「人を食う」はOKで「おっぱいポロリ」はNG? 世界の「R-18」をTokyo Otaku Modeに聞く

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「Tokyo Otaku Mode」ホームページより。米国のフィギュア週間ランキング(2017年10月)
 日本のオタク文化はクールジャパンとして世界で大人気」――言葉としては聞くが、実態はどうなのだろうか?  日本のオタクグッズを海外に販売する通販サイト「Tokyo Otaku Mode」を2012年から運営している、Tokyo Otaku Mode Inc.共同創業者・秋山卓哉氏、MDチーム・高橋裕氏に前編(http://www.cyzo.com/2017/10/post_34943.html)から話を聞いている。こちらの後編では、「海外のオタクイベントの様子」や「世界のR-18の尺度の違い」について伺っていく。 ■海外のオタクイベントは来場者の半数近くがコスプレをしている? ――前編ではフィギュアが一番人気、と伺いましたが、Tokyo Otaku Modeでは書籍も扱っているんですか? 高橋裕氏(以下、高橋) はい。マンガではなく画集ですと、日本語のままで販売もできますので。日本のイラストレーターの画集の場合、むしろ海外のコレクターにとっては、オリジナル版である日本語の方が「コレクションとして価値がある」というのはあると思いますね。 ――「オリジナルを所有したい」というオタク、マニア心は万国共通なんですね。欧米でもオタクイベントは行われていますよね。例えば日本の『コミックマーケット』などと比べ、どのような雰囲気なのでしょうか? 高橋 海外のイベントは日本のイベントより来場者の方がコスプレをしていることが多いな、と思いますね。日本だとコスプレをする人はコスプレをしに、買い物をする人は買い物に、と目的が分かれている感じがしますが、欧米だとそこがいっしょくたになっている印象はあります。なによりコスプレをしている人数が多いですね。来場者の半数くらいがコスプレをしているようにも見えます。 ――会場は東京ビッグサイトぐらいの広さなのでしょうか? 秋山卓哉氏(以下、秋山) 大型イベントはそのくらいの会場で行っていますね。有名どころとして、ロサンゼルスで開催される『アニメエキスポ』は、4日間で30~35万人が来場するといわれています。フランスの『ジャパンエキスポ』も規模は同じくらいです。そういった大型イベントではコミケ同様、大きな企業ブースがあったりもします。日本のメーカーさん、版元さんも見かけますよ。 ――コミケが3日間で50万人強(杉並区の全人口くらい)ですから、コミケほどではないにしろ、大した動員力ですね。イベント参加者の半数近くがコスプレをしている、というのは日本だとない感覚ですよね。コスプレがここまで広がっているのはなぜだと思いますか? 高橋 米国は日本よりずっとハロウィンの文化が根付いていますから、仮装への敷居が低いというのはあると思います。オタク系イベントに限らず、スターウオーズやマーベルの新作映画が公開されると、ダースベーダーなどのコスプレをした人が映画館でずらりと並んでいたりしますから。 ――「コスプレ」というと日本が先進国のように思えますが、考えてみれば「仮装」は、ここ数年でハロウィンが一部で定着しだした日本より、米国の方がはるかに先輩ですよね。米国のオタクイベントでは、どういった日本のアニメやマンガのキャラクターがコスプレされていますか? 秋山 ほんとうに時期、トレンドによりますね。何年か前の『ニューヨークコミコン』では『進撃の巨人』が多かったです。 ■「ギャルの水着の上の部分がはだけてイヤ~ン」は、R-18か? ――Tokyo Otaku Modeでは扱わない商材はあるのでしょうか? 秋山 R-18は今のところ扱っていないですね。 ――なぜなのでしょうか? 秋山 性描写の規制は国によってルールが違いますし、国や地域によって宗教、文化的な背景や価値観に違いがあります。そのあたりを把握しないまま、相手国の文化的タブーに触れてしまえば国際問題にもなりかねません。そこまできめ細やかにみていくヒューマンリソースが今は社内にないので、そういったものに触れない範疇で扱っていますね。 ――日本の性表現はかなり過激とは言われていますよね。少女マンガでも掲載誌によってはセックスシーンがありますし。それに慣れてしまうと他国の「常識」が見えにくくなりますが、例えば他国のR-18事情はどんな感じなのでしょう? 秋山 例えば、シンガポールはヌードがNGです。 ――「ギャルの水着の上の部分がはだけてイヤ~ン」は、小学生が読むような週刊少年マンガ誌にも掲載される、古典的表現の一つですが、これもNGなんでしょうか。 秋山 NGですね。 ――「セックスシーンじゃないからいい」とか、そういう“文脈”の話ではないんですね。おっぱいポロリはアウトだと。 秋山 はい。ですので、ある一国を対象にするというのでなく、グローバルに展開するという場合「性的な表現」はとても難しい問題なんです。他にも、例えばゲームでは、結構露出度の高いコスチュームを着ている女性キャラクターがよくいますよね。 ――ビキニの水着に少し装飾がついたようなコスチュームの女性キャラクターは、「あるある」ですよね。 秋山 はい。そういったキャラクターのフィギュアを販売する際に写真つきでメルマガで告知したところ、読者である米国の子供のお母さんから「こういう情報が来ると、親としては戸惑ってしまう」というご意見をいただいたこともありました。 ――米国のAmazonを見ると『進撃の巨人』『東京喰種』が人気です。人を食うのがOKなら、ビキニみたいな衣装のひとつやふたつ……、と思ってしまいそうになりますね。 秋山 あと、日本のアニメやマンガの女性キャラクターは、特に欧米の方には幼く見えるというのもありますね。 ――小児性愛に関するさまざまな規制については、日本がゆるいのか、米国が厳しいのかというのはありますが、歴然な「差」がありますよね。 秋山 はい。グローバルに展開するサービスでは、法律の違いもそうですが、宗教観や文化の違いなどにも敏感でないといけないと思います。 ■2020年は、日本が世界に注目してもらうラストチャンス? ――Tokyo Otaku Modeさんが今後広げていきたい事業はありますか? 秋山 イベントへの出展に加え、店舗など、直接、リアルにお客様と接点を持てる場を増やしていきたいですね。 ――2020年のオリンピックに向け、日本への注目は上がっていますね。 秋山 今後数十年を見ても、2020年ほど日本が世界から注目される機会はおそらくないでしょう。2020年に向けいかに世界中の人に日本は楽しいか、また、行ってみたいと思ってもらえるかが、2020年以降においてもとても大切だと思います。このチャンスを逃さないようにしたいですね。  当社が今まで培ってきたノウハウなどを活かし、新しく海外に向けて日本のオタクグッズを製造、販売したい、という会社の支援も行っています。 ――それは「競合他社の育成」になってしまうように思えますが……? 秋山 いえ、オタクグッズは本当に商材が多彩ですから。一緒に2020年に向けて盛り上げられればと思います。 (文/石徹白未亜 [http://itoshiromia.com/]) 「Tokyo Otaku Mode」ホームページ https://otakumode.com/

「人を食う」はOKで「おっぱいポロリ」はNG? 世界の「R-18」をTokyo Otaku Modeに聞く

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「Tokyo Otaku Mode」ホームページより。米国のフィギュア週間ランキング(2017年10月)
 日本のオタク文化はクールジャパンとして世界で大人気」――言葉としては聞くが、実態はどうなのだろうか?  日本のオタクグッズを海外に販売する通販サイト「Tokyo Otaku Mode」を2012年から運営している、Tokyo Otaku Mode Inc.共同創業者・秋山卓哉氏、MDチーム・高橋裕氏に前編(http://www.cyzo.com/2017/10/post_34943.html)から話を聞いている。こちらの後編では、「海外のオタクイベントの様子」や「世界のR-18の尺度の違い」について伺っていく。 ■海外のオタクイベントは来場者の半数近くがコスプレをしている? ――前編ではフィギュアが一番人気、と伺いましたが、Tokyo Otaku Modeでは書籍も扱っているんですか? 高橋裕氏(以下、高橋) はい。マンガではなく画集ですと、日本語のままで販売もできますので。日本のイラストレーターの画集の場合、むしろ海外のコレクターにとっては、オリジナル版である日本語の方が「コレクションとして価値がある」というのはあると思いますね。 ――「オリジナルを所有したい」というオタク、マニア心は万国共通なんですね。欧米でもオタクイベントは行われていますよね。例えば日本の『コミックマーケット』などと比べ、どのような雰囲気なのでしょうか? 高橋 海外のイベントは日本のイベントより来場者の方がコスプレをしていることが多いな、と思いますね。日本だとコスプレをする人はコスプレをしに、買い物をする人は買い物に、と目的が分かれている感じがしますが、欧米だとそこがいっしょくたになっている印象はあります。なによりコスプレをしている人数が多いですね。来場者の半数くらいがコスプレをしているようにも見えます。 ――会場は東京ビッグサイトぐらいの広さなのでしょうか? 秋山卓哉氏(以下、秋山) 大型イベントはそのくらいの会場で行っていますね。有名どころとして、ロサンゼルスで開催される『アニメエキスポ』は、4日間で30~35万人が来場するといわれています。フランスの『ジャパンエキスポ』も規模は同じくらいです。そういった大型イベントではコミケ同様、大きな企業ブースがあったりもします。日本のメーカーさん、版元さんも見かけますよ。 ――コミケが3日間で50万人強(杉並区の全人口くらい)ですから、コミケほどではないにしろ、大した動員力ですね。イベント参加者の半数近くがコスプレをしている、というのは日本だとない感覚ですよね。コスプレがここまで広がっているのはなぜだと思いますか? 高橋 米国は日本よりずっとハロウィンの文化が根付いていますから、仮装への敷居が低いというのはあると思います。オタク系イベントに限らず、スターウオーズやマーベルの新作映画が公開されると、ダースベーダーなどのコスプレをした人が映画館でずらりと並んでいたりしますから。 ――「コスプレ」というと日本が先進国のように思えますが、考えてみれば「仮装」は、ここ数年でハロウィンが一部で定着しだした日本より、米国の方がはるかに先輩ですよね。米国のオタクイベントでは、どういった日本のアニメやマンガのキャラクターがコスプレされていますか? 秋山 ほんとうに時期、トレンドによりますね。何年か前の『ニューヨークコミコン』では『進撃の巨人』が多かったです。 ■「ギャルの水着の上の部分がはだけてイヤ~ン」は、R-18か? ――Tokyo Otaku Modeでは扱わない商材はあるのでしょうか? 秋山 R-18は今のところ扱っていないですね。 ――なぜなのでしょうか? 秋山 性描写の規制は国によってルールが違いますし、国や地域によって宗教、文化的な背景や価値観に違いがあります。そのあたりを把握しないまま、相手国の文化的タブーに触れてしまえば国際問題にもなりかねません。そこまできめ細やかにみていくヒューマンリソースが今は社内にないので、そういったものに触れない範疇で扱っていますね。 ――日本の性表現はかなり過激とは言われていますよね。少女マンガでも掲載誌によってはセックスシーンがありますし。それに慣れてしまうと他国の「常識」が見えにくくなりますが、例えば他国のR-18事情はどんな感じなのでしょう? 秋山 例えば、シンガポールはヌードがNGです。 ――「ギャルの水着の上の部分がはだけてイヤ~ン」は、小学生が読むような週刊少年マンガ誌にも掲載される、古典的表現の一つですが、これもNGなんでしょうか。 秋山 NGですね。 ――「セックスシーンじゃないからいい」とか、そういう“文脈”の話ではないんですね。おっぱいポロリはアウトだと。 秋山 はい。ですので、ある一国を対象にするというのでなく、グローバルに展開するという場合「性的な表現」はとても難しい問題なんです。他にも、例えばゲームでは、結構露出度の高いコスチュームを着ている女性キャラクターがよくいますよね。 ――ビキニの水着に少し装飾がついたようなコスチュームの女性キャラクターは、「あるある」ですよね。 秋山 はい。そういったキャラクターのフィギュアを販売する際に写真つきでメルマガで告知したところ、読者である米国の子供のお母さんから「こういう情報が来ると、親としては戸惑ってしまう」というご意見をいただいたこともありました。 ――米国のAmazonを見ると『進撃の巨人』『東京喰種』が人気です。人を食うのがOKなら、ビキニみたいな衣装のひとつやふたつ……、と思ってしまいそうになりますね。 秋山 あと、日本のアニメやマンガの女性キャラクターは、特に欧米の方には幼く見えるというのもありますね。 ――小児性愛に関するさまざまな規制については、日本がゆるいのか、米国が厳しいのかというのはありますが、歴然な「差」がありますよね。 秋山 はい。グローバルに展開するサービスでは、法律の違いもそうですが、宗教観や文化の違いなどにも敏感でないといけないと思います。 ■2020年は、日本が世界に注目してもらうラストチャンス? ――Tokyo Otaku Modeさんが今後広げていきたい事業はありますか? 秋山 イベントへの出展に加え、店舗など、直接、リアルにお客様と接点を持てる場を増やしていきたいですね。 ――2020年のオリンピックに向け、日本への注目は上がっていますね。 秋山 今後数十年を見ても、2020年ほど日本が世界から注目される機会はおそらくないでしょう。2020年に向けいかに世界中の人に日本は楽しいか、また、行ってみたいと思ってもらえるかが、2020年以降においてもとても大切だと思います。このチャンスを逃さないようにしたいですね。  当社が今まで培ってきたノウハウなどを活かし、新しく海外に向けて日本のオタクグッズを製造、販売したい、という会社の支援も行っています。 ――それは「競合他社の育成」になってしまうように思えますが……? 秋山 いえ、オタクグッズは本当に商材が多彩ですから。一緒に2020年に向けて盛り上げられればと思います。 (文/石徹白未亜 [http://itoshiromia.com/]) 「Tokyo Otaku Mode」ホームページ https://otakumode.com/

