
『ムカデ人間2』に主演したローレンス・R・ハーヴェイさん。
“ムカデ人間”以上にインパクトのある風貌。
相当の日本通です。
関係者の予想を大きく上回るロングランヒットを記録したトム・シックス監督の『ムカデ人間』(09)。3人の男女のお尻とお口を繋ぎ合わせた映像は、ほんっと巨大ムカデに噛まれたようなショッキングさがあった。だが、その考えは甘かった。間髪置かずに完成した『ムカデ人間2』は、前作を遥かに凌駕する猛毒インモラルパワーに溢れているのだ。なにしろ、ストーリーが激ヤバ。映画『ムカデ人間』を愛するあまり、地下駐車場の警備員が次々とお客を拉致し、大工道具でムカデ人間づくりにトライするというもの。繋げる人数も前作の3人から、一気に12人に増員。ゲゲッー。
『ムカデ人間』の日本公開の際には、“ムカデ人間第1号”こと北村昭博にムカデ人間になった心境を語ってもらったが(
参照記事)、今回は主人公マーティンを演じたロンドン在住の個性派俳優ローレンス・R・ハーヴェイにスカイプでインタビュー。日本のサブカルチャーにやたらと詳しい、正真正銘の怪優さんなのだ。
──ローレンンスさん、本日はよろしく。あれ、今何してたところですか?

『ムカデ人間2』は英国、豪州で上映禁止。
英国ではDVD版も大幅カットとなった。
日本での公開は映倫に3度お伺いを立てて
R18での上映に。
>
ローレンス ハロー! ええっと今はね、ちょっとお菓子を食べていたところ。ボクはマンチェスターのウィガン生まれなんだけど、地元の特産品の砂糖菓子が大好きでよく食べているんだ(モグモグ)。もう大丈夫、質問してくれてOKだよ!
──『ムカデ人間2』、強烈無比な作品ですね。主演されたお気持ちから教えてください。
ローレンス 本当にラッキーなことだと思うよ。ボクはこれまで性格俳優としてやってきたんだけど、今回はいきなりステージの真ん中に引っぱり出されたみたいで驚いているんだ(笑)。ボクにとって、これが初めての主演作。ボクを主演に選んでくれたトム・シックス監督に感謝だね。素晴らしい体験ができたし、また完成した作品を観て誇らしく思っているよ。いわゆるアーティスティックな感覚を備えた、ダークなエクスプロイテーション映画に仕上がったんじゃないかな。
──前作『ムカデ人間』を観て、出演を決めたんですよね? 『ムカデ人間』のどこに惹かれたんでしょうか。
ローレンス えっとねー、実は前作を観たのは、オーディション当日の朝だったんだ。『ムカデ人間』を午前に観て、午後から『ムカデ人間2』のオーディションに参加したんだよ。ギリギリのタイミングだったんだ(苦笑)。前作は、ヨーロッパのアートフィルムの影響を感じさせたし、香港映画っぽい雰囲気もあったよね。ハイアートでありながら、とてもグロテスクな要素が織り交ぜてあり、すっごくインパクトがあった。ハイター博士を演じたドイツの俳優ディーター・ラーザーも、すごく印象的だったしね。パート2の主演をオーディションで決めると知り、「これは大きな責任を負うことになるな」と思ったよ。だから、オーディションでは、前作のキャストたちの名演に負けないように努めたんだ。

家庭内で虐待されて育ったマーティン
(ローレンス・R・ハーヴェイ)は映画
『ムカデ人間』に異常に惚れ込み、ムカデ
人間に関する資料を収集する。
──『ムカデ人間2』も過去のいろんな映画を連想させますね。主人公が母親から抑圧されている生活は『サイコ』(60)や『キャリー』(76)のよう。部分的にカラーになっているのは『シンドラーのリスト』(93)っぽいし、若い女優を映画の面接と偽って呼び出すのは三池崇史監督の『オーディション』(00)みたい。
ローレンス そうだね、過去の名作映画の影響をいろいろ受けているようだね。日本のスプラッター作品だと、『ギニーピッグ』(85)のスタイルも踏襲しているんじゃないかな。それと60~70年代に流行した実験映画やニック・ゼッド、リチャード・カーンらの影響も明らかに入っていると思うよ。ボク自身もマーティンを演じる上で、醜いモンスターにならないよう、サイレント時代のコメディ映画をたくさん観て、暴力シーンが極力スプラスティックになるよう演じたつもりなんだ。

『ムカデ人間』に主演したアシュリン・イェニー
(本人)は「タランティーノが会いたがって
いる」とウソの面談を信じて、英国まで来てしま
う……。
──役づくりには、柴田剛監督の『おそいひと』(04)も参考にしたそうですね。日本では単館系でひっそり公開された作品をよくご存じで。
ローレンス 以前、ボクは障害者の方たちと一緒にお芝居をしたことがあり、そのこともあって『おそいひと』(主人公の連続殺人鬼を重度障害者である住田雅清が演じている)のことは知ってたんだ。今回、マーティンをただのサイコ人間として演じるのはつまんないと思い、そこで障害者のイメージをうまく取り込めないかと『おそいひと』の主人公を参考にしたんだ。
■この映画には、現代社会への風刺が込めてある!
