行方不明者の捜索番組にヤラセ疑惑、悪徳探偵――“失踪者”と家族を取り巻くキケンな状況

 前編では、「特定非営利活動法人 日本行方不明者捜索・地域安全支援協会(MPS)」の理事長・田原弘氏に、日本の行方不明者の現況や最近SNSで増えている「行方不明者捜索願」投稿に関して意見を伺った。後編では、実際にMPSが携わったケースを紹介しながら、一筋縄ではいかない行方不明捜索の現場に迫る。

(前編はこちら)

■行方不明者のテレビ番組に“ヤラセ”疑惑も

――昔から、行方不明者の情報を募るテレビ番組があります。先日、『緊急!公開大捜索'18春~今夜あなたが解決する!記憶喪失・行方不明スペシャル~』(TBS系)に出演した記憶喪失の男性が、ネット上で「29年前、親が目を離した40秒間のあいだに忽然と姿を消した松岡伸矢くん(当時4歳)ではないか」と大きな話題になり、DNA鑑定を行うということになるなど、影響力の高さを感じました。

田原弘氏(以下、田原) テレビの影響力は大きく、私も何度か公開捜索に関してアドバイスをしたことがあります。ただ、ヤラセのようなケースもあるので、慎重になった方がいい。以前、MPSへ依頼しているご家族がテレビ出演し、霊能力者に行方不明者の居場所を透視してもらったことがあるのですが、鑑定直後に指定された場所へ急行したはずなのに、すでに何台ものカメラがセッティングされていて違和感を覚えたと言っていましたよ。

――テレビでは、探偵会社に協力をあおぐ様子も目にするのですが、個人で依頼するのはどうでしょうか?

田原 それも1つの手ですね。ただ、探偵の中には、高額な料金を請求したうえ捜索をしない業者もいるので、よく吟味する必要があります。以前、探偵会社を利用したという依頼者の方で、300万円近い料金を支払ったにもかかわらず、調査報告書には数十件のパチンコ屋の写真が貼られていただけというケースがありました。また、実際には捜索していないのに、「捜しきれなかったので」と料金の3分の1ほどを依頼者に返して、良心的な業者を装う探偵会社もあります。はじめから料金の3分の2をせしめるつもりの手口です。MPSでは、依頼者の方に、信頼できる探偵会社をご紹介することもしています。

――MPSは“組織力で行方不明者の捜索を支援される”とのことですが、具体的にはどのようなことをされているのですか?

田原 依頼人に対し、情報を集めるためにはどこでどのように尋ねればいいかといった捜索のアドバイスをしたり、発見後に届出を解除するタイミングを助言したり、それから代理人として遺体の身元確認に出向いたこともありますよ。

 またMPSのホームページでは、行方不明者情報を掲載しています。ここで情報を募っているのですが、家出をした人が、インターネットカフェで自分の名前を検索し、このホームページに行き当たって、そこで同じカフェでよく見かける人物が行方不明者として載っていることに気づき、連絡をくれることもあります。

――家族がいなくなってパニックになっている状況の方には心強いですね。

田原 行方不明者の家族というのは大変なんです。例えば、北海道にお住まいの方が、「沖縄で行方不明になった娘さんを見た」という情報が入れると、親御さんは飛行機で沖縄まで飛んでいくんです。しかし、確かに容姿は似ているものの別人だったとわかると、すぐ帰らなければならない。そして、新たに「神奈川で見かけた」という情報が入ると、また飛んでいく――こういったことが続くと、心身ともに疲弊してしまいます。ですのでMPSでは、「本当にこの情報は信頼に値するものなのか?」を吟味し、これというものを、家族の方にお伝えするといったことをしています。

 あと、依頼人の心のケアも活動の1つ。依頼人が1人暮らしの高齢者の場合など、定期的に電話をして、体調を気遣ったりもします。また、なかなか見つからず「占い師に捜してもらおうと思っている」という人の話を聞いて、「それはいくらかかるんですか?」「そうやって実際に見つかった人はいませんよ」と声をかけたり。行方不明者の家族というのは、ついマイナスな発想に陥りがち。そこから鬱などを発症してしまう方もいるので、発見につながった事例を話すなど、プラスに考えられるような声がけも意識して行っています。

――長年見つからないと、捜索を諦めるケースもあるのでしょうか?

田原 行方不明者の家族は、行方不明者の生死がわからないまま7年、震災などに遭遇した可能性がある場合ならその事案から生死不明のまま1年たつと、家庭裁判所に「失踪宣告」を申し立てることができます。また、配偶者の場合には、生死不明の状況が3年続くと、離婚の申し立ても可能です。そのため、1年、3年、7年の区切りで諦める家族もわりといらっしゃいますね。

――失踪宣告に踏み切るのはなぜですか?

田原 長年の捜索で心身ともに疲れ切って諦めてしまう方や、保険金などの関係で申し立てを決断する方など、理由はさまざまです。ただ、失踪宣告後でも発見されれば戸籍を復活できるので、1つの区切りとして申し立てを行う方も多いです。残された家族にも日々の生活とご自身の人生がありますからね。

――これまで実際にサポートされた中で、印象深かったケースを教えてください。

田原 船の客室に身分証やお金などを置いたまま姿を消してしまった男性の件でしょうか。乗船した証拠となるチケットはあるのに、目的地に着いても降りてこず、船中を捜してもどこにもいなかったそうです。航路の途中で海に落ちた可能性もありますが、出航直前に見送り客に紛れて下船した線も有力とされています。事故に遭遇したのか、失踪目的の計画的な行動なのかもわからず、彼自身もいまだ見つかっておりません。ほかにも、調査していくうちに、失踪宣告を悪用した保険金狙いの疑いが濃くなっていった事案や、見つからないように工作していることがわかった事案などもありました。

――MPSの活動を通して、行方不明者についてどのように感じていますか?

田原 どのような理由から行方不明になっていても、残された家族の心配は同じです。「あの時こうしていれば……」など、自責の念に駆られているご家族も本当にたくさんいます。事件や事故の場合はもちろん、たとえ本人の意思で姿をくらましたとしても、1人でも多くの行方不明者が家族の元へ戻れることを常に願っています。
(取材・文=千葉こころ)

特定非営利活動法人 日本行方不明者捜索・地域安全支援協会(MPS)公式サイト

嵐・櫻井翔を「ブス」「ダサい」!! “貶し愛”をするファンの特徴を、臨床心理士が解説

 最近、ネットを中心に話題を呼んでいる深夜アニメ『ポプテピピック』(TOKYO MXなど)。女子中学生・ポプ子とピピ美を主人公に、さまざまな作品のパロディーやブラックユーモアを織り交ぜた、“説明不可能”な物語が展開されていく。そんな同作のファンたちは、こぞって「クソアニメ」と称賛し、ネットで大盛り上がりをしているのだが、ここである疑問がわいてくる。なぜ、自分の愛する作品を「クソ」呼ばわりするのだろうか。

 こうした現象は、アニメ、またアイドル、タレントなどのファン界隈では決して珍しいことではない。例えば、国民的アイドル嵐・櫻井翔の私服姿を「ダサいw」、最近顔回りに肉がついてきたと指摘して「ブスw」などとファン同士が言い合っている様子は、ネット上で散見されている状況だ。こうした、愛するものをネガティブな表現で語ることは「貶し愛」と言われ、近年では愛情表現の1つとして、広く認知されるようになった。

貶す=強い関心を持っている

 しかし、なぜこうした貶し愛が横行するようになったのだろうか。神奈川大学心理相談センター所長、人間科学部教授である臨床心理士の杉山崇氏に、貶し愛の心理や、貶し愛をしがちな人の特徴、またネットとの関連性などについて話を伺った。

「愛情の反対は、嫌悪や憎しみではなく、“無視”なんです。憎しみは、愛情と紙一重で、どちらも対象に強い関心がある。貶すということは、つまり“強い関心を持っている”という表現でもあるわけです。特に、貶すとなると、悪い部分に注目をしていないといけないので、『自分はこれだけ深く注目している』というアピールになります。例えば、男子が好きな女の子に対して、悪口を言うことってありますよね。周りが『あの子って可愛いよね』とチヤホヤしていても、『いや、でもアツイはこういうダメところがある』と言って、『みんなが知らないことを知ってるよ』とアピールするのと同じことです」

 幼い男子特有の心理と思われがちだが、杉山氏いわく「男女問わず、年齢も関係なくあります。パパやママが自分の子どものことを誰かに褒められたりすると、『いやいや、こんなダメなところがあってね』なんてよく言ったりしますが、それもまた『あなたの知らないところを、私は見てるんですよ』という心理であり、ひいては『この子は私のものよ』というアピールの場合もあります」とのこと。

