竹内涼真、福士蒼汰、菅田将暉……本名よりもカッコいい!? 実は“芸名”だった若手俳優たち

  芸能界でブレイクするためには、名前はとても大切なもの。それゆえ、イメージに合う芸名をつけ、大成している若手俳優も多い。

 まずは「2017年下半期ブレイク俳優」第1位(オリコン調べ)に選ばれた竹内涼真。“涼”という漢字が涼しげで爽やかな本人のイメージにピッタリだが、実は彼の本名は竹内崚(たけうちりょう)。本名の漢字を変え、一文字付け足す味付けをしている。

「彼は5歳の頃からサッカー漬けの日々を送っており、高校時代には東京ヴェルディのユースチームに所属するほどの選手でした。サッカー推薦で立正大学に入学したものの、その後挫折。しかし持ち前のルックスにより19歳の時に約2,500人の中からファッション誌『mina』(主婦の友社)の専属モデルオーディションでグランプリを獲っています。この受賞時にはまだ竹内崚でしたので、これ以降に現在の芸名である竹内涼真で芸能活動を行うようになったようです」(芸能記者)

 また、3歳年上の美女タレント・MISATOとの熱愛で話題の福士蒼汰も、また芸名だ。彼の本名は非公開だが、素人時代に出ていたヘアカタログでの記載名が「福士翔大(ふくししょうた)」となっており、こちらが本名の可能性が高い。

「福士さんは研音所属ですが、当時は、同じ事務所の先輩に松田翔太さんがいたので名前を変えたと言われています。でも“蒼汰”という漢字のほうがイメージに合っていて、結果オーライですよね」(芸能事務所勤務)

 そして、現在若手俳優の中で一、二を争う売れっ子である菅田将暉も、また芸名だ。彼の本名は菅生大将(すごうたいしょう)。彼が本名を使わないのは、身内の仕事に関係があるという。

「菅田さんの父親は、関西では有名な放送ジャーナリストであり、また経営コンサルタントとしても活動している菅生新さんです。事務所的に父親の色を消したいという考えもあったのと、大将という名前はイケメン俳優として売っていくには少々不向きな名前だとの考えがあったと聞いています」(テレビ局勤務)

 現在は音楽活動のほうにも力を入れている菅田。確かに大将よりは将暉のほうがクールなイメージなのは間違いない。そう考えると、芸名というのは印象を大いに左右する大事なものだということがよくわかる!?

竹内涼真は「おだてないとダメ……」現場スタッフが明かす“人気若手俳優”の意外な素顔

 2014年に放送された『仮面ライダードライブ』(テレビ朝日系)で知名度を上げ、17年前期の朝ドラ『ひよっこ』(NHK総合)にも出演。一躍、人気若手俳優となった竹内涼真。ルックスもさることながら、テレビで見せる優しそうな人柄が受けているが、裏ではあまり評判が良くないという。雑誌ライターはこう明かす。

「以前、竹内と仕事をしたことがあるという編集者から聞いた話なんですが、現場入りのときは明るく『おはようございます』と言うそうです。スタッフにもきちんとあいさつするし、『礼儀正しい若者だな』と思っていたらしいのですが、いざ撮影になると『竹内くん!  カッコいいよ~!』『そう、それ! その表情いいね!』など、撮影中に本人をおだてないとダメだそうです」

 竹内は自身のInstagramで上目遣いの自撮り画像を投稿し、「あざとい!」とアンチファンから批判を浴びたことがある。世間から“イケメン”と言われているだけあって、自身もナルシストな一面を持っているようだ。また、別の編集者からはこんな声も。

「ひとつでも本人の気に入らないことがあると、すぐへそを曲げて不機嫌になるから、『正直、面倒くさい』という声を耳にしたことがあります」

 竹内といえば、『オールスター感謝祭2017』(TBS系)に出演した際、東大生とクイズ対決するコーナーにて、出身大学を聞かれ、「あんまりいいとこじゃないんで、言えないです」と回答。それが「自身の出身大学をバカにした」と反感を買ったことも。裏表のないまっすぐな性格と言えば聞こえがいいが、周囲を不快にするほどであれば、それはまた別だ。

 17年7月期のドラマ『過保護のカホコ』(日本テレビ系)出演から所属事務所の猛プッシュが始まり、同10月期に放送された高視聴率ドラマ『陸王』(TBS系)にも出演。さらに今年は映画『センセイ君主』で主演を務めるなど、その活躍ぶりは若手俳優の中でもNo.1 と言える。しかし、この活躍もメディアが彼を持ち上げてくれたからこそ確立できたはず。もう一度、初心を思い出すべきときではないだろうか。

『陸王』竹内涼真の走り方って、本当に正しいの!? トレーナーに聞いてみると……

 最終回を迎えたTBSドラマ『陸王』。最終回の視聴率は大台の20.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、まさに有終の美を飾った。

 中小企業の足袋業者の社長が縮小化されていく足袋市場からランニングシューズ業界にトライするものの、商売敵の大企業に邪魔され悪戦苦闘していく姿を、主演の役所広司が熱演。ケガから復活しようとするランナー・竹内涼真の姿も、役所の喜怒哀楽と重なり、視聴者には相乗効果となって感動を生んだのだろう。

 ただ、一つ疑問に思うこともあった。

 役所が作る足袋ベースのランニングシューズが、ケガの多い竹内のフォーム修正に役立ち、再びトップランナーに復活するというストーリーだが、現状、足袋をベースにしたシューズを見かけることはほとんどない。『陸王』の事実上のモデルとなった埼玉県・行田に実在する「きねや足袋」の足袋シューズも、池井戸潤の原作本が出版されるまで知名度はほとんどなかった。

 はたして、陸王が提唱したシューズやランニングフォームは、本当に正しいのか? トレーナーに聞いた。

「まずシューズですが、足袋をベースにする発想はいいと思います。『陸王』では、ソールの話に重きが置かれましたが、足袋がベースのシューズですから、つま先にフォーカスすれば、もっとよかったと思います。今の陸上のシューズでは、つま先で地面をかむように走れるシューズが、ほとんどないんです。つま先でかむような作りにすることで、かかと着地を防ぐことができて、足裏全体で着地するミッドフット走法が習得できます」

 実際に、サッカー界でも、ゴンこと中山雅史やドラゴンこと久保竜彦ら、元日本代表のケガを治した動作解析者・夏嶋隆氏も、かかと着地をやめさせるために、足指の感覚が意識できる五本指ソックスなどを履かせていたというエピソードもある。ケガをしにくくするミッドフット走法。そして、そのコツをつかむために足袋のシューズが役立つという説には、整合性がありそうだ。

 では、竹内のランニングフォームはどうだろうか?

