とにかく麺類が好きだ。外食はほとんどラーメンか、そば・うどん、あるいはスパゲッティのローテーションだ。そんな筆者がずっと食べたくてたまらないのが、ローメン。写真でしか見たことがない謎の食べ物だ。さまざまな情報を総合すると、マトンの肉を使った焼きそばに、スープが入っていたりいなかったり。……いまいち、ピンとこない食べ物だ。東京にも何軒かローメンを食べることのできる店があるらしいが、基本、居酒屋のメニューの一部という形態らしく、下戸の筆者には敷居が高い。
ゆえに、飯田線の旅において外すことのできなかったのが、長野県伊那市でローメンを食すこと。それに、伊那は古来よりさまざまな作品の聖地である。まず『究極超人あ~る』に、つげ義春『無能の人』(「蒸発」の回を参照)、それに小畑実が「伊那は七谷~」と歌う「勘太郎月夜歌」というのもあった。かくて、期待を持って降り立った飯田線伊那市駅。そこには、昨年旅をした富山県高岡市(
記事参照)を超える衝撃が待っていた。
まずは街の散策へ。40リットルのザックは邪魔だ。コインロッカーはだいたい駅前に……ない。駅員に聞くと、
「キヨスクがなくなった時に、一緒に撤去されちゃったんです。ここから100メートルくらい先のバスターミナルにはあるみたいですけど……」
小さいとはいえ、街のターミナル駅にコインロッカーがないことには驚く。桜の名所として知られる観光地・高遠に比べて、観光客も来ない街ということなのだろうか。かくて、そぼふる雨の中をバスターミナルへ。切符売り場の人に聞くと、売店で管理しているとのこと。さっそく、売店のレジに座っている、おばちゃんにコインロッカーの場所を聞いてみる。どの荷物を入れるのか聞くので、背中のザックであると伝えると、
「ああ、それは入らないわ~」
ううむ、ザックを背負ったままの街歩きになるのか? と思いきや、
「ここで預かって置くから。200円ね」。うん、田舎の人は温かい。で、どこに置いとけばいいのかと尋ねると「そのあたり」と、売り場の通路を指す。……預かるというか、見張って置いてくれるわけね。
さて、ローメンを目指して街を歩くが、アーケードのある商店街は、意外にもシャッター通りではない。かなり古くから続いているであろう、オモチャ屋や呉服屋などの店舗も、ちゃんと営業している。ものすごく古めかしい模型屋もあったが、まったくの現役で営業している。やはり、地域の共同体が機能していて「これこれを買うときは、この店」という不文律が残っているのだろうか。そんな街だが、雨のせいもあるのか人通りは少ない。ちょうど高校駅伝開催前だったらしく、試走している高校生ばかりである。

かなり年季の入った模型店。地域でここだけだったら、かなり儲かるかも。

これぞ、老舗映画館の趣き。調べたところ、隣の「旭座1」と共に大正時代からの伝統ある映画館だそうだ。

こんな味のある劇場で『ドラえもん』を観賞できる子どもは幸せだねえ。
と、歩いていると古めかしい映画館のような建物が。「かつては賑わったんだろうな……」と思ったら、ポスターは新しい! なんと建物の古さ(失礼!)にもかかわらず、バリバリ営業中の映画館であった。さらに、元は三軒並んでいた店舗をぶち抜いたらしきスーパーやら、古本屋と美容院が合体した店など、ありえないほど味のある店舗が続く。その探索の果てにたどり着いたのが、伊那でも一軒しかないという銭湯だ。いや、正確には銭湯ではない。「人工ラドン温泉」である。