世界130カ国にオタクグッズを配送! 世界のオタク事情をTokyo Otaku Modeに聞く

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「Tokyo Otaku Mode」ホームページより。米国でも人気な『ソードアート・オンライン』の商品の一部
「日本のオタク文化はクールジャパンとして世界で大人気」――言葉としては聞くが、実態はどうなのだろうか?  どの国の人が、どんな作品の、どんなグッズを購入しているのか? 日本のオタクグッズを海外に販売する通販サイト「Tokyo Otaku Mode」を2012年から運営している、Tokyo Otaku Mode Inc.共同創業者・秋山卓哉氏、MDチーム・高橋裕氏に話を聞いた。 ■130カ国、5大陸すべてにオタクグッズ販売実績あり ――Tokyo Otaku Modeでは、どの国に対してオタクグッズを販売しているのでしょうか? 秋山卓哉氏(以下、秋山) 配送はEMS(Express Mail Service:日本郵便が提供する国際郵便サービス)を利用しており、EMSが利用できる地域であればどこでも発送可能です。すでに130カ国、5大陸すべてに配送実績があります。 ――日本が承認している国が196カ国ですから、かなりの割合ですね。アジア圏、北米、フランスなどはオタク文化の人気が高い印象がありましたが、130カ国と聞くと、想像を超えて世界中なんですね。 秋山 「こんな国名初めて見た」という国の方にも配送したことがあります。例えば、カリブ海のマルティニークっていうフランス領の島とか。 ――マルティニーク、初めて聞きました。Tokyo Otaku Modeのホームページは英語ですが、130カ国、というと英語圏でない利用者も多いかと思います。 秋山 ECサイトは、今は基本的には英語だけですね。商品点数が何万件もあるので、全てを多言語対応にするのは社内のリソース的に難しくて。決済の部分など重要な部分から多言語化を進めています。中国向けには、中国のECモールに出店しており、そちらは全て中国語対応です。 ――確かに、お金周りのことについて利用者は母国語で把握したいですよね。商品はどのエリアで特に売れているのでしょうか? 秋山 割合でいくと、北米が圧倒的です。米国が一番ですね。 ――海外の人に販売をしていて、こんなこと日本人はしないな、と思ったことはありますか? 秋山 セールをはじめたときに、セール前に買われた方が「差額を返して」と連絡してきて、驚いたことがありますね。 ■日本のオタクグッズを自由に海外で販売できるというわけではない ――オタクグッズを海外に販売するにあたって、大変なことは何でしょうか? 秋山 販売のための調整ですね。メーカーさんがマンガやアニメのキャラクターをもとにしたグッズを作るときに、版元さんにこういう商品をつくりたい、と申請するのですが、そのときに「販売する地域」も合わせて申請するのが一般的です。  メーカーさんが国内展開しか考えていない場合は、契約を見直すことが必要です。こういった手続きにはとても時間がかかってしまうんですね。  また、「この地域向けにはすでにディストリビューター(販売代理店)がいるので、現地で仕入れてください」というケースも多くあります。単純に「日本で仕入れたものを世界で自由に売れる」というわけではないのです。 ――商品一つ一つにおいて、気が遠くなるような調整が必要になるんですね。そうなると、その「契約」がネックになり扱えない商品というのも多いのでしょうね。 秋山 はい。当社は渋谷の本社のほか、米国のオレゴンにもオフィスがあります。なぜ米国にもオフィスを作ったかというと、米国で販売権を持つ卸の会社さんから仕入れ、米国内で販売するのは問題ないためです。 ――日本のオタクグッズを販売する代理店が米国に存在する、ということは米国内でオタクグッズの普及は進んでいるとも言えます。一方で、それだけでは足りないから、通販を行うTokyo Otaku Modeさんへの注文があるのでしょうね。 秋山 はい。情報はネットにより世界中に瞬時に行き渡るようになりましたが、モノはまだまだ追いついていません。ですので、「ネットで情報は見たものの、購入できる場所がないので、Tokyo Otaku Modeで取り扱って欲しい」という問い合わせはよくいただきますね。それに、オタクグッズは商材の幅がとても広いですから。 ――ネットが普及する前の「情報すら分からずもどかしい」でなく、「分かっているのに手に入れることができない」という別のもどかしさが今はあるのですね。 ■「日常系」「キャラ推し」は米国では今一つ? 世界のオタク事情 ――北米圏が売上の中心と伺いましたが、北米のオタクと日本のオタクの好みに「ずれ」を感じることはありますか? 高橋裕氏(以下、高橋) 北米では日常系や、キャラクター推しの男性向けのタイトルは爆発的にはヒットしない印象ですね。文化的に好きなキャラクターに違いがあるように感じます。一方、中国、韓国などアジア各国はだいたい日本と流行る作品は似ています。 ――そうなると、北米圏で人気の作品はなんでしょうか? 秋山 『進撃の巨人』『東京喰種』『ソードアート・オンライン』は人気が高かったです。最近ですと『僕のヒーローアカデミア』ですね。 高橋 『僕のヒーローアカデミア』は北米人気が高いですね。マーベル(『スパイダーマン』などアメコミ作品を展開する米国の出版社)の話でも、いじめられっ子がヒーローになる、という“成り上がり”は定番のストーリーです。『僕のヒーローアカデミア』は米国の文化的にフィットするものがあったのだと思います。 ――冴えない主人公が成長していく物語は、日米ともに支持される定番なのですね。では、Tokyo Otaku Modeでの人気商品は何でしょうか? 高橋 フィギュアですね。売上個数で見るとぬいぐるみも結構売れているのですが、フィギュアは単価が高いですから。売上額でのランキングの上位はフィギュアが占めています。「フィギュアは世界で人気」というのは各社さんも分かっていますので、正規のルートでフィギュアを購入できる地域は広がっています。  ただ、フィギュアの場合すごくクオリティが低い偽物もあるので、当社を含め「本物を提供している」ことがひとつの価値になると思います。フィギュアは高いものでは2万円くらいするものもあります。そうなると、正規か分からないサイトで購入するのは怖いですよね。 ――買うからには正規品が欲しいですよね。利用者の性年代などはどうなっているでしょうか? 高橋 20代が一番多く、次が10代ですね。この2世代で60%ほどを占めます。男女比は、購入で見ると男性がちょっと多いくらいですね。 ――そう考えると、女性も結構多いのですね。 * * *  後編では引き続き秋山氏と高橋氏に「海外のオタクイベントの様子」や、「日本と海外のR-18の違い」などを伺っていく。 (文/石徹白未亜 [http://itoshiromia.com/]) 「Tokyo Otaku Mode」ホームページ https://otakumode.com/

「図書館の選書を理解していない」と、厳しい指摘も……「文庫本の貸し出しやめて」の要望に図書館関係者は唖然

「図書館の選書を理解していない」と、厳しい指摘も……「文庫本の貸し出しやめて」の要望に図書館関係者は唖然の画像1
(イメージ画像 Photo By LWYang from Flickr)
「そんなに文春文庫って買ってたかな……」  昨週開催された「全国図書館大会 東京大会」で、文藝春秋の松井清人社長が行った、図書館に文庫の貸し出しを止めるように求める報告が、さまざまな論議を呼んでいる。  大会前から、各所で話題を呼んだ報告は、大会内の「公共図書館の役割と蔵書、出版文化維持のために」をテーマにした分科会で行われたものだ。報告前に「朝日新聞」などで報じられたこともあってか、分科会の会場は立ち見も出る盛況となった。  発表要旨は大会のサイトで読めるようになっているが(http://jla-conf.info/103th_tokyo/index.php/subcommittee/section21)、松井氏は「確たるデータはないが、近年、文庫を積極的に貸し出す図書館が増えている」として「文庫市場低迷の原因などと言うつもりは毛頭ないが、少なからぬ影響があるのではないか」としている。  確かに、これまでも世間でブームになっている話題の本の購入希望が利用者から殺到。図書館が、それに応えて同じ本を大量購入するところもあり、その是否が問われたりもしていた。しかし、松井氏の報告に対して、図書館関係者からは疑問の声のほうが多い。  中には「文春文庫をそんなに揃えている図書館ってあったっけ……」という声も。 「タイトルによっては、最初から文庫本でしか発行されないものもあります。それを貸し出ししないということは、利用者の目的をゆがめることにもなりかねません。そんなことを、出版文化を担う人間がいってよいのでしょうか」  そう話すのは、広島女学院大学特任准教授の西河内靖泰氏。以前は、荒川区内の図書館にも長く勤務していた西河内氏は、この問題を報じた「朝日新聞」10月12日付の記事(http://www.asahi.com/articles/ASKBC4CTMKBCUCVL00D.html)を取り上げて解説する。  この記事では、出版社側の意見を次のように解説している。 「出版社側の調べでは、文庫本の貸し出し実績を公表していた東京都内の3区1市で、15年度、荒川区は一般書の26%を文庫が占めた。ほかの区市では新書も合わせた統計で2割前後に上った」  これに対する、西河内氏はこうだ。 「確かに荒川区では文庫本の貸し出しが目立ちます。というのも、選書にあたって講談社学術文庫や東洋文庫など、学術的な文庫を多く購入してきた実績があるからです」  また、今年3月に、荒川区では中央図書館の機能を備えた「ゆいの森あらかわ」がオープン。この際に移動させた蔵書もあるため、パッと見で文庫本の蔵書が目立つという指摘も。 「図書館は、文庫本に関しても従来よりバリエーションを持った選書をおこなっているものです。そのことをわかっていないのは迷惑ですね」(西河内氏)  出版不況が常態化した昨今、出版業界が解決策を求めて四苦八苦する中での椿事なのだろうか。 (文=昼間たかし)

「ウェブ再録」の同人誌は売れるのか? 実際に頒布してみた!

