登場人物全員悲劇! 全員号泣! 伝説の体操マンガ『空のキャンバス』が重すぎる……

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『空のキャンバス』(集英社)
 日本を代表する男子体操選手といえば内村航平、そして白井健三。白熱する2人のライバル関係もあり、2020年の東京オリンピックに向けて、体操ニッポンの活躍が大いに期待できるところですが、マンガの世界で男子体操マンガっていうと……正直ほとんど思いつきません。しかしただ一つ、突き抜けた存在の作品がありました。  そう、男子体操マンガの金字塔といえば、今泉伸二先生の『空のキャンバス』をおいて他にないのであります。「週刊少年ジャンプ」(集英社)誌上において、1986年から87年にかけて連載され、連載期間こそ長くないものの、なんの予兆もなく突如として登場した体操マンガは、その感動的ストーリーでジャンプ読者に多大なインパクトを残しました。 『空のキャンバス』の凄さは、男子器械体操という競技の地味さを補うかのように徹底的に盛り込まれた「泣き」要素にあります。主人公の北野太一やその周囲の登場人物に、これでもかと言わんばかりに次から次へと襲いかかる苦難。そして作品終盤では、ページをめくるたびに誰かが号泣しているという……これほどまでに暑苦しく息苦しく、あざといまでにお涙頂戴な展開のマンガは、ジャンルに関係なく、なかなかお目にかかれるものではありません。  主人公、北野は14歳の中学生。幼少期に出会った、月面宙返り(ムーンサルト)ができる運動神経抜群の少年「あいつ」の存在を追いかけて体操に打ち込み、天才的な才能を開花させます。しかし、太一はその「あいつ」が崖から落ちたのを助けた時に脊椎に負った大けがが原因で全身麻痺に陥り、回復した今も、いつ再発するかわからないという切迫した状況にあります。  本作品のヒロイン・赤城榛名は、かつて体操の五輪選手だった赤城コーチを父に持つ、女子体操のジュニアチャンピオン。そんな榛名の家に、体操のトレーニングをすることになった太一が居候することになります。少年漫画の主人公らしく、エッチなイタズラを連発する太一に榛名はビンタで応酬するなど、ツンデレ上等のラブコメ要素が盛り込まれています。  そして実は、幼少期の榛名こそ、太一がずっとライバルとして追いかけてきた「あいつ」だったのです。しかし、ずっと追いかけてきたライバルが女だったことを知ったら、ショックを受けて立ち直れないかもしれない……そう思った榛名は、真実を告げることを封印します。おバカなラブコメ展開と、登場人物たちのさまざまな苦悩が表裏一体となってストーリーが進んでいきます。  というわけで、『空のキャンバス』の凄いところを、以下にまとめてみました。 ■北野太一に襲いかかる悲劇の総量が半端じゃない  体操でジュニアチャンピオンを狙えるほどの圧倒的な才能を持ちながら、幼少期の脊椎のケガが元で、競技中に突然腕が動かなくなったり目が見えなくなる、などの後遺症を抱えています。  医師には、いずれは全身が麻痺して死ぬ、とサジを投げられた状態。そんな中、宿命のライバル「あいつ」と闘うことだけを目標に気力で体操をしているのですが、その「あいつ」は、実は女の子。しかも一つ屋根の下の同居人、赤城榛名です。しかし太一は作品中で、決してその事実を知らされることはないのです。なんという悲劇!  作品後半、成功率は限りなく低いが、うまくいくかもしれないという難手術を受け、見事手術は成功! 奇跡が起こったかに思われましたが、手術後、記憶喪失に陥り、今までのことをすべて忘れてしまいます。なんという悲劇!  記憶喪失のまま、過去を思い出すために体操に打ち込む太一、次第に記憶が蘇ってきます。そして、ついに記憶が回復! 再び奇跡が起こったかに思われましたが……全身麻痺の症状が再び太一を襲います。なんという悲劇!  最初から最後まで、太一が、とにかく不憫なのです。スポーツマンガ界における悲劇のキャラクターの代表格といえば、心臓病を抱えたままサッカーをする、キャプテン翼の三杉くんですが、正直、北野太一のほうが数段上の悲劇を背負ってます。 ■偽物の「あいつ」が復数登場し、事態がややこしくなる  いつか「あいつ」と出会えると信じて、命がけで体操に取り組む太一と、自分が「あいつ」だと名乗り出ることができない榛名。そんな太一と榛名の状況を見かねてか、太一の前に立ちはだかったライバル、五十嵐俊が太一を励ますため…… 「忘れたのかい、ボクだよ!! ずっと昔、木駄町の公園できみに助けられたじゃないか!!」  などと、自分が「あいつ」だと名乗り出ます。完全に偽者なのですが、太一はこれ信じてしまいます。まあ後で嘘がバレるのですが。  2人目の偽「あいつ」は、全日本ジュニアチャンピオンの鶴巻公次。全身麻痺が進行して、ほとんど動けない状態で体操の練習に打ち込む北野の姿を見るに見かねて 「わからんのかーっ!! オレはお前のライバルだ!! 遠い昔おまえに助けられた男だぞ!!」 と「あいつ」宣言。すでに目が見えず、判断力もなくなっている太一は、あっさり信じてしまいます。しかし、これがきっかけで、太一は手術を受ける決意をすることになります。ナイス偽物!  実は、知らぬは太一ばかりなりで、周りの人はほとんど、榛名が「あいつ」であると知っているのです。このことが何よりも悲劇的という感じがします。 ■太一以外のキャラの生きざまも結構壮絶 『空のキャンバス』では、主人公の太一だけが悲劇を背負っているわけではありません。太一の周りのサブキャラの悲劇っぷりも、なかなかのものです。 ・五十嵐俊 太一の初期のライバルとして登場した五十嵐俊は、少年院出身。少年院のワルな仲間たちの期待を一身に背負っている体操選手なのですが、五十嵐自身は、実は無実の罪で少年院に入れられていたのでした。まさに悲劇! ・あずさちゃん 太一と同じ症状で入院していた少女、あずさちゃん。同じ病状ながら、体操の技を身につけ、みるみる回復していく太一の姿に憧れ、車椅子で病院を抜け出し、太一を応援にいきます。しかし応援中に無理がたたり、会場でぶっ倒れて絶命。まさに悲劇! ・エレナ・シュトロワ ソ連から来た女子体操選手で、女子チャンピオン・榛名の最大のライバル。幼少期のころにエレナを捨てて失踪した母を見つけるために、体操で有名になることを決意します。日本で、絶対100パー母親で間違いない、という女性を見つけますが、話しかけても結局名乗ってもらえず。まさに悲劇!  そんな感じで登場人物がそれぞれ、悲劇を背負っており、作品のいたるところに「泣き」要素がちりばめられているのです。どこから読み始めても泣くことができる後方支援体制。それが『空キャン』の凄いところ!! ■わかる人にはわかる!? 超秘技の数々  壮絶すぎるストーリーばかりが気になって、本来の体操競技の攻防が全然頭に入ってこないのですが、実際のところはかなり激しく、本格的な技の攻防が描写されています。文字通り、ウルトラCとかウルトラDな技が次々と繰り出されるのです。 「後方伸身宙返り2回ひねり」「屈身モリスエ」「イエガー宙返り」「ギンガー宙返り」「マルケロフ飛び越し」「伸身クエルボ飛び2回ひねり」「後方伸身3回宙返り3回ひねり」等々……。  どれも常人ではできないスゴ技のはずですが、体操の知識がないので、今ひとつピンときません。クエルボって何? 食えるの? ……みたいな。体操マンガが地味な印象を拭えないのは、このへんの技がよくわからない感のせいでしょうか。  というわけで、泣ける体操マンガ『空のキャンバス』をご紹介しました。今泉伸二先生のもう一つの代表作『神様はサウスポー』も、泣きのシーンがグイグイくる作品ですので、2作品まとめて読んで涙腺を崩壊させてみるのもいいかもしれません。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>) ◆「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから

日本最強サラリーマン『島耕作』 その出世遍歴を振り返る

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『課長 島耕作(1)』(講談社)
   突然ですが、みなさんは出世してますか? 僕はしてません。それはともかく、僕らの思い描く、 サラリーマンが「出世」するマンガといえば、やっぱり『島耕作』シリーズですよね?  1983年に「週刊モーニング」(講談社)で連載がスタートした『課長 島耕作』は、派閥にも属さず、自分の信念を貫く、日本一カッコイイ中間管理職を描いたマンガとしてサラリーマンの熱い支持を得てきた作品ですが、約10年間課長を務めた後、ついに部長に昇進、 92年からはタイトルが『部長 島耕作』となります。  その後は中間管理職の象徴ではなく、エグゼクティブコースに乗ったサクセスストーリーマンガとして『取締役 島耕作』『常務 島耕作』『専務 島耕作』『社長 島耕作』と上り詰 め、これで終わりかと思いきや、まさかの『会長 島耕作』がスタートして今に至ります。  さらに、過去の時代への回帰も行われており、『ヤング 島耕作』『ヤング 島耕作 主任編』『係長 島耕作』、そして大学生時代の『学生 島耕作』までさかのぼっています。もはや野口英世や夏目漱石以上に詳細な自伝が描かれ、いつお札に印刷されてもおかしくないレベルなのですが、とにかく派生作品が多すぎるので、これから読む人のために、それぞれのタイトルを島の人生の時系列に沿ってご紹介してみましょう。 ■『学生 島耕作』  早稲田大学を受験するため、山口県岩国市から上京した学生・島耕作。当時、学生運動が盛んだった早稲田で、下見の最中に活動家と間違えられて機動隊にボコられたり、入学後はタコ部屋学生寮の先輩と一緒に風俗に行ってボッタくられたりと、なかなかの青春ド真ん中っぷりです。  ハイライトは、高校時代からのペンフレンドでタレントの卵、三沢淳子との童貞喪失シーンです。道を歩くだけで女が寄ってくるモテの化身・島耕作にも、童貞時代があったというのが驚きですね。てっきり、生まれた直後から非童貞だと思ってました。 ■『ヤング 島耕作』  新入社員の島を描く『ヤング島耕作』。本人の望み通り、大企業・初芝電産に入社できた島が、若さに任せて大ハッスル。  研修として、ハツシバショップで販売実習をすることになる島。そこの従業員が 不用品を不法投棄するシーンを見かけ、正義感が爆発してガツンと言ってやったのはいいが、その報復として実習先での勤務評価を最低ランクにされてしまうピンチに陥ります。  そこへたまたま通りかかったのが、まさかの神、初芝電産の吉原会長。「お前は正しいことを言っている!」と会長の覚えもめでたく、研修後の評価は最高グレードで、見事に希望の宣伝部配属ゲット。やはり島耕作、新入社員の時から「持ってる」男でした。  女関係では、言い寄ってきた同僚をヤッちゃった後に、その女が会社に産業スパイとして潜り込んでいた左翼活動家の女だったことを知ったり、社員寮のルールを破って無断外泊しまくりで上司に呼び出され、開き直って「好きな女とセックスしてました」と堂々と答えたり、若気の至りがあふれ返っているヤング時代なのでした。 ■『ヤング 島耕作 主任編』  ヤングだけど、主任……つまりは、若手のエースとなった島。主任になったために部下ができたのですが、よりによって新しく配属された部下・亀渕雄太郎が、アメリカ帰りの新人類で大物デザイナーの息子という、初芝のお偉いさんも逆らえない、たいそう厄介なヤカラなのです。  アメリカ的個人主義を徹底し、日本企業になじもうとしない亀渕に対し、人情を大事にするニッポンのサラリーマン代表、島が激しく叱責。しかし、亀渕の親のコネが強力で、逆に島が専務に怒られるありさま。  女関係では、島の最初の妻となる岩田怜子が大活躍。『課長 島耕作』では最初っから夫婦関係が冷え切っていて浮気しまくりモードの島ですが、この時代の怜子は島が惚れるのも納得の、実にデキる女です。  レストランでの食事の予約を入れるも、突然の深夜作業でドタキャンしてしまう島。しかし、家に帰ってくると、レストランのフルコース料理をお持ち帰りにして、テーブルにきれいに並べて待っている怜子の姿が。  そして「しょうがないわよ、仕事よりデートを優先する男がいたら、そんな奴逆に信用できないわ」のセリフ。彼氏の仕事に理解のある、実にいい女ですね。 ■『係長 島耕作』  係長になって早々、上司の遠馬課長が末期のすい臓がんであることが発覚。会社の命令により、本人には知らせず奥さんに告知するという、いきなりハイレベルなミッションを課された島。  しかも、入院している課長は課長で、奥さんのいない隙に、行きつけのバーのホステスである愛人を見舞いに来させろという、さらにややこしい指示を出してきます。こんな嫌な業務命令ある?    課長の他界後、愛人の存在に薄々気づいていた奥さんが、その愛人に会わせろと島に詰め寄るという修羅場に陥ります。これぞまさに貧乏くじ。っていうか、明らかに係長の業務のレベルを超えてますよね。 ■『課長 島耕作』  島耕作シリーズの原点が、この『課長 島耕作』です。課長時代の活躍があったからこそ会長にまで出世できたということで、読んでみると、歴代の中でも実は女関係が一番鬼畜なのも、この課長時代といえます。  態度の悪い新人女性社員にガツンと言ってやるべく、晩飯に誘う島。しかし、完全に彼女にペースを握られ、飲んでカラオケに行った後、ラブホにしけ込んで結局ヤッちゃいます。その後、女性社員にガツンと言うどころか、会社や妻にバラされ、家庭を壊されるのではないかとビクビクしていた島でしたが、その女が結婚して辞めることになり、ギリギリセーフだった話とか……。  部長命令で「博通広告賞の大賞をなんとしてでも受賞しろ」というムチャ振りを受け、博通の審査員の男に頼み込んだところ、「スワッピングパーティーに参加することが条件」と言われる島。結局、その男の嫁を抱くハメになったのですが、島の嫁・怜子と大学の同級生だったことが発覚して、大ピンチみたいな話とか……。  行きずりでヤッちゃった女にピンチを救われたり、ヤッた女が実は仕事上のキーマンだったり、みたいなパターンも異常に多く、それがきっかけで社内での評価をガンガン上げていく島。日本のサラリーマンを代表する男にしては、能力が特殊すぎます。 ■『部長 島耕作』  部長以降の島は、無事、怜子との離婚が成立し、独身貴族に。女関係は本命セフレの大町久美子が中心ではありますが、相変わらず女にモテまくりです。  総合宣伝部長の島なのですが、中沢社長の友人が企業乗っ取りの危機に遭っているということで、会社を救うための特命を受けることになります。いわゆるM&A案件です。まったく畑違いの仕事でも、柔軟かつ颯爽と、ビシッとこなす。さすがは仕事がデキる男。その後はフランスに行ってワインの買い付けをしたり、ニューヨークで自分の隠し子を歌手としてプロデュースしたりと、一体なんの部長なんだ……。 ■『取締役 島耕作』『常務 島耕作』『専務 島耕作』  正直、このへんは取締役と常務と専務の時代の違いがよくわからず、ストーリーがごっちゃになりやすいのですが、取締役時代は島の上海進出がテーマになり、常務時代は中国全土を担当するようになり、専務時代には東アジアおよびアメリカ担当ということで、ワールドワイドな展開が続きます。コマ当たりの説明セリフの密度も上がり、文字だらけのシーンが多く、まるでビジネスマンガのようになります(もともとビジネスマンガですが……)。  しかし、肝心の初芝自体は、業績ダダ下がり。カルロス・ゴーンみたいな郡山社長の下、超リストラ断行モードで、ド派手だった課長時代に比べると、冬の時代といった感じ。  女関係はビジネス同様、ワールドワイドに手を広げ、中国人秘書、中華料理店のママ、米国法人の金髪秘書、インドの大物女優などなど、オッサンになってもモテが止まりません。インドの大物女優とのキスシーンをフライデーされて、敵対する副社長派に吊るし上げられたりなど、業績は冬なのに、女関係は相変わらず夏真っ盛りといった感じです。 ■『社長 島耕作』  前社長が憎まれ役を買って出て、大リストラをやってくれたおかげで、会社の膿を出し切り、最高においしいタイミングで社長になった島。  パナソニックが三洋電機を子会社にしたように、初芝電器も五洋電機と経営統合。松下電器がパナソニックになったように、初芝五洋ホールディングスも「テコット」に改名というリアルとシンクロする感じのストーリーがグッときます。  女関係では、社長秘書である和菓子店のお嬢様・南村彩、オヤジ殺しの多田かおり、ヌンチャク使いの神奈川恵子という、仕事がデキるだけでなく一芸に秀でている3人の社長秘書たちが、いかに他を出し抜いて社長の好意をゲットするかという三つ巴バトルや、25年間付かず離れずの関係だったセフレの久美子と、ついに観念して結婚するところなどが見どころです。 ■『会長 島耕作』  巨額の赤字を出した責任を取ってテコットの社長を辞任し、会長に就任した島。今まで、年齢に比して異様なまでの若々しさを保ち、それゆえモテモテだったわけですが、会長編では一気に枯れた感じを醸し出します。  ストーリーとしては、ついに財界の大物デビューを飾った島が、経団連みたいな感じの「経済連」に入ったかと思えば、上層部と考えが合わず、揉めたりします。ビジネスのスケールもいままでよりも大きく、日本の国益がテーマとなり、農業や漁業、さらには日本酒造りなど、予想もしなかった方向に進出します。  また、島の専任秘書として登場した三代稔彦は、カミングアウトしたゲイという設定で、イケメンが出てくるとすぐに口説こうとするなど、やたらとゲイ関連の話が出てくるのも特徴的です。こちらは現在も連載中の作品なので、今後の展開に期待しましょう。 ■この後の展開を予想してみる  ビジネスマンとしての頂点である会長まで上り詰めてしまった島なので、どうしても、その先の役職は限られています。『相談役 島耕作』『名誉会長 島耕作』あたりなら、まだイケますが。もしビジネスマンとしての役職にこだわらなければ、『総理大臣 島耕作』『国連事務総長 島耕作』『老後 島耕作』『遺骨 島耕作』などもイケそうです。  ちなみに、島の再婚相手、久美子のアブノーマルな女子高生時代を描いた読み切り『JK大町久美子』や、島が殺人事件に巻き込まれて探偵になる『島耕作の事件簿』の連載が始まっているので、今後はこのような変化球路線が中心になるという可能性も考えられます。  また、ヤング方面の作品では、大学生時代の『学生 島耕作』に加え、読み切りの『少年 島耕作』で高校時代を消化してしまっているため、残りは『中学生 島耕作』『小学生 島耕作』『園児 島耕作』『幼児 島耕作』『赤子 島耕作』『胎児 島耕作』あたりが考えられます。さらに『君の名は。』とのコラボが実現すれば『前前前世 島耕作』というのもあるかもしれません(ないか……)。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>) 「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから

日本最強サラリーマン『島耕作』 その出世遍歴を振り返る

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『課長 島耕作(1)』(講談社)
   突然ですが、みなさんは出世してますか? 僕はしてません。それはともかく、僕らの思い描く、 サラリーマンが「出世」するマンガといえば、やっぱり『島耕作』シリーズですよね?  1983年に「週刊モーニング」(講談社)で連載がスタートした『課長 島耕作』は、派閥にも属さず、自分の信念を貫く、日本一カッコイイ中間管理職を描いたマンガとしてサラリーマンの熱い支持を得てきた作品ですが、約10年間課長を務めた後、ついに部長に昇進、 92年からはタイトルが『部長 島耕作』となります。  その後は中間管理職の象徴ではなく、エグゼクティブコースに乗ったサクセスストーリーマンガとして『取締役 島耕作』『常務 島耕作』『専務 島耕作』『社長 島耕作』と上り詰 め、これで終わりかと思いきや、まさかの『会長 島耕作』がスタートして今に至ります。  さらに、過去の時代への回帰も行われており、『ヤング 島耕作』『ヤング 島耕作 主任編』『係長 島耕作』、そして大学生時代の『学生 島耕作』までさかのぼっています。もはや野口英世や夏目漱石以上に詳細な自伝が描かれ、いつお札に印刷されてもおかしくないレベルなのですが、とにかく派生作品が多すぎるので、これから読む人のために、それぞれのタイトルを島の人生の時系列に沿ってご紹介してみましょう。 ■『学生 島耕作』  早稲田大学を受験するため、山口県岩国市から上京した学生・島耕作。当時、学生運動が盛んだった早稲田で、下見の最中に活動家と間違えられて機動隊にボコられたり、入学後はタコ部屋学生寮の先輩と一緒に風俗に行ってボッタくられたりと、なかなかの青春ド真ん中っぷりです。  ハイライトは、高校時代からのペンフレンドでタレントの卵、三沢淳子との童貞喪失シーンです。道を歩くだけで女が寄ってくるモテの化身・島耕作にも、童貞時代があったというのが驚きですね。てっきり、生まれた直後から非童貞だと思ってました。 ■『ヤング 島耕作』  新入社員の島を描く『ヤング島耕作』。本人の望み通り、大企業・初芝電産に入社できた島が、若さに任せて大ハッスル。  研修として、ハツシバショップで販売実習をすることになる島。そこの従業員が 不用品を不法投棄するシーンを見かけ、正義感が爆発してガツンと言ってやったのはいいが、その報復として実習先での勤務評価を最低ランクにされてしまうピンチに陥ります。  そこへたまたま通りかかったのが、まさかの神、初芝電産の吉原会長。「お前は正しいことを言っている!」と会長の覚えもめでたく、研修後の評価は最高グレードで、見事に希望の宣伝部配属ゲット。やはり島耕作、新入社員の時から「持ってる」男でした。  女関係では、言い寄ってきた同僚をヤッちゃった後に、その女が会社に産業スパイとして潜り込んでいた左翼活動家の女だったことを知ったり、社員寮のルールを破って無断外泊しまくりで上司に呼び出され、開き直って「好きな女とセックスしてました」と堂々と答えたり、若気の至りがあふれ返っているヤング時代なのでした。 ■『ヤング 島耕作 主任編』  ヤングだけど、主任……つまりは、若手のエースとなった島。主任になったために部下ができたのですが、よりによって新しく配属された部下・亀渕雄太郎が、アメリカ帰りの新人類で大物デザイナーの息子という、初芝のお偉いさんも逆らえない、たいそう厄介なヤカラなのです。  アメリカ的個人主義を徹底し、日本企業になじもうとしない亀渕に対し、人情を大事にするニッポンのサラリーマン代表、島が激しく叱責。しかし、亀渕の親のコネが強力で、逆に島が専務に怒られるありさま。  女関係では、島の最初の妻となる岩田怜子が大活躍。『課長 島耕作』では最初っから夫婦関係が冷え切っていて浮気しまくりモードの島ですが、この時代の怜子は島が惚れるのも納得の、実にデキる女です。  レストランでの食事の予約を入れるも、突然の深夜作業でドタキャンしてしまう島。しかし、家に帰ってくると、レストランのフルコース料理をお持ち帰りにして、テーブルにきれいに並べて待っている怜子の姿が。  そして「しょうがないわよ、仕事よりデートを優先する男がいたら、そんな奴逆に信用できないわ」のセリフ。彼氏の仕事に理解のある、実にいい女ですね。 ■『係長 島耕作』  係長になって早々、上司の遠馬課長が末期のすい臓がんであることが発覚。会社の命令により、本人には知らせず奥さんに告知するという、いきなりハイレベルなミッションを課された島。  しかも、入院している課長は課長で、奥さんのいない隙に、行きつけのバーのホステスである愛人を見舞いに来させろという、さらにややこしい指示を出してきます。こんな嫌な業務命令ある?    課長の他界後、愛人の存在に薄々気づいていた奥さんが、その愛人に会わせろと島に詰め寄るという修羅場に陥ります。これぞまさに貧乏くじ。っていうか、明らかに係長の業務のレベルを超えてますよね。 ■『課長 島耕作』  島耕作シリーズの原点が、この『課長 島耕作』です。課長時代の活躍があったからこそ会長にまで出世できたということで、読んでみると、歴代の中でも実は女関係が一番鬼畜なのも、この課長時代といえます。  態度の悪い新人女性社員にガツンと言ってやるべく、晩飯に誘う島。しかし、完全に彼女にペースを握られ、飲んでカラオケに行った後、ラブホにしけ込んで結局ヤッちゃいます。その後、女性社員にガツンと言うどころか、会社や妻にバラされ、家庭を壊されるのではないかとビクビクしていた島でしたが、その女が結婚して辞めることになり、ギリギリセーフだった話とか……。  部長命令で「博通広告賞の大賞をなんとしてでも受賞しろ」というムチャ振りを受け、博通の審査員の男に頼み込んだところ、「スワッピングパーティーに参加することが条件」と言われる島。結局、その男の嫁を抱くハメになったのですが、島の嫁・怜子と大学の同級生だったことが発覚して、大ピンチみたいな話とか……。  行きずりでヤッちゃった女にピンチを救われたり、ヤッた女が実は仕事上のキーマンだったり、みたいなパターンも異常に多く、それがきっかけで社内での評価をガンガン上げていく島。日本のサラリーマンを代表する男にしては、能力が特殊すぎます。 ■『部長 島耕作』  部長以降の島は、無事、怜子との離婚が成立し、独身貴族に。女関係は本命セフレの大町久美子が中心ではありますが、相変わらず女にモテまくりです。  総合宣伝部長の島なのですが、中沢社長の友人が企業乗っ取りの危機に遭っているということで、会社を救うための特命を受けることになります。いわゆるM&A案件です。まったく畑違いの仕事でも、柔軟かつ颯爽と、ビシッとこなす。さすがは仕事がデキる男。その後はフランスに行ってワインの買い付けをしたり、ニューヨークで自分の隠し子を歌手としてプロデュースしたりと、一体なんの部長なんだ……。 ■『取締役 島耕作』『常務 島耕作』『専務 島耕作』  正直、このへんは取締役と常務と専務の時代の違いがよくわからず、ストーリーがごっちゃになりやすいのですが、取締役時代は島の上海進出がテーマになり、常務時代は中国全土を担当するようになり、専務時代には東アジアおよびアメリカ担当ということで、ワールドワイドな展開が続きます。コマ当たりの説明セリフの密度も上がり、文字だらけのシーンが多く、まるでビジネスマンガのようになります(もともとビジネスマンガですが……)。  しかし、肝心の初芝自体は、業績ダダ下がり。カルロス・ゴーンみたいな郡山社長の下、超リストラ断行モードで、ド派手だった課長時代に比べると、冬の時代といった感じ。  女関係はビジネス同様、ワールドワイドに手を広げ、中国人秘書、中華料理店のママ、米国法人の金髪秘書、インドの大物女優などなど、オッサンになってもモテが止まりません。インドの大物女優とのキスシーンをフライデーされて、敵対する副社長派に吊るし上げられたりなど、業績は冬なのに、女関係は相変わらず夏真っ盛りといった感じです。 ■『社長 島耕作』  前社長が憎まれ役を買って出て、大リストラをやってくれたおかげで、会社の膿を出し切り、最高においしいタイミングで社長になった島。  パナソニックが三洋電機を子会社にしたように、初芝電器も五洋電機と経営統合。松下電器がパナソニックになったように、初芝五洋ホールディングスも「テコット」に改名というリアルとシンクロする感じのストーリーがグッときます。  女関係では、社長秘書である和菓子店のお嬢様・南村彩、オヤジ殺しの多田かおり、ヌンチャク使いの神奈川恵子という、仕事がデキるだけでなく一芸に秀でている3人の社長秘書たちが、いかに他を出し抜いて社長の好意をゲットするかという三つ巴バトルや、25年間付かず離れずの関係だったセフレの久美子と、ついに観念して結婚するところなどが見どころです。 ■『会長 島耕作』  巨額の赤字を出した責任を取ってテコットの社長を辞任し、会長に就任した島。今まで、年齢に比して異様なまでの若々しさを保ち、それゆえモテモテだったわけですが、会長編では一気に枯れた感じを醸し出します。  ストーリーとしては、ついに財界の大物デビューを飾った島が、経団連みたいな感じの「経済連」に入ったかと思えば、上層部と考えが合わず、揉めたりします。ビジネスのスケールもいままでよりも大きく、日本の国益がテーマとなり、農業や漁業、さらには日本酒造りなど、予想もしなかった方向に進出します。  また、島の専任秘書として登場した三代稔彦は、カミングアウトしたゲイという設定で、イケメンが出てくるとすぐに口説こうとするなど、やたらとゲイ関連の話が出てくるのも特徴的です。こちらは現在も連載中の作品なので、今後の展開に期待しましょう。 ■この後の展開を予想してみる  ビジネスマンとしての頂点である会長まで上り詰めてしまった島なので、どうしても、その先の役職は限られています。『相談役 島耕作』『名誉会長 島耕作』あたりなら、まだイケますが。もしビジネスマンとしての役職にこだわらなければ、『総理大臣 島耕作』『国連事務総長 島耕作』『老後 島耕作』『遺骨 島耕作』などもイケそうです。  ちなみに、島の再婚相手、久美子のアブノーマルな女子高生時代を描いた読み切り『JK大町久美子』や、島が殺人事件に巻き込まれて探偵になる『島耕作の事件簿』の連載が始まっているので、今後はこのような変化球路線が中心になるという可能性も考えられます。  また、ヤング方面の作品では、大学生時代の『学生 島耕作』に加え、読み切りの『少年 島耕作』で高校時代を消化してしまっているため、残りは『中学生 島耕作』『小学生 島耕作』『園児 島耕作』『幼児 島耕作』『赤子 島耕作』『胎児 島耕作』あたりが考えられます。さらに『君の名は。』とのコラボが実現すれば『前前前世 島耕作』というのもあるかもしれません(ないか……)。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>) 「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから

男だったら野望を持て! 狂気と暴力が織り成す“殺しんぼ”『野望の王国』

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『野望の王国 完全版』(日本文芸社)
 突然ですが、皆さんの「野望」はなんでしょうか? 人は皆、誰しも心に野望を秘めているはず。社長になりたい、ユーチューバーになりたい、総選挙で推しメンを1位にしたい、ラーメン二郎を全店制覇したいなどなど……。  今回ご紹介する『野望の王国』は、そんな野望ニストに死ぬまでに一度は読んでほしい作品。東大法学部を首席で卒業するほどの頭脳を持つ男たちが、権力への野望に取り憑かれ、日本を支配するために暴力団・警察・政治・宗教など、ありとあらゆるものを利用して野望を達成しようとする究極のバイオレンス劇画。どこを切ってもすさまじい暴力表現と、狂気のキャラクターにあふれています。こんなに何もかもが狂ってるマンガは、ほかに見たことありません。  本作は1977年から82年まで「週刊漫画ゴラク」(日本文芸社)に連載されており、原作は雁屋哲先生、作画は由起賢二先生です。雁屋先生は『美味しんぼ』の原作者として有名ですが、本作は『美味しんぼ』のコンセプトとは対極にある、狂気と暴力がメインの「殺しんぼ」な作品であるといえます。  主人公は橘征五郎と片岡仁という東大法学部の学生2人。東大で主席を争うほど頭脳明晰なだけでなく、弱小アメフト部を2人の活躍で日本一にしてしまうほどのスポーツ万能ぶり。将来は大学教授か官僚か、いずれにしてもエリート街道まっしぐらと思われていた2人が、研究室の教授に進路を聞かれると……  征五郎「我々は野望達成にすべてをかけると決めたのです」「ぼくたちが法学部政治学科で政治を学んだのは、人が人を支配する仕組み、権力をつかむための方法を学ぶためだったといっていいでしょう!」  片岡「この世は荒野だ! 唯一野望を実行に移す者のみがこの荒野を制することができるのだ!」  このように、意味不明なことをのたまいます。教授も同級生もお口アングリ、唖然です。  実は主役のひとり、征五郎は神奈川県下最大の暴力団「橘組」組長の五男坊。しかし、組長の妾腹の息子のため、本妻の息子たちに比べて冷遇されていました。そのため、相棒の片岡とともに橘組を乗っ取り、暴力で日本を支配するという大いなる野望を持っていたのでした。東大で一生懸命勉強してきた結論がこれですよ。東大は一体何を教えているんでしょうか。  そして、ついに征五郎と片岡の野望が動きだす時が来ました。橘組の親分、橘征蔵が死去し、世代交代が起こります。跡を継ぐ息子たちは征一郎から征五郎までの5人兄弟。そして、そのうち征二郎と征五郎だけが妾腹。兄弟それぞれの思惑が動きだします。  次期組長の第一候補で長男の征一郎が30歳、次男の征二郎が29歳、双子の征三郎と征四郎が28歳、末っ子の征五郎が21歳という設定なのですが、どいつもこいつも余裕で40代以上の面構え、実年齢+15歳ぐらいはいってそうなルックスなのです。 ■恐るべき東大生、征五郎・片岡の手腕  征五郎と片岡の橘組乗っ取り計画は、組長の葬儀の日に決行されました。2人が秘密裏に雇った兵隊たちが、橘組本家に奇襲をかけます。葬儀の日とあって、大混乱の橘組。そのドサクサで征一郎を暗殺。あっという間に、組長と次期組長の葬儀になってしまいました。  さらに、告別式にも巨大なタンクローリーを突っ込ませ、業火の渦でパニックになる中、ヒットマンが征三郎を暗殺。この鮮やかな手口、東大生の頭脳が遺憾なく発揮されています(悪いほうに)。そんな感じで、東大生の野望のために、いとも簡単に人が死んでいくマンガなのです。  とにかく本作のテーマは「野望」そして「暴力」です。征五郎と片岡は、こんな名ゼリフを残しています。 「男は一旦、野望にとりつかれたら、もう燃えつきるまで猛進するしかありません」 「力とは、暴力それに金。他に何が必要だというんです?」  いや、ほかにもいろいろ必要だと思うんですけど……。 ■最強のカリスマヤクザ征二郎  征一郎が殺された後、橘組の新組長となった征二郎、この男こそ、征五郎と片岡の野望にとって最大の障壁となる男です。知力は東大生の2人をも上回り、殺しをやれば冷酷非道。そして、組長としての圧倒的なカリスマ性を持つ――。これで29歳です。なんて嫌なアラサーでしょうか。  征二郎はそのカンのよさから、一連の兄弟殺しに征五郎と片岡が絡んでいるのではないかと早々に疑いを持ちますが、同じ妾腹の息子としてつらい境遇を歩んできた征五郎をかわいがっていたため、どうしても征五郎の裏切りに確信を持つことができません。  そんな中、本家の生き残りでアホの征四郎が征五郎たちにそそのかされ、兄を殺したのは征二郎だと思い込み、戦争を仕掛けます。怒った征二郎は、征四郎の屋敷を米軍のヘリを使って空爆。屋敷から逃げ出してきた征四郎を生け捕りにして、証拠を一切残さず始末してしまいます。恐るべき征二郎の力……。兄弟を倒すのに米軍まで使うヤクザって聞いたことないよ! ■マンガ史上最悪のバイオレンス警察署長・柿崎  そんな内輪モメに揺れる橘組をぶっ潰さんと、川崎中央署に赴任してきた新任警察署長、柿崎憲。征五郎や片岡の先輩にあたる東大法学部卒で、30歳にして署長に就任。超スピードで出世街道を歩むこの男こそ、マンガ史上最悪の危険思想を持つ警察署長です。というか、このマンガに出てくる東大出身者は基本的に危険人物しかいません。 「おれが警察庁に入ったのは日本の警察を動かす力を持つためだ! 日本は警察国家だ!警察こそは日本最大の暴力機構だ! おれはその警察を乗っ取るのだ!!」 「この世を支配するのは暴力だっ! 暴力が全てだっ! 日本の表世界の暴力機構が警察なら、裏世界のそれは暴力団だっ! 表裏二つの暴力機構を握れば巨大な権力をつかむことが出来るっ!」 「川崎中央署の全ての力を2人の思う通りに使うがいい。人殺しでもなんでも無制限だ!」  どうですか、柿崎のこの名ゼリフの数々。警察は日本最大の暴力機構って……。こいつにかかると警察が悪党、ヤクザが正義の味方に見えてしまうから困ります。  この柿崎の登場により、征二郎率いる正統派ヤクザの橘組、橘組を乗っ取ろうと画策する征五郎・片岡の若獅子会、どちらもまとめてぶっ潰そうとする柿崎警察署長の三すくみによるすさまじい裏切り合い、潰し合いがラストまで続きます。  舞台となる川崎は、こいつらの闘いのせいで製鉄場爆破、石油コンビナート爆破、造船所爆破、競馬場での暴動などが引き起こされた挙げ句、川崎中が火の海になります。なんて川崎市民に迷惑なマンガなんだ……。  ほかにも関西最大の暴力団や、自衛隊を自由に使えるほどの強大な力を持つ政界のフィクサー、信者を次々と殺人鬼に洗脳する信仰宗教の教祖様などなど、とりあえず関わったら絶対ヤバいジャンルのヤツらが一通り絡んできて、狂った暴力世界を奏でている作品です。  長編作品ながら、一度読みだすと続きが気になって途中でやめられない、そんなかっぱえびせんやプリングルズのような中毒性を持った劇画です。画も内容もあまりに濃すぎるので敬遠する人も多そうですが、だまされたと思って読んでみてください。絶対にハマります。そして知らず知らずのうちに、あなたの心にも野望の火がともるに違いありません。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>) 「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから

男だったら野望を持て! 狂気と暴力が織り成す“殺しんぼ”『野望の王国』

男だったら野望を持て! 狂気と暴力が織り成す殺しんぼ『野望の王国』の画像1
『野望の王国 完全版』(日本文芸社)
 突然ですが、皆さんの「野望」はなんでしょうか? 人は皆、誰しも心に野望を秘めているはず。社長になりたい、ユーチューバーになりたい、総選挙で推しメンを1位にしたい、ラーメン二郎を全店制覇したいなどなど……。  今回ご紹介する『野望の王国』は、そんな野望ニストに死ぬまでに一度は読んでほしい作品。東大法学部を首席で卒業するほどの頭脳を持つ男たちが、権力への野望に取り憑かれ、日本を支配するために暴力団・警察・政治・宗教など、ありとあらゆるものを利用して野望を達成しようとする究極のバイオレンス劇画。どこを切ってもすさまじい暴力表現と、狂気のキャラクターにあふれています。こんなに何もかもが狂ってるマンガは、ほかに見たことありません。  本作は1977年から82年まで「週刊漫画ゴラク」(日本文芸社)に連載されており、原作は雁屋哲先生、作画は由起賢二先生です。雁屋先生は『美味しんぼ』の原作者として有名ですが、本作は『美味しんぼ』のコンセプトとは対極にある、狂気と暴力がメインの「殺しんぼ」な作品であるといえます。  主人公は橘征五郎と片岡仁という東大法学部の学生2人。東大で主席を争うほど頭脳明晰なだけでなく、弱小アメフト部を2人の活躍で日本一にしてしまうほどのスポーツ万能ぶり。将来は大学教授か官僚か、いずれにしてもエリート街道まっしぐらと思われていた2人が、研究室の教授に進路を聞かれると……  征五郎「我々は野望達成にすべてをかけると決めたのです」「ぼくたちが法学部政治学科で政治を学んだのは、人が人を支配する仕組み、権力をつかむための方法を学ぶためだったといっていいでしょう!」  片岡「この世は荒野だ! 唯一野望を実行に移す者のみがこの荒野を制することができるのだ!」  このように、意味不明なことをのたまいます。教授も同級生もお口アングリ、唖然です。  実は主役のひとり、征五郎は神奈川県下最大の暴力団「橘組」組長の五男坊。しかし、組長の妾腹の息子のため、本妻の息子たちに比べて冷遇されていました。そのため、相棒の片岡とともに橘組を乗っ取り、暴力で日本を支配するという大いなる野望を持っていたのでした。東大で一生懸命勉強してきた結論がこれですよ。東大は一体何を教えているんでしょうか。  そして、ついに征五郎と片岡の野望が動きだす時が来ました。橘組の親分、橘征蔵が死去し、世代交代が起こります。跡を継ぐ息子たちは征一郎から征五郎までの5人兄弟。そして、そのうち征二郎と征五郎だけが妾腹。兄弟それぞれの思惑が動きだします。  次期組長の第一候補で長男の征一郎が30歳、次男の征二郎が29歳、双子の征三郎と征四郎が28歳、末っ子の征五郎が21歳という設定なのですが、どいつもこいつも余裕で40代以上の面構え、実年齢+15歳ぐらいはいってそうなルックスなのです。 ■恐るべき東大生、征五郎・片岡の手腕  征五郎と片岡の橘組乗っ取り計画は、組長の葬儀の日に決行されました。2人が秘密裏に雇った兵隊たちが、橘組本家に奇襲をかけます。葬儀の日とあって、大混乱の橘組。そのドサクサで征一郎を暗殺。あっという間に、組長と次期組長の葬儀になってしまいました。  さらに、告別式にも巨大なタンクローリーを突っ込ませ、業火の渦でパニックになる中、ヒットマンが征三郎を暗殺。この鮮やかな手口、東大生の頭脳が遺憾なく発揮されています(悪いほうに)。そんな感じで、東大生の野望のために、いとも簡単に人が死んでいくマンガなのです。  とにかく本作のテーマは「野望」そして「暴力」です。征五郎と片岡は、こんな名ゼリフを残しています。 「男は一旦、野望にとりつかれたら、もう燃えつきるまで猛進するしかありません」 「力とは、暴力それに金。他に何が必要だというんです?」  いや、ほかにもいろいろ必要だと思うんですけど……。 ■最強のカリスマヤクザ征二郎  征一郎が殺された後、橘組の新組長となった征二郎、この男こそ、征五郎と片岡の野望にとって最大の障壁となる男です。知力は東大生の2人をも上回り、殺しをやれば冷酷非道。そして、組長としての圧倒的なカリスマ性を持つ――。これで29歳です。なんて嫌なアラサーでしょうか。  征二郎はそのカンのよさから、一連の兄弟殺しに征五郎と片岡が絡んでいるのではないかと早々に疑いを持ちますが、同じ妾腹の息子としてつらい境遇を歩んできた征五郎をかわいがっていたため、どうしても征五郎の裏切りに確信を持つことができません。  そんな中、本家の生き残りでアホの征四郎が征五郎たちにそそのかされ、兄を殺したのは征二郎だと思い込み、戦争を仕掛けます。怒った征二郎は、征四郎の屋敷を米軍のヘリを使って空爆。屋敷から逃げ出してきた征四郎を生け捕りにして、証拠を一切残さず始末してしまいます。恐るべき征二郎の力……。兄弟を倒すのに米軍まで使うヤクザって聞いたことないよ! ■マンガ史上最悪のバイオレンス警察署長・柿崎  そんな内輪モメに揺れる橘組をぶっ潰さんと、川崎中央署に赴任してきた新任警察署長、柿崎憲。征五郎や片岡の先輩にあたる東大法学部卒で、30歳にして署長に就任。超スピードで出世街道を歩むこの男こそ、マンガ史上最悪の危険思想を持つ警察署長です。というか、このマンガに出てくる東大出身者は基本的に危険人物しかいません。 「おれが警察庁に入ったのは日本の警察を動かす力を持つためだ! 日本は警察国家だ!警察こそは日本最大の暴力機構だ! おれはその警察を乗っ取るのだ!!」 「この世を支配するのは暴力だっ! 暴力が全てだっ! 日本の表世界の暴力機構が警察なら、裏世界のそれは暴力団だっ! 表裏二つの暴力機構を握れば巨大な権力をつかむことが出来るっ!」 「川崎中央署の全ての力を2人の思う通りに使うがいい。人殺しでもなんでも無制限だ!」  どうですか、柿崎のこの名ゼリフの数々。警察は日本最大の暴力機構って……。こいつにかかると警察が悪党、ヤクザが正義の味方に見えてしまうから困ります。  この柿崎の登場により、征二郎率いる正統派ヤクザの橘組、橘組を乗っ取ろうと画策する征五郎・片岡の若獅子会、どちらもまとめてぶっ潰そうとする柿崎警察署長の三すくみによるすさまじい裏切り合い、潰し合いがラストまで続きます。  舞台となる川崎は、こいつらの闘いのせいで製鉄場爆破、石油コンビナート爆破、造船所爆破、競馬場での暴動などが引き起こされた挙げ句、川崎中が火の海になります。なんて川崎市民に迷惑なマンガなんだ……。  ほかにも関西最大の暴力団や、自衛隊を自由に使えるほどの強大な力を持つ政界のフィクサー、信者を次々と殺人鬼に洗脳する信仰宗教の教祖様などなど、とりあえず関わったら絶対ヤバいジャンルのヤツらが一通り絡んできて、狂った暴力世界を奏でている作品です。  長編作品ながら、一度読みだすと続きが気になって途中でやめられない、そんなかっぱえびせんやプリングルズのような中毒性を持った劇画です。画も内容もあまりに濃すぎるので敬遠する人も多そうですが、だまされたと思って読んでみてください。絶対にハマります。そして知らず知らずのうちに、あなたの心にも野望の火がともるに違いありません。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>) 「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから

少女マンガ界最大のタブー? 封印マンガ『キャンディ・キャンディ』を、40代おっさん目線で解説

少女マンガ界最大のタブー? 封印マンガ『キャンディ・キャンディ』を、40代おっさん目線で解説の画像1
『キャンディ・キャンディ(1)』(講談社) 
 皆様こんにちは。美白ブームの昨今ですが、この夏の紫外線対策はバッチリだったでしょうか? シミ・そばかすは、イマドキの女性にとっては天敵ですよね。しかし、かつて「そばかす」「鼻ぺちゃ」「おてんば」こそが、モテ系女子のキーワードだった時代がありました。  今回ご紹介する『キャンディ・キャンディ』は、そんな「そばかす」ヒロインが活躍する少女マンガです。1975年に連載開始、翌年にアニメ化されて以降、少女マンガ界の人気を独占。関連グッズの売り上げは年間80億円にも上り、フランスやイタリア、アジア各国でも大人気となる、まさしく少女マンガ界のモンスターだったのですが、現在は読むことができない「封印マンガ」としても知られています。少女マンガの頂点を極めた大ヒット作に、いったい何があったのでしょうか? 『キャンディ・キャンディ』は、大ヒット作品であるにもかかわらず、2001年以降、マンガは絶版、アニメの再放送はなく、DVDなども出ていません。かつては『オバケのQ太郎』と並ぶ封印マンガの二大巨頭でしたが、オバQが再販されるようになった今、現在は『キャンディ・キャンディ』が封印マンガ独り勝ち(?)状態です。 『キャンディ・キャンディ』封印の理由は、一言でいえば、作画:いがらしゆみこ先生と原作:水木杏子先生の確執にあります。いがらし先生が、原作者である水木先生に許可を取らずにグッズ展開をしたため、裁判に発展。今もなお、2人が和解することはなく、『キャンディ・キャンディ』の封印は解かれていないのです。  そんな暗い話はここまでにして、『キャンディ・キャンディ』とはどんな作品だったのかをご紹介しましょう。悲劇のヒロインが王子様に見初められる「ザ・玉の輿」なシンデレラストーリーで、これぞまさに少女マンガの王道といえます。 ■とにかく不幸、絶望的境遇のヒロイン  タイトルのせいで、主人公の名前が『キャンディ・キャンディ』だと思い込んでいた僕のような人もいるかもしれませんが、本当の名前はキャンディス・ホワイトといいます。キャンディはニックネームというわけです。アントニオ猪木のニックネームがアントンみたいなもんですね。  キャンディは孤児院「ポニーの家」で育ったのですが、もともとはミシガン湖の湖畔に捨てられており、誕生日も本名もわからない女の子でした。同じ「ポニーの家」の孤児だった親友アニーは、お金持ちのブライトン家の養女として引き取られましたが、おてんばすぎるキャンディはまったく養女のお呼びがかからず……。やっとお呼びがかかったラガン家には、養女ではなく使用人として引き取られます。  さらにラガン家の子どもたちである、ニール&イライザ兄妹が超絶に意地悪で、キャンディを徹底的にいびり倒します。とにかく、小学生の女の子が思いつくレベルのあらゆる不幸を背負ってるのがキャンディです。 ■おてんば女子が、王子様キラーにランクアップ  このようにキャンディは徹底的に不幸な境遇でありながら、ラガン家の使用人になって以降はすごい勢いでモテ始めます。しかも、王子様&イケメン限定という、それはもう見事な愛され女子。これが、いわゆる「そばかす」「鼻ぺちゃ」「おてんば」効果です。  アンソニー、アーチー、ステアなど、お金持ちアードレー一族の王子様キャラがそろってキャンディを奪い合うほどのモテっぷり。その中でも、幼少期に出会った初恋の人「丘の上の王子様」にそっくりのNo.1イケメン、アンソニーとは運命を感じ合う仲になります。  しかし、このままアンソニーとラブラブで「玉の輿」確定かと思われていた最中、アンソニーが落馬事故で死んでしまい、再びキャンディは不幸のどん底に突き落とされます。少女マンガのヒロインたるもの、そう簡単には幸せにはなれないのです。 ■留学先でアウトローなイケメンにフォーリンラブ  アンソニーのことが忘れられず傷心のキャンディでしたが、アードレー家の当主であり、決して姿を現さない謎の男、ウィリアム大おじさまに気に入られ、養女として迎え入れられます。そして、ステア、アーチーらのいるロンドンへ留学します。  ロンドンでは、なんと死んだアンソニーにそっくりながら、性格は真逆のちょいワルなイケメン、テリィが登場。今度はテリィが気になり始めるキャンディ。持ち前のおてんばパワーで女子寮からロープで男子寮に忍び込むなど、肉食系女子っぷりを遺憾なく発揮します。 ■愛に生きる看護師、夜勤をサボる  ロンドンでテリィと着実にラブラブになっていくキャンディですが、ひそかにテリィを好いていた天敵・イライザの罠により、退学寸前に追い込まれます。しかし、テリィがキャンディをかばい、代わりに退学することに。  しばらくテリィのことが忘れられなかったキャンディは、看護師になるべく看護学校に入学。持ち前の明るさと人当たりで患者にも評判がよく、一人前の看護師になりますが、ブロードウェイで俳優としてデビューしたとうわさのテリィに一目会うため、夜勤をサボり、同僚に激怒されます。相変わらず、惚れた男の前では自分を見失いがちです。 ■神田川みたいな貧乏同棲生活  実はそれ以外にも、キャンディのピンチを要所要所で救ってくれていた謎のおじさん、アルバートさんというキャラがいます。髭モジャサングラスのワイルドな風貌で、動物たちと暮らしている謎の自由人です。  そんなアルバートさんが、事故で大けがをして、キャンディのいる病院に運ばれてきました。しかも、記憶喪失状態。キャンディは懸命な看護をするも、病院は身元不明のアルバートさんを不気味に思い、追い出そうとします。  そこで、キャンディは、記憶のないアルバートさんを介護するため同居を開始。勤務していた病院も辞めて、町医者の元へ転職。アルバートさんはアルバートさんでバイト先を転々とするなど、「神田川」のような極貧カップル生活を送ります。 ■壮大な伏線の回収、そして水戸黄門的ラスト  泥棒の汚名を着せられたり、メキシコに売られそうになったり、大嫌いなニールと無理やり結婚させられそうになったりと、ピンチを迎えるたびにキャンディを救ってくれる、謎のアードレー家当主、ウィリアム大おじさま。姿を一切現さない本作の最大の謎キャラが、ラストシーンでついにキャンディたちの目の前に現れることになります。  ウィリアム大おじさまの本名は「ウィリアム・アルバート・アードレー」。そう、キャンディのピンチを助け、後半はキャンディに介護をされた風来坊、アルバートさんこそがウィリアム大おじさまの正体でした。しかも、キャンディが幼少期に出会った初恋の人、「丘の上の王子さま」とも同一人物だったのです。  孤児院出身ということで一族の奴らに散々いじめられていたキャンディが、実は当主と同居経験もあるほどの仲良し……という水戸黄門的展開が待っていたのです。まあ、読者のほとんどが感づいていたはずなのですが、ラストシーンでちゃんとすべての謎が解明します。  というわけで、かの名作少女マンガ『キャンディ・キャンディ』を40代のおっさん目線で下世話に紹介してみました。結局のところ、何が言いたいかといいますと、『キャンディ・キャンディ』は大人が読んでも超面白い作品なので、早く封印が解かれて、みんなが気軽に読める日が来るといいなあと願っている次第です。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>) 「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから

少女マンガ界最大のタブー? 封印マンガ『キャンディ・キャンディ』を、40代おっさん目線で解説

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『キャンディ・キャンディ(1)』(講談社) 
 皆様こんにちは。美白ブームの昨今ですが、この夏の紫外線対策はバッチリだったでしょうか? シミ・そばかすは、イマドキの女性にとっては天敵ですよね。しかし、かつて「そばかす」「鼻ぺちゃ」「おてんば」こそが、モテ系女子のキーワードだった時代がありました。  今回ご紹介する『キャンディ・キャンディ』は、そんな「そばかす」ヒロインが活躍する少女マンガです。1975年に連載開始、翌年にアニメ化されて以降、少女マンガ界の人気を独占。関連グッズの売り上げは年間80億円にも上り、フランスやイタリア、アジア各国でも大人気となる、まさしく少女マンガ界のモンスターだったのですが、現在は読むことができない「封印マンガ」としても知られています。少女マンガの頂点を極めた大ヒット作に、いったい何があったのでしょうか? 『キャンディ・キャンディ』は、大ヒット作品であるにもかかわらず、2001年以降、マンガは絶版、アニメの再放送はなく、DVDなども出ていません。かつては『オバケのQ太郎』と並ぶ封印マンガの二大巨頭でしたが、オバQが再販されるようになった今、現在は『キャンディ・キャンディ』が封印マンガ独り勝ち(?)状態です。 『キャンディ・キャンディ』封印の理由は、一言でいえば、作画:いがらしゆみこ先生と原作:水木杏子先生の確執にあります。いがらし先生が、原作者である水木先生に許可を取らずにグッズ展開をしたため、裁判に発展。今もなお、2人が和解することはなく、『キャンディ・キャンディ』の封印は解かれていないのです。  そんな暗い話はここまでにして、『キャンディ・キャンディ』とはどんな作品だったのかをご紹介しましょう。悲劇のヒロインが王子様に見初められる「ザ・玉の輿」なシンデレラストーリーで、これぞまさに少女マンガの王道といえます。 ■とにかく不幸、絶望的境遇のヒロイン  タイトルのせいで、主人公の名前が『キャンディ・キャンディ』だと思い込んでいた僕のような人もいるかもしれませんが、本当の名前はキャンディス・ホワイトといいます。キャンディはニックネームというわけです。アントニオ猪木のニックネームがアントンみたいなもんですね。  キャンディは孤児院「ポニーの家」で育ったのですが、もともとはミシガン湖の湖畔に捨てられており、誕生日も本名もわからない女の子でした。同じ「ポニーの家」の孤児だった親友アニーは、お金持ちのブライトン家の養女として引き取られましたが、おてんばすぎるキャンディはまったく養女のお呼びがかからず……。やっとお呼びがかかったラガン家には、養女ではなく使用人として引き取られます。  さらにラガン家の子どもたちである、ニール&イライザ兄妹が超絶に意地悪で、キャンディを徹底的にいびり倒します。とにかく、小学生の女の子が思いつくレベルのあらゆる不幸を背負ってるのがキャンディです。 ■おてんば女子が、王子様キラーにランクアップ  このようにキャンディは徹底的に不幸な境遇でありながら、ラガン家の使用人になって以降はすごい勢いでモテ始めます。しかも、王子様&イケメン限定という、それはもう見事な愛され女子。これが、いわゆる「そばかす」「鼻ぺちゃ」「おてんば」効果です。  アンソニー、アーチー、ステアなど、お金持ちアードレー一族の王子様キャラがそろってキャンディを奪い合うほどのモテっぷり。その中でも、幼少期に出会った初恋の人「丘の上の王子様」にそっくりのNo.1イケメン、アンソニーとは運命を感じ合う仲になります。  しかし、このままアンソニーとラブラブで「玉の輿」確定かと思われていた最中、アンソニーが落馬事故で死んでしまい、再びキャンディは不幸のどん底に突き落とされます。少女マンガのヒロインたるもの、そう簡単には幸せにはなれないのです。 ■留学先でアウトローなイケメンにフォーリンラブ  アンソニーのことが忘れられず傷心のキャンディでしたが、アードレー家の当主であり、決して姿を現さない謎の男、ウィリアム大おじさまに気に入られ、養女として迎え入れられます。そして、ステア、アーチーらのいるロンドンへ留学します。  ロンドンでは、なんと死んだアンソニーにそっくりながら、性格は真逆のちょいワルなイケメン、テリィが登場。今度はテリィが気になり始めるキャンディ。持ち前のおてんばパワーで女子寮からロープで男子寮に忍び込むなど、肉食系女子っぷりを遺憾なく発揮します。 ■愛に生きる看護師、夜勤をサボる  ロンドンでテリィと着実にラブラブになっていくキャンディですが、ひそかにテリィを好いていた天敵・イライザの罠により、退学寸前に追い込まれます。しかし、テリィがキャンディをかばい、代わりに退学することに。  しばらくテリィのことが忘れられなかったキャンディは、看護師になるべく看護学校に入学。持ち前の明るさと人当たりで患者にも評判がよく、一人前の看護師になりますが、ブロードウェイで俳優としてデビューしたとうわさのテリィに一目会うため、夜勤をサボり、同僚に激怒されます。相変わらず、惚れた男の前では自分を見失いがちです。 ■神田川みたいな貧乏同棲生活  実はそれ以外にも、キャンディのピンチを要所要所で救ってくれていた謎のおじさん、アルバートさんというキャラがいます。髭モジャサングラスのワイルドな風貌で、動物たちと暮らしている謎の自由人です。  そんなアルバートさんが、事故で大けがをして、キャンディのいる病院に運ばれてきました。しかも、記憶喪失状態。キャンディは懸命な看護をするも、病院は身元不明のアルバートさんを不気味に思い、追い出そうとします。  そこで、キャンディは、記憶のないアルバートさんを介護するため同居を開始。勤務していた病院も辞めて、町医者の元へ転職。アルバートさんはアルバートさんでバイト先を転々とするなど、「神田川」のような極貧カップル生活を送ります。 ■壮大な伏線の回収、そして水戸黄門的ラスト  泥棒の汚名を着せられたり、メキシコに売られそうになったり、大嫌いなニールと無理やり結婚させられそうになったりと、ピンチを迎えるたびにキャンディを救ってくれる、謎のアードレー家当主、ウィリアム大おじさま。姿を一切現さない本作の最大の謎キャラが、ラストシーンでついにキャンディたちの目の前に現れることになります。  ウィリアム大おじさまの本名は「ウィリアム・アルバート・アードレー」。そう、キャンディのピンチを助け、後半はキャンディに介護をされた風来坊、アルバートさんこそがウィリアム大おじさまの正体でした。しかも、キャンディが幼少期に出会った初恋の人、「丘の上の王子さま」とも同一人物だったのです。  孤児院出身ということで一族の奴らに散々いじめられていたキャンディが、実は当主と同居経験もあるほどの仲良し……という水戸黄門的展開が待っていたのです。まあ、読者のほとんどが感づいていたはずなのですが、ラストシーンでちゃんとすべての謎が解明します。  というわけで、かの名作少女マンガ『キャンディ・キャンディ』を40代のおっさん目線で下世話に紹介してみました。結局のところ、何が言いたいかといいますと、『キャンディ・キャンディ』は大人が読んでも超面白い作品なので、早く封印が解かれて、みんなが気軽に読める日が来るといいなあと願っている次第です。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>) 「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから

不倫はダメ。ゼッタイ。『きまぐれオレンジ☆ロード』に学ぶ、正しい優柔不断のススメ

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『きまぐれオレンジ☆ロード』(集英社)
 ここのところ、またワイドショーの話題は、芸能界の不倫のニュースで持ち切りになっています。それにしても、マスコミにすっぱ抜かれる時期が集中するというのは不思議です。不倫強化月間か何かでしょうか?  ところで、不倫も恋愛もこじれて大ごとになる原因は、たいていは優柔不断さからくる三角関係のもつれだったりしますよね。今回は、80年代の大ヒットラブコメ『きまぐれオレンジ☆ロード』の主人公であり、“天才的優柔不断ニスト”の春日恭介から優柔不断の極意について学んでみたいと思います。 『きまぐれオレンジ☆ロード』は、「週刊少年ジャンプ」(集英社)の黄金時代(1985~1995年頃まで)の作品でありながら「友情・努力・勝利」といういわゆるジャンプ三原則ではなく、「優柔不断・ツンデレ・三角関係」という、ラブコメ三原則を盛り込んで大ヒットとなった、まさしくラブがコメっている作品です。  主人公・春日恭介は、パッと見は至って普通の中学生。しかし、実は超能力を持つ一家の長男。妹が超能力を使ったところを他人に見られたため、引っ越しを余儀なくされ、高陵学園中等部に転校してきました。  ヒロイン・鮎川まどかは、若い頃の中森明菜をイメージさせる、ちょっとツッパってるクールな美人。授業をサボったり、タバコを吸ったり、飲酒したりする不良中学生なのですが、実は成績優秀で、音楽の才能もあるというミステリアスな存在。  サブヒロイン・檜山ひかるは、まどかを姉のように慕う、かわいい妹分。まどかとは真逆の天真爛漫な明るい性格で、恭介に一目惚れしたらもう一直線。「せんぱい」「ダーリン」などと呼んでガンガンアタックし、半ば強引に恭介を周囲公認の彼氏にしてしまいます。  ラブコメで不朽の名作と呼ばれている作品には「三角関係」がつきものです。本作でも根幹をなすのは、恭介・まどか・ひかるの三角関係。そして、その三角関係を引き起こす原動力となっているのが、恭介の圧倒的な「優柔不断」さです。恭介には「決断力」はまったくありませんが、「優柔不断力」が人並み外れているのです。  とにかく、恭介は絶対に決断しません。ひかるは恭介のことを完全に彼氏だと思い込んでいますが、恭介自身はひかるのことを彼女だと肯定もしないし、否定もしない。まるで政治家の答弁のようなスキルで、結論を先延ばしにします。そのため、ただでさえポジティブなひかるの勘違いが加速していきます。  恭介自身は最初からまどかしか眼中にないのですが、ひかるに気を使って、それを悟られまいとします。さらに、まどかも実は恭介のことが好きなのですが、妹分のひかるがいる手前、恭介に対して素直になれず、持ち前のヤンキー魂を発揮し、ツンツンしてしまう……。そう、まだツンデレという言葉がない時代にすでにツンデレを標準装備していたヒロイン、それがまどかです。リアルタイムで読んでいた読者でも、まどかの持つツンデレ属性のとりこになった人は多いのではないでしょうか。  本作のストーリー進行上、あまり意味がないと言われることが多い恭介の超能力者設定も、実は役に立っていました。ひかるとのデートが入っている日に、まどかともデートすることになってしまう……。そんな状況下、テレポーテーション能力を駆使して瞬間移動を行い、不可能と思われたダブルブッキングデートを成立させてしまうのです。こういった超能力で、恭介は修羅場となりそうなピンチを幾度となく乗り越えた結果、三角関係はさらに泥沼化していきます。さすが「春日恭介」とググると「春日恭介 クズ」ってキーワードが出てくるだけのことはありますね。  そんな感じで、まどかのミステリアスでツンデレなかわいさと、ひかるのピュアで元気で一途なかわいさ、どっちにも決めることができない美少女両天秤状態、『ドラクエ5』でいうところのビアンカとフローラみたいな感じですが、そんな甘酸っぱくもぜいたくな悩みを疑似体験しつつ、恭介の当代一といわれる優柔不断さにイラッとさせられながら読むのが、このマンガの正しいたしなみ方といえます。  もちろん、三角関係に永遠はありません。いつか終わりが来るものです。本作でも、ラストシーン近くで、ついにひかるが、恭介とまどかが実は両思いだったという残酷な真実を知る時が来ます。その時のひかるの表情は、かつてない完全ブチ切れ状態で鬼の形相。そのセリフがまた、実に痛々しいのです。 「あたしはなんなの…!? たんなるピエロだったわけ…!? 3年間も…ずっとみんなにだまされてきたってわけ…!?」  はい、そうです。3年間の見事なピエロっぷり、お疲れさまでした! このシーンを見た読者全員が、そう思っていたに違いないのであります。  そして、最終巻の有名なクライマックスのシーン。アメリカ留学が決まったまどかが今まさに飛び立とうとしている空港のシーンで、すべてを知ったひかると恭介が対峙。土下座する恭介、そしてひかるの強烈なビンタ。呆然と立ち尽くすまどか……これぞ、まさに修羅場です。ちなみにこのシーンは連載時、単行本、文庫本などでそれぞれバージョンが違っており、文庫本になると描き下ろしのシーンが追加され、修羅場のシーンが長くなっています。修羅場のシーンを描き下ろしでロングバージョンにしたマンガなんて、本作だけかもしれません。  というわけで、超能力を駆使した恭介ですら三角関係の修羅場から逃げることができなかったわけで、優柔不断もほどほどにしないと、身を滅ぼしますよ。「不倫はダメ。ゼッタイ。」ということでした。芸能人のみなさんは『きまぐれオレンジ☆ロード』を読んで、そのことを学ぶべきですね。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>) 「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから

中二病だよ、全員集合!? 伝説の暴走族マンガ『疾風伝説 特攻の拓』

中二病だよ、全員集合!? 伝説の暴走族マンガ『疾風伝説 特攻の拓』の画像1
『疾風伝説 特攻の拓(1)』(講談社)
「“ムカつき”が止まんねーよ…」  なんだ、二日酔いか!? と思った方もいるかもしれませんが、違います。これは暴走族マンガのレジェンド『疾風伝説 特攻の拓』に出てくる名ゼリフのひとつです。  このマンガのどのへんが“レジェンド”なのか? 次々と登場する、スーパーサイヤ人級の強さを持ったヤンキーたちのバトル、そして一度見たら忘れることができない、中二病丸出しの“セリフ回し”の数々……どこを切り取っても、レジェンドとしか言いようがないのです。今回はそんな『疾風伝説 特攻の拓』のすごさに迫りたいと思います。  そもそもタイトルからして、普通じゃありません。普通の人なら「しっぷうでんせつ とっこうのたく」と読んでしまうところですが、正しくは「かぜでんせつ ぶっこみのたく」です。「疾風」と書いて「かぜ」、「特攻」と書いて「ぶっこみ」と読めなければ、立派なヤンキーにはなれませんよ!  では、問題です。次の単語は、なんと読むでしょうか? 1 朧童幽霊 2 魔覇裸邪 3 麓沙亜鵺 4 妖艶童子  答えは…… 1 ロードスペクター 2 マハラジャ 3 ロクサーヌ 4 セクシー  でした。ちなみにこれ、すべて作品中に登場する暴走族のチーム名です。  本作の主人公は、高校1年生の浅川拓。マジメでチビでケンカが弱く、パシリに使われる、典型的ないじめられっ子です。しかし、鳴神秀人という転校生が現れたことで、運命がガラリと変わります。  秀人は横浜の暴走族「外道」のリーダーで、ケンカが強いことで有名でした。そんな秀人に憧れ、自らもツッパリデビューする拓。その後、拓は神奈川県下一の不良高校・聖蘭高校に転校し、マー坊こと鮎川真里率いる「爆音小僧」という暴走族に所属することに。作中では爆音小僧のマー坊、朧童幽霊のリューヤ、魍魎(もうりょう)の武丸といった暴走族のヘッドを中心にさまざまなチームが登場してはケンカに明け暮れるのですが、なぜか拓は「いろいろな暴走族のヘッドに、やたらと気に入られる」「ここぞという時に、奇跡のラッキーパンチが飛び出す」という独自アビリティにより、数々のラッキーが積み重なって、ケンカが弱いまま、横浜・湘南・横須賀など県下の暴走族の中で一目置かれる存在となっていきます。しかし、本作が“レジェンド”たるゆえんは、実はこういった本筋とは違うところにあります。 ■登場キャラがほぼ全員、一瞬にしてキレる!  暴走族のマンガなので、ある意味、当然なのですが、登場キャラクターがとにかくすぐにキレます。登場キャラ全員、カルシウム不足なんでしょう。  拓独特のキレ表現として「!?」という感嘆疑問符が多用されるんですが、セリフの後ではなく、単独使用で「!?」と使われるのがポイントで、だいたい相手にガンをつけてる時です。眉間にシワを寄せて、顔をユガめて、口を斜めに半開きにして「!?」。これが作品の至るところに出てきます。  加えて、作品を特徴付ける、化け物じみたパワーを持つ登場キャラたち。体格とか関係ありません。チビだろうとガリだろうと、その瞬間に一番キレたヤツが強いのがこのマンガ。ジャッキー・チェンは酒を飲めば飲むほど強くなりますが、本作の登場キャラは、キレればキレるほど強くなるのです。  その中でも魍魎の武丸は、作中1、2を争うヤバさ。ケンカになると片手でツルハシやらバスの停留所を引っこ抜いてブン回し、大型トラックにはね飛ばされても普通に生きています。『北斗の拳』だったら、ラオウクラスの存在ですね。 ■ページを開くたびに名ゼリフが飛び出す! バイオレンス感あふれる“族”ポエム  そして『特攻の拓』といえば、インパクトがありすぎる名ゼリフの数々が挙げられます。あまりに多すぎるため、特に有名なものを厳選して紹介しておきます。 「俺らに“上等”コクんだら “10万光年”早ぇーんだよ!!」  拓と同じ爆音小僧のメンバー、カズのセリフです。「上等コクんだら」というフレーズからしてすでに難解ですが、「ケンカ上等こいてんじゃーよ」ってことだと思います。もうここから先はフィーリングで理解するしかありません。 「俺らァ死んでも“狂乱麗舞”(キョーランレーブ)…」  朧童幽霊のリーダー、リューヤの名ゼリフです。よくラーメン屋さんが「一杯入魂」みたいな信条を店内に掲げていることがありますが、朧童幽霊の信条は「狂乱麗舞」というわけです。言葉の意味はよくわかりませんが、字面はカッコイイですね。 「てめェの頭ぁ…潰れたトマトみてーにしてくれんゾ…?」  爆音小僧7代目頭、マー坊の名ゼリフです。チビで金髪で子どもっぽいルックスのため、知らないヤツからは舐められがちなマー坊ですが、「相原勇に似てる」と言われると激ギレ。悪魔のような凶暴さを見せます。ちなみに、ほかにも「あんまチョーシくれてっと ひき肉にしちまうよ!」というのもあります。トマトとかひき肉とか、ちょっと洋食屋のシェフっぽいですよね。 「オレが手に入れてやる…! “その領域”…“スピードの向こう側”を… !?」  これもマー坊のセリフです。「スピードの向こう側」というキーワード自体は本作品のいろいろなキャラクターがこぞって使っており、バイク乗りとして真の速さに目覚めたものだけが到達できる(らしい)領域として都市伝説的に語られています。たぶん死にそうな時に、三途の川が見えるのと同じような感じです。 「“支配する者”、“統べる者”、“武丸”さんがお帰りになりましたってよォ…」  目を合わせると即ボコられるようなアブない人ばっかり出てくるイメージのある本作ですが、やはりその中でもダントツのアブなさを誇るのが魍魎の武丸です。その武丸のキングたる貫禄を象徴するセリフがこちら。でも、一番の驚きは武丸さんが「統(す)べる」などといった高度な漢字の“読み”を知っていることなんですが……。 「“事故”る奴は…“不運”(ハードラック)と“踊”(ダンス)っちまったんだよ…」  名ゼリフの多すぎる本作ですが、その中でナンバーワンを挙げるとしたらこれでしょう。横浜最大の族「夜叉神(やしゃがみ)」を統率する総会長、鰐淵春樹さんのセリフ。このセリフのポイントは、「不運」を「ハードラック」、「踊る」を「ダンス」と当てて読ませるところにあります。「ダンスっちまう」とか……どう考えても普通に読んだほうが読みやすいんですが、無理やり押し通すあたりがワニブチさんらしさなのです。  ここまで読んですでにお気づきとは思うのですが、セリフの目立たせたい単語を「“ ”」でくくる技法も本作の特徴となっています。  そんなわけで、伝説の暴走族マンガ『疾風伝説 特攻の拓』をご紹介しました。この作品はヤンキーマンガ、ツッパリマンガを敬遠している人ほど、むしろ読んでほしいです。読み終わる頃にはあなたも、ちょっとしたことですぐキレる、中二病マインドあふれる素敵な大人になれるかもしれません。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>) 「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから

2020年、今度こそ人類は滅亡する!? 伝説のオカルト漫画『MMR マガジンミステリー調査班』を再検証

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『MMR-マガジンミステリー調査班(1)』(講談社)
「話は聞かせてもらった! 人類は滅亡する!!」  皆さんは『MMR マガジンミステリー調査班』という作品をご存じでしょうか? 1990年代に連載されていた「週刊少年マガジン」(講談社)の編集部スタッフがガチンコで「UFO」「超能力」「幽霊」「ノストラダムスの大予言」等のオカルティックなテーマを調査するルポルタージュ漫画です。ネットでよくネタにされているため、リアルタイムで読んでなくても名前ぐらいは知っている人も多いことでしょう。  特にノストラダムスの「1999年人類滅亡説」を作品中で何度も唱えて煽りまくり、99年を迎えようとする当時のマガジン読者たちを恐怖のドン底に陥れたのは今でも語り草となっています。  北朝鮮のミサイル、イスラム国によるテロなど、世界中で新たな脅威が生まれている今、あらためてMMRとはなんだったのかを再評価し、さらにひっそり復活していた2000年以降の新MMRについてもご紹介したいと思います。  MMRとはマガジンミステリー調査班(マガジン・ミステリー・ルポルタージュ)のことで、マガジン編集部内でメンバーが結成されており、隊長のキバヤシ、副隊長のナワヤ、タナカ、イケダ、トマルという5人が主要メンバーです。  彼らが、読者の投稿してくる数々の不思議体験を取材して解明するというのがそもそものコンセプトでしたが、次第にノストラダムスの大予言として知られる「1999年7の月、天より恐怖の大王が現れ、アンゴルモアの大王を蘇らせる……」という有名な一節がクローズアップされ始めると状況が一変。  MMRのリーダー・キバヤシが「そうか! わかったぞ!!」「オレの推測が正しければ…」とトンデモ仮説をブチ上げ、人類が滅亡するだの日本が沈没するだのと大騒ぎ。それを聞いたほかのメンバーが「な、なんだってー!?」と顔面蒼白になり右往左往する……というのが、ほぼ毎回のお約束の展開です。  というわけで、MMRのその華麗なる右往左往……もとい、活躍の遍歴を時系列でご紹介しましょう。 【初期】  最初にMMRが目をつけたのはUFOの存在。とりわけ、宇宙人によって作られたとされるミステリーサークルの解明にご執心となります。しかし、読者の反響がそれほどでもなかったのか、その後はより怪しげな超能力、霊能力の分野に進出。  超能力者・清田益章氏に接触して念写やスプーン曲げをやってみたり、霊媒師・宜保愛子氏(故人)に取材して、臨死体験や幽体離脱の話を聞くなど、実在する有名人への取材を織り交ぜながらリアリティを出していきます。この頃はまだ、それほど地球滅亡のオンパレードではなく、オカルト解明漫画といった趣でした。 【中期】  ある日、メンバーのタナカが持ち込んだ、ノストラダムスの大予言ネタ。これが読者にウケるとみるや、一気にシフトチェンジ。MMRといえばノストラダムスの大予言、というぐらいのキラーコンテンツとなります。  興味のない人からすると、単なる昔のオッサンの戯言にしか見えないノストラダムスの大予言ですが、MMRメンバーはなぜか異常なぐらいに妄信し始めます。 「ムー大陸」「グランドクロス」「風水術」「狂牛病」「ポールシフト」「電磁波」などなど……世界中のありとあらゆる、地球滅亡につながりそうなネタを探してきては、「これは、ノストラダムスの詩の◯章◯番のことだ!」と強引な解釈を行い、「やっぱり1999年に人類は滅亡する!」と、メンバー全員がラストシーンでガビーンとなるパターンを確立。  さらには、もう一つの預言書、「ヨハネの黙示録」まで持ち出してきてダメ押し。完全に99年人類滅亡が確定路線になります。 【後期】  迫り来る99年に、まだなんら回避策が見つかっていないMMRメンバーたちに、明らかに焦りが見え始めます。 「遺伝子組み換え」「2000年問題」「環境ホルモン」「f分の1ゆらぎ」等々、どう考えても無理がありそうなものも、全部人類滅亡説へ関連づけようとする怒涛の攻勢。そんな状況で生まれたキバヤシ隊長の名言が、こちら。 「オレにだって…わからないことぐらい…ある」  というか、これ以外の謎はほとんどはわかってたんだ!? と逆に驚かされるセリフでした。  そして、ついに訪れた99年……結局、何も起きませんでした。  キバヤシ隊長の疲労によるダウンや謎の組織の妨害もあり、そのままMMRは解散となるのですが…… 「これからは一人一人で闘っていくんだ!!」  最終巻では、思いっきり予言を外してるくせになんら悪びれることなく、とっても前向きな感じでエンディングを迎えます。「一人で闘え!」って、急に無責任ですよね。 ■2000年以降の新MMR
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『新世紀黙示録MMR Resurrection』(講談社)
 1999年人類滅亡の予言が見事に外れて解散したはずのMMRが2014年、『新世紀黙示録MMR Resurrection』として復活。初の女性隊員ハシモトも参加し、フレッシュな顔ぶれの新作です。  しかし、99年に人類滅亡がアレだったのはどうオトシマエをつけてくれるのか、復活後のキバヤシ隊長の第一声に注目したいところです。すると、なんと…… 「ノストラダムスは1999年に世界が滅びるとは言っていない!!」 「な……なんだってー!?」  まさかの開き直り。隊長自ら、今までの活動全否定に等しい衝撃発言に、メンバーもそりゃ「なんだってー!?」ってなりますよね。  さらに、追い打ちをかけるようにキバヤシ隊長の解説ですよ。 「1999年こそ、真の恐怖のタネが生まれた年だったんだよ!!」 「恐怖のタネ」って。そんなこと言ったら、なんでも当てはまっちゃうだろ……。結局、復活版MMRの結論としては、「メタンハイドレート」がなんやかんやで危ない! という内容でした。  ちなみにこの単行本には、08年にマガジンに掲載された『新世紀MMR』という作品も収録されており、こちらはなんとMMRのメンバー総入れ替えの設定になっています。新リーダーはヨネムラという編集者で、キバヤシ同様の押しの強さで、「古細菌アーキア」によって12年12月22日に世界が終わる説を主張。まあ、12年も特に人類は滅亡しなかったわけですが。 ■『新生MMR迫りくる人類滅亡3大危機!!』
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『新生MMR迫りくる人類滅亡3大危機!!』(講談社)
 こちらは16年に発売されたばかりの最新の単行本で、12年以降のMMRの活動エピソードが収録されています。  キバヤシが充電期間中に世界中を旅して回った際、インドで出会った友人・チャンドラ。その彼が突然キバヤシ宛に意味ありげな小包を送ってきました。そこに入っていたヒンディー語の手紙を見て、すさかずノストラダムスの予言詩であることを感じ取るキバヤシ。相変わらず敏感なレーダーがついています。  MMRメンバーでチャンドラの送ってきたメッセージを、あれやこれや解読し始めます。友人だったらもっとわかりやすい手紙を送ってこいよ、という突っ込みは、この漫画では無用です。  そして、ついにキバヤシがお約束でこのセリフです。 「そうか、そういうことだったのか…わかったぞ!! 2020年人類破局の真実が…!!」  えー! いきなり2020年に人類が破局する前提!?  というわけで、20年に濃縮ウランを積んだ人工衛星とスペースデブリが衝突して、地球全体が放射能汚染され、死の星となるというのが新たなキバヤシ説でした。  そのほかにも海底火山が噴火して地球大凶変が起こるとか、人工知能がディープラーニングしてナノテクノロジーで襲ってくるとか、今どきのIT用語も取り入れつつ、相変わらず読者をビビらせまくってくる内容となっております。  そんなこんなで、99年、12年と、すでに2回予言を外しているMMR。果たして3度目の正直で、20年の人類破局は本当に当たるのか? ガチなのかギャグなのか、MMRの真の存在意義は今から3年後、東京オリンピックの頃にわかるのかもしれません。 (文=「BLACK徒然草」管理人 じゃまおくん<http://ablackleaf.com/>) 「ザオリク的マンガ読み」過去記事はこちらから