 また、ファンの間での貶し愛には、仲間意識を生む面もあるようだ。確かに、「こういうところが残念」「だよねだよね」と共感を得ることは、ファン交流の醍醐味かもしれない。

「ただし、熱心なファン同士の貶し愛による交流は、興味を持ち始めたファンに嫌な気分や疎外感を覚えさせる面もあるのではないでしょうか。貶し愛をする人たちは、『私だけが知っている』という優越感を持っているので、にわかファンが“撤退していく”ことに、うれしさを覚える……ということはあると思います」

 こうした貶し愛がはやる背景には、対象物であるアニメやアイドル側の戦略も関係しているという。

 例えばAKB48は、「クラスで3~4番目に可愛い子を集める」というコンセプトで、見る者に親近感を抱かせたといわれているが、こうした“完璧ではない面を売りにする”スタイルが、「ファンにツッコミどころを与えるといいますか、『自分はこういうところも見ているぞ』と周りに対して優越感を抱かせやすくなっている。それが貶し愛文化を加速させたとも考えられます。最近ではジャニーズもそうですよね」という。

「アニメに関しても、ファンに評論させる余地を残すことで、ファンをのめり込ませる……という。これは炎上商法とも同じ。いろんな人にツッコませて、のめり込ませて、注目を集め続けるやり方です」

貶し愛をする人は「優越感に浸りたいタイプ」

 では、こうした貶し愛をしがちな人には、どういったタイプが多いのだろうか。杉山氏は「3つのタイプが考えられます」と解説をしてくれた。

「まず、社交性が過剰な人。自分のアピールに周りが反応してくれることで、自分の存在を確認できるタイプで、芸能人に多いんです。次に、優越感に浸りたい人で、男性のアイドルファンに多い傾向なのかもしれません。そして最後が、『自分のものである』という独占欲が強い人。こういうタイプの人は、好きなものに対して、自分以外の者が関心を持っていることを、“虫がたかっている”というふうに受け止めてしまい、殺虫剤感覚で貶し愛を用いるのではないかと考えられます」

 貶し愛をする人自身にも特徴がありそうだが、ことネットでこうした現象が見られるのも、理由があるのだろうか。

「人間は、人と向き合っていると、“人”の顔色をうかがうという脳が刺激されるんです。私はこれを“サルの脳”と呼んでいて、これが刺激されると、『自分は周りからどう見えているか?』という“相手が見ている自分”を気にするようになります。しかしネットをしている時は、自分を見ている人がいません。サルの脳が働かなくなって、人目を気にしなくなると、批判的な書き込みをしてしまうことがあります。ネットで貶し愛が盛り上がるのは、そういった現象と同じような面もあるのかもしれませんね」

 確かに、過度な貶し愛によって、ファン同士のいがみ合いが勃発するケースは珍しくない。さまざまなジャンルはあれど、自分を“熱心なファン”だという人は、貶し愛で同じファンを排除しないように気をつけるべきかもしれない。

SNSで大拡散される“行方不明者”捜索投稿の是非――「慎重に」とプロが警鐘鳴らすワケ

 最近、TwitterやFacebookなどで頻繁に見かけるようになった、個人投稿の「行方不明者捜索願」。「拡散希望」のハッシュタグからは、「一刻も早く見つけたい」という、捜索側の切なる思いが伝わってくる。こういった投稿が増えていることに対し、「日本にはこんなにも日常的に行方不明者が出ているのか」と驚きの声も上がっているが、警察庁発表の「平成28年における行方不明者の状況」によると、日本での行方不明者数は、平成18年以降8万人台でほぼ横ばい、平成26~28年は増加傾向にあるとのこと。

 今回は、行方不明者の捜索を支援する「特定非営利活動法人 日本行方不明者捜索・地域安全支援協会(MPS)」の理事長・田原弘氏に、日本の行方不明者の実態についてインタビューを行い、SNSなどでの捜索願投稿の是非に関しても話を聞いた。

 カウントされない潜在行方不明者

――警察庁の発表では、ここ何年かは、毎年8万人の行方不明者が出ているといいますが、この数字をどのようにご覧になりますか?

田原弘氏(以下、田原) 警察庁発表の数字は、警察に届出された「行方不明者届」が元になっています。そのため、届出されていない行方不明者を含めれば、実際は1.5倍ほどの12~13万人くらいになると思われます。最近、もっとも多いのは、認知症による高齢者の行方不明です。また、若者では、パチンコなどのギャンブルにのめり込んでサラ金での借金がかさむなど、経済的に困窮して失踪するケースが多いですね。

――突然家族がいなくなったら、パニックに陥ると思うのですが、警察に届け出ないケースがあるのはなぜですか?

田原 若者の場合は、離れて暮らす家族が気づいていないことも多々あります。数カ月分の学費や家賃の督促がきて、初めて失踪に気づいたという親御さんも少なくありません。特に近年は、携帯電話の普及により、1人暮らしの家に固定電話を引かなくなったため、失踪に気づくのが遅れるパターンもあります。「大学からこんな知らせが来た」と親が子どもに携帯で伝え、「払い忘れていた。すぐに払う」と言われ、それを信じていると、さらに督促が来る。これはおかしいと思って、子どもの住むアパートに行ってみると、もぬけの殻だったというケースです。

 高齢者の場合、一昔前は身内に認知症患者がいることを恥ずかしく感じている人が多く、届を出せずにいた。警察を介することで近所に知られてしまうことを懸念して、内々で捜すケースが多く見受けられたんです。ただ、最近は世間の認知症への理解が深まり、SNSなどで認知症の家族の捜索願を目にする機会も珍しくなくなったことから、警察へ届け出る家族が増えています。平成26年から増加傾向にあるのも、そのためだと思います。

――「知り合いが行方不明になった」という話はあまり聞いたことがないので、年間10万人以上が行方不明になっているというのはかなり驚きです。

田原 言ってみれば、駅や河川敷などでよく見かけるホームレスの方々も、ほとんどが行方不明者ですからね。これまで私は、社会福祉法人の業務にたずさわるなどして、3,000人以上のホームレスと話をしましたが、家族が状況を承知しているという人は1~2人ほど。ほかは家族に知られないまま、ホームレス生活を送っているんです。それだけ皆さんの身近なところにも、行方不明の当事者がいるということです。

――行方不明者数が減らないのはなぜですか?

田原 100人いれば100通りの事情がありますが、家族が捜しているのをわかっていてもホームレス生活を続けている人が少なくないからでしょう。ホームレスは3日やるとやめられなくなるんですよ。自立支援団体やボランティアなどによる食事提供や就職支援、さらには生活保護の受給などで、働かなくても日々の生活に困らない環境に身を置ける。その上、税金の支払いや家族関係などのしがらみもなく、自由でいられるので、一度その生活を知ってしまうとなかなか抜け出せなくなるようです。

――警察に届け出ていれば、ホームレスであっても警察官が見つけ出したりはしないのでしょうか?

田原 警察に行方不明者届を出すと、詳細な身体的特徴を聞かれます。そのため、家族は「見つけてくれそう」と安心してしまうのですが、実際には、“身元不明の遺体が発見されたときに照合するため”に聞いているんです。成人で事件性のない行方不明者の場合は、届を受理してデータベースに入力するだけで、積極的に捜索するわけではありません。「職務質問をして照合したら、行方不明届が出ていた」などのケースであれば、帰宅を促したり、その場で家族へ連絡して直接話せるようにしたりすることはあるものの、どこまで介入するかは警察官次第。もし発見した行方不明者を無理やり警察署へ連れ帰ったり、帰宅を強要したりすると、自由権の侵害にあたってしまうため、そこまではできないんです。ホームレス生活も、他人の権利や自由を侵害していなければ、自由権が認められますからね。

――警察に届け出さえすれば、捜してくれるものだと思っていました。ただ待っているだけではダメということでしょうか。

田原 はい。なので、警察に届を出すことは大切ですが、家族も積極的に捜索をしなければ、発見率を上げることはできません。

――もし身近な人が行方不明になった場合は、どうしたらいいのでしょうか?

田原 まずは警察に行方不明者届を出し、信頼のおける捜索協力団体などに援助を求めてください。

――最近はSNSで行方不明になった家族の捜索を呼び掛ける投稿をよく目にします。これらの方法をどう思われますか?