──トム・シックス監督の脚本は設定のみ書かれてセリフが書いてないと聞いています。オーディションはどんな感じでした?
ローレンス オーディションで、トム監督と妹であるプロデューサーのイローナ・シックスに初めて会ったんだけど、3人ですごくフレンドリーな雰囲気で盛り上がったんだ。ボクの場合、オーディションってだいたい15分くらいで終わるのに、このときは1時間くらい続いたよ。オーディション中にトム監督はストーリーの全貌を語ってくれたんだ。こーゆー映画を作りたいんだ。あーゆータイプの映画? いやいや、そーゆー映画じゃなくて、こーゆー映画だよ、みたいに映画マニア同士の会話をずっとしていたよ(笑)。それから、マーティンをどういうキャラとして演じるかということも話し合ったよ。マーティンはあんなこともする、こんなこともすると。そういう話を聞いた上で、マーティンが大事にしていたスクラップ帖を母親に見つかってしまう場面、マーティンがムカデ人間をレイプしてしまう場面などを、ボクはその場で演じたんだ。ものすごく役に集中して演じたよ。トム監督はボクがどこまで演技にトライできるのかを面白がり、またボクも俳優としてのやりがいを感じる時間でもあったんだ。ボクがマーティンを演じている間、トム監督もイローナも「ワォ!」「ワォ!」の連続だった(笑)。とても奇妙で不思議な時間だったけど、これまでの俳優人生の中でサイコーのセッションだったな。
──ストーリーの全貌を知って「こりゃ、前作よりもヤバい映画だな」という考えはよぎらなかった?
ローレンス 確かにショッキングな作品であることは認めるよ。でも、ボク自身が驚くことはなかったし、完成した作品を観てショッキングな内容の中にちゃんとしたテーマがあることが分かったよ。「暴力的な映画だ」「映画をマネする人間が現われたら、どうするんだ」とか英国のタブロイド紙は騒ぎ立てるわけだよ。それって、すごくバカげた論議。でも、そういったマスコミや世間の風潮をきちんと風刺するには、肝心な映画が誰にもマネできないくらい究極のものにならなくてはいけなかったんだ。そして、この映画はその究極にまでたどり着いた作品だと思うな。究極の映画に俳優として参加することができて、とても誇りに思っているよ。
──なるほど、“誰にもマネできない映画”ですか。トム・シックス監督はヨーロッパ各国で監督作が上映禁止になるなど波紋を呼んでいる人物だけど、ローレンスさんから見たトム監督はどんな人?
ローレンス おそらく、大勢の人たちがイメージしているような人間とは、実際のトム監督は違うと思うよ。「あれだけ問題になっている映画を撮っている人間だから、本人も問題があるに違いない」と多くの人はそう思い込みたいんじゃないかな。確かに、トム監督はとてもショーマンシップのある人だから、その部分を本気で受け止めてしまった人もいるみたいだね。でも、トム監督はとっても情熱的な人で、すべての物事に熱心に取り組む人。映画だけでなく、人生のすべてにおいて情熱を持って接している。直接本人に会えば、嫌うことができない人だよ。トム監督の撮影現場で過ごすことができたのは、ステキな体験だったしね。監督としてのトムは、すっごくハイアートな世界、それとは真逆の超グロテスクなもの、その二つをうまくミックスできる人。『ムカデ人間』シリーズの後、どんな新作を撮るのかとても楽しみなんだ。これから、さらに注目を集める監督であることは間違いないよ。
■怪優の目下の夢は、熊本を訪問すること
──ローレンスさん自身についてお聞きします。英国BCCの児童向け番組で“リトルグリーンマン”というキャラクターを演じていたそうですね。これは一体どんなキャラだったの?