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 先にウェブで発表した作品を、後から紙の書籍の形で販売する「ウェブ再録」。同人誌に限らず商業出版でも見かけるが、そういった作品のAmazonレビューを見ると「タダで読めんじゃん。星一つ」など辛口なものも見かける。一方で「手元に形として残しておきたいから再録はうれしい」と言う声もある。そんな意見の割れる「ウェブ再録」に、ある同人作家(私)が初挑戦してみた。 ■二次創作は、「そのジャンルの第一作」に圧倒的に当たりが多い  私は2012年からはオンライン、15年からはオフライン(実際に紙の同人誌を発行する)でも同人活動を行っている。オフラインでは今までに4冊の同人誌を出しているが、これらはすべて書下ろしの「非ウェブ再録」だった。  そもそも、私自身ウェブ再録は好きな同人作家が出したものでも買わない。普段自分がやらないことを人に勧めてはいけないと思うが、それでも今回ウェブ再録に踏み切った理由は、「オンライン(pixiv)で発表してみたら思いのほか自分に大ヒットしたから」に尽きる。 「オンラインで発表してみたら思いのほか大ヒットしたから」ではない。「オンラインで発表してみたら思いのほか『自分に』大ヒットしたから」だ。私が行っているのは二次創作になる。今まで4冊紙の同人誌を出していて、「1冊目」と、「2~4冊」目がそれぞれ別の原作の二次創作になるが、今回の同人誌からはまたジャンルを変える。  二次創作をしている人には死ぬほどわかってもらえると思うが「そのジャンルの一冊目の二次創作の同人誌」というのは、自分が今まで書いたのを見ても、人の作品を読んだ時でも総じて当たりが多い。やはり処女作はパワーに満ちており、「このキャラクターはこうだと思うんですよ、僕ぁ!」という童貞の鼻息の荒さがたまらない。二次創作の場合ジャンルを変えるごとに「処女作(そのジャンルでは)」になるため、一人の同人作家が生涯に何冊も処女作を出せるという、処女なのにクソビッチというミラクルも起こるのだ。  私もジャンルを変えた現ジャンル一発目を書いてオンライン(pixiv)に上げてみたところ、これがいたく自分的に大ヒット、全米が泣いたのだ。しかし、数値は前ジャンルに比べるとpixivでの反響の数値は初動もその後の勢いも振るっていない。pixivの指標の一つ、ブックマーク数は前ジャンルの半分どころか、クオーター程度だ。それでも自分はこの話が好きだからウェブ再録したいと、ほとばしる童貞力で踏み切ることにした。    なお、私は「自分が買う側なら100%のウェブ再録は好きな同人作家でも、年収が3億あってもきっと買わない」ので、自分がこれなら買うレベルで修正と加筆は結構行った。自分的に大ヒット話の加筆修正は相当楽しかったのでお勧めしたい(私は書いているのが小説だから気楽に加筆修正できるのであり、マンガの人なら相当な労力を要するだろうが)。 ■同人やっていてよかったと思う瞬間~神からのブックマーク  ウェブ再録にあたり迷ったのが部数だ。私は今まで4冊の同人誌を出しており、1~3冊目は50部、4冊目は40部刷っている。晴れて2冊目が先日完売したため「50部を1年と少しで完売」が好調時の私のペースだ。ただしこれは「前のジャンルにおいて」であり、ジャンルが変わった今、その情報はさっぱりあてにならない。  pixivの投稿作品やブックマークなどの反響数から現ジャンルの同人人気は前ジャンルほどではないのは分かる。また、twitterでこんなこと呟けば炎上必至だが、「ジャンル内の同人作家としての自分の人気」も部数においては考慮すべきだろう。前ジャンルにいたころ、私のジャンル内でのpixivに投稿した作品のブックマークの集まり具合は「よい方」だった。しかし、現ジャンルでの集まり具合は「ふつう」ぐらいだ。  さらに、部数において考慮すべきは交流の有無だ。私は感想が欲しいくせにオンラインの同人活動はpixivのみで、twitterでの交流は一切していない引きこもり同人だ。理由は「twitterをやっている自分はイケていない」「顔も声も知らない人と交流すると後からヤバいことに気づくことがある」「そもそも自分が欲しいのは交流ではなく作品への感想だった」などが挙げられる。ということでフォロワーさんもおらず、「交流による需要」もない袖は振れない状態だ。  その上ウェブ再録だ。以上、目をこらしても明るい兆しは見えず、「爆死」という言葉が頭をよぎる中、印刷会社には30部で注文した。なお、大抵の印刷会社は20部、10部でも刷れるが、ここまで少部数だと価格は大して変わらない。  なお、「今後このジャンルでどれだけ活動していくか」も部数を決めるにあたって大きな要因だろう。またこのジャンルでイベントに出る予定があるなら、ある程度部数はあった方がいい。しかし現ジャンルは今回の再録の加筆修正を書いたら超すっきりしてしまい、今後も続けていくかは正直微妙だ。そのわりに30部は強気ともいえるが、やっぱりこんないい話書いちゃった以上、10や20部では自分に申し訳が立たないと、結局毎度のパターンで刷ることにした。  この段落と次の段落は自慢になるので舌打ちしながら読むか、薄目で飛ばしていただければと思うが、印刷会社に注文を出したあとイベント用のお品書きを作り、いつもの通りpixivにアップしたところ、「同担で絵もうまければ話もうまい、超絶イケてる二次創作漫画を描く同人作家さん(以下、神)」からお品書きに対しブックマークをもらってしまったのだ。これは同人活動をしている人でないと伝わりにくい感動だと思うが、「庭から石油が噴き出て止まらない」くらいに捉えてもらえれば、おおむね合っている。なお、作品そのものをアップした時はその神からはブックマークはなかったのだ。  マイナージャンルなので、神は単にイベント合わせ(同人用語で、そのイベントに合わせて中的一緒にコスプレをしたり、同人誌を出すことを差す)で同担はおしなべてチェックしていただけかもしれないが、そんなことを確認したところで何になるというのだろう。「神も気に入ってんだ、アタイの話。やっぱりね、アタイも好きなんだ」と鼻の下を人差し指でこすればそれで十分だ。しかし神からブクマをもらった以上、発行部数は30部ではなく300部の間違いだったのではと思ったが、お品書きのトータルのブックマーク数は結局いつも通り一桁で、心の底から追加注文を出さなくてよかったと思い当日を迎えた。  神は通販派の可能性もあるし、私自身、人のお品書きをブクマしたものの買わずに終わるケースはある。よってイベント爆死の可能性はゼロではないものの、神からのブクマである種やりとげたなという思いを抱え、ビッグサイトに向かった。 ■「部数は読めない」&「ジャンルを変えたら前ジャンルは苦戦」  今回のイベントの頒布冊数は以下の通りになった。 【前提条件】 ・同人誌A~Eを制作。全て二次創作。「A」「B~D」「E(新刊)」は元の作品が異なる ・書いているのは漫画でなく小説 ・A~Cは50部、Dは40部、Eは30部刷る ・B~Eを同人誌の販社を通じ通販している(Aも以前はそうしていたが、委託期間が過ぎて今は販売していない。Eは手続き中で販売はまだ始まっていない) 【前回、2017年8月までの頒布冊数】 A 17冊 B 50冊(完売) C 37冊 D 21冊 合計 123冊/190冊 【2017年10月の頒布冊数】 A 17冊 B 50冊(完売) C 38冊(+1) D 22冊(+1) E 11冊(+11) 合計 136冊/220冊 ※実際は印刷会社が何部か注文した分以外の「余部」を渡してくれるが、端数が出るので入れないでカウントしている。  ウェブ再録の新刊(上記における「E」)は、今回のイベントで11冊を頒布できた。今年の春にその前の新刊「D」を初めて頒布したイベントでも頒布冊数は11冊と、蓋を開ければジャンルが変わっても同じだけの数を頒布できたのだ。  現ジャンルはそれまでのジャンルより同人人気は強くなく、ウェブ再録の元となったオンライン上の話のpixivのブックマーク数は前のジャンルの1/4程度なのにだ。今までこの連載では何回か、「完売はわわ(イケると思われる数より全然刷らず、イベント開始1時間程度で完売してしまい、震えるまでの喜びを隠しつつtwitter上でごめんなさい><とつぶやくこと)」をする人をディスってきた。分かっていてやっている不届きな輩には天の裁きが下るだろうという気持ちに変わりはないが、しみじみと部数は読めない。当日、イベント会場から通販の販社へ発送も行ったため手元にはほとんど新刊は残らず、新刊に関しては上々の結果となった。  しかし、ジャンルが変わると前ジャンルの既刊は例えイベントに参加しても、数は一気に動かなくなる。二次創作の同人イベントは「桃太郎は東1ホール」「金太郎は東2ホール」「白雪姫は西1ホール」(例)などジャンルごとに配置されており、私は今回現ジャンルの場所で出たため、なかなか前ジャンルの人には来てもらいにくいのだろう。  ここで問われるのが交流力であり、前のジャンルでイベント参加する人のスペースに自分の本を委託で置かせてもらっている人もいる。これができれば強いが、それに伴う諸々(人づきあい、しかも金銭の授受が発生)が伴う。そもそも私は非交流派なのに自分の本を頒布してほしいだけ人を頼ろうとするなんて、ムシが良すぎて自分の良心が頼む前に割腹自決を選んでしまうだろう。私は飽きっぽくジャンル熱がいつまで続くかわからないので、やはり部数は50部でなく30部でやっていくのがちょうどいいのだろう。  また、前の記事にも書いたが、私の同人活動の力水は読んでいただいた方からいただく感想だ。twitterをやらない分、とっつきにくさはあると思うので「私、感想乞食で~すっ!」とのPRは積極的に行っている。そのせいもあってかイベントでは暖かい感想をいくつか頂けることもできた。11時くらいに「まだ御本があってよかったです」とほっとした笑顔で言われたときは、同人作家冥利に尽きた。来ていただいた方とそんなお話を今回あれこれできたのも楽しかった。 ■同人活動は思いがけない世の中のニーズと、知らない自分の姿をあぶりだしてくれる  今回、ウェブ再録だろうが、そうでなかろうが初動は同じになった現実を受け、しみじみと、自分の当たり前(ウェブ再録は買わない)は人の当たり前と限らないと感じた。  私は以下はやらないが、すべてやっている人をわりとよく見かける。 ①加筆修正のないウェブ再録を出す/購入する ②自分が好きになったジャンル、キャラクターの同人誌は絨毯爆撃で買い占める ③自分で書いた作品を超絶自慢する  ①はすでに触れた。②はイベントでそうしている人をたまに見るが、私自身は好みの二次創作作家が書いたもののみ入手できればよく、そのキャラが出ていれば何でも欲しい!とは全くならない。むしろ、好きな二次創作作家が書いた話だから、あまり原作は知らない別ジャンルの同人誌を買ったこともある。  ③は、私自身もこの原稿で散々自作を持ち上げているので正確にはやっているのだが、ここで言いたいのはtwitterやpixivなどで自作を絶賛しちゃう行為のことだ。そんな人いるのかと思った人もいるかもしれないが、結構いるのだ。男性作家をイメージした人がいるかもしれないが、女性作家でも結構いる。  私は自作が最高に好きだが、pixivで投稿時に絶賛はしない。何も言わずに神作をそっと出すのが最強クールな振る舞いであり、私自身そういう神が好きでかくありたいと思うからだ。しかし、自作を臆面もなく絶賛しちゃうタイプの人はそうまでするだけあって上手い人もいるし、そういう同人作家はファンがつきやすい気がする。口数の少ない控えめな人より、自作をいけしゃあしゃあと語る「俺」な方がカリスマ性は宿りやすいだろう。あまりに堂々と自慢しているのを見ると、なんだこいつと思いつつジュンと来るのも否定できない。「な、なんであんないけ好かない奴のこと気になってんの、私」と、読者を少女漫画の主人公状態にさせる「抱いて力」が半端なく強いのだ。いわゆるボーイズラブ界隈においては「攻め(オス側)」の人材不足が叫ばれ久しいが、描いている側が総攻め様だったりするのだ。  しかし、私とて「神が自分以外の同担をおしなべてブクマしていたらガッカリするから見ないようにした」と先ほど白状しており、「俺だけ見てろよ」と壁ドンをするような“俺様ハート”の持ち主なのだ。しかも相手は神だというから我ながらオス臭がえげつない。自慢しい同人作家が苦手なのは同族嫌悪だったのだ。私も今知ったが、自分とて総攻め様要素があったようだ。  同人活動は自分でも知らなかった自分の一面をあぶりだしてくれる。 (文/石徹白未亜 [http://itoshiromia.com/])