田原 多くの人の目に留まるという意味では、有効なこともあるでしょう。ただ、個人の連絡先などを記載すると、いたずら電話をかけられたり、写真から自宅を突き止められたりと、危険な側面も多いです。苦しんでいる家族に嫌がらせなんて……と思うでしょうが、“他人の不幸は蜜の味”なんですね。それに、たとえ連絡先を警察にしたとしても、先ほども言った通り、警察は事件性のない成人の行方不明者を積極的に捜すことはないため、寄せられた全ての情報が家族へ伝わる保証はありません。なので、私どものような捜索協力団体など、代理の連絡先を掲載することをおすすめします。それに、むやみやたらにSNSで情報を集うよりも、本人の行動範囲などを考えた上で、出没しそうな場所をある程度予測し、駅周辺でビラを配るなどした方が発見率は高いと思います。

 あと問題なのは、解決した後のことです。インターネットは完全に情報を削除することが難しいため、無事に発見された後も、捜索願の投稿がネット上を漂ってしまう恐れも。先々のこともよく考えた上で、投稿を判断する必要があります。

――捜索を呼びかける投稿を見る側が注意することはありますか?

田原 個人が投稿する捜索願の中には、家族を偽ったストーカーや借金取り、また、DVから避難したパートナーを捜している加害者本人のケースなどもあります。良心から拡散した結果、犯罪に加担してしまったということもあり得るので、慎重になるべきかと思います。実際にMPSに依頼に来た人の中にも、「怪しい」「借金取りではないか」と感じ、お断りしたことがありましたよ。この時は、「警察には行方不明者届を出していない」というので、「そういう場合は、依頼を受け付けないことになっています」「警察に届出をしてからにしてください」とお伝えしたのですが、SNSではその辺の事情はわからないですからね。

(後編につづく)

性犯罪被害に遭っても証拠が残りにくい? 卑劣な「デートレイプドラッグ」の実態

 昨年、ジャーナリストの女性が過去に元TBSワシントン支局長の男性からデートレイプドラッグの被害を受けたと告発する本が出版されて、大きな話題になった。日本では、まだあまり一般に知られていない「デートレイプドラッグ」。しかし、アメリカでは、国や州単位で対策を進めているというほど深刻な問題となっているようだ。その被害の実態や対処法などを、性暴力救援センター・SARC東京の平川和子理事長に聞いた。

■「デートレイプドラッグ」は、誰でも容易に入手可能

 デートレイプドラッグとは、特定の薬品名を指すわけではなく、相手を性的搾取するために意識や抵抗力を奪い、昏睡状態にさせる薬物のこと。一般的に手に入れることが難しい違法なドラッグとは限らず、市販薬や病院で処方される睡眠薬など、比較的身近な薬もデートレイプドラッグに含まれる。市販されている薬物でも、アルコール飲料に混入するなど悪用のされかた次第で、コップ1杯程度で記憶や意識が飛んでしまうほどの作用があり、危険性は高い。

 警察が昨年度に初めてデートレイプドラッグの被害数を公表したが、その数は年間30件程度。当然ながら、実際には発覚していない事件がたくさんあるのが実情だろう。

 日本でデートレイプドラッグという言葉をよく耳にするようになったのはごく最近だが、手口としては昔からよく知られている話だと、平川氏は指摘する。

「睡眠薬やアルコール度数の高いお酒を飲まされて、記憶を失った隙に強姦被害に遭うというケースは以前からありました。最近になって、ようやくメディアでデートレイプドラッグ被害が大きく報道されるにつれて、その実態が多くの人に知られるようになったのが現状です」

■いつ、どこで、何に薬物が仕込まれるかが、あまりに巧妙

 平川氏が理事長を務めるSARC東京では、性暴力や性被害の相談を、24時間365日受け付けている。同センターのホームページ上でデートレイプドラッグ被害に関する啓発運動を始めてから約半年間で、すでに10数件の相談があり、その多くは20代の若い女性だという。彼女たちは実際、どのようなシチュエーションで、デートレイプドラッグ被害に遭ってしまったのだろうか?

「基本的には、お酒の場です。よくあるのは、大勢で飲んだ後に『2人で飲まない?』と誘われ、その次の場所でお酒に睡眠薬を仕込まれ、知らずに飲んでしまうケース。被害者側の女性も、まさか薬物が入っているとは思いませんから、なかなか気づきにくく、当然こうした薬物の不適切な使用だけでも犯罪です」

 酒以外にも、ソフトドリンクや健康ドリンク、コーヒー牛乳にまで薬物を入れられたり、食べ物に錠剤を砕いたものを振りかけられていたケースもあるという。また、加害者側が2人組もしくはそれ以上の集団で、綿密な計画を立てて実行することもあるそうだ。

「たとえば、バーのマスターと手を組んで、飲み物に睡眠薬を入れるという例もありますし、とにかく巧妙。加害者は、お酒を飲みに行ける関係でありつつ、被害者側の女性よりも上の立場であることが多く、その関係性を利用して卑劣な犯罪行為に及ぶケースが少なくないのです」

 デートレイプドラッグ犯罪は、初対面ではなく、ある程度の顔見知りによる犯行が多く、未然に防ぐことは難しいという。それでも何かできる対策はないのだろうか?

「第一に、怪しいものは飲まない、食べないようにすること。また、トイレから戻ってきたとき、飲み残したものは飲まないことが被害の予防になります。さらに、もしもトイレで被害に遭われたと思われる女性に出会った場合、救急車を呼ぶか、記憶がなくてもレイプ被害の支援を求めることができると伝えてあげてください」

 ただ、いくら気を使っていても、被害に遭ってしまうことはある。さらに、自分では予防したつもりでも、それが防げなかった場合、女性側に落ち度がまったくないにもかかわらず、自分を責める要因にさえなってしまうと、平川氏は指摘する。

 また、もしデートレイプドラッグ被害に遭ったと気づいたら、すぐに対応することが何より重要だという。

「ある時点からの意識がなくなっていて、身に覚えのない性行為による違和感が残っていたりするなど、デートレイプドラッグ被害に遭ったと感じたら、すぐに警察に通報し、採尿や採血を受けるようにしてください。尿や血液から薬物反応が出れば、特定の人物を容疑者とすることができ、性被害の事件化も可能になるかもしれません」

 一方、睡眠薬の場合は、体内から早く排泄され、証拠として残りづらいため、時間がたってしまってからでは、立件が難しくなるケースが多いといわれている。

 もし警察に抵抗があるなら、SARC東京のような民間のサポートセンターに連絡すれば、被害の確認や相談ができる。また、内閣府によれば、2018年2月現在、41都道府県に性被害ワンストップセンターが設置されており、20年までには全都道府県に整備される予定となっているので、以前よりは被害者支援の輪も広がりつつある。

 デートレイプドラッグが現実に存在する。そして、もし被害に遭ったとしても相談できる場所がある。これらを知っておけば、いざというとき、泣き寝入りせずにしっかりと自分の身を守ることにつながっていくだろう。
(福田晃広/清談社)

性暴力救援センターSARC東京

【インタビュー】借金600万円のネクストブレーク芸人・空気階段の“クズっぷり”

 結成6年目のコント師、空気階段。2015年に結成4年目で『キングオブコント』準決勝に進出し、16年、17年とTBSラジオ『マイナビ Laughter Night』チャンピオン大会で2連覇、冠ラジオ『空気階段の踊り場』も持ち、これからの活躍が期待されている。同時に、ボケの鈴木もぐらの「借金600万」というセンセーショナルな肩書きも、メディアで時折取り上げられる、若手屈指の期待株だ。初めてのルミネtheよしもとでの単独ライブを控える2人に、そのクズっぷりを聞いてきた。

――まず、空気階段のことを知らない読者も多いと思うので、自己紹介をしていただけますか?