「竹内くんは、完全にサッカー選手の走り方ですよね(笑)。基本はミッドフットを意識できていたと思うのですが、スピードを上げるシーンでは、完全にかかと着地になっていました。正しいイメージは、地面を蹴った足のかかとがお尻についてから膝が前に出て、そして足裏全体が地面につく。これの繰り返しをすると、足の歩幅がサッカーでいうメッシのように狭くなり、かかと着地になり辛くなります。ですが、竹内くんは、大きく足を開く大股歩きのように走っていました。そうなると、どうしてもかかと着地になってしまい、ケガにつながります。ラストの走りは、靴の性能とは無関係でしたね」(同)

 そういえば、竹内は高校時代に東京ヴェルディユースに所属していたが、足首のケガでサッカー選手という夢を諦めなければいけなくなったと聞いたことがある。そのケガを誘発した走り方が最終回で浮き彫りになるとは、なんとも皮肉なものだ……。
(文=TV Journal編集部)

『陸王』竹内涼真の走り方って、本当に正しいの!? トレーナーに聞いてみると……

 最終回を迎えたTBSドラマ『陸王』。最終回の視聴率は大台の20.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、まさに有終の美を飾った。

 中小企業の足袋業者の社長が縮小化されていく足袋市場からランニングシューズ業界にトライするものの、商売敵の大企業に邪魔され悪戦苦闘していく姿を、主演の役所広司が熱演。ケガから復活しようとするランナー・竹内涼真の姿も、役所の喜怒哀楽と重なり、視聴者には相乗効果となって感動を生んだのだろう。

 ただ、一つ疑問に思うこともあった。

 役所が作る足袋ベースのランニングシューズが、ケガの多い竹内のフォーム修正に役立ち、再びトップランナーに復活するというストーリーだが、現状、足袋をベースにしたシューズを見かけることはほとんどない。『陸王』の事実上のモデルとなった埼玉県・行田に実在する「きねや足袋」の足袋シューズも、池井戸潤の原作本が出版されるまで知名度はほとんどなかった。

 はたして、陸王が提唱したシューズやランニングフォームは、本当に正しいのか? トレーナーに聞いた。

「まずシューズですが、足袋をベースにする発想はいいと思います。『陸王』では、ソールの話に重きが置かれましたが、足袋がベースのシューズですから、つま先にフォーカスすれば、もっとよかったと思います。今の陸上のシューズでは、つま先で地面をかむように走れるシューズが、ほとんどないんです。つま先でかむような作りにすることで、かかと着地を防ぐことができて、足裏全体で着地するミッドフット走法が習得できます」

 実際に、サッカー界でも、ゴンこと中山雅史やドラゴンこと久保竜彦ら、元日本代表のケガを治した動作解析者・夏嶋隆氏も、かかと着地をやめさせるために、足指の感覚が意識できる五本指ソックスなどを履かせていたというエピソードもある。ケガをしにくくするミッドフット走法。そして、そのコツをつかむために足袋のシューズが役立つという説には、整合性がありそうだ。

 では、竹内のランニングフォームはどうだろうか?

「竹内くんは、完全にサッカー選手の走り方ですよね(笑)。基本はミッドフットを意識できていたと思うのですが、スピードを上げるシーンでは、完全にかかと着地になっていました。正しいイメージは、地面を蹴った足のかかとがお尻についてから膝が前に出て、そして足裏全体が地面につく。これの繰り返しをすると、足の歩幅がサッカーでいうメッシのように狭くなり、かかと着地になり辛くなります。ですが、竹内くんは、大きく足を開く大股歩きのように走っていました。そうなると、どうしてもかかと着地になってしまい、ケガにつながります。ラストの走りは、靴の性能とは無関係でしたね」(同)

 そういえば、竹内は高校時代に東京ヴェルディユースに所属していたが、足首のケガでサッカー選手という夢を諦めなければいけなくなったと聞いたことがある。そのケガを誘発した走り方が最終回で浮き彫りになるとは、なんとも皮肉なものだ……。
(文=TV Journal編集部)

20.5%『陸王』最終回に見たスポ根ドラマとしての完成度と「感動の押し売り感」の正体

 日曜劇場『陸王』(TBS系)も最終回。視聴率は20.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、最後の最後で大台に乗せました。おめでとうございます。数字に恥じない、熱のこもった最終回だったと思います。そんなわけで、振り返りです。

前回までのレビューはこちらから

 世界的アウトドアメーカー・Felixの御園社長(松岡修造)から提案された買収計画を、ギリギリで断った足袋業者・こはぜ屋の宮沢社長(役所広司)。代わりに考えてきた業務提携案には色よい返事をもらえず、新たな取引先を探すべく奔走中です。

 こはぜ屋には独自の技術であるシルクレイがありますが、先日製造機がぶっ壊れたので、最低でも1億円くらいないと生産を再開できません。とあるヘルメットメーカーが話を聞いてくれたりもしましたが、天敵であるアトランティス社(以下、ア社)の小原(ピエール瀧)が裏から手を回し、結局ご破算に。そんな折、例の御園社長から電話がかかってきます。

「ということは、Felixは我々を支援してくれるということでしょうか?」

 一度は断った業務提携を、御園社長は飲むといいます。3億円の融資をすると。ただしその条件は厳しく、返済期限は5年。最初の3年間はFelixからの発注を確約するが、それ以降は一切の保証なし。で、5年で返せなければ、こはぜ屋を乗っ取ると。

 悩む宮沢でしたが、やはり陸王への思いは断ち切れず、この融資を受けることにしました。

 

■アトランティスの茂木、RIIを履く

 

 一方、実業団ランナーの茂木くん(竹内涼真)は、再びア社とサポート契約を結びました。ケガをしたらサポートを打ち切り、治ったら今度は実業団チームそのものを人質にとって契約を迫るア社のやり方には不満タラタラですが、カリスマシューフィッターの村野さん(市川右團次)も「今度のRII(アール・ツー=ア社の看板シューズ)は悪くない」と言ってるので、再起をかける豊橋国際マラソンにはRIIを履いて出場することになります。

 そんな茂木くんを、こはぜ屋一同は応援に行くことに。宮沢社長にとって豊橋国際といえば、レース中にケガに倒れた茂木くんを目の当たりにし、陸王開発に乗り出した思い出の大会。たとえ茂木くんが陸王ではなくRIIを履くとしても、応援したい気持ちに変わりはありません。

 ところで、こはぜ屋にはまだ1足だけ、茂木モデルの陸王が残っています。飯山さん(寺尾聰)が開発したシルクレイに、社長の息子・大地(山崎賢人)が探してきたアッパー素材を、あけみさん(阿川佐和子)たち縫製おばちゃん軍団が縫い付け、カリスマシューフィッター村野さんがカリスマ的な調整を施したスペシャルな陸王です。しかし、今や茂木くんはア社と契約の身。豊橋国際で陸王を履くことは許されません。

 それでも、こはぜ屋一同の思いを知った村野さんは、こっそりこの陸王を茂木に手渡します。「持っていてくれるだけでいいからと。RIIを履くことを知りながら、お前のことを応援したいと、そういう連中の気持ちそのものだ」と。

「心が温かくなります……」

 茂木くんもうれしそうです。

 

■アトランティスの茂木、陸王を履く

 

 そうして迎えたレース当日。RIIを履いて準備に余念のない茂木くんに、大学時代からのライバル・毛塚(佐野岳)が声をかけます。

「おい、完走はしろよ。この前みたいに棄権なんていう無様なオチは許さねえ」

 2年前の豊橋国際で明暗が分かれた茂木と毛塚。それ以降、2人の差は広がるばかりでした。その間、ニューイヤー駅伝で茂木が毛塚に勝る結果を残したこともありましたが、世間の評価は覆っていません。日本人トップなら世界陸上への出場が約束されるこのレース。毛塚にとっては、単なる通過点でしかありませんでした。

 ちなみに、こはぜ屋は会社を休んで社員全員で応援に来ていますが、大地だけはまだ現場についていません。就活中の大地はこの日、当初からの第一志望だった大手企業・メトロ電業の最終面接なのです。終わったら新幹線で来るそうです。

 レース前、練習している茂木くんに、宮沢社長は、神社で願掛けしてもらったという手編みの靴ひもを手渡します。「お守り代わりに、持っててください」と。

 またいたく感動してしまった茂木くん、RIIを脱ぎ捨て「俺はこの陸王を履きます」とア社・小原に宣言。当然、契約違反ですし小原は激怒しますが、どうやら本気のようです。