古本屋なのに美容院? と思ったら古本屋の奥が美容院になっていた。

この説得力のある立て看板。町の本屋さんの鏡である。

これまた濃厚な味わいの町の電気屋さんである。

ちゃんと、この街にもゆるキャラがいた!
恐る恐る扉を開けると、古めかしい銭湯のスタイル。常連しか利用しないのか、ぱっと見で一見とわかる筆者に、番台に座るおばあさんは「うちは暖まるの。ボイラーも直したから」としきりに説明。さて、手ぬぐいは持参していたが、石鹸がなかったのを思い出し、買おうと思ったら
「そういうのはないけど……(番台の下を手で探って)これ、貸してあげる」
と、使いかけの石鹸を渡してくれたのである。うん、やっぱり田舎の人は温かいよ。
しかし、ここは風呂屋なので暖めるのは身体だ。壁には古めかしい「人工ラドン温泉之証」なる額に入った証明書と共に、人工ラドン温泉の入浴方法が掲げられている。まずは身体を洗った後に、白湯に入ってから人工ラドン温泉に入る、という順番だ。ラドンやラジウムを含んだ鉱石を使う人工温泉というものは各地に存在しているけれど、どういう仕組みなのか半信半疑で入浴。確かに、身体の疲れが取れていくような感じはする……?
しかし、この銭湯もとい温泉、市内でも唯一ということもあってか、かなり多くの常連客がいる様子。湯船に浸かりながら、「ワシも若い頃は神戸で船員をやっていたが、今じゃ百姓をやっている……」に始まる一代記を語ってくれたお年寄りによれば、「前は上諏訪のほうにも一軒あったが、今ではもうここだけ」だという。どうも、伊那市内のみならず、かなり広い地域の人々の憩いの場になっているようだ。

立体版は、ビミョーな感じが。これ、流行ってるの?
■ローメンは難易度の高いB級グルメだった!
さて、ローメンである。まず入ったのが元祖として知られる「B」。ローメンは戦後生み出された料理で、スープに漬かっているものと焼きそば風のものと2種類あるそうだが、元祖の店はスープ系である。大盛りを注文し、料理ができるのを待つ。そして、ついにやってきたローメン。長年、夢見た味についに邂逅できた感動と共にいただきます!……あれ? 正直、脳内に「?」が点灯した。思ったほど、おいくない。おいいラーメンやそば・うどんを食べた時のような「ガツン」と来るおいしさがないのだ。カウンターに置かれた食べ方の説明書きによれば、卓上の醤油や酢、ラー油、ニンニクを好みの量入れて食べるらしい。

これが、スープ系のローメン。味のカスタムは難しかった……。
なるほど、店の調理は基本形で、経験則に基づいて自分が「ウマイ!」と感じるように味を調整しなくてはならないのか。これは難易度の高い食べ物である。結局、十分においしさを感じることができないまま完食。完全敗北である。それでも、長年夢に見たローメン。暗澹(あんたん)たる思いで終わるわけにはいかない。さらにもう一軒、とやってきたのは「U」。どうも居酒屋兼業らしく、入口は難易度が高い。恐る恐る引き戸を開けると、これまた驚いた。やたら客層が広いのだ。座敷には子連れの家族がいるし、カウンターには若者から年配までさまざまな男性客。テーブル席には若い女の子の2人組も。こちらの店、卓上に置かれているのは七味唐辛子のみ。つまり、味は店のほうで調整するということだな、と理解して大盛りを注文。やってきたのは、スープなし焼きそばスタイルのローメン。まず、ソースの香りが鼻をくすぐる。周囲の動きを参考にしながら、適度に七味唐辛子を振りかけて食らいつく……おいしい! ソースの香りとマトンの臭みが調和した天国だ。ああ、大盛りの上の超盛りにしておけばよかったと、多少後悔しつつあっという間に完食してしまった。

とにかく、自分好みの味になるように勝手に調整して食べるものらしい。

微妙に難易度が高そうな店だったけど、低かったよ。田舎は温かい。
このローメンという食べ物、元祖の「B」が作り方をオープンにしていたためか、店ごとに味もスタイルもかなり異なる食べ物になっている。そして、地元民であっても味の好みはさまざまなようだ。帰りに荷物を預けた売店のおばさんに「ローメンを食べて来た」と話したら「Uに行った?」と聞かれた。
かと思うと、駅で話をしたおばさんに「ローメンを食べに伊那に来た」と話すと、「旦那や息子はよく食べに行くけど、私はちょっとねえ……」

チャレンジ精神をそそられる銭湯。

時間厳守と書いてあるけど、開店時間に入ったら既に客がいっぱいであった。
地元民でも好き嫌いの分かれるローカルさ。そして、味の統一感のなさ。最近の町おこしでフィーバーする、ブランド化したB級グルメとは違う。自由度の高さゆえに、一通り味わうには、何日か滞在して、朝から晩まで食べ続けなければならなそうだ。この、適当な感じこそ、真のB級グルメと呼ぶにふさわしい。
(取材・文=昼間たかし)