鈴木もぐら 僕が鈴木もぐらと申しまして、1987年5月13日生まれ、今年で31歳になります。千葉県旭市出身で、非常に申し上げにくいんですが借金の額が600万円です。

水川かたまり 僕が水川かたまりで、1990年7月22日生まれの27歳です。なぜか吉本の公式プロフィールでは1999年生まれになっています。なので公式では18歳です。直してほしいと何度かマネージャーに頼んでいるんですが、そのままです。なぜかはわかりません。岡山県岡山市出身、慶應義塾大学中退です。借金はありません。

――丁寧にありがとうございます。いま自分で言われた通り、もぐらさんの借金額がなかなかたいへんなことになっていて、貧乏すぎる上にギャンブル狂いのクズキャラというところで、ときどきテレビに出られていますよね。最近だと、年末の『人生逆転バトル カイジ』(TBS)に、「もぐら生活から目指せ一生外出券」というキャッチコピーで出演されていました。残念ながら1回戦の鉄骨渡りで敗退されましたが。

もぐら 初めてテレビに出させていただいたのも、『内村とザワつく夜』(TBS/13年6月出演)の貧乏企画でした。

――聞くところによると、大学の学費もギャンブルで勝ったお金で払ったとか。

もぐら そうですね。ギャンブルでお金を貯めて学費を支払いました。でも在学中に法律の改正があって、スロットの規制が入ったんですね。それでまったく勝てなくなってしまい、お金が払えなくて大阪芸術大学を1回生で除籍になりました。その後は大阪でホテヘルの受付をやってたんですが、そこが潰れまして。マットヘルスなんですけどね。どうしようかと思ったら、そこの社長が「お前は心配するな、もう話はつけてあるから、ここの住所に行ってこい」と言われるがままに行った先が、今度はデリヘルの受付で、そこで3年くらい働きました。

かたまり NSC(吉本の養成所)の入学金も、そのデリヘルの社長に払ってもらってるんですよ。

もぐら もともと大阪芸大で落語研究会に入ってまして、芸人になりたかったんです。でも、何しろ入学金の40万円が貯まらない。当時から借金もあったので、NSCのローンも通らないだろうと思いまして。

かたまり NSCってローン組めるんだ。知らなかった。

もぐら 組めるんだよ。その時点でデリヘルの給料も“前々借り”くらいまでいってたんで、いったん返済をストップさせていただいて、お金を貯めさせてもらいました。それで無事40万円確保して東京に行くときに「借金は後から払ってくれればいい」と言っていただいて、今も待っていただいております。

――芸人になるための負債をまだ返してないんですね。一方かたまりさんは、慶應義塾大学を中退してNSCに入学した、と。

かたまり 大学がほんとにつまらなくて、3カ月くらい通って辞めました。それから1年半はゲームやったりラジオ聴いたりして引きこもって、20歳のときにNSCに入りました。両親は「好きなことやれ」って感じだったので、特に反対はされず、NSCの入学金も払ってくれましたね。父も大阪芸大中退で、僕が生まれるまで働いてなくて借金600万円くらいあったらしい人だし、母も高校中退なので。

――大阪芸大中退で借金600万円って、お父さん、ほぼもぐらさんじゃないですか。

もぐら 中退の血筋ってことですね。ちなみにお父さんは松崎しげるさんくらい黒くて、全然似てないです。

かたまり そこまで黒くないけどね。

――空気階段は、NSCの在学中に結成されたんですか?

かたまり 在学中は別のコンビで、卒業間際でどっちも解散したんです。当時はしゃべったこともありませんでした。卒業後はピン芸人でやろうと思ってたんですけど、知らない番号から頻繁に電話がかかってくるようになって。ずっと無視してたら1週間後に「鈴木です、ちょっとお話したいことがあるんですけど」って留守電が入ってました。それで板橋本町のベローチェで会って、「コンビ組みましょう」と。「俺とお前が組んだら絶対化学反応が起きるから」って言われて、こっちもアツくなって「そうか、化学反応が起きるのか」と思って組んだら、2週間くらいで一切ネタに関与しなくなりましたね。

もぐら 僕らの頃は漫才をやりたい人が多くて、コントの人は少なかったんです。あと、同期としゃべってなさそうだったんで、声かけました。僕も全然NSCで人としゃべれなかったんで。

かたまり もぐらの当時の相方とはけっこうしゃべってたんですけど、たしかにほとんど同期とは会話してなかったですね。でももぐらとコンビを組んだ当初は、借金があることも知らされてなくて、だまされた形ですよ。2~3カ月してから「借金が400万あるんだ」って言い出した。

もぐら いや、その頃は300万くらいだったんじゃないかなぁ。

――300でも400でも変わらない気がしますが。

もぐら 借金は、100万超えたら早いんですよ。競艇場のオッサンに「お前なぁ、300万超えたらひとりじゃ返せねぇんだぞ」って説教されたことがあります。

――返済計画はあるんですか?

もぐら ここまでくると、もう一発当てて返すしかないですよね。

――『キングオブコント』で優勝するとか?

もぐら いや、キングオブコントの賞金じゃ足りないですから。そうなるとやっぱり競馬とかですね。

――TBSラジオのネタ番組『マイナビ Laughter Nigh』のチャンピオン大会でも2年連続で優勝して、そこでも賞金はもらってますよね。

もぐら 2016年の優勝賞金は、全部競馬でスりました。

――クズみがすごい……。もぐらさん自身は、クズ呼ばわりされることはどう思ってるんですか?

もぐら そりゃもう、嫌は嫌ですよ。クズって、強い2文字ですから。嫌ですけど、周りからそう見られてしまうのはまぁ……いや、納得いってない部分はありますけど。

――水川さんは、クズだということに自分で納得がいっていないもぐらさんをどう思ってるんですか?

かたまり クズだと思ってますよ。ただ、クズはクズでも、もうちょっと身のこなしをうまいことやってほしい。年末年始に、僕らのラジオ『空気階段の踊り場』に元巨匠の岡野陽一さんがゲストで来てくれたんですよ。岡野さんもクズ扱いされてるけど、岡野さんは人に怒りを抱かせないようにするのが絶妙にうまいんです。自分がへりくだって相手の怒りをしずめるポイントとか。でもこいつは堂々としてて、真っ向から対立しようとしてくるんで、そこに腹が立つ時はあります。僕がいま同期とルームシェアしてるんですけど、もぐらはその同期にポケットWi-Fiを借りてるんですよ。それを毎月4,000円支払う約束なのに、4万円も滞納してて。だから貸してる同期も金がなくて、こないだ晩御飯に「歌舞伎揚」食ってたんです。「なんで『歌舞伎揚』食ってんの?」って聞いたら、「おめーの相方のせいだよ!」って怒られました。それをもぐらに伝えたら、「でもあいつはあいつで、なんでも人のせいにしちゃうところがあるよな」とか言い出して。わかんないですよ、どういう神経してるのか。

もぐら 「10:0」でどっちかが悪いことって、世の中にあんまりないんですよね。僕も自分が正しいとは言ってないんですよ。「10:0」じゃなくて、「1:9」もしくは「2:8」くらいで、そういう部分もあるよね、と。

かたまり いや、「1:9」でお前が「1」のときに、お前は「10」の感じで返してくるから。岡野さんは表面上は謝罪の意思を見せるじゃん。そういうところが違うんだよ。

――コンビでケンカするのは、ネタがどうこうじゃなくて生活面の問題なんですね。

かたまり そうですね、遅刻も多いし。もぐらはケータイを持ってないので、もぐらの彼女に「明日は群馬で営業でして、10時出発予定と本人から聞いておりますので、9時半に起こして10時に家を出させるようにお願いします」とかメールしてるんですよ。

――先生と保護者みたいなやりとり……。今後売れるためにも、そのあたりは心配ですね。

かたまり 何かやらかして逮捕されるんじゃないかっていう心配もあります。

もぐら さすがに警察に捕まることはないですよ。ただ、今度のルミネtheよしもとでの単独ライブを満員にしないと、よしもとの本社の地下に強制労働施設があるらしいので、そこに捕まる可能性はあります。

――何をさせられるんですか?

もぐら 花を植えたりとか……。

(取材・文=斎藤岬)

●空気階段(くうきかいだん)
水川かたまり(1990年生まれ、岡山県出身)と鈴木もぐら(1987年生まれ、千葉県出身)のコンビ。2011年結成。『ラフターナイト』(TBSラジオ)第2回・第3回グランドチャンピオン。TBSラジオにて毎週金曜24:30から『空気階段の踊り場』パーソナリティをつとめている。

■ライブ情報
空気階段単独ライブ「strip」
日時:3月9日(金)19:00開場 19:30開演
会場:ルミネtheよしもと
料金:前売2500円、当日3000円
チケットよしもと、チケットぴあほかにて発売中

【インタビュー】借金600万円のネクストブレーク芸人・空気階段の“クズっぷり”

 結成6年目のコント師、空気階段。2015年に結成4年目で『キングオブコント』準決勝に進出し、16年、17年とTBSラジオ『マイナビ Laughter Night』チャンピオン大会で2連覇、冠ラジオ『空気階段の踊り場』も持ち、これからの活躍が期待されている。同時に、ボケの鈴木もぐらの「借金600万」というセンセーショナルな肩書きも、メディアで時折取り上げられる、若手屈指の期待株だ。初めてのルミネtheよしもとでの単独ライブを控える2人に、そのクズっぷりを聞いてきた。

――まず、空気階段のことを知らない読者も多いと思うので、自己紹介をしていただけますか?