「今のこはぜ屋さんは、2年前の俺なんです」

 陸王を履いてスタート地点に現れた茂木くんを見て、こはぜ屋一同は超びっくり&大感動。何しろ、履く履かない以前に、この陸王が茂木くんの手に渡っていることすら知らなかったので、ほぼ全員号泣のままレースがスタートします。

 

■マラソンドラマとして見どころ満載

 

 レースは、先行するケニア勢を毛塚と茂木が追う展開。先頭集団から、同大会2連覇中のサイラス・ジュイ(本人)が飛び出すと、毛塚と茂木も集団を置き去りにして三つ巴の状態に。

 40キロ過ぎにサイラスが脚を痛めてリタイア。毛塚と茂木の一騎打ちとなり、最後は茂木が毛塚をかわして優勝を果たします。

 このレースシーンが、単純にスポ根の魅力に満ちていて非常に楽しかったです。

 スタート直前、毛塚は、茂木がRIIから陸王に履き替えていることに気付きます。

毛「結局、そっち履いたんだ」

茂「ああ」

毛「いい靴なんだな、それ」

茂「最高だ」

 これまで、毛塚は陸王を見るたびにバカにしてきました。そして、陸王を履く茂木のこともバカにしてきました。しかしここにきて、ようやく茂木を、そして陸王を認めたのでした。静かなやり取りでしたが、大きな意味を持つシーンです。

 30キロ過ぎ、毛塚は給水を一度飛ばし、勝負に出ます。茂木も毛塚も、かつて箱根を制した登りのスペシャリスト。ゆるい登りが続くこの区間が勝負どころでしたが、給水のタイムロスを嫌ってリスクを取った毛塚がリードします。

 35キロ。先行する毛塚が、今度は給水に失敗。ボトルを落としてしまいます。30キロ地点の給水を飛ばしている毛塚にとっては、致命的なミス。しかし茂木はこれをチャンスと受け取らず、自分のボトルを毛塚に手渡します。なんてフェアな! 実際、マラソン中継ではしばしば見られる光景ですが、ドンピシャな演出です。これで盛り上がらないはずがありません。

 38キロ。もっとも苦しい距離ですが、並走する2人は実に楽しそうです。互いの実力を認め合ったアスリート同士の、2人だけの世界が描かれます。もはや経済ドラマを見ていることも忘れそうです。どこのシューズを履いてるとか、どうでもよくなってきました。

 40キロ。2年前に茂木が倒れた同じ地点で、トップを走るサイラスが脚を痛めました。路上に這いつくばるサイラスを見て、茂木は動揺を隠せません。しかしそこには、宮沢社長と息子・大地の姿がありました。

 茂木にとっても、こはぜ屋にとっても、すべてはこの場所から始まったのでした。

 宮沢が叫びます。

「陸王を信じて走れ、茂木──!」

 ああ、お見事。茂木が勝つことはドラマ的に当然なんですが、ここまで説得力を持ってマラソンシーンを描かれたら、もう感服するしかありません。

 レース後、敗者となった毛塚は茂木に握手を求めます。茂木には、ケガで低迷していたときにサポートスタッフとして参加したレースで、好成績を残した毛塚に握手を求めて無視された記憶があります。その毛塚が、自ら茂木に握手を求めてくるのです。

「つええな……。次は、俺が勝つ」

 なんて爽やか! 清々しいスポ根! 面白かったー!

 

■『陸王』全話における“感動と約束事”のトレードオフ

 

 レース後、勝利者インタビューで茂木くんは、陸王を掲げて「この陸王に支えられました」と、堂々と話します。「こはぜ屋のみなさんに、今日の優勝は捧げたいと思います」と。

 ア社の契約ランナーなのに。まだ契約破棄の手続きだってしてないはずなのに。レースでRIIを履かないだけでも大問題なのに、よりによって競合他社製品を大々的に宣伝している。結果、陸王は大ヒット商品になり、こはぜ屋は工場を増築。Felixからの融資にも返済の目処が立ったようです。一方、ア社の小原は左遷されてしまいました。契約不履行された上に職を解かれる小原さん、かなり不憫です。

 もちろん、インタビューで陸王に感謝を述べる茂木くんの姿はカッコいいし、感動的なんです。だけど、これはないですよ。片方でFelixとこはぜ屋の「買収か業務提携か」という契約の話を何週にも渡って条件の細部までシビアに語っておいて、もう片方で茂木とア社、茂木が所属するダイワ食品とア社との契約について、茂木の「謝罪します」の一言で済ましちゃうというのは、まるで筋が通ってないですよ。

『陸王』では、こうした感動と約束事のトレードオフがしばしば行われてきました。第1話では、おばちゃんたちの行動を献身的な美談として語るために「サービス残業」を肯定する描写がありました。

 第9話では、大地の頑張りを強調しつつ「最後の陸王」を演出するために、タチバナラッセルとの「3月までの契約」をウヤムヤにし、残っているはずのアッパー素材の在庫を消失させてしまいました。

 最終回の茂木の行動も、社会人としてあるまじき行為であることに疑いの余地はありません。ア社や小原のやり方を汚く描いておいて、それをやっつければ、社会通念上むっちゃ非常識な判断を行ったとしても許される、感動できる、という論法です。

 少なくとも上記3つの例は、原作では描かれていません。なぜなら、こうした約束事の破棄は、一方で宮沢が戦っているビジネス上の「清濁併せ飲もうよ感」や「時には妥協も必要だよ感」「契約だからしょうがないよ感」と同居できないからです。一本の作品の中で、求められるビジネスマナーの水準や仕事上の倫理感が一貫していなければ、経済小説として成立しないからです。

 これらの設定を、ドラマの脚本家が追加しました。結果、物語に振り幅が生まれ、見応えのあるシーンが演出されました。エモーショナルでリッチなドラマの一丁上がりです。これ、どちらがいいとか悪いとかいう話ではないです。好みの問題として、このやり方は好みじゃなかった。もっと視聴者を信じていいと思うし、もっと原作を信じていいと思うんです。なんか評判がよろしくないリトグリちゃんの歌なんかより、こういう「感動の押し売り」的なあざとさのほうが、よっぽど没入を妨げる要素だったと思います。

 

■後半の間延び感について

 

 結局最後まで見ていて、もっとも盛り上がったのは第6話のニューイヤー駅伝と今回の豊橋国際マラソンでした。宮沢社長を演じる役所広司は終始すばらしい、まったくすばらしいとしかいいようのない芝居でしたし、トリックスター気味に投入された松岡修造の、なんと達者なことか。風格で役所広司に対抗できる俳優が誕生したというのは、日本の映画・ドラマ界において大きな収穫だと思います。

 それでも、マラソンシーンの興奮には勝らなかった。特に7話以降の間延び感については、ちょっと見ていられないくらいでした。

『陸王』は宮沢社長が判断を繰り返す物語です。ひとつ判断すれば、次の危機が来る。それを判断で乗り越えれば、また新しい危機が来る。その繰り返しの中で、宮沢社長の中に成長が訪れ、判断基準や決断のプロセス、結果に対する熱量が変化していくのが面白いところなんですが、ドラマは宮沢社長目線ではなく、基本的には息子・大地と茂木くん目線で進むので、宮沢社長の内面描写がおざなりになっていた部分があると思うんです。

 深く悩んだり、それなりに周囲に感謝しながら判断を下しているそのプロセスの中で、何度も「ただのヒステリックおじさん」に見えてしまう場面があった。これは物語の構造的な問題なので、作りようによって解決できたかどうかは難しいところだと思うんですが、主人公周辺が盛り上がりに欠けたのは、そんなところが原因なのかなと思います。

