
映画大国インドからやって来た、
超ミラクルお祭りムービー『ロボット』。浮世の憂さを
きれいさっぱり洗い流してくれます。
「インドに行くと人生観が180度変わる」という言葉は本当だった。インドへ行かずとも、世界興収100億円のメガヒットを記録したインド映画『ロボット』を観るだけで、映画の文法だとか映画的リアリティーだとかを気にする映画マニアの固定観念はガラガラドッシャ~ンとぶっ壊されてしまう。まさに、インド映画はすごいんど! 『ロボット』の主演は、インドの誇る“スーパースター”ラジニカーント。1990年代のミニシアターブーム体験者には懐かしい『ムトゥ 踊るマハラジャ』(95)のラジニ兄貴は御年62歳ながら、まだまだヨガパワーで健在だ。ヒロインはミス・ワールド国際大会での優勝歴を持つ世界一の美女アイシュワリヤー・ラーイ。でもって『ターミネーター』(84)シリーズで知られるハリウッドきってのCG工房スタン・ウィンストン・スタジオ(現レガシー・エフェクツ)がSFXとロボットパートを担当。年間の映画製作本数が1000本を越える映画大国インドの底力とハリウッドの最先端技術が化学融合したミラクルムービーなのだ。
歌って踊って恋をして……というインド娯楽映画の伝統を、『ロボット』はIT大国でもあるインドの世情を反映して、超ハイテックにアレンジ。だが、物語は極めてシンプル。天才科学者バシー博士(ラジニカーント)は10年の研究の末に画期的な高性能ロボット・チッティ(ラジニカーント2役)を完成させる。科学委員会の承認を得るため、バシー博士はチッティに善悪の判断ができるように細やかな感情をインプット。ところが人間と同じ感情を持つようになったチッティは、バシー博士の恋人サナ(アイシュワリヤー・ラーイ)に横恋慕。自分は年老うこともなく、永遠にサナを愛し続けると誓うチッティ。ここに超メタル仕様かつベタな恋愛三角バトルが勃発する。でも、なんでこんなシンプルな物語で、世界興収100億円を越える大ヒット作となったのか?

結婚を控えたバシー博士(ラジニカーント)と
医大生のサナ(アイシュワリヤー・ラーイ)。
実年齢でラジニ62歳、アイシュ38歳ですが、
映画の世界では年齢は関係ありません。
物語に目新しさはなく、その上、『ターミネーター』や『トランスフォーマー』(07)といったハリウッド大作から、綾瀬はるか主演の珍作『僕の彼女はサイボーグ』(08)までどこかで見たようなデジャヴ感のあるシーンが満載。『ロボット』はパクり映画なのか? いや、違う。アイデアに枯渇したハリウッドや日本映画が人気コミックやTVドラマに題材を求めた安易な映画もどきや過去のヒット作の焼き直しを粗製濫造しているのに対し、『ロボット』はあらゆる映画の名シーンやアイデアを貪欲に取り込んだ上で、観客を徹底的に楽しませることに奉仕した尋常ならざるサービス精神で貫かれている。画期的なロボット・チッティが世界各国で開発された部品や回路を組み合わせて誕生したように、映画『ロボット』も古今東西のエンターテイメント映画の粋を集めた結晶体なのだ。
そして、何よりも重要なことは、アイデアはあくまでもドラマを生かすためのツールであること。様々なSFロボット映画の要素を取り入れながらも、タイトルロールであるロボットのチッティは人間の言うことはすべて受け入れるイノセントな天使、そして正義のヒーロー然とした存在から、生身の女性を愛してしまったことから支配欲に突き動かされて大暴走を始め、殺戮マシンへと大変貌を遂げる。クライマックスでは、巨大で邪悪な“破壊神”にまで変わり果てる。自分勝手で嘘つきな人間を愛してしまったこの機械人形の愛の深さとそれゆえの暴走ぶり、そしてチッティが愛する者へ投げ掛ける最後の言葉が、観る者のハートを揺さぶる。