鈴木もぐら 僕が鈴木もぐらと申しまして、1987年5月13日生まれ、今年で31歳になります。千葉県旭市出身で、非常に申し上げにくいんですが借金の額が600万円です。

水川かたまり 僕が水川かたまりで、1990年7月22日生まれの27歳です。なぜか吉本の公式プロフィールでは1999年生まれになっています。なので公式では18歳です。直してほしいと何度かマネージャーに頼んでいるんですが、そのままです。なぜかはわかりません。岡山県岡山市出身、慶應義塾大学中退です。借金はありません。

――丁寧にありがとうございます。いま自分で言われた通り、もぐらさんの借金額がなかなかたいへんなことになっていて、貧乏すぎる上にギャンブル狂いのクズキャラというところで、ときどきテレビに出られていますよね。最近だと、年末の『人生逆転バトル カイジ』(TBS)に、「もぐら生活から目指せ一生外出券」というキャッチコピーで出演されていました。残念ながら1回戦の鉄骨渡りで敗退されましたが。

もぐら 初めてテレビに出させていただいたのも、『内村とザワつく夜』(TBS/13年6月出演)の貧乏企画でした。

――聞くところによると、大学の学費もギャンブルで勝ったお金で払ったとか。

もぐら そうですね。ギャンブルでお金を貯めて学費を支払いました。でも在学中に法律の改正があって、スロットの規制が入ったんですね。それでまったく勝てなくなってしまい、お金が払えなくて大阪芸術大学を1回生で除籍になりました。その後は大阪でホテヘルの受付をやってたんですが、そこが潰れまして。マットヘルスなんですけどね。どうしようかと思ったら、そこの社長が「お前は心配するな、もう話はつけてあるから、ここの住所に行ってこい」と言われるがままに行った先が、今度はデリヘルの受付で、そこで3年くらい働きました。

かたまり NSC(吉本の養成所)の入学金も、そのデリヘルの社長に払ってもらってるんですよ。

もぐら もともと大阪芸大で落語研究会に入ってまして、芸人になりたかったんです。でも、何しろ入学金の40万円が貯まらない。当時から借金もあったので、NSCのローンも通らないだろうと思いまして。

かたまり NSCってローン組めるんだ。知らなかった。

もぐら 組めるんだよ。その時点でデリヘルの給料も“前々借り”くらいまでいってたんで、いったん返済をストップさせていただいて、お金を貯めさせてもらいました。それで無事40万円確保して東京に行くときに「借金は後から払ってくれればいい」と言っていただいて、今も待っていただいております。

――芸人になるための負債をまだ返してないんですね。一方かたまりさんは、慶應義塾大学を中退してNSCに入学した、と。

かたまり 大学がほんとにつまらなくて、3カ月くらい通って辞めました。それから1年半はゲームやったりラジオ聴いたりして引きこもって、20歳のときにNSCに入りました。両親は「好きなことやれ」って感じだったので、特に反対はされず、NSCの入学金も払ってくれましたね。父も大阪芸大中退で、僕が生まれるまで働いてなくて借金600万円くらいあったらしい人だし、母も高校中退なので。

――大阪芸大中退で借金600万円って、お父さん、ほぼもぐらさんじゃないですか。

もぐら 中退の血筋ってことですね。ちなみにお父さんは松崎しげるさんくらい黒くて、全然似てないです。

かたまり そこまで黒くないけどね。

――空気階段は、NSCの在学中に結成されたんですか?

かたまり 在学中は別のコンビで、卒業間際でどっちも解散したんです。当時はしゃべったこともありませんでした。卒業後はピン芸人でやろうと思ってたんですけど、知らない番号から頻繁に電話がかかってくるようになって。ずっと無視してたら1週間後に「鈴木です、ちょっとお話したいことがあるんですけど」って留守電が入ってました。それで板橋本町のベローチェで会って、「コンビ組みましょう」と。「俺とお前が組んだら絶対化学反応が起きるから」って言われて、こっちもアツくなって「そうか、化学反応が起きるのか」と思って組んだら、2週間くらいで一切ネタに関与しなくなりましたね。

もぐら 僕らの頃は漫才をやりたい人が多くて、コントの人は少なかったんです。あと、同期としゃべってなさそうだったんで、声かけました。僕も全然NSCで人としゃべれなかったんで。

かたまり もぐらの当時の相方とはけっこうしゃべってたんですけど、たしかにほとんど同期とは会話してなかったですね。でももぐらとコンビを組んだ当初は、借金があることも知らされてなくて、だまされた形ですよ。2~3カ月してから「借金が400万あるんだ」って言い出した。

もぐら いや、その頃は300万くらいだったんじゃないかなぁ。

――300でも400でも変わらない気がしますが。

もぐら 借金は、100万超えたら早いんですよ。競艇場のオッサンに「お前なぁ、300万超えたらひとりじゃ返せねぇんだぞ」って説教されたことがあります。

――返済計画はあるんですか?

もぐら ここまでくると、もう一発当てて返すしかないですよね。

――『キングオブコント』で優勝するとか?

もぐら いや、キングオブコントの賞金じゃ足りないですから。そうなるとやっぱり競馬とかですね。

――TBSラジオのネタ番組『マイナビ Laughter Nigh』のチャンピオン大会でも2年連続で優勝して、そこでも賞金はもらってますよね。

もぐら 2016年の優勝賞金は、全部競馬でスりました。

――クズみがすごい……。もぐらさん自身は、クズ呼ばわりされることはどう思ってるんですか?

もぐら そりゃもう、嫌は嫌ですよ。クズって、強い2文字ですから。嫌ですけど、周りからそう見られてしまうのはまぁ……いや、納得いってない部分はありますけど。

――水川さんは、クズだということに自分で納得がいっていないもぐらさんをどう思ってるんですか?

かたまり クズだと思ってますよ。ただ、クズはクズでも、もうちょっと身のこなしをうまいことやってほしい。年末年始に、僕らのラジオ『空気階段の踊り場』に元巨匠の岡野陽一さんがゲストで来てくれたんですよ。岡野さんもクズ扱いされてるけど、岡野さんは人に怒りを抱かせないようにするのが絶妙にうまいんです。自分がへりくだって相手の怒りをしずめるポイントとか。でもこいつは堂々としてて、真っ向から対立しようとしてくるんで、そこに腹が立つ時はあります。僕がいま同期とルームシェアしてるんですけど、もぐらはその同期にポケットWi-Fiを借りてるんですよ。それを毎月4,000円支払う約束なのに、4万円も滞納してて。だから貸してる同期も金がなくて、こないだ晩御飯に「歌舞伎揚」食ってたんです。「なんで『歌舞伎揚』食ってんの?」って聞いたら、「おめーの相方のせいだよ!」って怒られました。それをもぐらに伝えたら、「でもあいつはあいつで、なんでも人のせいにしちゃうところがあるよな」とか言い出して。わかんないですよ、どういう神経してるのか。

もぐら 「10:0」でどっちかが悪いことって、世の中にあんまりないんですよね。僕も自分が正しいとは言ってないんですよ。「10:0」じゃなくて、「1:9」もしくは「2:8」くらいで、そういう部分もあるよね、と。

かたまり いや、「1:9」でお前が「1」のときに、お前は「10」の感じで返してくるから。岡野さんは表面上は謝罪の意思を見せるじゃん。そういうところが違うんだよ。

――コンビでケンカするのは、ネタがどうこうじゃなくて生活面の問題なんですね。

かたまり そうですね、遅刻も多いし。もぐらはケータイを持ってないので、もぐらの彼女に「明日は群馬で営業でして、10時出発予定と本人から聞いておりますので、9時半に起こして10時に家を出させるようにお願いします」とかメールしてるんですよ。

――先生と保護者みたいなやりとり……。今後売れるためにも、そのあたりは心配ですね。

かたまり 何かやらかして逮捕されるんじゃないかっていう心配もあります。

もぐら さすがに警察に捕まることはないですよ。ただ、今度のルミネtheよしもとでの単独ライブを満員にしないと、よしもとの本社の地下に強制労働施設があるらしいので、そこに捕まる可能性はあります。

――何をさせられるんですか?