9月25日午後8時、たつき監督はなぜツイートをしたのか──『けものフレンズ』わからなかったこと、そして、わかったこと。

9月25日午後8時、たつき監督はなぜツイートをしたのか──『けものフレンズ』わからなかったこと、そして、わかったこと。の画像1
『けものフレンズ』プロジェクト公式サイト
 大勢の人がドリンクを手にしていた。すでに次の仕事を抱えて、忙しい中で駆けつけた者。まだ、次の仕事で組む相手を探している者。いずれにしても、一つの仕事が大成功に終わったことに、万感の思いはあった。単なる生活の糧を得るための作業だったはず。それが、空前のヒットとなったのは驚きだった。自分が関わったのが、わずかの部分に過ぎないとしても、ボクは、ワタシは、ヤツガレは「アレをやったんですよ」と言えるのは、自慢だった。世の中では注目され、尊敬されるかと思いきや、内実は決して陽の当たることのない職業。「儲かりもしないのに、よくやってるよ」「どうしてそんな仕事を?」口には出さなくても、家族や友人の目が、そんな言葉を語っていることがある。でも、今回ばかりは、そんな想いも吹き飛んだ。作業の最中だって、嫌なことは数え切れないほどあった。でも、作品はヒットした。別に、作品がヒットしたからといって、自分の名前がグンと大きくクレジットされるわけではない。給料だって増えるわけじゃない。でも、作品のヒットは、そうした俗な想いを吹き飛ばしてくれるのだと思った。これから先の人生はわからない。でも、ひとまずは今日は会場に集うみんなと、一つの仕事を終えた感動を共有しよう。誰もが、そんなことを考えていた。  刹那、会場の雰囲気が変わったのは、ひとりの男が入ってきた時だった。その男……作品の立役者の一人であるアニメ制作会社・ヤオヨロズの福原慶匡。プロデューサーとして、箸にも棒にもかからない作品を、成功へと導いた中心的人物の一人。何より、そのきっかけとなった才能を見いだした人物。当然、誰もが駆け寄り、一言挨拶の言葉をかけたかったのは言うまでもない。むしろ、福原のほうが、時間の限りを尽して、スタッフ一人ひとりにねぎらいの言葉をかけて歩く立場だった。そのはずなのに、福原は、どこか声をかけづらい空気を身に纏っていた。それが、大勢の人が詰めかける会場の空気を変えているのだと、勘のよい者は気付いていた。  幾人かが、その見えない壁を乗り越えて、声をかけようと勇気を振り絞った時だった。  福原が、ポケットからスマートフォンを取り出した。着信音をオフにしていたけれども、誰かからの着信だとわかった。  こんな時に電話をかけてくるなんて、間の悪いヤツもいるものだな。勇気を振り絞った者たちは、少し遠巻きに福原の様子を見た。  でも、その見えない壁は、一瞬にして高くなったのもわかった。画面に表示される名前を見て、サッと福原の顔に沈痛の陰がかかったのである。  誰にするとなく会釈して、電話の相手に応答しながら、福原は外に出て行った。そして、そのまま3時間の宴の最中、福原が帰って来ることはなかった。 「たつき監督は、ずっと福原さんに『打ち上げにいかないでくれ』と言っていたそうなんです。でも、プロデューサーが欠席するわけにはいかないと、福原さんが打ち上げの会場に駆けつけたら、たつき監督から電話が掛かってきて……結局、誰も一言も、福原さんと話をすることができなかったんだそうです……」  関係者は、私を前に、そんな風に打ち上げで起こった顛末を語った。あの場にいた者なら、誰もが気付いていたことである。それでも、自分がそんなことを、私に話したのがバレたらどうしよう。そんな一抹の不安を抱えて、落ち着かないようだった。  何度か頷いてから、私は質問を続けた。 「その打ち上げは、何月何日に、どこで……会場は……参加した人数は……」  食らいつくように細部を尋ねた私に、この関係者は一転して態度を変えた。 「いや、それは……。ああ、彼も参加していたから……」  そうして、共通の知人でもある、もっと福原に近しい関係者の名前を挙げた。一文の得にもならないのだから、これ以上話させるな、察しろ。長年、アニメ業界の一角で、華やかな部分と、その何十倍もあるドス黒いものを見てきたことが刻まれた顔が、そんなことを語っていた。  9月25日午後8時の、ひとつのツイート。それが、すべての始まりだった。  私のTwitterのタイムラインでも、このツイートが、幾人ものアカウントを通じて流れてきた。でも、私には何も、驚きも感慨もなかった。なぜなら『けものフレンズ』という作品を、見たことがなかったからである。正確には、放送中の半ばの頃。大勢の人が『けものフレンズ』がいかに素晴らしい作品か力説していた頃に、第1話を見てみた。  いったい、なにが面白いのだろうか。まったくわからなかった。5分ほど見て、そっと画面を閉じた。その後も、夏のコミックマーケットへの、たつき監督の出展など、『けものフレンズ』という作品のムーブメント。「すっごーい」などという言い回しの流行を目にする機会は多かった。けれども、私には、なんら<ひっかかり>を感じなかった。  それは、たつき監督のツイートが騒動となり、あちこちが、その話題に埋め尽くされても同じであった。なるほど、ずいぶんと大勢の人が見ている作品だったのだな……程度に考えていた。<ひっかかり>を感じないのは、今は燃え上がっている話題も、じきに忘れられた話になっていくと思ったからだ。何かの事故調査報告書のように、明確にどこで何があったかが関係者の証言によって明らかになることはない。「御用」が当たり前のアニメ情報誌は、もちろん扱わない。数多のオタクネタを扱うネットニュースは、ネットに転がっている情報を再構成して消費し尽くすだけで終わるのだろうと。  そのはずなのに、私の中で何かの<ひっかかり>ができたのは、翌日のことだった。  翌日の午前中から、電話やLINE、Facebookのメッセンジャーで、さまざまな人が、この話題を振ってきていた。私自身、最近のアニメはさほど見てはいない。けれども、いつの頃からか親しく付き合う業界の関係者は増えた。互いに「ネタ元」であるとか、何か表では語れない問題がある時には、利用できる便利なメディアの関係者という意識もあるかもしれない。でも、そんな利用し合うような関係性であれば、長続きするはずもない。相互に、相手を信用しているからこそ、まだ表には出ていないような情報を交えながら、たわいもない話を繰り返す日常は続いている。この騒動もまた、雑談のような形で、語られていた。 「8月には、もう決まっていたんですけどね」  いつものように、LINEでアレコレと話していた関係者が『けものフレンズ』の話題になった時に、最初に語ったのは、そんな一言だった。まあ、そんなものだろう。みんな本当に『けものフレンズ』の話題が好きだな……。そんな感じで、あまり興味なく「へえ」とか「うむ」とか返事をしていた。でも、打ち上げで起こった顛末が、LINE上に表示された時に、突然、私の<ひっかかり>が、噴出した。インターネットの中で展開する世論は、この騒動の原因を求めて止まなかった。どうして、たつき監督が降板しなくてはならなかったのか。「戦犯」は誰なのか。  KADOKAWAが悪い。いや、ヤオヨロズに問題があった。はたまた、総監督としてクレジットされている吉崎観音が悪い。その間には、多くのノイズもあった。あるアニメ関連企業に所属する人物は、ほかの作品で、KADOKAWAの対応の悪さにイラついたことを語る。ヤオヨロズの親会社であるジャストプロの体質から語り始める者もいた。だが、そんなことは、私にはどうでもいいことだった。私が感じた<ひっかかり>は、ただ一つのことだけだった。  なぜ、たつき監督は、あんなツイートをしてしまったのか。  そのことだけを知りたいと思った。  打ち上げの顛末を聞いた時に、こんな文章が頭に浮かんだ。  ……どうしても、気持ちの整理が出来なかった。なぜ、福原さんは打ち上げに行ってしまったのか。俺の気持ちをわかってくれなかったのか。最初に出会った時の、福原さんの顔が、幾度も浮かんでは消えていった。名刺を渡された時は半信半疑だった。でも、何度か出会い、話をするうちに気持ちは変わっていった。この人は、俺の作品をもっと大勢の人が見てくれる機会を与えてくれる人だ。俺のために、こんなにも時間を割いて、魂を捧げてくれる。だから、俺もその想いに応えたい。そう思って頑張ってきた。そして、俺の心血を注いだ作品は、大ヒットした。自分の人生の大切な時間を刻んで注いだ魂。俺の魂の欠片が溶け込んでいるから、あんなにみんなが賞讃してくれる作品になったんだ。なのに、どこか置いてけぼりな感じがする。もっと、もっと『けものフレンズ』でやりたいことがある。