 とはいえ、面白かったし、好きな作品ではあるんですよ。第1話からチャキチャキ阿川さんはずっとキュートでしたし、第5話の馬場徹さんの「新しい陸王、完成したら、私、買います」には心底痺れたし、第6話の音尾くんの「バテるに決まっとろうが!(号泣)」には私も泣かされました。大手への就職が決まったのに、こはぜ屋に残ると言った大地と、その大地を諭す社長でもあり父親でもある宮沢の姿もよかった。正直、このレベルで作り込まれた作品って、少ないと思います。豪腕、達人、巨匠……福澤克雄監督と福澤組のみなさんには、どんな賛辞だって惜しくない。だからこそ、なんというか、もうちょい視聴者を信じてほしいと思っちゃうんですよねえ。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

20.5%『陸王』最終回に見たスポ根ドラマとしての完成度と「感動の押し売り感」の正体

 日曜劇場『陸王』(TBS系)も最終回。視聴率は20.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、最後の最後で大台に乗せました。おめでとうございます。数字に恥じない、熱のこもった最終回だったと思います。そんなわけで、振り返りです。

前回までのレビューはこちらから

 世界的アウトドアメーカー・Felixの御園社長(松岡修造)から提案された買収計画を、ギリギリで断った足袋業者・こはぜ屋の宮沢社長(役所広司)。代わりに考えてきた業務提携案には色よい返事をもらえず、新たな取引先を探すべく奔走中です。

 こはぜ屋には独自の技術であるシルクレイがありますが、先日製造機がぶっ壊れたので、最低でも1億円くらいないと生産を再開できません。とあるヘルメットメーカーが話を聞いてくれたりもしましたが、天敵であるアトランティス社(以下、ア社)の小原(ピエール瀧)が裏から手を回し、結局ご破算に。そんな折、例の御園社長から電話がかかってきます。

「ということは、Felixは我々を支援してくれるということでしょうか?」

 一度は断った業務提携を、御園社長は飲むといいます。3億円の融資をすると。ただしその条件は厳しく、返済期限は5年。最初の3年間はFelixからの発注を確約するが、それ以降は一切の保証なし。で、5年で返せなければ、こはぜ屋を乗っ取ると。

 悩む宮沢でしたが、やはり陸王への思いは断ち切れず、この融資を受けることにしました。

 

■アトランティスの茂木、RIIを履く

 

 一方、実業団ランナーの茂木くん(竹内涼真)は、再びア社とサポート契約を結びました。ケガをしたらサポートを打ち切り、治ったら今度は実業団チームそのものを人質にとって契約を迫るア社のやり方には不満タラタラですが、カリスマシューフィッターの村野さん(市川右團次)も「今度のRII(アール・ツー=ア社の看板シューズ)は悪くない」と言ってるので、再起をかける豊橋国際マラソンにはRIIを履いて出場することになります。

 そんな茂木くんを、こはぜ屋一同は応援に行くことに。宮沢社長にとって豊橋国際といえば、レース中にケガに倒れた茂木くんを目の当たりにし、陸王開発に乗り出した思い出の大会。たとえ茂木くんが陸王ではなくRIIを履くとしても、応援したい気持ちに変わりはありません。

 ところで、こはぜ屋にはまだ1足だけ、茂木モデルの陸王が残っています。飯山さん(寺尾聰)が開発したシルクレイに、社長の息子・大地(山崎賢人)が探してきたアッパー素材を、あけみさん(阿川佐和子)たち縫製おばちゃん軍団が縫い付け、カリスマシューフィッター村野さんがカリスマ的な調整を施したスペシャルな陸王です。しかし、今や茂木くんはア社と契約の身。豊橋国際で陸王を履くことは許されません。

 それでも、こはぜ屋一同の思いを知った村野さんは、こっそりこの陸王を茂木に手渡します。「持っていてくれるだけでいいからと。RIIを履くことを知りながら、お前のことを応援したいと、そういう連中の気持ちそのものだ」と。

「心が温かくなります……」

 茂木くんもうれしそうです。

 

■アトランティスの茂木、陸王を履く

 

 そうして迎えたレース当日。RIIを履いて準備に余念のない茂木くんに、大学時代からのライバル・毛塚(佐野岳)が声をかけます。

「おい、完走はしろよ。この前みたいに棄権なんていう無様なオチは許さねえ」

 2年前の豊橋国際で明暗が分かれた茂木と毛塚。それ以降、2人の差は広がるばかりでした。その間、ニューイヤー駅伝で茂木が毛塚に勝る結果を残したこともありましたが、世間の評価は覆っていません。日本人トップなら世界陸上への出場が約束されるこのレース。毛塚にとっては、単なる通過点でしかありませんでした。

 ちなみに、こはぜ屋は会社を休んで社員全員で応援に来ていますが、大地だけはまだ現場についていません。就活中の大地はこの日、当初からの第一志望だった大手企業・メトロ電業の最終面接なのです。終わったら新幹線で来るそうです。

 レース前、練習している茂木くんに、宮沢社長は、神社で願掛けしてもらったという手編みの靴ひもを手渡します。「お守り代わりに、持っててください」と。

 またいたく感動してしまった茂木くん、RIIを脱ぎ捨て「俺はこの陸王を履きます」とア社・小原に宣言。当然、契約違反ですし小原は激怒しますが、どうやら本気のようです。

「今のこはぜ屋さんは、2年前の俺なんです」

 陸王を履いてスタート地点に現れた茂木くんを見て、こはぜ屋一同は超びっくり&大感動。何しろ、履く履かない以前に、この陸王が茂木くんの手に渡っていることすら知らなかったので、ほぼ全員号泣のままレースがスタートします。

 

■マラソンドラマとして見どころ満載

 

 レースは、先行するケニア勢を毛塚と茂木が追う展開。先頭集団から、同大会2連覇中のサイラス・ジュイ(本人)が飛び出すと、毛塚と茂木も集団を置き去りにして三つ巴の状態に。

 40キロ過ぎにサイラスが脚を痛めてリタイア。毛塚と茂木の一騎打ちとなり、最後は茂木が毛塚をかわして優勝を果たします。

 このレースシーンが、単純にスポ根の魅力に満ちていて非常に楽しかったです。

 スタート直前、毛塚は、茂木がRIIから陸王に履き替えていることに気付きます。

毛「結局、そっち履いたんだ」

茂「ああ」

毛「いい靴なんだな、それ」

茂「最高だ」

 これまで、毛塚は陸王を見るたびにバカにしてきました。そして、陸王を履く茂木のこともバカにしてきました。しかしここにきて、ようやく茂木を、そして陸王を認めたのでした。静かなやり取りでしたが、大きな意味を持つシーンです。

 30キロ過ぎ、毛塚は給水を一度飛ばし、勝負に出ます。茂木も毛塚も、かつて箱根を制した登りのスペシャリスト。ゆるい登りが続くこの区間が勝負どころでしたが、給水のタイムロスを嫌ってリスクを取った毛塚がリードします。

 35キロ。先行する毛塚が、今度は給水に失敗。ボトルを落としてしまいます。30キロ地点の給水を飛ばしている毛塚にとっては、致命的なミス。しかし茂木はこれをチャンスと受け取らず、自分のボトルを毛塚に手渡します。なんてフェアな! 実際、マラソン中継ではしばしば見られる光景ですが、ドンピシャな演出です。これで盛り上がらないはずがありません。

 38キロ。もっとも苦しい距離ですが、並走する2人は実に楽しそうです。互いの実力を認め合ったアスリート同士の、2人だけの世界が描かれます。もはや経済ドラマを見ていることも忘れそうです。どこのシューズを履いてるとか、どうでもよくなってきました。

 40キロ。2年前に茂木が倒れた同じ地点で、トップを走るサイラスが脚を痛めました。路上に這いつくばるサイラスを見て、茂木は動揺を隠せません。しかしそこには、宮沢社長と息子・大地の姿がありました。

 茂木にとっても、こはぜ屋にとっても、すべてはこの場所から始まったのでした。

 宮沢が叫びます。

「陸王を信じて走れ、茂木──!」

 ああ、お見事。茂木が勝つことはドラマ的に当然なんですが、ここまで説得力を持ってマラソンシーンを描かれたら、もう感服するしかありません。

 レース後、敗者となった毛塚は茂木に握手を求めます。茂木には、ケガで低迷していたときにサポートスタッフとして参加したレースで、好成績を残した毛塚に握手を求めて無視された記憶があります。その毛塚が、自ら茂木に握手を求めてくるのです。

「つええな……。次は、俺が勝つ」

 なんて爽やか! 清々しいスポ根! 面白かったー!