もぐら 花を植えたりとか……。

(取材・文=斎藤岬)

●空気階段(くうきかいだん)
水川かたまり(1990年生まれ、岡山県出身)と鈴木もぐら(1987年生まれ、千葉県出身)のコンビ。2011年結成。『ラフターナイト』(TBSラジオ)第2回・第3回グランドチャンピオン。TBSラジオにて毎週金曜24:30から『空気階段の踊り場』パーソナリティをつとめている。

■ライブ情報
空気階段単独ライブ「strip」
日時:3月9日(金)19:00開場 19:30開演
会場:ルミネtheよしもと
料金:前売2500円、当日3000円
チケットよしもと、チケットぴあほかにて発売中

「精子だけください」――夫にセックスを拒まれて土下座した“私”が、救われた言葉とは

 「セックスレス問題」を赤裸々に綴った内容だとして、現在Twitterを中心に話題沸騰中のコミックエッセイ『今日も拒まれてます 〜セックスレス・ハラスメント 嫁日記〜』。著者・ポレポレ美さんが、実際の体験を元に描いた作品だ。

 内容は、9年間交際した彼氏と結婚したポレ美が、セックスレスに悩む日々を送るというもの。ポレ美はあの手この手でセックスレスを解消しようと奮闘するが、夫との関係は悪くなるばかり。周囲からの子作りプレッシャーもあり、追いつめられたポレ美はとうとうノイローゼ状態になってしまう。誰しも起こりうる夫婦間の切実な問題を描く本作に、共感を覚える読者は多い。

 本作の著者・ポレポレ美さんへのインタビュー、後編は作品へのモチベーションや反響について感じていることを語っていただきます。

(前編はこちら:「萎えるのは君のせいだよ」――“セックスしない嫌がらせ”に耐える「レスハラ」の実情とは

 

――夫の山木さんは、基本的に“自分のほうが立場が上”といったポジションで話しているように感じます。さらにポレ美さんが「セックスをしてください」と頼む土下座の場面で、完全に山木さんのほうが優位だという関係ができてしまったのかな、と。

ポレポレ美氏(以下、ポレ美) そうだと思います。そこから明らかに変わってしまった感じが、夫婦の中ではありまして。土下座は象徴的で、私の中でもすごく印象深いという言い方は変なのですが、心のなかにずっと残っている出来事です。「それをしたらおしまい」だったのですが、それをせざるを得ない状況になってしまって。そこから、私の立場が一気に弱くなってしまいました。

 

 土下座事件のあと、ポレ美夫婦は夫の両親や姉夫婦と一緒に家族旅行に出かける。気が沈むばかりのポレ美だったが、なんとか気持ちを切り替え、平常を装っていた。そんな中、義理の父に子作りについて質問される場面が。思わず本当のことを話しそうになるポレ美だったが、その気配を察した夫が「積極的に妊活している」と嘘をつく。2人きりになった時に、なぜあんなデタラメを言ったのかと問うたポレ美に、夫は「なぜ僕を怒るの」「ポレちゃんを守ろうとしただけ」だと返す。思わず黙りこんだポレ美に対し、夫はさらに「じゃあ聞くけど、どっちが悪い?」「ポレちゃんを守ろうとした僕と、家族の前で本当のことを言おうとしたポレちゃん、どっちが悪いかな?」と責めはじめる。その勢いに気圧されたポレ美が「悪いのは私だね、ごめんなさい」と謝ると、夫は「分かってくれたらいいんだ」と満足気な顔を浮かべる。釈然としない思いを抱き続けていたポレ美は、だんだんと精神を病んでいき、うつ病の診断を下されてしまうのだった。

――山木さんは、すべての責任をポレ美さんに負わせて、先回りして封じ込めるようなやり方をされていますよね。ポレ美さんが正しい判断ができない人間だ、と決めつけている節があります。これは一般的に“モラハラ”ともいえる要素かなと。

ポレ美 そうかもしれません。何を言っても言い負かされるみたいな……。

――この作品を描こうと思ったのは、問題提起として世に伝えたいという気持ちがあったのでしょうか。

ポレ美 はい。いまのところ解決方法を示してあげられる漫画ではないのですけれど、セックスレスで悩んでる人が「私だけじゃない」と思ってもらえればと。手助け、なんて言い方は偉そうですが、ちょっとでも読んでくださった方の心が晴れたらいいなと思っています。

――2月半ばの連載段階では、置き手紙をして山木さんの元を去るなど、不穏な気配を感じさせる展開になってきました。かなり身を削って描いていらっしゃるのでは、と思いますが。

 

ポレ美 そうですね(笑)。当時の日記などを読み返しながら描いているのですが、当時の気持ちを思い出してつらい気持ちになることもあります。ですが、描くことで気持ちの整理はついていきます。当時こういうことで悩んでいたけれど、こうすればよかったんだな、と俯瞰して見ることができるのは、面白い体験です。

――まだまだ今後、波乱がありそうな感じですね?

ポレ美 はい、まだまだこれから、大きく話が動いていきます。自分の気持ちに嘘をつきたくなくて、丁寧に描いていこうとすると、どうしても描写が長くなってしまったりするのですが。

――その分、読者側も主人公の気持ちに寄り添って読むことができます。現在、漫画の中のポレ美さんと同じような体験をしている人に言えることがあれば、教えて下さい。

ポレ美 「同じ体験をしている」という読者の方から、悩みを吐露するメールをいただくこともあるのですが、私もすごく気持ちがわかる。誰にも相談できないまま、行動や思考が負のスパイラルに陥ってしまう、根が真面目な方が多いように感じています。だからこそ、読んでもらうことで少しでも楽になってもらえたらありがたいです。「ポレ美」を客観的に見てもらうことで、あんまり悩みすぎなくてもいいのかな、と思ってもらえたら。

――ポレ美さんも漫画の中で、実の妹さんに「頑張らなくてもいい」と言われていましたね。

ポレ美 そうなんです。あのセリフはやっぱりうれしくて。それまでいろんな人から「頑張れ」と言われ続けてきたのですが、自分の中では十分頑張ってるし、でも期待に応えられなくてつらいというのがありまして。そんな中でも、救いの言葉がひとつあるだけで、お守り代わりになりますから。自分の漫画が、そういう“救い”になってくれればいいなと思います。

――自分のつらい状態に名前がつくと「私、今こういう状況なんだ」って安心することがありますよね。カテゴライズの効果といいますか。ポレ美さんが、読者の方に安心してほしいと仰ってましたが、今回、作品で提示された「セックスレス・ハラスメント」という言葉、そして描写されているポレ美さんの経験を作中で追体験できることは、多くの読者に安心を与えると思います。

ポレ美 そうあってくれると、とてもうれしいです!!

(犬塚左恵)

画像提供:まんがアプリ「Vコミ

 

ポレポレ美(ぽれ・ぽれみ)
イラストレーター、漫画家。趣味は旅と掃除。
自身の体験を綴ったエッセイ漫画「今日も拒まれてます」を
漫画アプリ・Vコミにて連載中。

 

「萎えるのは君のせいだよ」――“セックスしない嫌がらせ”に耐える「レスハラ」の実情とは

 「セックスレス問題」を赤裸々に綴った内容だとして、現在Twitterを中心に話題沸騰中のコミックエッセイ『今日も拒まれてます 〜セックスレス・ハラスメント 嫁日記〜』。著者・ポレポレ美さんが、実際の体験を元に描いた作品だ。

 内容は、9年間交際した彼氏と結婚したポレ美が、セックスレスに悩む日々を送るというもの。ポレ美はあの手この手でセックスレスを解消しようと奮闘するが、夫との関係は悪くなるばかり。周囲からの子作りプレッシャーもあり、追いつめられたポレ美はとうとうノイローゼ状態になってしまう。誰しも起こりうる夫婦間の切実な問題を描く本作に、共感を覚える読者は多い。

――凄まじいですね、漫画の内容。Twitterなどを見ていても、反響がすごいです。

ポレポレ美氏(以下、ポレ美) ありがとうございます。最近は、反応が怖くてTwitterをあまり見てないんですが。反響があるならうれしいです。

――セックスレスになった男性からの意見で、セックスの目的がお互いへの愛情より子作りに変化するのがつらい、というものはありますよね。でも、それを差し引いても、ポレ美さんの夫・山木さんの言動は度を超えているな、と思いました。

ポレ美 そうですよね。もう少し、真摯に向き合ってほしかったなと今でも感じています。

――あらためて、ひどかったと感じるのはどの部分ですか?