やりたいことが多くて、いつも身体は熱くなってしまう。人生には限られた時間しかない。だから、この熱が冷めてしまわないうちに、1日でも早く、いま、自分の身体の中に渦巻いている熱を作品にしたい。でも、それをしようと思うと待ったがかけられる。福原さんも、そうだ。俺のことを信じて、俺の情熱を愛してくれているはずなのに。「作品がヒットしたのは、俺がいたからでしょう」そんな思い上がったことを言うつもりはない。わかっている。アニメには製作委員会というものがあって、いろんな会社が出資していて……。でも、福原さんは、ヒットすればするほど、グチャグチャになる俺の心を理解して、寄り添っていてくれているのだと信じていたのに。信頼という2文字が、今はとても憎い……。ふと、気がつくと、グチャグチャなまま、スマホの住所録から、福原さんの番号を表示させ、赤い電話のマークを押していた。数回のコール。少し焦った口調で福原さんは電話に出た……。  打ち上げに出席していた関係者。中でも、福原と関係の深い人物。思いあたったのは、打ち上げの顛末を教えてくれた関係者が口にしたのと同じ名前だった。電話をするべきか、メールを送るべきか。逡巡してから、LINEにすることにした。オタク業界の片隅で、真冬でも夏のように熱い情熱を燃やしているこの男。幸いにして彼のほうから、幾つかのメディアの報道について、彼視点での感想を話しかけてきていたからだ。  何か、いろいろと話したいことがあるのに、話せないのか。LINEだというのに、いくつかの長文を送ってきた彼への返事を短文で送った。 「というか、福原さん紹介してください。ちゃんとしたルポを書きましょう」  すぐに返事が来た。 「いやー福原さんめっちゃちゃんとしてたからなぁ。あれをハンドリング不足というのは僕にはできない」  そんなことは、どうでもいいこと。私が知りたいのは、たつき監督の内面の紀行なのだ。そういうことを、何度かに分けて、LINEで読みやすいように、少し文章を短くして送った。はぐらかすようなやりとりが何度か続いて、既読スルーになった。  翌日、別の話題をLINEで話しかけてみると、愉快な返事が来た。既読スルーにしている理由は、明らかだった。  また、取材は行き詰まった。  でも、その間に、もう一人の事情を知っているはずの関係者に思い当たっていた。すぐに、コンタクトを取ってみた。 「おっさんから、一言……勘違いにも、ほどがある」  いつも、資料がパンパンに詰まった鞄を抱えて、あちこちの会社と会議の日々を送っている彼は、私が聞いた限り関係者としては初めて、たつき監督批判を口にした。もちろん、その前に『けものフレンズ』が多くの問題を抱えた作品だったことも、きちんと語ってくれていた。  アニメがヒットするまで『けものフレンズ』は、完全に失敗したコンテンツであった。 「関係者なら知っていますが、もともと『けものフレンズ』は、某社が立案した吉崎観音先生案件だったわけです。でも、ご存じのようにコケにコケまくっていました。ゲームは2016年末で終了してしまうというのに、アニメは2017年……」  製作委員会に出資する各社の分担で、KADOKAWAが版権窓口になっていた。なったものの、実質的な業務など、ほとんどないだろうと思われていた。とりあえず、スケジュール通り、アニメを放送するだけ。あとは、互いに損の少ないように、うまく畳むだけ。だらだらと、どうでもいいような会議も打ち合わせも少ない。でも、顔を合わせる時間が少ないだけに、必要なコミュニケーションも取ることはできていなかった。どうせ、終わるコンテンツなのだから、精緻な座組も必要ではないと思っていた。  なのに作品はヒットしてしまった。それは、天の采配だったのか。たつき監督の才能ゆえだったのか。おそらく、後者による部分は大きかっただろう。ここで不幸だったのは、たつき監督が自由に暴走した果てに、目を見張るような作品を生み出す才能の持ち主だったことだった。コントロール不能。誰も止めることはできない。製作委員会の中には、その才能の裏にある危険が見えていた人も、いたかもしれない。でも、幕を下ろす準備のままに進んでいた座組では、それを止めることはできなかった。 「才能があるのでしたら、周囲に実害が出ない場所で活躍してほしいですね。実害を被るのは、普通の人なので……」  ふと、彼が漏らした言葉に、すべての問題が集約されていると思った。自由に作品をつくることができたのは、たつき監督にとっては、幸運でもあったし不幸でもあったのだと思った。 「なんとか、もっとディテールを知りたいのですが……」  いつも、ルポルタージュが出来上がっていく過程には、先人たちの膨大な作品群がある。今、自分が試している方法論は、それらを現代風に仕立て直したものに、ほかならない。その時、私の脳裏にあったのは、かれこれ50年以上前に「エスクワイア」に掲載された、ゲイ・タリーズの『フランク・シナトラは風邪をひいている。』であった。はるばる西海岸にやってきたのに、シナトラにインタヴューを断られたタリーズ。でも、始まりはそこからだった。タリーズは、シナトラを知る膨大な数の人々に出会い、シナトラの人物像を生き生きと描いた。その偉大な書き手の手法を援用すれば、福原にも、たつき監督にも会えずとも、どうにかなるのではないかと思った。 「やってみましょう」  そして、数日が流れた。まったく芳しくない答えが返ってきた。 「ダメですね。ちょっと話題に出そうしても、みんな口ごもるんですよ。どうも『週刊文春』が動いているみたいで……」  取材は、もう無理だと思った。彼は、こう言葉を続けた。 「ところで、たつき監督にはコンタクトは取りました?」  返事は来ないと思ったけれども、メールだけは送っていた。記事にするかどうかもわからないが、あなたに会ってみたいと記して。当然、返事は来ていなかった。きっと膨大なファン、そして、メディアが送ったであろうメールの中に埋もれているのだろうと思っていた。  ここで一旦取材は諦めることにした。それから数日後、ポツポツと情報を教えてくれた中の幾人かと、なんとはなしに会って飲むことになった。  中央線沿線の駅前にある古ぼけた飲食街。その片隅にある場末感の漂う焼き鳥屋に、私たちは集まった。最近のエロレイヤー事情だとか、口説いている声優の話だとか、その場限りの笑い話で、こわばった身体をほぐしていた。  ふと、隣の席を見た。四人掛けの席の、壁側のほうに一人、引き締まった身体の見栄えだけはいい、30歳くらいの男が座っていた。向かいには、平凡な雰囲気のロングヘアの若い女を挟むようにして、気弱そうな髭面の若い男と、虚勢を張った金髪の、そばかすが目立つ男が座っていた。劇団員か何かだろうかと思った。 「俺さあ、みんな東大とか当たり前に行く高校に通ってたんだよ。俺だけだぜ、大学に行かなかったのは~」  見栄えだけはよい男の自慢話を、窮屈に座った男女3人は、有り難そうに聞いていた。でも、3人が本当に見ているものは、まったく違っているように見えた。女は、見栄えだけいい男から、何かを得ようと虎視眈々と狙っているようだった。髭面は、自慢話を腹の中ではバカにしていた。そして、金髪は、早く帰りたそうにしていた。 「ああ、これだ」  私の中で、たつき監督のツイートに至る光景が浮かんだ。それは、私自身の人生での、痛い思い出とリンクして。  人生論をぶつまでもない。人は誰もが、実力を過信するものだ。とりわけ、努力の結果を成し遂げた時はそうだ。私も、それで幾度か失敗と反省をしている。格段に楽なものとはいえ、倍率の高い試験を突破して東京大学大学院情報学環教育部に入学した時のこと。あるいは過去、ほかの仕事を断ってまで心血を注いだ本を上梓した時のこと。自分の成果を自分で誇り、もっと賞讃されたいと思った時に、他人はそうは思ってくれないものだ。その浮ついた気持ちは、注意されても気づかない。むしろ、思ったように賞讃してくれない周囲には憎しみが募り、真摯な忠告も耳には入らなくなる。それはやがて、悲惨な末路へと至る。失うものなど、ないはずがないのに。すべてを失った気分になって、破壊をしたくなる衝動へと至るのだ。  あの、9月25日の、たつき監督のツイートは、まさにそれだったのだ。  でも、それから僅かな時間の間に、たつき監督は自身の愚かさに気づき、成長したのだろうか。  10月9日の、たつき監督のツイートを見て、そう思った。  黒も白もなく。すべては、人が何かを成し遂げたいという思いゆえのこと。誰かを名指しして、あげつらうことなどできようはずもない。  ただ、いつかは、たつき監督の心の旅路を彼自身の口から聞いてみたいと思っている。 (取材・文=昼間たかし)

