
コーマンパワーが炸裂! 「安い、早い、面白い」がコーマン作品の魅力だ。
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今日はみんなが大好きなコーマンにまつわる話をしよう。他人から指図されることをひどく嫌い、驚くほどの吝嗇家で、無名の若者たちの情熱を巧みに利用し、詐欺まがいの商法でティーンエイジャーたちの大事なお小遣いを巻き上げてきた男の話だ。その男の名前は、ロジャー・コーマン。“B級映画の帝王”と呼ばれ、監督した映画の本数は50本以上、プロデュースした映画は500本以上になり、85歳になる現在もまだ現役プロデューサーとしていかがわしい作品を作り続けている。ドキュメンタリー映画『コーマン帝国』は、そんなコーマンさまのコーマンちき伝説の数々を、ジャック・ニコルソン、マーティン・スコセッシ、ロン・ハワード、ジョナサン・デミといったハリウッドのビッグネームたちが証言するという趣向のものだ。
コーマンのすごさは、出資者や評論家たちから何を言われようとも気にせず、1950年代から延々とチープで悪趣味なインディペンデント映画を作り続けていること。映画興行は、限りなくギャンブルに近い。1~2本ヒット作が出ると、監督やプロデューサーのもとには映画の内容ではなく、お金儲けにしか興味のない出資者が集まる。うぶな監督は「もっと予算をつぎ込めば、もっと素晴らしい作品ができ、もっとヒットするに違いない」と夢想して、ハイリスクハイリターンな大作に手を出すようになる。往々にして自分が撮りたかった作品とは別物になるか、見事にすってんてんになってしまう。その点、コーマンは自分の財布具合に適した作品しか作らない。ホラー、モンスター、ギャングものなど低予算で済むジャンルに特化した。一発大勝負はせずに、そこそこ当たったら、その収益金で次回作に取り掛かった。グロテスクな宇宙人が襲来し、マシンガンが炸裂するクレイジーな映画の内容とは裏腹に、とっても健全な自転車操業を続けた。

コーマン学校の卒業生であるマーティン・
スコセッシ。コーマン学校を卒業して、
初期の代表作『ミーン・ストリート』(73)
を作り上げた。
低予算映画を撮り続けるうちに、様々なコーマン伝説が生まれた。若き日のジャック・ニコルソンが自虐的嗜好から歯医者に嬉々として通う変態患者を演じたカルト映画『リトル・ショップ・オブ・ホラー』(60)はわずか2日間で撮り終えた。Vシネなみの早撮りだ。この時期のジャック・ニコルソンはよっぽど暇だったらしく、やはり彼が幽霊に恋する青年将校を演じた『古城の亡霊』(63)は、『忍者と悪女』(63)で使ったセットが豪華だったので壊すのを1週間待ってもらって即席で撮り上げたもの。プロデューサーの引き受け手がいないので、コーマン自身がプロデューサーを務め、助監督も兼任して雑用をこなした。そうやって徹底的に人件費を削った。ギャラの安い脚本家を重宝した。主演俳優のギャラが高い場合は、短期間で集中して撮影することで値引き交渉する。予算をきっちり守り、スケジュール内に撮り終わること。それがコーマンが自分の作品に課したルールであり、映画業界で生き残る唯一の方法だった。
マーティン・スコセッシ監督は、コーマン夫妻がプロデュースした『明日に処刑を…』(72)で商業監督デビューを果たした。「コーマン作品はセンスは二の次」とクサしながらも、「コーマンのお陰で、スケジュール内で撮影を済ませる方法が身に付いた」と感謝の言葉を述べている。一方、フランシス・フォード・コッポラ監督もコーマン組出身だが、“作品の質を上げるためなら、少しぐらい予算やスケジュールはオーバーしてもいいではないか”という考え方だった。コーマンのもとを離れ、『ゴッドファーザー』(72)で大成功を収めるコッポラ監督だが、『地獄の黙示録』(79)では予算とスケジュールが大幅に超過してしまい、生き地獄を見るはめになった。『コーマン帝国』にコッポラが出ていないのが残念だ。