ポレ美 言動ではないのですが、言い合いしてる時の夫の表情が、一線を超える冷たさだったのは印象深いです。本当に、漫画に描いたような能面の顔になるんですよね。心底、私とセックスしたくないんだなっていうのを感じてつらかったです。言葉よりも表情のほうが饒舌といいますか。

 作品の前半では、ポレ美が「セックスチケット」を作ってみたり、夫がEDかどうか確かめるために、寝ている夫のイチモツに切手シートを巻いて朝勃ちしているかどうか確認するなど、コミカルな展開が続く。しかし、トラブルも起きてしまう。ポレ美が男友達にセックスレスの相談をしたら、欲求不満扱いされてラブホテルに連れ込まれそうになるというエピソードがあるのだ。

――セックスレス・ハラスメントって、妻と夫、2人の間だけの話に捉えてしまいがちですが、セックスレスに悩んでいる人に対する“嫌がらせ”という意味では「周囲からぶつけられる偏見」も入ってきますよね。セックスレスで悩んでる女の人に対して「溜まってるんでしょ?」と、ただの欲求不満と茶化してみせたり。

ポレ美 男友達に誘われた話も、実際に起こったことなんですが、こっちがすごく悩みを抱えていて、男性の意見を聞いてみたくて相談したら、最終的に「いいじゃん、しようよ」みたいになって。ほんと、何なんだろうって。

――この“セックスレス・ハラスメント”をサブタイトルに選んだ理由というのは?

ポレ美 メインタイトルの『今日も拒まれてます』は私が考えたんですが、サブタイトルは編集さんがつけてくれました。根深いテーマだから、この言葉はどうだろうって。今振り返ると、とても内容に合っているのかな、という気はしています。

 セックスレスで悩んでいたポレ美は、徐々に妊娠を意識するようになり、物語は妊活に突入。張り切って妊活に臨むものの、肝心のセックスには至らず、焦りを感じていた。そんな中、実妹の妊娠を知り複雑な心境に。さらには子宮に異状が見つかり、妊娠するなら早いほうがいいと医者から忠告を受けてしまう。そこに義母が上京し、夫の姉も第三子を妊娠した事実を告げる。ポレ美がなぜそのことを黙っていたのかと夫を詰問すると、夫は「言って何か得があるの?」「言ったところでどうせ責められるだけでしょ」と、冷たい顔で言い放つのだった。

――実妹さんと義姉さんの妊娠あたりから、互いの両親からの「子どもはまだ?」という重圧や、夫・山木さんの冷たい言動によるショックで、物語は不穏な空気を醸し始めます。当時のポレ美さんには「子どもを作らなければ」という強迫観念に支配されていたところがあったのではないでしょうか。

ポレ美 そう! すごくあったと思います。今思うと、追いつめられて冷静さを欠いていたなと感じていて。どっちの両親も、わりと口に出すタイプの人でしたから。うちの両親は、向こうの両親に悪いから子どもを早く作ったほうがいいんじゃないか、という意見で。向こうの両親は、なんで新婚のあなたたちにできなくて、お姉ちゃんのほうに3人目ができるの? と無邪気に聞いてくる感じでした。

――無邪気な感じで聞かれるのも、つらいですよね。

ポレ美 何の悪気もないですもんね。でも、それのせいで追いつめられてしまって。だんだん、“夫と仲良くなりたいから”セックスしたいんじゃなくて、“子どもを作らなきゃ”という焦りが大きくなってしまいました……。

追いつめられたポレ美は、とうとう衝撃的な行動に出る。「お願いします、私とセックスしてください」と土下座してしまうのだ。しかし、それほどまでに追い詰められた妻を見た夫が放った言葉は「セックスってさ……土下座されてするものじゃないでしょ」「そんなことされると萎えちゃうよ」だったのだ。

――土下座するくらい妻が追いつめられるのは、よほどのことじゃないですか。それを「萎えちゃうよ」とリアクションする思いやりゼロの言動は、本人がいくらそんなつもりではなかったと言ってもハラスメントなのでは、と私は感じました。ポレ美さんが「これはハラスメントと言ってもいいのでは」と感じた瞬間というのは?

ポレ美 やはり、土下座のシーンです。「萎えちゃう」という言葉や表情とか。その後に、じゃあもう1人で妊活をしようと決心し「精子だけください」という言葉を投げかける場面があるのですが。この言葉は相当屈辱的なセリフで、本当はその前に問題解決がしたかった。こんな言葉をパートナーが発してしまうくらい追いつめてしまうのも、ハラスメントと言えるのではないかと思っています。

――たしかに「精子だけください」はつらいセリフです。

ポレ美 うまく言えないのですが、女性としての人格を否定されているような悲しさや虚しさを感じたんです。あのセリフを言った時は本当に切羽詰まっている状況でして。周りがみんな子どもができている、というどん詰まりのところで、どうしてもハラスメントだと感じやすかったというのもあると思うのですが。

後編につづく)

BLが廃れるときは来るのか? 溝口彰子氏が語る「イケメン同士の恋愛」を描く先にあるもの

 BL(ビーエル)とは「ボーイズラブ(Boys’ Love)」の略で男性同士の恋愛を軸とした物語ジャンルだ。作者も読者もほぼ100%女性で、サイゾーウーマンの女性読者なら一度は読んだことがある人も多いだろう。

 あまり詳しくない人からすると、BLといえば、学園モノでイケメン同士の恋愛関係の物語を想像しがちだが、最近では単に男同士のロマンスというだけではなく、現実でも実現していないような、ゲイに寛容な社会を描く作品も目立ってきているという。そのような、性の多様性がさらに広がった将来の日本社会を先進的に描いているともいえるBLの、時代による変化や未来の可能性ついて、『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』(太田出版)『BL進化論[対話篇] ボーイズラブが生まれる場所』(宙出版)の著者でBL研究家の溝口彰子氏に聞いた。

■従来のBLとは違う「進化形BL」とは

 1990年代、商業的にも大きく盛り上がりを見せたといわれるBL。しかし、当時は現代よりも同性愛者に対する偏見が強く、そうした社会を反映した作品が多かったと、溝口氏は分析する。

「90年代のBL作品の多くは、男性同士の恋愛やセックスを描きながらも、『俺はホモなんかじゃない。お前が好きなだけだ』とホモフォビア(同性愛嫌悪)的なセリフを言うキャラクターが登場していました。当時は今以上に同性愛者に対する偏見や差別も強かった時代ですが、BL作家や読者がそれを疑問視せず、BLの男性キャラを実際のゲイとは違うものと規定していたんですよね。しかし、それでもまだ現実社会やゲイ雑誌よりもBLの方が男性同性愛を明るく描くことが多かった」

 当時は、今ではよく聞く性的マイノリティを指す「LGBT」といった言葉もなく、友達や家族など周囲の人たちにも打ち明けられず悩む当事者がほとんどだった。そのため、BL愛好家女性たちはゲイの現実を知らないまま、架空の美男キャラを描いたり読んだりしていた。それは、自分たちが女性であることで生じる家父長制からの抑圧をはじめとした、現実から逃避するためだったという。しかし、2000年代を迎えると、これまでとは違った新たな作風の作品が増えてきたそうだ。

「2000年代には、同性愛者である主人公たちの幸福を願う作家たちの想像力によって、まだ実現されていないゲイ・フレンドリーな人々や社会が描かれる作品群が出てきます。それらの作品の中では、同性愛者のセクシュアリティを否定、揶揄することが受け入れられない社会が到来しているのです」

 性の多様性の実現とジェンダー格差の解消に向かうヒントを与えてくれるBL作品を、溝口氏は「進化形BL」と名付けた。実社会よりも性の多様性に寛容な社会、いわば進化を先取りした世界が描かれている、というわけだ。

 「進化形BL」は、性の多様性に寛容な社会を描くだけでなく、当事者であるゲイが抑圧されずに自分らしく生きていくようなストーリー構成が特徴で、その代表作が溝口氏によれば、中村明日美子氏の漫画「同級生シリーズ」だという。

「舞台は男子校で、主人公は茶髪でチャラくて女の子にモテモテの草壁くんが、ふとしたきっかけで優等生の左条くんと仲良くなり、恋に落ちていくストーリー。この展開自体はよくあるのですが、自分の同性愛感情の気づきや、友達や両親にどうカミングアウトするのかなどが、丁寧に描写されていて、現実社会でも参考になるほどリアルなのです」

 このシリーズは現在6冊発売されていて、主人公2人の恋愛だけでなく、中年男性と高校生のカップルも登場し、今の日本には表出し得ない性のあり方を受け入れる社会が描かれている。

 さらに重要なのは、「進化形BL」の作者の多くが「この社会で同性愛者がより幸福に生きられるためにはどうすればいいのか」といった命題を特別に意識せず、自らと読者を楽しませるため、想像力を膨らませながら、娯楽作品として生み出している点にあると、溝口氏は指摘する。そのため、性の多様性を読者も楽しみながら理解できるのだ。

■同性愛者に対する偏見がなくなれば、BL文化は廃れる?