ローレンス 土曜日の午前中に放映されていた『パラレル9』って子ども向けのバラエティー番組で、アメリカのアニメを紹介したり、ミュージックビデオを紹介したり、コメディドラマを見せたりしていたんだ。その中の1コーナーで、ボクはリトルグリーンマンって異星人役でショートドラマをやっていたんだ。その番組の放送作家の中から、後に犯罪ドラマで有名になった脚本家も育ったり、いろんな才能が飛び出した番組だったんだ。『パラレル9』を見ていた子どもたちも、もう『ムカデ人間』を観ても大丈夫な年齢になっているんじゃないかな。中には『パラレル9』と『ムカデ人間2』の両方を観て、ボクのファンになってくれる子もいるかもしれないね(笑)。

こちらが1990年代の英国で放映
されていた子ども番組『パラレ
ル9』の人気キャラ・リトル
グリーンマン。かなり痩せて
ましたね。
──ローレンスさんは『蛇と花』(74)の谷ナオミさんの大ファンだそうですね。今の日本のポップカルチャーシーンはAKB48という若い女性アイドルたちが席巻しているんですが、ローレンスさん的にはやっぱり谷ナオミさんが推しメンですか?
ローレンス (日本語で)アキハバラ四十八よりも、ボクはキノコホテルのほうがダイスキです。(英語に戻って)ティーンのガチャガチャした音楽は、あまり興味がないんだ。大人の女性のほうが好き。やっぱり、谷ナオミさんが出ているアートフィルムが大好き。それに梶芽衣子さんも好きです。
──谷ナオミさんは映画界から引退してますけど、熊本でクラブを経営しているそうですよ。行ってみたい?
ローレンス イエス! 実は友人が熊本に住んでいて、ボクが日本に行くことができれば、一緒に谷ナオミさんのお店に行こうと約束しているんです。あと、谷ナオミさんはピンク映画を販売しているお店も持っているそうなので、そちらにもぜひ行ってみたい。日本に行きたいデ~ス!
──谷さんのクラブでは、希望者はムチでぶってくれるみたいですよ。
ローレンス オー、それはいいなぁ。ボク自身はいろんな体験をしてみたいと考えているから、谷ナオミさんとならマゾ体験もいいかもね(笑)。
──では、最後に日本の『ムカデ人間』ファンにメッセージを。
ローレンス OK! じゃあ、最後に日本語で1曲歌うよ。「ゲッゲッゲゲゲのゲ~。朝は寝床でグ~グ~グ~。楽しいな楽しいな。オバケにゃ学校も試験もなんいもない。ゲッゲッゲゲゲのゲ~♪」
(取材・構成=長野辰次)
『ムカデ人間2』
監督・脚本/トム・シックス 出演/アシュリン・イェニー、ローレンス・R・ハーヴェィ、マディ・ブラック、ドミニク・ボレリ
R18 配給/トランスフォーマー 7月14日(土)より新宿武蔵野館にてレイトショー公開ほか全国順次公開 <
http://mukade-ningen.com/mukade2>
(c)2011 SIX ENTERTAINMENT
●ローレンス・R・ハーヴェイ
1968年英国生まれ。ウェールズのカーディフでパフォーマンス集団「シアター・オブ・ミステイクス」のアンソニー・ハウエルに師事し、パフォーマンスアートを学ぶ。アート&パフォーマンス理論で修士号を取得。80年代後半からパフォーマンスアートを中心に活動をスタート。90年代は児童向け番組『Parallel9』『Knight School』などに出演し、子どもたちの人気者に。『ムカデ人間2』(11)で長編映画デビュー。親日家で、70年代の歌謡曲やピンク映画を愛し、日本語の勉強もしている。キノコホテルのライブを観ることと谷ナオミに会うことが夢。