 

■『陸王』全話における“感動と約束事”のトレードオフ

 

 レース後、勝利者インタビューで茂木くんは、陸王を掲げて「この陸王に支えられました」と、堂々と話します。「こはぜ屋のみなさんに、今日の優勝は捧げたいと思います」と。

 ア社の契約ランナーなのに。まだ契約破棄の手続きだってしてないはずなのに。レースでRIIを履かないだけでも大問題なのに、よりによって競合他社製品を大々的に宣伝している。結果、陸王は大ヒット商品になり、こはぜ屋は工場を増築。Felixからの融資にも返済の目処が立ったようです。一方、ア社の小原は左遷されてしまいました。契約不履行された上に職を解かれる小原さん、かなり不憫です。

 もちろん、インタビューで陸王に感謝を述べる茂木くんの姿はカッコいいし、感動的なんです。だけど、これはないですよ。片方でFelixとこはぜ屋の「買収か業務提携か」という契約の話を何週にも渡って条件の細部までシビアに語っておいて、もう片方で茂木とア社、茂木が所属するダイワ食品とア社との契約について、茂木の「謝罪します」の一言で済ましちゃうというのは、まるで筋が通ってないですよ。

『陸王』では、こうした感動と約束事のトレードオフがしばしば行われてきました。第1話では、おばちゃんたちの行動を献身的な美談として語るために「サービス残業」を肯定する描写がありました。

 第9話では、大地の頑張りを強調しつつ「最後の陸王」を演出するために、タチバナラッセルとの「3月までの契約」をウヤムヤにし、残っているはずのアッパー素材の在庫を消失させてしまいました。

 最終回の茂木の行動も、社会人としてあるまじき行為であることに疑いの余地はありません。ア社や小原のやり方を汚く描いておいて、それをやっつければ、社会通念上むっちゃ非常識な判断を行ったとしても許される、感動できる、という論法です。

 少なくとも上記3つの例は、原作では描かれていません。なぜなら、こうした約束事の破棄は、一方で宮沢が戦っているビジネス上の「清濁併せ飲もうよ感」や「時には妥協も必要だよ感」「契約だからしょうがないよ感」と同居できないからです。一本の作品の中で、求められるビジネスマナーの水準や仕事上の倫理感が一貫していなければ、経済小説として成立しないからです。

 これらの設定を、ドラマの脚本家が追加しました。結果、物語に振り幅が生まれ、見応えのあるシーンが演出されました。エモーショナルでリッチなドラマの一丁上がりです。これ、どちらがいいとか悪いとかいう話ではないです。好みの問題として、このやり方は好みじゃなかった。もっと視聴者を信じていいと思うし、もっと原作を信じていいと思うんです。なんか評判がよろしくないリトグリちゃんの歌なんかより、こういう「感動の押し売り」的なあざとさのほうが、よっぽど没入を妨げる要素だったと思います。

 

■後半の間延び感について

 

 結局最後まで見ていて、もっとも盛り上がったのは第6話のニューイヤー駅伝と今回の豊橋国際マラソンでした。宮沢社長を演じる役所広司は終始すばらしい、まったくすばらしいとしかいいようのない芝居でしたし、トリックスター気味に投入された松岡修造の、なんと達者なことか。風格で役所広司に対抗できる俳優が誕生したというのは、日本の映画・ドラマ界において大きな収穫だと思います。

 それでも、マラソンシーンの興奮には勝らなかった。特に7話以降の間延び感については、ちょっと見ていられないくらいでした。

『陸王』は宮沢社長が判断を繰り返す物語です。ひとつ判断すれば、次の危機が来る。それを判断で乗り越えれば、また新しい危機が来る。その繰り返しの中で、宮沢社長の中に成長が訪れ、判断基準や決断のプロセス、結果に対する熱量が変化していくのが面白いところなんですが、ドラマは宮沢社長目線ではなく、基本的には息子・大地と茂木くん目線で進むので、宮沢社長の内面描写がおざなりになっていた部分があると思うんです。

 深く悩んだり、それなりに周囲に感謝しながら判断を下しているそのプロセスの中で、何度も「ただのヒステリックおじさん」に見えてしまう場面があった。これは物語の構造的な問題なので、作りようによって解決できたかどうかは難しいところだと思うんですが、主人公周辺が盛り上がりに欠けたのは、そんなところが原因なのかなと思います。

 とはいえ、面白かったし、好きな作品ではあるんですよ。第1話からチャキチャキ阿川さんはずっとキュートでしたし、第5話の馬場徹さんの「新しい陸王、完成したら、私、買います」には心底痺れたし、第6話の音尾くんの「バテるに決まっとろうが!(号泣)」には私も泣かされました。大手への就職が決まったのに、こはぜ屋に残ると言った大地と、その大地を諭す社長でもあり父親でもある宮沢の姿もよかった。正直、このレベルで作り込まれた作品って、少ないと思います。豪腕、達人、巨匠……福澤克雄監督と福澤組のみなさんには、どんな賛辞だって惜しくない。だからこそ、なんというか、もうちょい視聴者を信じてほしいと思っちゃうんですよねえ。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

15.7%『陸王』ストーリー停滞、最終回直前で「こはぜ屋」の誰もが信用できなくなっていく……

 17日に放送された日曜劇場『陸王』(TBS系)最終回直前の第9話は25分の拡大版でした。視聴率は15.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と好調ではあるものの、ちょっと伸び悩みな感じです。

 そして視聴率以上に、お話は停滞しています。正直、第6話のニューイヤー駅伝のくだりから急激に進展しなくなった物語にイライラが募るばかりです。瞬間瞬間の画面の強さや俳優さんたちの芝居の良さはあるので、ドラマが出力を失ったわけではありません。だからこそ、フラフラしてる宮沢社長以下こはぜ屋の面々が信用できなくなっていくのがつらいところです。

 というわけで、振り返りましょう。

前回までのレビューはこちらから

 世界的スポーツメーカーFelixの御園社長(松岡修造)に買収話を持ちかけられ、「すぐにでも3億出資する」と言われてホイホイと固い握手をかわしてしまった宮沢社長(役所広司)でしたが、社内からは当然のように猛反発。さらに、銀行の融資担当・大橋さん(馬場徹)からも「(買収されれば)相手の思い通りにするしかなくなる」と諭され、再びフラフラと迷いだします。いわく「買収を受け入れて陸王を続けるか、足袋屋に戻るか」の選択肢しかないといい、「俺は陸王を続けたいんだ」と決意を述べます。