『ワイルド・エンジェル』『白昼の幻想』に
主演したピーター・フォンダ。コーマンとの
出会いがなければ、『イージー・ライダー』も
誕生しなかった。
俳優ならジャック・ニコルソン、ロバート・デニーロ、デヴィッド・キャラダイン、シルベスタ・スタローン……、監督ならコッポラにスコセッシ、さらに『ダ・ヴィンチ・コード』(06)のロン・ハワード、『羊たちの沈黙』(90)のジョナサン・デミ、『エイトメン・アウト』(88)のジョン・セイルズ、『グレムリン』(84)のジョー・ダンテ、『ラスト・ショー』(71)のピーター・ボグダノヴィッチらもコーマン育ちだ。安い賃金でコーマンに扱き使われたが、お金がなくて困ったとき、コーマンのもとを訪ねると仕事にありつけた。俳優たちは食いしのぐことができ、スタッフは低予算で早撮りするスキルを磨くことができた。そして、彼らはある時期が来るとコーマンのもとから巣立っていった。コーマンは引き止めることはしなかった。
誰も手を出さない未開拓の分野にも、コーマンは果敢に挑んだ。1960年代の米国を震撼させた暴走族グループ「ヘルズ・エンジェルス」の蒔き散らすパワーに目を付けたコーマンは、ピーター・フォンダ主演のバイク映画『ワイルド・エンジェル』(66)を監督する。エキストラにはモノホンのヘルズ・エンジェルスを集めた。警察から指名手配されているお尋ね者ばかりだった。『ワイルド・エンジェル』で助監督を務めていたのはピーター・ボグダノヴィッチ。エキストラの人数が少なかったため、乱闘シーンに加われとコーマンに命じられ、ヘルズ・エンジェルスたちにボコボコにされている。反社会的な匂いのプンプンする『ワイルド・エンジェル』は大ヒットし、これにほくそ笑んだコーマンは、さらに危険な匂いのする『白昼の幻想』(67)を監督。これはLSDを題材にし、ドラッグをキメるとどんな風になるのかビジュアル化した疑似体験型サイケデリックムービー。『ワイルド・エンジェル』に続いてピーター・フォンダを主演に据え、ドラッグの指南役を兼ねてデニス・ホッパーが共演。LSDを常用していたジャック・ニコルソンが脚本を書いている。今、DVDで見ても斬新な作品だ。『ワイルド・エンジェル』『白昼の幻想』に主演したピーター・フォンダは、デニス・ホッパーを監督に、ジャック・ニコルソンを共演者として呼び、アメリカンニューシネマの金字塔『イージー・ライダー』(69)を完成させる。コーマンなくして、アメリカンニューシネマは語れない。ただし、『イージー・ライダー』にはコーマンは出資しそびれて、儲けそこなっている。

美人監督として評判のアレックス・ステイプル
トン。『コーマン帝国』が彼女にとって初の
長編デビュー作となった。
誰も手掛けなかった作品といえば、アメリカ南部を舞台に闘鶏を題材にしたウォーレン・オーツ主演作『コックファイター』(74)もその一本。こちらは、残念ながら大ハズれ。このときのコーマンはさすがに「誰も手掛けなかったのは、誰も興味を持たない題材だったから」と反省している。といってもタダでは転ばないのが、コーマン流。タイトルを『生まれついての殺し屋』と変えて、ジョー・ダンテに新しい予告編を作らせて、さも新作のふりをして再度公開している。よくピンク映画館で旧作をタイトルだけ変えて上映してるけど、あれもコーマン・メソッドだったのか。『コーマン帝国』の元ネタとなっているコーマン自身の筆による自伝『私はいかにハリウッドで100本の映画をつくり、しかも10セントも損をしなかったか』(早川書房)は、インディペンデントシーンで戦い続けるためのノウハウが詰め込まれているお薦めの一冊。
『私はいかにハリウッドで−』によると、インディペンデントシーンで名を成したコーマンは、低予算ではない高尚な作品を撮るチャンスもあったそうだ。でも、コーマンは肝心の勝負作になると、自分で監督することなく裏方のプロデュースに回った。インディペンデントシーンでは怖いものなしの無敵の帝王だったが、コーマンも生身の人間だった。映画人としての人生を賭けた大勝負は結局回避したのだ。かつては年間10本前後も撮りまくっていた監督業にも疲れを覚え、1970年代以降はプロデュース業に回る。妻や我が子たちと過ごす家庭での時間を大切にするようになった。B級映画に甘んじたと厳しく見ることもできるが、変動の激しい映画業界で最後の最後まで立っているヤツが勝利者なのだ、というのがコーマン哲学である。
ドキュメンタリー映画『コーマン帝国』の素晴らしい点は、コーマンは誰よりも映画愛に溢れた人でした、いつまでも大きな夢を追い掛けている人です、みたいな甘ったるい表現は避けているところ。コーマンは、あくまでもコーマンちき野郎でなくてはならない。ちなみに本作を企画し、監督したのは若くて美人なアレックス・ステイプルトン。同時期にオスカー受賞監督が、同じ企画を進めており、コーマンから「一緒に撮ったらどう?」と妥協策を提案されたが、その際に彼女は泣きながら「私のほうが先に頼んだのに」と訴えたそうだ。涙という女の武器をフル活用するなど、アレックス監督もかなりのしたたかさ。使えるものは何でも使ってやれ、というコーマン哲学を彼女自身がしっかり取材を通して身に付けたようだ。コーマンちきに生きることの素晴らしさを説いたナイスなドキュメンタリーである。この映画を観れば、あなたはもっともっとコーマンのことが大好きになるだろう。
(文=長野辰次)
『コーマン帝国』
監督/アレックス・ステイプルトン 出演/ロジャー・コーマン、ジュリー・コーマン、ジーン・コーマン、ロバート・デニーロ、ジャック・ニコルソン、マーティン・スコセッシ、ロン・ハワード、ジョナサン・デミ、ピーター・フォンダ、ブルース・ダーン、ポール・W・S・アンダーソン、クエンティン・タランティーノ、アラン・アーカッシュ、ポール・バーデル、ピーター・ボグダノヴィッチ、デヴィッド・キャラダイン、ジョー・ダンテ、パム・グリア、ゲイル・アン・ハード、ジョナサン・カプラン、ポリー・プラット、ジョン・セイルズ、ウィリアム・シャトナー、ペネロープ・スフィーリス、メアリー・ウォロノフ、ジム・ウィノースキー、アーヴィン・カーシュナー、イーライ・ロス
配給/ビーズインターナショナル 4月7日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開 <http://corman-movie.com>








