい性格のため、いつも周囲にペコペコしてばかり。マネージャーからは「そんな弱気な性格じゃ、この世界でやっていけない」とダメ出しされる姿が涙を誘います。腰が低いところは井口監督と重なりませんか?
井口 あっ、そうですか。そういえば、ボクも「お前は、やたら人に謝ってばかりいるな」と言われてますね(笑)。でも、ボク自身が基本的にオドオドした女の子が好きなんです。自分に自信のない女の子が好き。和田さんがペコペコするシーンは、ちょうどクランクイン直後の撮影だったんです。「オレが撮りたいカットはこれなんだ」というボクなりの意思表示ですね。クランクイン直後で和田さんもまだ緊張している表情を、そのままシンクロして撮ることができるんじゃないかと思ったんです。本人の感情と役がうまくリンクすればいいなという考えでした。
──第2話『赤い人』は、知らない町に引っ越したばかりの姉妹(竹内朱莉、勝田里奈)が感じる不安や恐怖感がうまく出ています。
井口 『赤い人』はすでに一度テレビシリーズで映像化したんですが、前回はかなり低予算で作っていたので、もう少し違った形で“赤い人”を表現してみたかったんです。原作では、都市伝説にもなっている全身がゴムみたいな“ゴム人間”やクリームソーダみたいな泡でできた“泡人間”が、よく出てくるんです。なんだか得体の分からない人が立っていた、というエピソードをストレートに映画にしてみたんです。
──続く第3話『部屋替え』は、笑いと恐怖が混在する不思議な味わいの作品。大林宣彦監督の名作ホラー『HOUSE ハウス』(77)にオマージュを捧げた作品でしょうか。
井口 えぇ、ヒロインのモモカ(福田花音)が口紅を塗るシーンは、もろに『ハウス』へのオマージュです。三面鏡はボクの実家にもあって、子供心にすごく怖いものを感じていました。思春期の女の子が三面鏡を見つめている映像を撮りたかったんです。YouTubeでも三面鏡に映っている子供が振り返ると……という恐怖映像が話題になっていたこともあり、映画として三面鏡の怖さを描いてみました。
──第4話『和人形』は、スマイレージの6人が全員集合。アイドルは感受性が強い子が多いと聞きますが、撮影現場で恐怖体験みたいなことはありました?
井口 確かに、アイドルには霊感が強い子が多いですね。スマイレージでは福田花音さんが霊感強いそうです。『和人形』は、工場の寮だったという廃屋で実際に撮影したんです。福田さんは「ここはヤバいよ」と言ってましたね。その廃屋にスマイレージのメンバー6人で入っていくシーンを撮ったんですが、ボクが「はい、カット」と声を掛けると、カメラマンが「ちょっと待って。2階の窓に誰かいなかった?」と言いだして、現場が騒然となったんです。スマイレージのみんなと撮ったばかりの映像を確認してみたら、確かに誰もいないはずの2階を誰かが通り過ぎているんです。「エッー!!!」ってみんなで悲鳴を上げてしまいました。編集作業中に問題のシーンをボクがもう一度確かめてみたら、光の玉が窓を横切っていたみたいだったので「なんだ、ただのレンズフレアか」と思ってそのまま編集を済ませたんです。でも、後からスマイレージに聞いたら「光の玉が人の形をしていた」と、6人とも口をそろえて話してましたね。ホラー映画の撮影をしていると、不思議なことがよく起きるんです。

第4話『和人形』はスマイレージが全員集合。怯えた表情は
演技ではなく、廃屋での撮影中に恐怖体験をしたためだった……。
──背筋がゾゾッとするなぁ。では、最後に井口監督が感じる“恐怖”とは?
井口 得体の知れないもの、言葉で説明できないものって怖いですよね。幽霊はまだ人間の容姿をしているから理解できるんです。それよりもボクが怖いのは虫なんです。じっとしていて動かないと思っていたら、急にガサガサって動きだす。生理的にダメなんです。動物なのに、メタリックな硬い感じもイヤ。昆虫型エイリアンが襲ってくる『スターシップ・トゥルーパーズ』(97)は貞子より怖いかもしれません。幼い頃に壁に止まっていたゴキブリが急にバサバサバサって飛んできて、ボクの口に入りそうになったことがあったんです。その恐怖感が、いまだに忘れられない。もう、ゴキブリが口に入ったら絶望じゃないですか。思い出しただけで、ゾッとします。そのうち、映画のネタにするかもしれません(笑)。
──2011年に結婚された井口監督。家庭を持ち、守るべきものができると、また恐怖の感じ方が変わってきませんか?
井口 あぁ、それは大きいですね! 全然違ってきますね。自分だけ怖い目に遭うのは自分が我慢すればいいわけですけど、家族に災難が降り掛かるのがいちばん怖いことかもしれません。結婚して、意識が変わったかも。この間、妻と一緒に『クレイマー、クレイマー』(79)を観ていたんですが、すごく怖かった。以前は感動的なドラマだと思ってたんですけど、結婚してから観ると身につまされる内容で驚きました。まるでホラーですよ。ジャングルジムから子供が落ちるシーンもドキッとしますし、何より奥さんが唐突に家を出て行くシーンが怖かった。「もし、自分が同じ立場になったら、どーしよう!?」って。大人になって守るべきものができると、逆に怖いものが増えるのかもしれません。ホラー映画のネタって尽きないですね。
(取材・文=長野辰次/撮影=長谷英史)
●『怪談新耳袋 異形』
原作/木原浩勝、中山市朗 脚本/継田淳 監督/井口昇 出演/スマイレージ 和田彩花、福田花音、竹内朱莉、勝田里奈、田村芽実、中西香菜
配給/キングレコード、アステア 8月11日(土)よりシアターN渋谷ほか全国順次ロードショー
http://shinmimi-igyou.jp
(c)2012「怪談新耳袋 異形」製作委員会
●いぐち・のぼる
1969年東京都生まれ。『片腕マシンガール』(07)は全米で爆発的なセールスを記録。セーラー服姿のヒロインが活躍するサバイバルアクションブームを世界中に巻き起こした。板尾創路主演作『電人ザボーガー』(11)は米ファンタスティック・フェスト・ファンタスティック部門監督賞を受賞。ホラーマスター・楳図かずおの人気漫画を映画化した『まだらの少女』(05)、『猫目小僧』(同)も、この夏、お薦めの逸品。その他、『おいら女蛮』(06)、『ロボゲイシャ』(09)、『富江 アンリミテッド』(11)など見逃せない傑作多数。今年劇場公開された『ゾンビアス』『はらぺこヤマガミくん』もDVD化されたばかり。期待のアクション女優・武田梨奈を主演に迎えた『デッド寿司』は、2013年お正月に公開予定だ。