
『証拠調査士は見た!すぐ隣にいる
悪辣非道な面々』
(宝島社)
警察や弁護士が手を出せない事件を解決する「証拠調査士」という職業をご存じだろうか。例えば、警察は事件の証拠がないと動かない。弁護士は法律のアドバイスをするのみで、事件の解決には直接動くことはない。そういうさまざまなトラブルを調査し、証拠を集め、事を解決に導く。それが証拠調査士だ。
このほど、『証拠調査士は見た!すぐ隣にいる悪辣非道な面々』(宝島社)を上梓した平塚俊樹氏は、これまで数々の信じがたい事件に携わってきた。小学校の児童を運び屋にする麻薬密売人や、泣き寝入りを狙って女性専門マンションのみを繰り返し狙う強姦魔、性犯罪被害者の女性を恫喝訴訟で追い込む大手コンサル企業、痴漢冤罪を生み出す警察捜査の悪癖……。どれも日本社会の根深い矛盾を浮き彫りにする、悲痛で救いようのない事件ばかりだ。平塚氏が言う。
「いまや小学校は麻薬やポルノ商品の最大の流通場所だというと、警察関係者さえ驚きます。しかし、これは事実です。大人の売人が子どもを上手に使い、児童本人が自覚しないまま、事実上の運び屋として何年も使い続けるのです。ある児童の親から『子どもの様子がおかしい』と相談を受け、調べていくうちに麻薬組織が浮かび上がってきました」
“ヤクの運び屋”といえば普通、大麻をコンドームに入れて飲み込んだり、肛門に押し込んで海外から持ち込んだりするなどの手口を耳にすることはあるが、小学生の子どもが、たとえ意図しないまでも運び屋をしているのだとしたら驚くしかない。
「売人からランドセルに覚せい剤を入れられた児童は、家路に向かう通学路上で“客”にブツを渡します。それが麻薬だとは子どもには言いません。100均で勝ったポーチなどに入れて、『おじさんの友達がいるから渡しておいて』とか、いろんなシチュエーションで子どもに教え込むんです。ある別の組織で同類案件に関係していた関係者によれば、『子どもが売買に関わっているなんて誰も思わない。この方法なら、発覚する確率は限りなく低い』とのことでした」
また、女性向けマンションを専門に狙う、常習性のある強姦魔も横行しているという。
「一般に女性向け不動産はオートロックや防犯窓の充実などで、治安面で安全とのイメージがありますが、実はまったく逆です。常習的な強姦グループにとって、女性だけが住んでいると最初からわかっている物件は、言葉は悪いですが、格好の餌場なわけです」
警察庁の調べによれば、2011年の強姦事件の認知件数は1,402件。このうち約8割は屋内(住宅やホテルなど)で起きており、うち半数近くが住宅(団地やマンション、一戸建て住宅)で発生している。強姦事件の多くは住宅で起きているのだ。常習性のある性犯罪者たちは、一人暮らしをしている女性宅を狙って犯行に及ぶ。女性だけが住んでいるマンションが狙われるのは、ある意味必然といえるかもしれない。また、著書の中では、こうした事件の背景に、一部の不動産管理会社から合鍵が暴力団に流出していた事例もあるとの実態も明らかにしている。
「管理会社が鍵を横流しするなんてありえないという、性善説で組まれたスキームの中で起きている事件なんです。こうした約束ごとは、一握りの不届き者の出現であっけなく崩壊します。つい先日も、大手警備会社『セコム』の社員が、かつて自身が警備を担当した居酒屋に忍び込み、売上金を盗んで逮捕されました。今の日本では、残念なことに性善説で組まれた無邪気なスキームはもう通用しません。そのことを自覚する時期に来ているでしょう」
また、平塚氏はこうした事件の多くに共通するのが「人間関係の希薄さ」であるとも指摘する。「小学生の運び屋事件」は、親子間のコミュニケーションが密ならば、親が子の変化に気づくはずであり、「女性向けマンションでの強姦事件」についても、地域コミュニティのつながりが薄くなっていることが背景にあるというのだ。
「犯罪者を対象にした『どんなときに犯行を思いとどまったのか』というアンケート結果があるのですが、回答で最も多かったのが『住民にあいさつされたり、声をかけられたとき』でした。見知らぬ人でもあいさつするような地域では、犯行を犯してもすぐに通報されて捕まってしまう可能性が大きいと彼らは考えます。結局は、家族や友人、地域コミュニティのつながりがしっかりしていれば、多くの事件は未然に防げるのです」
現代社会の複雑な事件も、諸悪の根源は案外、昔と変わらない。大きな事件に巻き込まれる前に、まずは身近な人間関係から見直すことが重要といえそうだ。
(文=編集部)
●ひらつか・としき
平塚総合研究所所長。武蔵野学院大学客員教授。エビデンサー(証拠調査士)。某大手メーカーで年間1,000件を超えるクレーム処理を担当。在職中にトラブル対応ノウハウを会得。2004年に危機管理専門コンサルタントとして独立。一部上場企業や医療機関、弁護士事務所などを指導。