 もっとも強く反発しているのが、これまで宮沢社長に理解を示してきた縫製おばちゃん軍団のリーダー・あけみさん(阿川佐和子)でした。

「私が会社を売ることに賛成することは絶対にない、絶対にない」

 と、大切なことなので2回言ったりします。今回、こはぜ屋パートでは、このあけみさんを説得するだけで、フルに1時間半を使います。長いよ。

 そもそもこのドラマは、こはぜ屋という老舗足袋業者が「100年の暖簾」とやらを“もう守れない”という状況から始まっています。足袋の需要が減って、もうこのままでは先も長くない。だから新規事業を始めなければいけない。よし、「陸王」で頑張ろう。そういう話だったのに、最終回前の大詰めまで来て「足袋屋に戻る」ことへの逡巡が語られる。「足袋屋に戻る」ことは、ドラマの序盤で「イコール倒産」と、すでに定義されているはずなのに、社員がそれを求め、社長も迷う。そりゃ気持ちがわからないわけじゃないけど、3話も引っ張られたら、さすがに嫌気が差してしまいます。あんなにキュートだった阿川さんも、なんだか憎たらしく見えてくる始末です。「感情論じゃどうしようもない」ということを視聴者に一度飲み込ませておいて、今さらそこをグチグチ言われても、ねえ……。

 

■急にアッパー素材が手に入りました

 

 一方、宮沢社長以上に陸王をあきらめられないのが、社長の息子・大地(山崎賢人)です。織物業者・タチバナラッセルの不義理によってアッパー素材の供給が止まることになって以来、一人であちこちの繊維業者、織物業者へ折衝に訪れては、門前払いされる日々。それでも、大地は陸王を作りたくて仕方ありません。初めて自分の人生に意味を与えてくれたのが陸王だった、ということは、ここまで丁寧に描写されているので、よくわかります。この人の行動は、信用できるんです。

 でも、この人はいつも結果が信用できないんだ。この日、アポを取って訪れたタテヤマ織物という会社で、担当者にドタキャンされ、受付で夕方まで待ち続けた大地。その姿をチラ見していたおじさんに会議室に招かれると、いきなり「お手伝いさせていただきます」とアッパー素材の提供を申し出られました。こはぜ屋の財務状況も、現状ソール材であるシルクレイを作る算段がないことも、説明したのかどうか知りませんが、「ある意味ブレイクスルーだ」と、実に物わかりのいいおじさん。社内で検討する必要もないそうです。なぜなら社長だから。しかも、サンプル材を持って帰ってみたら、タチバナ以上の優秀な素材なんだとか。もう、おとぎ話の世界です。

 大地は、1足分だけ残っている茂木モデルの陸王を作りたいといいます。茂木(竹内涼真)といえば、そもそも陸王プロジェクトのきっかけになった実業団選手。ケガこそ克服したものの、記録的には伸び悩んでいる様子。しかも、一度は陸王でサポート契約をしたのに、こはぜ屋の都合でご破算にしてしまった過去もある。まだ応援している気持ちを伝えたいから、陸王を1足作って贈りたいと。そのために、アッパー素材を探してきたのだと。

 あれー? と思ったんですよ。タチバナは確か、こはぜ屋との契約を切るときに「3月までは納品する」と言ってなかったっけと。結果、シルクレイ製造機が火を噴いたことで陸王の製造はストップしましたが、その時点で大量生産をかけているということは、タチバナからの納入も止まってないはず。現時点で「タチバナの素材の在庫がない」という状況があるとすれば、宮沢社長が「製造機がブッ壊れたから、もう素材は買えない。今あるものも返品する」とタチバナに申し出た以外には、あり得ないケースです。あれほど「裏切り者!」と面罵したタチバナに対して、そういう仕打ちをしているわけで、やっぱり信用できない人だよなぁとなってしまう。些末なことではあるんですが、会社と会社との契約云々で散々引き延ばされている中での出来事なので、どうしても気になってしまいました。

■村野さんも坂本さんも信用できなくなった

 

 ただ1足の陸王を茂木くんに納入するため、こはぜ屋はシューフィッター・村野さん(市川右團次)を呼び戻すことに。最初は「茂木を迷わすだけだ」と協力を固辞していた村野さんでしたが、飯山ちゃん(寺尾聰)に何か言われたら、あっさり翻意。出来上がった陸王を見て「1mmカカトを深くして!」とか指示を出したり「完璧です!」と感動してみたり、こちらもブレブレです。

 さらに、買収話を持ってきたベンチャーキャピタルの坂本ちゃん(風間俊介)も手落ちがひどい。宮沢社長が買収ではなく業務提携を模索することにした段になって初めて、これまでFelixに買収された企業がどうなったかを調べる有様です。それまで「買収は有益」「これしかない」「こはぜ屋を守れる」と言い続けてきた坂本ちゃん、実は何も調べてなかったことが露呈しました。坂本ちゃんの提案通り買収されてたら、あっという間に、こはぜ屋はなくなっていたということです。

 こうしたブレを、このドラマでは、セリフの“振り返しの一撃”で逆転させようとしています。誰かのひと言で誰かの心変わりを促し、説得力を生もうとしている。まだ物語の全容が見えていなかった序盤は、それも効果的だったんです。大地が、大橋さんが、あけみさんが、ギュッと力を込めて発するセリフのひとつひとつが、ドラマに大きな展開を与えていたし、そこに爽快感があった。

 でも、ここまで状況が煮詰まっている終盤では、セリフひとつで状況を逆転させる手法に無理が生じているように感じます。物語が、どんどんほころんでいくように見えるのです。

 

■唯一信用できる男・松岡修造

 

 そんな中、Felixの御園社長だけはブレていません。威風堂々とした振る舞いは迫力がありますし、妻の命を奪ったハリケーンの名前を社名にしたというエピソードもサイコっぽくて素敵です。業務提携を持ちかけられたときに「買収の方が簡単」と繰り返す様も、信念が感じられて実に信用できる。なぜ御園社長が信用できるかといえば、まだ出てきたばっかりでよくわからない人だからというだけなんですが、ともあれ『陸王』の最終盤を下支えする見事な配置ですし、松岡さんの演技も要求に十分応えていると感じます。

 ともあれ、次回は最終回。いろんなモヤモヤは忘れて、ただ画面に身を委ねたいと思います。いろいろ書いたけど、楽しんで見ていることだけは間違いないのですよ。ホントに。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

15.7%『陸王』ストーリー停滞、最終回直前で「こはぜ屋」の誰もが信用できなくなっていく……

 17日に放送された日曜劇場『陸王』(TBS系)最終回直前の第9話は25分の拡大版でした。視聴率は15.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と好調ではあるものの、ちょっと伸び悩みな感じです。

 そして視聴率以上に、お話は停滞しています。正直、第6話のニューイヤー駅伝のくだりから急激に進展しなくなった物語にイライラが募るばかりです。瞬間瞬間の画面の強さや俳優さんたちの芝居の良さはあるので、ドラマが出力を失ったわけではありません。だからこそ、フラフラしてる宮沢社長以下こはぜ屋の面々が信用できなくなっていくのがつらいところです。

 というわけで、振り返りましょう。

前回までのレビューはこちらから

 世界的スポーツメーカーFelixの御園社長(松岡修造)に買収話を持ちかけられ、「すぐにでも3億出資する」と言われてホイホイと固い握手をかわしてしまった宮沢社長(役所広司)でしたが、社内からは当然のように猛反発。さらに、銀行の融資担当・大橋さん(馬場徹)からも「(買収されれば)相手の思い通りにするしかなくなる」と諭され、再びフラフラと迷いだします。いわく「買収を受け入れて陸王を続けるか、足袋屋に戻るか」の選択肢しかないといい、「俺は陸王を続けたいんだ」と決意を述べます。