9月25日午後8時、たつき監督はなぜツイートをしたのか──『けものフレンズ』わからなかったこと、そして、わかったこと。

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『けものフレンズ』プロジェクト公式サイト
 大勢の人がドリンクを手にしていた。すでに次の仕事を抱えて、忙しい中で駆けつけた者。まだ、次の仕事で組む相手を探している者。いずれにしても、一つの仕事が大成功に終わったことに、万感の思いはあった。単なる生活の糧を得るための作業だったはず。それが、空前のヒットとなったのは驚きだった。自分が関わったのが、わずかの部分に過ぎないとしても、ボクは、ワタシは、ヤツガレは「アレをやったんですよ」と言えるのは、自慢だった。世の中では注目され、尊敬されるかと思いきや、内実は決して陽の当たることのない職業。「儲かりもしないのに、よくやってるよ」「どうしてそんな仕事を?」口には出さなくても、家族や友人の目が、そんな言葉を語っていることがある。でも、今回ばかりは、そんな想いも吹き飛んだ。作業の最中だって、嫌なことは数え切れないほどあった。でも、作品はヒットした。別に、作品がヒットしたからといって、自分の名前がグンと大きくクレジットされるわけではない。給料だって増えるわけじゃない。でも、作品のヒットは、そうした俗な想いを吹き飛ばしてくれるのだと思った。これから先の人生はわからない。でも、ひとまずは今日は会場に集うみんなと、一つの仕事を終えた感動を共有しよう。誰もが、そんなことを考えていた。  刹那、会場の雰囲気が変わったのは、ひとりの男が入ってきた時だった。その男……作品の立役者の一人であるアニメ制作会社・ヤオヨロズの福原慶匡。プロデューサーとして、箸にも棒にもかからない作品を、成功へと導いた中心的人物の一人。何より、そのきっかけとなった才能を見いだした人物。当然、誰もが駆け寄り、一言挨拶の言葉をかけたかったのは言うまでもない。むしろ、福原のほうが、時間の限りを尽して、スタッフ一人ひとりにねぎらいの言葉をかけて歩く立場だった。そのはずなのに、福原は、どこか声をかけづらい空気を身に纏っていた。それが、大勢の人が詰めかける会場の空気を変えているのだと、勘のよい者は気付いていた。  幾人かが、その見えない壁を乗り越えて、声をかけようと勇気を振り絞った時だった。  福原が、ポケットからスマートフォンを取り出した。着信音をオフにしていたけれども、誰かからの着信だとわかった。  こんな時に電話をかけてくるなんて、間の悪いヤツもいるものだな。勇気を振り絞った者たちは、少し遠巻きに福原の様子を見た。  でも、その見えない壁は、一瞬にして高くなったのもわかった。画面に表示される名前を見て、サッと福原の顔に沈痛の陰がかかったのである。  誰にするとなく会釈して、電話の相手に応答しながら、福原は外に出て行った。そして、そのまま3時間の宴の最中、福原が帰って来ることはなかった。 「たつき監督は、ずっと福原さんに『打ち上げにいかないでくれ』と言っていたそうなんです。でも、プロデューサーが欠席するわけにはいかないと、福原さんが打ち上げの会場に駆けつけたら、たつき監督から電話が掛かってきて……結局、誰も一言も、福原さんと話をすることができなかったんだそうです……」  関係者は、私を前に、そんな風に打ち上げで起こった顛末を語った。あの場にいた者なら、誰もが気付いていたことである。それでも、自分がそんなことを、私に話したのがバレたらどうしよう。そんな一抹の不安を抱えて、落ち着かないようだった。  何度か頷いてから、私は質問を続けた。 「その打ち上げは、何月何日に、どこで……会場は……参加した人数は……」  食らいつくように細部を尋ねた私に、この関係者は一転して態度を変えた。 「いや、それは……。ああ、彼も参加していたから……」  そうして、共通の知人でもある、もっと福原に近しい関係者の名前を挙げた。一文の得にもならないのだから、これ以上話させるな、察しろ。長年、アニメ業界の一角で、華やかな部分と、その何十倍もあるドス黒いものを見てきたことが刻まれた顔が、そんなことを語っていた。  9月25日午後8時の、ひとつのツイート。それが、すべての始まりだった。  私のTwitterのタイムラインでも、このツイートが、幾人ものアカウントを通じて流れてきた。でも、私には何も、驚きも感慨もなかった。なぜなら『けものフレンズ』という作品を、見たことがなかったからである。正確には、放送中の半ばの頃。大勢の人が『けものフレンズ』がいかに素晴らしい作品か力説していた頃に、第1話を見てみた。  いったい、なにが面白いのだろうか。まったくわからなかった。5分ほど見て、そっと画面を閉じた。その後も、夏のコミックマーケットへの、たつき監督の出展など、『けものフレンズ』という作品のムーブメント。「すっごーい」などという言い回しの流行を目にする機会は多かった。けれども、私には、なんら<ひっかかり>を感じなかった。  それは、たつき監督のツイートが騒動となり、あちこちが、その話題に埋め尽くされても同じであった。なるほど、ずいぶんと大勢の人が見ている作品だったのだな……程度に考えていた。<ひっかかり>を感じないのは、今は燃え上がっている話題も、じきに忘れられた話になっていくと思ったからだ。何かの事故調査報告書のように、明確にどこで何があったかが関係者の証言によって明らかになることはない。「御用」が当たり前のアニメ情報誌は、もちろん扱わない。数多のオタクネタを扱うネットニュースは、ネットに転がっている情報を再構成して消費し尽くすだけで終わるのだろうと。  そのはずなのに、私の中で何かの<ひっかかり>ができたのは、翌日のことだった。  翌日の午前中から、電話やLINE、Facebookのメッセンジャーで、さまざまな人が、この話題を振ってきていた。私自身、最近のアニメはさほど見てはいない。けれども、いつの頃からか親しく付き合う業界の関係者は増えた。互いに「ネタ元」であるとか、何か表では語れない問題がある時には、利用できる便利なメディアの関係者という意識もあるかもしれない。でも、そんな利用し合うような関係性であれば、長続きするはずもない。相互に、相手を信用しているからこそ、まだ表には出ていないような情報を交えながら、たわいもない話を繰り返す日常は続いている。この騒動もまた、雑談のような形で、語られていた。 「8月には、もう決まっていたんですけどね」  いつものように、LINEでアレコレと話していた関係者が『けものフレンズ』の話題になった時に、最初に語ったのは、そんな一言だった。まあ、そんなものだろう。みんな本当に『けものフレンズ』の話題が好きだな……。そんな感じで、あまり興味なく「へえ」とか「うむ」とか返事をしていた。でも、打ち上げで起こった顛末が、LINE上に表示された時に、突然、私の<ひっかかり>が、噴出した。インターネットの中で展開する世論は、この騒動の原因を求めて止まなかった。どうして、たつき監督が降板しなくてはならなかったのか。「戦犯」は誰なのか。  KADOKAWAが悪い。いや、ヤオヨロズに問題があった。はたまた、総監督としてクレジットされている吉崎観音が悪い。その間には、多くのノイズもあった。あるアニメ関連企業に所属する人物は、ほかの作品で、KADOKAWAの対応の悪さにイラついたことを語る。ヤオヨロズの親会社であるジャストプロの体質から語り始める者もいた。だが、そんなことは、私にはどうでもいいことだった。私が感じた<ひっかかり>は、ただ一つのことだけだった。  なぜ、たつき監督は、あんなツイートをしてしまったのか。  そのことだけを知りたいと思った。  打ち上げの顛末を聞いた時に、こんな文章が頭に浮かんだ。  ……どうしても、気持ちの整理が出来なかった。なぜ、福原さんは打ち上げに行ってしまったのか。俺の気持ちをわかってくれなかったのか。最初に出会った時の、福原さんの顔が、幾度も浮かんでは消えていった。名刺を渡された時は半信半疑だった。でも、何度か出会い、話をするうちに気持ちは変わっていった。この人は、俺の作品をもっと大勢の人が見てくれる機会を与えてくれる人だ。俺のために、こんなにも時間を割いて、魂を捧げてくれる。だから、俺もその想いに応えたい。そう思って頑張ってきた。そして、俺の心血を注いだ作品は、大ヒットした。自分の人生の大切な時間を刻んで注いだ魂。俺の魂の欠片が溶け込んでいるから、あんなにみんなが賞讃してくれる作品になったんだ。なのに、どこか置いてけぼりな感じがする。もっと、もっと『けものフレンズ』でやりたいことがある。やりたいことが多くて、いつも身体は熱くなってしまう。人生には限られた時間しかない。だから、この熱が冷めてしまわないうちに、1日でも早く、いま、自分の身体の中に渦巻いている熱を作品にしたい。でも、それをしようと思うと待ったがかけられる。福原さんも、そうだ。俺のことを信じて、俺の情熱を愛してくれているはずなのに。「作品がヒットしたのは、俺がいたからでしょう」そんな思い上がったことを言うつもりはない。わかっている。アニメには製作委員会というものがあって、いろんな会社が出資していて……。でも、福原さんは、ヒットすればするほど、グチャグチャになる俺の心を理解して、寄り添っていてくれているのだと信じていたのに。信頼という2文字が、今はとても憎い……。ふと、気がつくと、グチャグチャなまま、スマホの住所録から、福原さんの番号を表示させ、赤い電話のマークを押していた。数回のコール。少し焦った口調で福原さんは電話に出た……。  打ち上げに出席していた関係者。中でも、福原と関係の深い人物。思いあたったのは、打ち上げの顛末を教えてくれた関係者が口にしたのと同じ名前だった。電話をするべきか、メールを送るべきか。逡巡してから、LINEにすることにした。オタク業界の片隅で、真冬でも夏のように熱い情熱を燃やしているこの男。幸いにして彼のほうから、幾つかのメディアの報道について、彼視点での感想を話しかけてきていたからだ。  何か、いろいろと話したいことがあるのに、話せないのか。LINEだというのに、いくつかの長文を送ってきた彼への返事を短文で送った。 「というか、福原さん紹介してください。ちゃんとしたルポを書きましょう」  すぐに返事が来た。 「いやー福原さんめっちゃちゃんとしてたからなぁ。あれをハンドリング不足というのは僕にはできない」  そんなことは、どうでもいいこと。私が知りたいのは、たつき監督の内面の紀行なのだ。そういうことを、何度かに分けて、LINEで読みやすいように、少し文章を短くして送った。はぐらかすようなやりとりが何度か続いて、既読スルーになった。  翌日、別の話題をLINEで話しかけてみると、愉快な返事が来た。既読スルーにしている理由は、明らかだった。  また、取材は行き詰まった。  でも、その間に、もう一人の事情を知っているはずの関係者に思い当たっていた。すぐに、コンタクトを取ってみた。 「おっさんから、一言……勘違いにも、ほどがある」  いつも、資料がパンパンに詰まった鞄を抱えて、あちこちの会社と会議の日々を送っている彼は、私が聞いた限り関係者としては初めて、たつき監督批判を口にした。もちろん、その前に『けものフレンズ』が多くの問題を抱えた作品だったことも、きちんと語ってくれていた。  アニメがヒットするまで『けものフレンズ』は、完全に失敗したコンテンツであった。 「関係者なら知っていますが、もともと『けものフレンズ』は、某社が立案した吉崎観音先生案件だったわけです。でも、ご存じのようにコケにコケまくっていました。ゲームは2016年末で終了してしまうというのに、アニメは2017年……」  製作委員会に出資する各社の分担で、KADOKAWAが版権窓口になっていた。なったものの、実質的な業務など、ほとんどないだろうと思われていた。とりあえず、スケジュール通り、アニメを放送するだけ。あとは、互いに損の少ないように、うまく畳むだけ。だらだらと、どうでもいいような会議も打ち合わせも少ない。でも、顔を合わせる時間が少ないだけに、必要なコミュニケーションも取ることはできていなかった。どうせ、終わるコンテンツなのだから、精緻な座組も必要ではないと思っていた。  なのに作品はヒットしてしまった。それは、天の采配だったのか。たつき監督の才能ゆえだったのか。おそらく、後者による部分は大きかっただろう。ここで不幸だったのは、たつき監督が自由に暴走した果てに、目を見張るような作品を生み出す才能の持ち主だったことだった。コントロール不能。誰も止めることはできない。製作委員会の中には、その才能の裏にある危険が見えていた人も、いたかもしれない。でも、幕を下ろす準備のままに進んでいた座組では、それを止めることはできなかった。 「才能があるのでしたら、周囲に実害が出ない場所で活躍してほしいですね。実害を被るのは、普通の人なので……」  ふと、彼が漏らした言葉に、すべての問題が集約されていると思った。自由に作品をつくることができたのは、たつき監督にとっては、幸運でもあったし不幸でもあったのだと思った。 「なんとか、もっとディテールを知りたいのですが……」  いつも、ルポルタージュが出来上がっていく過程には、先人たちの膨大な作品群がある。今、自分が試している方法論は、それらを現代風に仕立て直したものに、ほかならない。その時、私の脳裏にあったのは、かれこれ50年以上前に「エスクワイア」に掲載された、ゲイ・タリーズの『フランク・シナトラは風邪をひいている。』であった。はるばる西海岸にやってきたのに、シナトラにインタヴューを断られたタリーズ。でも、始まりはそこからだった。タリーズは、シナトラを知る膨大な数の人々に出会い、シナトラの人物像を生き生きと描いた。その偉大な書き手の手法を援用すれば、福原にも、たつき監督にも会えずとも、どうにかなるのではないかと思った。 「やってみましょう」  そして、数日が流れた。まったく芳しくない答えが返ってきた。 「ダメですね。ちょっと話題に出そうしても、みんな口ごもるんですよ。どうも『週刊文春』が動いているみたいで……」  取材は、もう無理だと思った。彼は、こう言葉を続けた。 「ところで、たつき監督にはコンタクトは取りました?」  返事は来ないと思ったけれども、メールだけは送っていた。記事にするかどうかもわからないが、あなたに会ってみたいと記して。当然、返事は来ていなかった。きっと膨大なファン、そして、メディアが送ったであろうメールの中に埋もれているのだろうと思っていた。  ここで一旦取材は諦めることにした。それから数日後、ポツポツと情報を教えてくれた中の幾人かと、なんとはなしに会って飲むことになった。  中央線沿線の駅前にある古ぼけた飲食街。その片隅にある場末感の漂う焼き鳥屋に、私たちは集まった。最近のエロレイヤー事情だとか、口説いている声優の話だとか、その場限りの笑い話で、こわばった身体をほぐしていた。  ふと、隣の席を見た。四人掛けの席の、壁側のほうに一人、引き締まった身体の見栄えだけはいい、30歳くらいの男が座っていた。向かいには、平凡な雰囲気のロングヘアの若い女を挟むようにして、気弱そうな髭面の若い男と、虚勢を張った金髪の、そばかすが目立つ男が座っていた。劇団員か何かだろうかと思った。 「俺さあ、みんな東大とか当たり前に行く高校に通ってたんだよ。俺だけだぜ、大学に行かなかったのは~」  見栄えだけはよい男の自慢話を、窮屈に座った男女3人は、有り難そうに聞いていた。でも、3人が本当に見ているものは、まったく違っているように見えた。女は、見栄えだけいい男から、何かを得ようと虎視眈々と狙っているようだった。髭面は、自慢話を腹の中ではバカにしていた。そして、金髪は、早く帰りたそうにしていた。 「ああ、これだ」  私の中で、たつき監督のツイートに至る光景が浮かんだ。それは、私自身の人生での、痛い思い出とリンクして。  人生論をぶつまでもない。人は誰もが、実力を過信するものだ。とりわけ、努力の結果を成し遂げた時はそうだ。私も、それで幾度か失敗と反省をしている。格段に楽なものとはいえ、倍率の高い試験を突破して東京大学大学院情報学環教育部に入学した時のこと。あるいは過去、ほかの仕事を断ってまで心血を注いだ本を上梓した時のこと。自分の成果を自分で誇り、もっと賞讃されたいと思った時に、他人はそうは思ってくれないものだ。その浮ついた気持ちは、注意されても気づかない。むしろ、思ったように賞讃してくれない周囲には憎しみが募り、真摯な忠告も耳には入らなくなる。それはやがて、悲惨な末路へと至る。失うものなど、ないはずがないのに。すべてを失った気分になって、破壊をしたくなる衝動へと至るのだ。  あの、9月25日の、たつき監督のツイートは、まさにそれだったのだ。  でも、それから僅かな時間の間に、たつき監督は自身の愚かさに気づき、成長したのだろうか。  10月9日の、たつき監督のツイートを見て、そう思った。  黒も白もなく。すべては、人が何かを成し遂げたいという思いゆえのこと。誰かを名指しして、あげつらうことなどできようはずもない。  ただ、いつかは、たつき監督の心の旅路を彼自身の口から聞いてみたいと思っている。 (取材・文=昼間たかし)