ダンスだけでなく、アクションシーンも極力、
ラジニ本人がやったとのこと。ヨガと食生活の
改善で大復活。さすが、インドのスーパースター。
SFもののお約束を逆手にとった展開もお見事だ。SFロボットもので必ず触れられるのが、SF作家アイザック・アシモフが提唱した「ロボット三原則」。ロボットは人間に危害を加えてはならない、人間の命令に従わなくてはならない、自分を守らなくてはならないというもの。『鉄腕アトム』をはじめロボットものはすべてこの大原則が前提となっているが、バシー博士が「チッティにはロボット三原則をプログラムしていませ~ん」と高らかに宣言するくだりは目からウロコ。バシー博士がチッティを開発したのは、何とロボットをインド軍に採用してもらうためだったのだ。ロボットでインド軍を編成すれば、インド兵は血を流さなくて済むというのがバシー博士の言い分。このオッサン、主人公のくせにマッドサイエンティストだよ。どこまでインド映画はフリーダムなんだ。あらゆる固定観念から解放してくれる無軌道な奔放さが、本作にはある。
こんなにも自由さとエネルギッシュさに溢れた傑作インド映画の日本公開を決めたのは、配給会社アンプラグドの代表・加藤武史さん。アンプラグドは社員数5人という小さな会社だが、大手配給会社ではないからこそ『ロボット』を買い付けることができたようだ。
加藤 「『ロボット』を初めて観たのは2011年の春先。その年の「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」に出品が決まったと聞いて、YouTubeで予告編を見たんです。とんでもない予告編で、一発でクギ付けになりました。『ムトゥ』以降、日本ではまったくインド映画は当たってないことは知っていましたが、これはもう日本で公開するしかないと即決(笑)。当然、日本でも他の大手配給会社も動いて、5社が手を挙げたんです。でも、インド映画は契約するのが非常に面倒。インドって言語が14に分かれていて、『ロボット』はタミル語とヒンディー語の2バージョンあり、それぞれ上映時間が169分、177分と異なり、他国ではありえないことですが、著作権が別々になっているんです。さらに問題があって、インドは映画業界、政界、裏社会の繋がりが強いんです。それで『ロボット』の製作会社の重役たちがみんな、政界の汚職事件に連座して刑務所送りになってしまい、製作側の担当者が不在(苦笑)。そういう状況だったので、他の配給会社は諦めてしまった。多分、あまりにリスキーなので、会議でまとまらなかったんでしょうね。その点、うちの会社は少人数ですから、ボクが「買う」と決めればOK。インドの代理人を通して、タミル語とヒンディー語の2バージョンを両方とも購入することにしたんです」

こちらは後半、ワルボット化したチッティ。
日本版ではミュージカルシーンを2曲分カット
したけど、後半の怒濤の大バトルシーンは
ノーカットなのだ。
インディペンデント系の配給会社ながら、2バージョンとも買ってしまうとは何とも豪気ではないか。ここらへんのフレキシブルな判断と粘り強い交渉によって『ロボット』を日本に呼び寄せることに成功した。これも一種のミラクルストーリー。
加藤 「最初は物すごい金額を提示されたんです。そこは交渉ですね。契約が成立しなければ、向こうもお金が入らないわけですし。それと『ムトゥ』のヒット以降、日本ではインド映画は存在しないも同然になっていたので、『ロボット』を日本でもヒットさせることで、他のインド映画も公開できるようにしたいと説明して理解してもらったんです。半年間にわたって辛抱強く交渉を続けることで、最初の提示額の1/10の金額で購入できたんですよ(笑)」
1/10のプライスダウンって、一体どれだけインド経済は自由なんだ? 加藤さんのお話を続けると、『ハングオーバー!消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』(09)や『キック・アス』(10)といったコメディ映画が日本でもヒットしたことにも背中を押されたとのこと。これまで日本では洋画のコメディは当たらないという常識が配給関係者の頭にあったが、『ハングオーバー!』『キック・アス』が口コミでヒットしたことから見ても、日本の映画マーケットは変化しつつあると加藤さんは感じている。
加藤 「30~40代のコアな映画層にまず『ロボット』の面白さをきちんと知ってもらい、20代の若い層へと広めていきたい。“マサラ・システム”と呼ばれているんですが、インドの映画館では、公開初日は暴動が起きたんじゃないかと思うくらいスゴい熱気なんです。劇場内でクラッカーが鳴るわ、上半身裸で踊り出す人もいるわ(笑)。『ロボット』の日本での前夜祭には、インド人を仕込んで盛り上げようと思っています。『ロボット』がきっかけで、日本でもエンターテイメント映画の楽しみ方が変わってくると面白いですね」
今後の日本映画の在り方にも大きな影響を与えそうな『ロボット』。常識破りな本作を観た後、あなたはこうつぶやくだろう。インド映画はすごいんど!
(文=長野辰次)
『ロボット』
監督/シャンカール 音楽/A・R・ラフマーン アニマトロニクス&特殊効果/スタン・ウィンストン・スタジオ スタント/ユエン・ウーピン 出演/ラジニカーント、アイシュワリヤー・ラーイ 日本版上映時間/139分 配給/アンプラグド 5月12日(土)より渋谷TOEIほか全国ロードショー <http://robot-movie.com>
(C)2010 SUN PICTURES, ALL RIGHTS RESERVED.
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[第11回]美人女優は"下ネタ"でこそ輝く! ファレリー兄弟『ライラにお手あげ』
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[第9回]胸の谷間に"桃源郷"を見た! 綾瀬はるか『おっぱいバレー』
[第8回]"都市伝説"は映画と結びつく 白石晃士監督『オカルト』『テケテケ』
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[第4回]フランス、中国、日本......世界各国のタブーを暴いた劇映画続々
[第3回]水野晴郎の遺作『ギララの逆襲』岡山弁で語った最後の台詞は......
[第2回]『チェンジリング』そしてイーストウッドは"映画の神様"となった
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