 一昔前まで「禁断の愛」として扱われることが多かったBL。それゆえ、同性愛者に対する偏見がなくなった結果、タブー感が薄まり、魅力を失うということにはならないのだろうか。

「確かに同性愛が社会に受け入れられることで、タブーとしての描かれ方はされなくなるかもしれませんが、以前対談したBL好きで知られる作家の三浦しをんさんが言われたことが一番端的な説明で、私も同意します。つまり、『異性愛が一般的な日本社会で、男女の恋愛物語が描かれない時代はなかった』ということです。人間同士が一緒にいれば、何らかの軋轢、感情が生まれ、ドラマに発展します。それは社会状況が変化しても変わらないでしょう」

 諸外国と比べて、日本においては同性愛者の人権をめぐる法的な整備などが遅れている。そんななか、有名俳優がラジオでBL好きを公言したことが話題になった。また、男性アイドル同士がキスをしてみせるなど、男性同士の親密さを女性ファンに向けて“演じる”ことも増えてきた。それに対して「BLという枠組みを利用している」との批判もあるだろう。しかし、このように社会においてBLを自然に受け入れる動きが広がり、幸福に生きるゲイ・キャラクター像が一般化することで、根強いホモフォビアが現実から払拭されるのだとしたら、「BL利用」も、偏見をなくすことに最終的にはつながるのではないか。

 また、一方で美少年同士がイチャイチャするのを見るのが好きでも、中年のおじさん同士がチューするのは気持ち悪いと思う人もいるだろう。しかし、近年の商業BL作品では、「同級生」シリーズをはじめ、キャラクターの年齢層が幅広くなっている。中年男性間の恋愛関係を描き、多くの支持を集める作品もある。そのようなBLを読み、それが胸を打つような作品であれば、読者はゲイにも平等に幸せになる権利があるという当たり前のことを、あらためて楽しく理解できる。その「理解」は現実社会についての認識にも少なからず影響を与えるだろう。

 BLが性の多様性を学ぶための必須バイブルになる日も近いかもしれない。
(福田晃広/清談社)

BLが廃れるときは来るのか? 溝口彰子氏が語る「イケメン同士の恋愛」を描く先にあるもの

 BL(ビーエル)とは「ボーイズラブ(Boys’ Love)」の略で男性同士の恋愛を軸とした物語ジャンルだ。作者も読者もほぼ100%女性で、サイゾーウーマンの女性読者なら一度は読んだことがある人も多いだろう。

 あまり詳しくない人からすると、BLといえば、学園モノでイケメン同士の恋愛関係の物語を想像しがちだが、最近では単に男同士のロマンスというだけではなく、現実でも実現していないような、ゲイに寛容な社会を描く作品も目立ってきているという。そのような、性の多様性がさらに広がった将来の日本社会を先進的に描いているともいえるBLの、時代による変化や未来の可能性ついて、『BL進化論 ボーイズラブが社会を動かす』(太田出版)『BL進化論[対話篇] ボーイズラブが生まれる場所』(宙出版)の著者でBL研究家の溝口彰子氏に聞いた。

■従来のBLとは違う「進化形BL」とは

 1990年代、商業的にも大きく盛り上がりを見せたといわれるBL。しかし、当時は現代よりも同性愛者に対する偏見が強く、そうした社会を反映した作品が多かったと、溝口氏は分析する。

「90年代のBL作品の多くは、男性同士の恋愛やセックスを描きながらも、『俺はホモなんかじゃない。お前が好きなだけだ』とホモフォビア(同性愛嫌悪)的なセリフを言うキャラクターが登場していました。当時は今以上に同性愛者に対する偏見や差別も強かった時代ですが、BL作家や読者がそれを疑問視せず、BLの男性キャラを実際のゲイとは違うものと規定していたんですよね。しかし、それでもまだ現実社会やゲイ雑誌よりもBLの方が男性同性愛を明るく描くことが多かった」

 当時は、今ではよく聞く性的マイノリティを指す「LGBT」といった言葉もなく、友達や家族など周囲の人たちにも打ち明けられず悩む当事者がほとんどだった。そのため、BL愛好家女性たちはゲイの現実を知らないまま、架空の美男キャラを描いたり読んだりしていた。それは、自分たちが女性であることで生じる家父長制からの抑圧をはじめとした、現実から逃避するためだったという。しかし、2000年代を迎えると、これまでとは違った新たな作風の作品が増えてきたそうだ。

「2000年代には、同性愛者である主人公たちの幸福を願う作家たちの想像力によって、まだ実現されていないゲイ・フレンドリーな人々や社会が描かれる作品群が出てきます。それらの作品の中では、同性愛者のセクシュアリティを否定、揶揄することが受け入れられない社会が到来しているのです」

 性の多様性の実現とジェンダー格差の解消に向かうヒントを与えてくれるBL作品を、溝口氏は「進化形BL」と名付けた。実社会よりも性の多様性に寛容な社会、いわば進化を先取りした世界が描かれている、というわけだ。

 「進化形BL」は、性の多様性に寛容な社会を描くだけでなく、当事者であるゲイが抑圧されずに自分らしく生きていくようなストーリー構成が特徴で、その代表作が溝口氏によれば、中村明日美子氏の漫画「同級生シリーズ」だという。

「舞台は男子校で、主人公は茶髪でチャラくて女の子にモテモテの草壁くんが、ふとしたきっかけで優等生の左条くんと仲良くなり、恋に落ちていくストーリー。この展開自体はよくあるのですが、自分の同性愛感情の気づきや、友達や両親にどうカミングアウトするのかなどが、丁寧に描写されていて、現実社会でも参考になるほどリアルなのです」

 このシリーズは現在6冊発売されていて、主人公2人の恋愛だけでなく、中年男性と高校生のカップルも登場し、今の日本には表出し得ない性のあり方を受け入れる社会が描かれている。

 さらに重要なのは、「進化形BL」の作者の多くが「この社会で同性愛者がより幸福に生きられるためにはどうすればいいのか」といった命題を特別に意識せず、自らと読者を楽しませるため、想像力を膨らませながら、娯楽作品として生み出している点にあると、溝口氏は指摘する。そのため、性の多様性を読者も楽しみながら理解できるのだ。

■同性愛者に対する偏見がなくなれば、BL文化は廃れる?

 一昔前まで「禁断の愛」として扱われることが多かったBL。それゆえ、同性愛者に対する偏見がなくなった結果、タブー感が薄まり、魅力を失うということにはならないのだろうか。

「確かに同性愛が社会に受け入れられることで、タブーとしての描かれ方はされなくなるかもしれませんが、以前対談したBL好きで知られる作家の三浦しをんさんが言われたことが一番端的な説明で、私も同意します。つまり、『異性愛が一般的な日本社会で、男女の恋愛物語が描かれない時代はなかった』ということです。人間同士が一緒にいれば、何らかの軋轢、感情が生まれ、ドラマに発展します。それは社会状況が変化しても変わらないでしょう」

 諸外国と比べて、日本においては同性愛者の人権をめぐる法的な整備などが遅れている。そんななか、有名俳優がラジオでBL好きを公言したことが話題になった。また、男性アイドル同士がキスをしてみせるなど、男性同士の親密さを女性ファンに向けて“演じる”ことも増えてきた。それに対して「BLという枠組みを利用している」との批判もあるだろう。しかし、このように社会においてBLを自然に受け入れる動きが広がり、幸福に生きるゲイ・キャラクター像が一般化することで、根強いホモフォビアが現実から払拭されるのだとしたら、「BL利用」も、偏見をなくすことに最終的にはつながるのではないか。

 また、一方で美少年同士がイチャイチャするのを見るのが好きでも、中年のおじさん同士がチューするのは気持ち悪いと思う人もいるだろう。しかし、近年の商業BL作品では、「同級生」シリーズをはじめ、キャラクターの年齢層が幅広くなっている。中年男性間の恋愛関係を描き、多くの支持を集める作品もある。そのようなBLを読み、それが胸を打つような作品であれば、読者はゲイにも平等に幸せになる権利があるという当たり前のことを、あらためて楽しく理解できる。その「理解」は現実社会についての認識にも少なからず影響を与えるだろう。

 BLが性の多様性を学ぶための必須バイブルになる日も近いかもしれない。
(福田晃広/清談社)