紙の本にアクセスする機会も増加する? Amazonの「Prime Reading」は便利だと認めよう

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Amazon「Prime Reading」より
 Amazonプライム会員向け新サービス「Prime Reading」の日本での提供が始まり、話題を集めている。  すでに多くの人がプライム会員に登録して、映画やドラマなどの見放題「プライム・ビデオ」を利用しているハズである。映画見放題の時点で「あなどれないサービス」であることを実感した人は多いだろう。  何しろ、最新作だけでなく「見たいとは思っていたけど機会がなかった」とか「もう一度見たいとは思っていた」作品を絶妙に突いてきている。『トラック野郎』シリーズは全作品があるし『男はつらいよ』も投入された。アニメも、見逃した最新作だけでなく『重戦機エルガイム』とか『戦闘メカザブングル』とか、これぞをいう作品をうまーく投入しているのだ。  そこに新たに投入された「Prime Reading」。これ以前から、Amazonは定額読み放題サービス「Kindle Unlimited」を実施している。  現段階では「Prime Reading」は「Kindle Unlimited」に比べると、読むことのできる本の数は少ない。ただ、利用方法にもよるだろうが「Prime Reading」はタダだからと決して手を抜いていない。  とりわけ雑誌は「AERA」(朝日新聞出版)や「DIME」(小学館)などをはじめ「山と渓谷」(山と溪谷社)まで入っていたり。単行本も含め「買うとなると考えるけど、タダなら読んでおこうか」と思わせるラインナップになっているのである。  年間数千円の対価としては、オトク感の強いプライム会員。とはいえ、出版業界に身を置いていると、いまだAmazonに対する忌避感は根強い。地方都市や、街場の書店が減っていくことへの危機感はよく話されるのだが「Amazonが便利!!」という話はまず表立って聞かれない。  先日、出版労連が毎年行っている催し・出版研究集会で講師の一人だった永江朗さんが「毎日、Kindleストアで、その日のバーゲン(割引)本をチェックしている」と話していた。するとなぜか、けっこうな数の人がギョッとした顔をしていた。  決してAmazonが万能かつ聖人君子ばりの企業とはいえない。けれども便利かつ安価なサービスを利用しないばかりで、忌避感だけを抱いているのはどうかと思う。筆者もKindleを利用しているが、万能とは言い難いものの紙の本を持ち歩くよりも軽くて便利である。  おそらく出版業界では、多くの人が「Prime Reading」によって、より本が売れなくなることへの恐怖を抱いているのではなかろうか。けれども、むしろこれによって紙の本に触れる機会も増えるのではないか。  というのは、電子化され読み放題になっているのは一部だけ。同じ作者の作品を読もうと思ったら、有料で紙の本を買うしかなかったりするのだ。そして、クリックだけで本が届くというシステムは、財布からお金を取り出すよりもハードルが低いのも事実。  膨大なまだ見ぬ本にアクセスする機会を提供しているくれるAmazon。それは、書店の店頭での「偶然の出会い」よりも頻度が高い。賛否があろうとも「これは便利だ!!」とサービスに耽溺してみないと、対抗策だって思いつかない。 (文=昼間たかし)

日本最強サラリーマン『島耕作』 その出世遍歴を振り返る

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『課長 島耕作(1)』(講談社)
   突然ですが、みなさんは出世してますか? 僕はしてません。それはともかく、僕らの思い描く、 サラリーマンが「出世」するマンガといえば、やっぱり『島耕作』シリーズですよね?  1983年に「週刊モーニング」(講談社)で連載がスタートした『課長 島耕作』は、派閥にも属さず、自分の信念を貫く、日本一カッコイイ中間管理職を描いたマンガとしてサラリーマンの熱い支持を得てきた作品ですが、約10年間課長を務めた後、ついに部長に昇進、 92年からはタイトルが『部長 島耕作』となります。  その後は中間管理職の象徴ではなく、エグゼクティブコースに乗ったサクセスストーリーマンガとして『取締役 島耕作』『常務 島耕作』『専務 島耕作』『社長 島耕作』と上り詰 め、これで終わりかと思いきや、まさかの『会長 島耕作』がスタートして今に至ります。  さらに、過去の時代への回帰も行われており、『ヤング 島耕作』『ヤング 島耕作 主任編』『係長 島耕作』、そして大学生時代の『学生 島耕作』までさかのぼっています。もはや野口英世や夏目漱石以上に詳細な自伝が描かれ、いつお札に印刷されてもおかしくないレベルなのですが、とにかく派生作品が多すぎるので、これから読む人のために、それぞれのタイトルを島の人生の時系列に沿ってご紹介してみましょう。 ■『学生 島耕作』  早稲田大学を受験するため、山口県岩国市から上京した学生・島耕作。当時、学生運動が盛んだった早稲田で、下見の最中に活動家と間違えられて機動隊にボコられたり、入学後はタコ部屋学生寮の先輩と一緒に風俗に行ってボッタくられたりと、なかなかの青春ド真ん中っぷりです。  ハイライトは、高校時代からのペンフレンドでタレントの卵、三沢淳子との童貞喪失シーンです。道を歩くだけで女が寄ってくるモテの化身・島耕作にも、童貞時代があったというのが驚きですね。てっきり、生まれた直後から非童貞だと思ってました。 ■『ヤング 島耕作』  新入社員の島を描く『ヤング島耕作』。本人の望み通り、大企業・初芝電産に入社できた島が、若さに任せて大ハッスル。  研修として、ハツシバショップで販売実習をすることになる島。そこの従業員が 不用品を不法投棄するシーンを見かけ、正義感が爆発してガツンと言ってやったのはいいが、その報復として実習先での勤務評価を最低ランクにされてしまうピンチに陥ります。  そこへたまたま通りかかったのが、まさかの神、初芝電産の吉原会長。「お前は正しいことを言っている!」と会長の覚えもめでたく、研修後の評価は最高グレードで、見事に希望の宣伝部配属ゲット。やはり島耕作、新入社員の時から「持ってる」男でした。  女関係では、言い寄ってきた同僚をヤッちゃった後に、その女が会社に産業スパイとして潜り込んでいた左翼活動家の女だったことを知ったり、社員寮のルールを破って無断外泊しまくりで上司に呼び出され、開き直って「好きな女とセックスしてました」と堂々と答えたり、若気の至りがあふれ返っているヤング時代なのでした。 ■『ヤング 島耕作 主任編』  ヤングだけど、主任……つまりは、若手のエースとなった島。主任になったために部下ができたのですが、よりによって新しく配属された部下・亀渕雄太郎が、アメリカ帰りの新人類で大物デザイナーの息子という、初芝のお偉いさんも逆らえない、たいそう厄介なヤカラなのです。  アメリカ的個人主義を徹底し、日本企業になじもうとしない亀渕に対し、人情を大事にするニッポンのサラリーマン代表、島が激しく叱責。しかし、亀渕の親のコネが強力で、逆に島が専務に怒られるありさま。  女関係では、島の最初の妻となる岩田怜子が大活躍。『課長 島耕作』では最初っから夫婦関係が冷え切っていて浮気しまくりモードの島ですが、この時代の怜子は島が惚れるのも納得の、実にデキる女です。  レストランでの食事の予約を入れるも、突然の深夜作業でドタキャンしてしまう島。しかし、家に帰ってくると、レストランのフルコース料理をお持ち帰りにして、テーブルにきれいに並べて待っている怜子の姿が。  そして「しょうがないわよ、仕事よりデートを優先する男がいたら、そんな奴逆に信用できないわ」のセリフ。彼氏の仕事に理解のある、実にいい女ですね。 ■『係長 島耕作』  係長になって早々、上司の遠馬課長が末期のすい臓がんであることが発覚。会社の命令により、本人には知らせず奥さんに告知するという、いきなりハイレベルなミッションを課された島。  しかも、入院している課長は課長で、奥さんのいない隙に、行きつけのバーのホステスである愛人を見舞いに来させろという、さらにややこしい指示を出してきます。こんな嫌な業務命令ある?    課長の他界後、愛人の存在に薄々気づいていた奥さんが、その愛人に会わせろと島に詰め寄るという修羅場に陥ります。これぞまさに貧乏くじ。っていうか、明らかに係長の業務のレベルを超えてますよね。 ■『課長 島耕作』  島耕作シリーズの原点が、この『課長 島耕作』です。課長時代の活躍があったからこそ会長にまで出世できたということで、読んでみると、歴代の中でも実は女関係が一番鬼畜なのも、この課長時代といえます。  態度の悪い新人女性社員にガツンと言ってやるべく、晩飯に誘う島。しかし、完全に彼女にペースを握られ、飲んでカラオケに行った後、ラブホにしけ込んで結局ヤッちゃいます。その後、女性社員にガツンと言うどころか、会社や妻にバラされ、家庭を壊されるのではないかとビクビクしていた島でしたが、その女が結婚して辞めることになり、ギリギリセーフだった話とか……。  部長命令で「博通広告賞の大賞をなんとしてでも受賞しろ」というムチャ振りを受け、博通の審査員の男に頼み込んだところ、「スワッピングパーティーに参加することが条件」と言われる島。結局、その男の嫁を抱くハメになったのですが、島の嫁・怜子と大学の同級生だったことが発覚して、大ピンチみたいな話とか……。  行きずりでヤッちゃった女にピンチを救われたり、ヤッた女が実は仕事上のキーマンだったり、みたいなパターンも異常に多く、それがきっかけで社内での評価をガンガン上げていく島。日本のサラリーマンを代表する男にしては、能力が特殊すぎます。 ■『部長 島耕作』  部長以降の島は、無事、怜子との離婚が成立し、独身貴族に。女関係は本命セフレの大町久美子が中心ではありますが、相変わらず女にモテまくりです。  総合宣伝部長の島なのですが、中沢社長の友人が企業乗っ取りの危機に遭っているということで、会社を救うための特命を受けることになります。いわゆるM&A案件です。まったく畑違いの仕事でも、柔軟かつ颯爽と、ビシッとこなす。さすがは仕事がデキる男。その後はフランスに行ってワインの買い付けをしたり、ニューヨークで自分の隠し子を歌手としてプロデュースしたりと、一体なんの部長なんだ……。 ■『取締役 島耕作』『常務 島耕作』『専務 島耕作』  正直、このへんは取締役と常務と専務の時代の違いがよくわからず、ストーリーがごっちゃになりやすいのですが、取締役時代は島の上海進出がテーマになり、常務時代は中国全土を担当するようになり、専務時代には東アジアおよびアメリカ担当ということで、ワールドワイドな展開が続きます。コマ当たりの説明セリフの密度も上がり、文字だらけのシーンが多く、まるでビジネスマンガのようになります(もともとビジネスマンガですが……)。  しかし、肝心の初芝自体は、業績ダダ下がり。カルロス・ゴーンみたいな郡山社長の下、超リストラ断行モードで、ド派手だった課長時代に比べると、冬の時代といった感じ。  女関係はビジネス同様、ワールドワイドに手を広げ、中国人秘書、中華料理店のママ、米国法人の金髪秘書、インドの大物女優などなど、オッサンになってもモテが止まりません。インドの大物女優とのキスシーンをフライデーされて、敵対する副社長派に吊るし上げられたりなど、業績は冬なのに、女関係は相変わらず夏真っ盛りといった感じです。 ■『社長 島耕作』  前社長が憎まれ役を買って出て、大リストラをやってくれたおかげで、会社の膿を出し切り、最高においしいタイミングで社長になった島。  パナソニックが三洋電機を子会社にしたように、初芝電器も五洋電機と経営統合。松下電器がパナソニックになったように、初芝五洋ホールディングスも「テコット」に改名というリアルとシンクロする感じのストーリーがグッときます。  女関係では、社長秘書である和菓子店のお嬢様・南村彩、オヤジ殺しの多田かおり、ヌンチャク使いの神奈川恵子という、仕事がデキるだけでなく一芸に秀でている3人の社長秘書たちが、いかに他を出し抜いて社長の好意をゲットするかという三つ巴バトルや、25年間付かず離れずの関係だったセフレの久美子と、ついに観念して結婚するところなどが見どころです。 ■『会長 島耕作』  巨額の赤字を出した責任を取ってテコットの社長を辞任し、会長に就任した島。今まで、年齢に比して異様なまでの若々しさを保ち、それゆえモテモテだったわけですが、会長編では一気に枯れた感じを醸し出します。  ストーリーとしては、ついに財界の大物デビューを飾った島が、経団連みたいな感じの「経済連」に入ったかと思えば、上層部と考えが合わず、揉めたりします。ビジネスのスケールもいままでよりも大きく、日本の国益がテーマとなり、農業や漁業、さらには日本酒造りなど、予想もしなかった方向に進出します。  また、島の専任秘書として登場した三代稔彦は、カミングアウトしたゲイという設定で、イケメンが出てくるとすぐに口説こうとするなど、やたらとゲイ関連の話が出てくるのも特徴的です。こちらは現在も連載中の作品なので、今後の展開に期待しましょう。 ■この後の展開を予想してみる  ビジネスマンとしての頂点である会長まで上り詰めてしまった島なので、どうしても、その先の役職は限られています。『相談役 島耕作』『名誉会長 島耕作』あたりなら、まだイケますが。もしビジネスマンとしての役職にこだわらなければ、『総理大臣 島耕作』『国連事務総長 島耕作』『老後 島耕作』『遺骨 島耕作』などもイケそうです。  ちなみに、島の再婚相手、久美子のアブノーマルな女子高生時代を描いた読み切り『JK大町久美子』や、島が殺人事件に巻き込まれて探偵になる『島耕作の事件簿』の連載が始まっているので、今後はこのような変化球路線が中心になるという可能性も考えられます。  また、ヤング方面の作品では、大学生時代の『学生 島耕作』に加え、読み切りの『少年 島耕作』で高校時代を消化してしまっているため、残りは『中学生 島耕作』『小学生 島耕作』『園児 島耕作』『幼児 島耕作』『赤子 島耕作』『胎児 島耕作』あたりが考えられます。さらに『君の名は。』とのコラボが実現すれば『前前前世 島耕作』というのもあるかもしれません(ないか……)。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>) 「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから

日本最強サラリーマン『島耕作』 その出世遍歴を振り返る

日本最強サラリーマン『島耕作』 その出世遍歴を振り返るの画像1
『課長 島耕作(1)』(講談社)
   突然ですが、みなさんは出世してますか? 僕はしてません。それはともかく、僕らの思い描く、 サラリーマンが「出世」するマンガといえば、やっぱり『島耕作』シリーズですよね?  1983年に「週刊モーニング」(講談社)で連載がスタートした『課長 島耕作』は、派閥にも属さず、自分の信念を貫く、日本一カッコイイ中間管理職を描いたマンガとしてサラリーマンの熱い支持を得てきた作品ですが、約10年間課長を務めた後、ついに部長に昇進、 92年からはタイトルが『部長 島耕作』となります。  その後は中間管理職の象徴ではなく、エグゼクティブコースに乗ったサクセスストーリーマンガとして『取締役 島耕作』『常務 島耕作』『専務 島耕作』『社長 島耕作』と上り詰 め、これで終わりかと思いきや、まさかの『会長 島耕作』がスタートして今に至ります。  さらに、過去の時代への回帰も行われており、『ヤング 島耕作』『ヤング 島耕作 主任編』『係長 島耕作』、そして大学生時代の『学生 島耕作』までさかのぼっています。もはや野口英世や夏目漱石以上に詳細な自伝が描かれ、いつお札に印刷されてもおかしくないレベルなのですが、とにかく派生作品が多すぎるので、これから読む人のために、それぞれのタイトルを島の人生の時系列に沿ってご紹介してみましょう。 ■『学生 島耕作』  早稲田大学を受験するため、山口県岩国市から上京した学生・島耕作。当時、学生運動が盛んだった早稲田で、下見の最中に活動家と間違えられて機動隊にボコられたり、入学後はタコ部屋学生寮の先輩と一緒に風俗に行ってボッタくられたりと、なかなかの青春ド真ん中っぷりです。  ハイライトは、高校時代からのペンフレンドでタレントの卵、三沢淳子との童貞喪失シーンです。道を歩くだけで女が寄ってくるモテの化身・島耕作にも、童貞時代があったというのが驚きですね。てっきり、生まれた直後から非童貞だと思ってました。 ■『ヤング 島耕作』  新入社員の島を描く『ヤング島耕作』。本人の望み通り、大企業・初芝電産に入社できた島が、若さに任せて大ハッスル。  研修として、ハツシバショップで販売実習をすることになる島。そこの従業員が 不用品を不法投棄するシーンを見かけ、正義感が爆発してガツンと言ってやったのはいいが、その報復として実習先での勤務評価を最低ランクにされてしまうピンチに陥ります。  そこへたまたま通りかかったのが、まさかの神、初芝電産の吉原会長。「お前は正しいことを言っている!」と会長の覚えもめでたく、研修後の評価は最高グレードで、見事に希望の宣伝部配属ゲット。やはり島耕作、新入社員の時から「持ってる」男でした。  女関係では、言い寄ってきた同僚をヤッちゃった後に、その女が会社に産業スパイとして潜り込んでいた左翼活動家の女だったことを知ったり、社員寮のルールを破って無断外泊しまくりで上司に呼び出され、開き直って「好きな女とセックスしてました」と堂々と答えたり、若気の至りがあふれ返っているヤング時代なのでした。 ■『ヤング 島耕作 主任編』  ヤングだけど、主任……つまりは、若手のエースとなった島。主任になったために部下ができたのですが、よりによって新しく配属された部下・亀渕雄太郎が、アメリカ帰りの新人類で大物デザイナーの息子という、初芝のお偉いさんも逆らえない、たいそう厄介なヤカラなのです。  アメリカ的個人主義を徹底し、日本企業になじもうとしない亀渕に対し、人情を大事にするニッポンのサラリーマン代表、島が激しく叱責。しかし、亀渕の親のコネが強力で、逆に島が専務に怒られるありさま。  女関係では、島の最初の妻となる岩田怜子が大活躍。『課長 島耕作』では最初っから夫婦関係が冷え切っていて浮気しまくりモードの島ですが、この時代の怜子は島が惚れるのも納得の、実にデキる女です。  レストランでの食事の予約を入れるも、突然の深夜作業でドタキャンしてしまう島。しかし、家に帰ってくると、レストランのフルコース料理をお持ち帰りにして、テーブルにきれいに並べて待っている怜子の姿が。  そして「しょうがないわよ、仕事よりデートを優先する男がいたら、そんな奴逆に信用できないわ」のセリフ。彼氏の仕事に理解のある、実にいい女ですね。 ■『係長 島耕作』  係長になって早々、上司の遠馬課長が末期のすい臓がんであることが発覚。会社の命令により、本人には知らせず奥さんに告知するという、いきなりハイレベルなミッションを課された島。  しかも、入院している課長は課長で、奥さんのいない隙に、行きつけのバーのホステスである愛人を見舞いに来させろという、さらにややこしい指示を出してきます。こんな嫌な業務命令ある?    課長の他界後、愛人の存在に薄々気づいていた奥さんが、その愛人に会わせろと島に詰め寄るという修羅場に陥ります。これぞまさに貧乏くじ。っていうか、明らかに係長の業務のレベルを超えてますよね。 ■『課長 島耕作』  島耕作シリーズの原点が、この『課長 島耕作』です。課長時代の活躍があったからこそ会長にまで出世できたということで、読んでみると、歴代の中でも実は女関係が一番鬼畜なのも、この課長時代といえます。  態度の悪い新人女性社員にガツンと言ってやるべく、晩飯に誘う島。しかし、完全に彼女にペースを握られ、飲んでカラオケに行った後、ラブホにしけ込んで結局ヤッちゃいます。その後、女性社員にガツンと言うどころか、会社や妻にバラされ、家庭を壊されるのではないかとビクビクしていた島でしたが、その女が結婚して辞めることになり、ギリギリセーフだった話とか……。  部長命令で「博通広告賞の大賞をなんとしてでも受賞しろ」というムチャ振りを受け、博通の審査員の男に頼み込んだところ、「スワッピングパーティーに参加することが条件」と言われる島。結局、その男の嫁を抱くハメになったのですが、島の嫁・怜子と大学の同級生だったことが発覚して、大ピンチみたいな話とか……。  行きずりでヤッちゃった女にピンチを救われたり、ヤッた女が実は仕事上のキーマンだったり、みたいなパターンも異常に多く、それがきっかけで社内での評価をガンガン上げていく島。日本のサラリーマンを代表する男にしては、能力が特殊すぎます。 ■『部長 島耕作』  部長以降の島は、無事、怜子との離婚が成立し、独身貴族に。女関係は本命セフレの大町久美子が中心ではありますが、相変わらず女にモテまくりです。  総合宣伝部長の島なのですが、中沢社長の友人が企業乗っ取りの危機に遭っているということで、会社を救うための特命を受けることになります。いわゆるM&A案件です。まったく畑違いの仕事でも、柔軟かつ颯爽と、ビシッとこなす。さすがは仕事がデキる男。その後はフランスに行ってワインの買い付けをしたり、ニューヨークで自分の隠し子を歌手としてプロデュースしたりと、一体なんの部長なんだ……。 ■『取締役 島耕作』『常務 島耕作』『専務 島耕作』  正直、このへんは取締役と常務と専務の時代の違いがよくわからず、ストーリーがごっちゃになりやすいのですが、取締役時代は島の上海進出がテーマになり、常務時代は中国全土を担当するようになり、専務時代には東アジアおよびアメリカ担当ということで、ワールドワイドな展開が続きます。コマ当たりの説明セリフの密度も上がり、文字だらけのシーンが多く、まるでビジネスマンガのようになります(もともとビジネスマンガですが……)。  しかし、肝心の初芝自体は、業績ダダ下がり。カルロス・ゴーンみたいな郡山社長の下、超リストラ断行モードで、ド派手だった課長時代に比べると、冬の時代といった感じ。  女関係はビジネス同様、ワールドワイドに手を広げ、中国人秘書、中華料理店のママ、米国法人の金髪秘書、インドの大物女優などなど、オッサンになってもモテが止まりません。インドの大物女優とのキスシーンをフライデーされて、敵対する副社長派に吊るし上げられたりなど、業績は冬なのに、女関係は相変わらず夏真っ盛りといった感じです。 ■『社長 島耕作』  前社長が憎まれ役を買って出て、大リストラをやってくれたおかげで、会社の膿を出し切り、最高においしいタイミングで社長になった島。  パナソニックが三洋電機を子会社にしたように、初芝電器も五洋電機と経営統合。松下電器がパナソニックになったように、初芝五洋ホールディングスも「テコット」に改名というリアルとシンクロする感じのストーリーがグッときます。  女関係では、社長秘書である和菓子店のお嬢様・南村彩、オヤジ殺しの多田かおり、ヌンチャク使いの神奈川恵子という、仕事がデキるだけでなく一芸に秀でている3人の社長秘書たちが、いかに他を出し抜いて社長の好意をゲットするかという三つ巴バトルや、25年間付かず離れずの関係だったセフレの久美子と、ついに観念して結婚するところなどが見どころです。 ■『会長 島耕作』  巨額の赤字を出した責任を取ってテコットの社長を辞任し、会長に就任した島。今まで、年齢に比して異様なまでの若々しさを保ち、それゆえモテモテだったわけですが、会長編では一気に枯れた感じを醸し出します。  ストーリーとしては、ついに財界の大物デビューを飾った島が、経団連みたいな感じの「経済連」に入ったかと思えば、上層部と考えが合わず、揉めたりします。ビジネスのスケールもいままでよりも大きく、日本の国益がテーマとなり、農業や漁業、さらには日本酒造りなど、予想もしなかった方向に進出します。  また、島の専任秘書として登場した三代稔彦は、カミングアウトしたゲイという設定で、イケメンが出てくるとすぐに口説こうとするなど、やたらとゲイ関連の話が出てくるのも特徴的です。こちらは現在も連載中の作品なので、今後の展開に期待しましょう。 ■この後の展開を予想してみる  ビジネスマンとしての頂点である会長まで上り詰めてしまった島なので、どうしても、その先の役職は限られています。『相談役 島耕作』『名誉会長 島耕作』あたりなら、まだイケますが。もしビジネスマンとしての役職にこだわらなければ、『総理大臣 島耕作』『国連事務総長 島耕作』『老後 島耕作』『遺骨 島耕作』などもイケそうです。  ちなみに、島の再婚相手、久美子のアブノーマルな女子高生時代を描いた読み切り『JK大町久美子』や、島が殺人事件に巻き込まれて探偵になる『島耕作の事件簿』の連載が始まっているので、今後はこのような変化球路線が中心になるという可能性も考えられます。  また、ヤング方面の作品では、大学生時代の『学生 島耕作』に加え、読み切りの『少年 島耕作』で高校時代を消化してしまっているため、残りは『中学生 島耕作』『小学生 島耕作』『園児 島耕作』『幼児 島耕作』『赤子 島耕作』『胎児 島耕作』あたりが考えられます。さらに『君の名は。』とのコラボが実現すれば『前前前世 島耕作』というのもあるかもしれません(ないか……)。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>) 「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから