
『それ行け!! 珍バイク』(グラフィック社)
アオザイの国・ベトナム。北は中国、西はラオスとカンボジアに接した東南アジアの美しいこの国には、世界各国から年間600万人の観光客が訪れる。かつてフランスの植民地だったこともあって、ほかの東南アジア諸国に比べてフランス人旅行客の姿が目立つが、そんな観光客がまず驚かされるのは、この国のバイクの多さだろう。ホー・チ・ミン市だけでも200万台以上のバイクが、道路という道路を縦横無尽に走っている。通勤・通学はもちろんのこと、農作物や工業製品を山積みにした何万台ものバイクが行き来する。朝夕のラッシュ時の渋滞はすさまじく、あたり一面が灰色の排気ガスで充満。エンジン音やクラクションがあちらこちらで鳴り響く、アジア屈指のカオスな街だ。
そんなバイク大国ベトナムの、どう見ても完全に積載量をオーバーした「珍バイク」を激写した写真集が、『それ行け!! 珍バイク』(グラフィック社)だ。
ベトナムでは、1960年代から日本メーカーの小型バイクが普及し始め、中でもホンダのスクーターやスーパーカブの人気が圧倒的に高い。ベトナム人がバイクのことを“ホンダ”と呼ぶのはよく知られた話だ。公共交通機関が発達しておらず、狭い路地が多い都市部では、人やモノを運ぶのにはバイクが最も便利で最速の手段なのだ。

ベトナム人の間では、人もモノも“乗せられるものは乗せられるだけ乗せる”というのが常識なようで、数人で移動するときも基本は1台、多いときには4人で1台に乗っていることもある。荷台の荷物にしても、食料や日用品は序の口。生きたまま足を縛られた鳥や豚、山積みにされたペットボトルや金物、ビニール袋に小分けされた金魚、布団、タイヤ、鏡など、人々が必要とするものはすべてバイクに積まれる。バイクは、ベトナム人にとって最も重要なライフラインの一つなのだ。
また、その積み方も実に見事で、上下左右前後、スペースさえあればどこでも積みまくる。しかも厳重に梱包されるわけでもなく、紐でぐるぐるっと固定した程度。日本なら完全に違反切符が切られるレベルだが、どうやらベトナムではヘルメットさえかぶっていれば一応問題ないらしい(本書の中にはノーヘルの人も多いが)。よくもまあこんな状態で走れるものだと感心してしまうが、ライダーたちは何食わぬ顔で街を走り抜けていく。
ここ数年のベトナムの経済発展は著しく、都市部には高層オフィスビルや高級ホテルが次々と建設され、狭い路地は拡張されつつある。しかし、そういった変化もお構いなしに、今日もホー・チ・ミンでは何万台ものバイクがうなりを上げて走り回っている。そんな彼らのパワフルさこそ、ベトナムの本当の魅力なのかもしれない。