 もっとも強く反発しているのが、これまで宮沢社長に理解を示してきた縫製おばちゃん軍団のリーダー・あけみさん(阿川佐和子)でした。

「私が会社を売ることに賛成することは絶対にない、絶対にない」

 と、大切なことなので2回言ったりします。今回、こはぜ屋パートでは、このあけみさんを説得するだけで、フルに1時間半を使います。長いよ。

 そもそもこのドラマは、こはぜ屋という老舗足袋業者が「100年の暖簾」とやらを“もう守れない”という状況から始まっています。足袋の需要が減って、もうこのままでは先も長くない。だから新規事業を始めなければいけない。よし、「陸王」で頑張ろう。そういう話だったのに、最終回前の大詰めまで来て「足袋屋に戻る」ことへの逡巡が語られる。「足袋屋に戻る」ことは、ドラマの序盤で「イコール倒産」と、すでに定義されているはずなのに、社員がそれを求め、社長も迷う。そりゃ気持ちがわからないわけじゃないけど、3話も引っ張られたら、さすがに嫌気が差してしまいます。あんなにキュートだった阿川さんも、なんだか憎たらしく見えてくる始末です。「感情論じゃどうしようもない」ということを視聴者に一度飲み込ませておいて、今さらそこをグチグチ言われても、ねえ……。

 

■急にアッパー素材が手に入りました

 

 一方、宮沢社長以上に陸王をあきらめられないのが、社長の息子・大地(山崎賢人)です。織物業者・タチバナラッセルの不義理によってアッパー素材の供給が止まることになって以来、一人であちこちの繊維業者、織物業者へ折衝に訪れては、門前払いされる日々。それでも、大地は陸王を作りたくて仕方ありません。初めて自分の人生に意味を与えてくれたのが陸王だった、ということは、ここまで丁寧に描写されているので、よくわかります。この人の行動は、信用できるんです。

 でも、この人はいつも結果が信用できないんだ。この日、アポを取って訪れたタテヤマ織物という会社で、担当者にドタキャンされ、受付で夕方まで待ち続けた大地。その姿をチラ見していたおじさんに会議室に招かれると、いきなり「お手伝いさせていただきます」とアッパー素材の提供を申し出られました。こはぜ屋の財務状況も、現状ソール材であるシルクレイを作る算段がないことも、説明したのかどうか知りませんが、「ある意味ブレイクスルーだ」と、実に物わかりのいいおじさん。社内で検討する必要もないそうです。なぜなら社長だから。しかも、サンプル材を持って帰ってみたら、タチバナ以上の優秀な素材なんだとか。もう、おとぎ話の世界です。

 大地は、1足分だけ残っている茂木モデルの陸王を作りたいといいます。茂木(竹内涼真)といえば、そもそも陸王プロジェクトのきっかけになった実業団選手。ケガこそ克服したものの、記録的には伸び悩んでいる様子。しかも、一度は陸王でサポート契約をしたのに、こはぜ屋の都合でご破算にしてしまった過去もある。まだ応援している気持ちを伝えたいから、陸王を1足作って贈りたいと。そのために、アッパー素材を探してきたのだと。

 あれー? と思ったんですよ。タチバナは確か、こはぜ屋との契約を切るときに「3月までは納品する」と言ってなかったっけと。結果、シルクレイ製造機が火を噴いたことで陸王の製造はストップしましたが、その時点で大量生産をかけているということは、タチバナからの納入も止まってないはず。現時点で「タチバナの素材の在庫がない」という状況があるとすれば、宮沢社長が「製造機がブッ壊れたから、もう素材は買えない。今あるものも返品する」とタチバナに申し出た以外には、あり得ないケースです。あれほど「裏切り者!」と面罵したタチバナに対して、そういう仕打ちをしているわけで、やっぱり信用できない人だよなぁとなってしまう。些末なことではあるんですが、会社と会社との契約云々で散々引き延ばされている中での出来事なので、どうしても気になってしまいました。

■村野さんも坂本さんも信用できなくなった

 

 ただ1足の陸王を茂木くんに納入するため、こはぜ屋はシューフィッター・村野さん(市川右團次)を呼び戻すことに。最初は「茂木を迷わすだけだ」と協力を固辞していた村野さんでしたが、飯山ちゃん(寺尾聰)に何か言われたら、あっさり翻意。出来上がった陸王を見て「1mmカカトを深くして!」とか指示を出したり「完璧です!」と感動してみたり、こちらもブレブレです。

 さらに、買収話を持ってきたベンチャーキャピタルの坂本ちゃん(風間俊介)も手落ちがひどい。宮沢社長が買収ではなく業務提携を模索することにした段になって初めて、これまでFelixに買収された企業がどうなったかを調べる有様です。それまで「買収は有益」「これしかない」「こはぜ屋を守れる」と言い続けてきた坂本ちゃん、実は何も調べてなかったことが露呈しました。坂本ちゃんの提案通り買収されてたら、あっという間に、こはぜ屋はなくなっていたということです。

 こうしたブレを、このドラマでは、セリフの“振り返しの一撃”で逆転させようとしています。誰かのひと言で誰かの心変わりを促し、説得力を生もうとしている。まだ物語の全容が見えていなかった序盤は、それも効果的だったんです。大地が、大橋さんが、あけみさんが、ギュッと力を込めて発するセリフのひとつひとつが、ドラマに大きな展開を与えていたし、そこに爽快感があった。

 でも、ここまで状況が煮詰まっている終盤では、セリフひとつで状況を逆転させる手法に無理が生じているように感じます。物語が、どんどんほころんでいくように見えるのです。

 

■唯一信用できる男・松岡修造

 

 そんな中、Felixの御園社長だけはブレていません。威風堂々とした振る舞いは迫力がありますし、妻の命を奪ったハリケーンの名前を社名にしたというエピソードもサイコっぽくて素敵です。業務提携を持ちかけられたときに「買収の方が簡単」と繰り返す様も、信念が感じられて実に信用できる。なぜ御園社長が信用できるかといえば、まだ出てきたばっかりでよくわからない人だからというだけなんですが、ともあれ『陸王』の最終盤を下支えする見事な配置ですし、松岡さんの演技も要求に十分応えていると感じます。

 ともあれ、次回は最終回。いろんなモヤモヤは忘れて、ただ画面に身を委ねたいと思います。いろいろ書いたけど、楽しんで見ていることだけは間違いないのですよ。ホントに。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

過去最高17.5%! TBS『陸王』好調と相反する“物語の停滞、引き伸ばし”がストレスに……

 日曜劇場『陸王』(TBS系)も第8話。視聴率は17.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と過去最高を記録。2話を残してラストスパートといったところでしょうか。

 今回は、クライマックスのキーマン・御園社長役に大抜擢された松岡修造に大注目でしたが、ずいぶんと引き延ばされたなーという印象でした。というわけで、とりあえず振り返りましょう。

前回までのレビューはこちらから

 奇跡のソール素材・シルクレイの製造機がぶっ壊れたことで、こはぜ屋・宮沢社長(役所広司)が進めてきた新マラソンシューズ「陸王」の開発は完全に行き詰まりました。新たに製造機を作るには1億円の設備投資が必要ですが、そんな融資をしてくれる銀行はひとつもありません。

 そんな折、銀行からベンチャーキャピタルに転職した坂本ちゃん(風間俊介)が、こはぜ屋への買収話を持ってきました。坂本ちゃんといえば、「チーム陸王」の一員としてさまざま尽力してきてくれた人物。そもそも、こはぜ屋に新規事業を提案したのも、シルクレイを見つけてきてくれたのも坂本ちゃんです。坂本ちゃんの存在なくしては、この物語は始まってすらいないのです。『陸王』の中で、坂本ちゃんこそ「神の使い」「大いなる導き手」として、ここまで描かれてきました。

 だからこそ、買収話が持ち込まれたときに、坂本ちゃんを「冗談じゃない!」「必要ない!」と面罵する宮沢社長が、なんだかひどくみっともない人物に見えてしまった。「今回ばかりは坂本ちゃん見損なったよ」と社員に向かって吐き捨てる宮沢社長を、今回ばかりは見損なってしまいました。

 まあ『陸王』というドラマは、そもそもそういう設計なんです。宮沢社長は誰かにそそのかされてお熱を上げ、物事が思い通りに進まなければ酒を飲んで家族や取引先に当たり散らし、誰かが手を貸してくれなければ何も解決できないのに、解決できたら、まるで自分の手柄みたいにニッコニコになる。人と人とのつながりが仕事を成功に導く、といえば耳触りはいいもんですが、要するに他力本願、我田引水の神風主義。そういう男なんです。と、ここまで楽しんできたドラマの主人公を貶めたくなるほど、みっともなかったんですよねえ、坂本ちゃんに対する宮沢社長の態度って。

 

■駅伝大会出場の意味も見出せず

 

 とりあえずなんの解決案もないまま陸王への未練に溺れ、うじうじしている宮沢社長。「行田市民駅伝大会」などにうつつを抜かしているうちに心変わりし、買収を持ちかけてきた世界的スポーツメーカー・Felixの御園社長と会ってみることにしました。今回、ほぼ大半の時間を使って、この心変わりまでが描かれます。実に白々しく、間延びした展開です。

 そうして宮沢社長がうじうじしている間に、実害が出始めます。陸王のサポート契約が消滅した茂木くん(竹内涼真)は大事なレースにミズノの市販品で挑まざるを得ず、一度、陸王によって矯正したフォームが崩れ、大惨敗。一度は見捨てられた大手メーカー・アトランティスから再度サポートの打診を受けますが、意固地になって拒否したりしています。

 一度はみんなの心を動かした宮沢社長の情熱、その「陸王」という夢に縛られて、今度はみんなが不幸になろうとしている。役所広司の芝居が達者すぎることもあって、本当にフラストレーションのたまる回でした。池井戸ドラマといえば、毎回訪れる爽快感こそが魅力なんですが、今回は爽快感ゼロ。リトグリちゃんの「Jupiter」も鳴りません。制作側からしても、ゴリ押ししたい感動ポイントがなかったということです。

 

■満を持して、松岡修造です

 

 なんのかんので、ようやくFelix御園と会うことにした宮沢社長。満を持して、松岡修造の登場です。大物が来るぞ、という重々しいBGMとともに、会議室に御園が入ってきます。

 まず、風格! デカいし、顔が美しくて、目が強い。さすが、混じりっけなしの超絶ボンボンでありながら、テニスという実力社会に飛び込んで結果を残してきただけのことはあります。存在感として、役所広司にまるで引けを取りません。

 そして、演技もわりと自然! 「先じちゅは坂本さんを通して~」とか「御社の技じゅちゅ力です」とか、「つ」の発音が多少アレなことに目をつぶれば、実に堂々とした役者ぶりでした。よくよく考えてみれば、ドラマ初出演とはいえCMではさんざんお芝居してますし、なんかあの“熱血キャラ”だって芝居といえば芝居だろうし、これくらい出来て当たり前なんでしょうけど、この大詰めで松岡さんを持ってきたのはナイスキャスティングだったと思います。

 その御園社長、買収しても、こはぜ屋の名前は残していいといいます。足袋屋も続けていいし、宮沢が社長を続けてもいい。壊れちゃったシルクレイ製造機の新規調達に、3億円の資金を用意する。Felixのマーケティング力をもってすれば、これまで以上に「こはぜ屋」ブランドを広めていくこともできる。まあ、だいたい坂本ちゃんが最初に宮沢社長に相談に来たときに話していたことと同じです。

「宮沢社長、一緒にやりましょう」

 そう言って握手を求める御園の手を、あっさり握り返す宮沢社長。なんなんだよ、って感じですが、まあようやく、2話にわたって停滞していた話が進みましたので、よかったです。

 宮沢社長が帰った後、「あと一押しだな」と言ってニヤリと笑う松岡修造も、実に怪しげで素敵でした。

 あと2話、いよいよ宮沢社長のことが全然信用できなくなってしまったのと、なんだかんだでここまでで一番盛り上がったのが、話の筋に全然関係ない“平瀬(和田正人)の引退レース”だったことが心配ではありますが、あの異様な盛り上がりを超えることができるのかどうか、見守りたいと思います。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

過去最高17.5%! TBS『陸王』好調と相反する“物語の停滞、引き伸ばし”がストレスに……

 日曜劇場『陸王』(TBS系)も第8話。視聴率は17.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と過去最高を記録。2話を残してラストスパートといったところでしょうか。

 今回は、クライマックスのキーマン・御園社長役に大抜擢された松岡修造に大注目でしたが、ずいぶんと引き延ばされたなーという印象でした。というわけで、とりあえず振り返りましょう。

前回までのレビューはこちらから

 奇跡のソール素材・シルクレイの製造機がぶっ壊れたことで、こはぜ屋・宮沢社長(役所広司)が進めてきた新マラソンシューズ「陸王」の開発は完全に行き詰まりました。新たに製造機を作るには1億円の設備投資が必要ですが、そんな融資をしてくれる銀行はひとつもありません。

 そんな折、銀行からベンチャーキャピタルに転職した坂本ちゃん(風間俊介)が、こはぜ屋への買収話を持ってきました。坂本ちゃんといえば、「チーム陸王」の一員としてさまざま尽力してきてくれた人物。そもそも、こはぜ屋に新規事業を提案したのも、シルクレイを見つけてきてくれたのも坂本ちゃんです。坂本ちゃんの存在なくしては、この物語は始まってすらいないのです。『陸王』の中で、坂本ちゃんこそ「神の使い」「大いなる導き手」として、ここまで描かれてきました。

 だからこそ、買収話が持ち込まれたときに、坂本ちゃんを「冗談じゃない!」「必要ない!」と面罵する宮沢社長が、なんだかひどくみっともない人物に見えてしまった。「今回ばかりは坂本ちゃん見損なったよ」と社員に向かって吐き捨てる宮沢社長を、今回ばかりは見損なってしまいました。

 まあ『陸王』というドラマは、そもそもそういう設計なんです。宮沢社長は誰かにそそのかされてお熱を上げ、物事が思い通りに進まなければ酒を飲んで家族や取引先に当たり散らし、誰かが手を貸してくれなければ何も解決できないのに、解決できたら、まるで自分の手柄みたいにニッコニコになる。人と人とのつながりが仕事を成功に導く、といえば耳触りはいいもんですが、要するに他力本願、我田引水の神風主義。そういう男なんです。と、ここまで楽しんできたドラマの主人公を貶めたくなるほど、みっともなかったんですよねえ、坂本ちゃんに対する宮沢社長の態度って。

 

■駅伝大会出場の意味も見出せず

 

 とりあえずなんの解決案もないまま陸王への未練に溺れ、うじうじしている宮沢社長。「行田市民駅伝大会」などにうつつを抜かしているうちに心変わりし、買収を持ちかけてきた世界的スポーツメーカー・Felixの御園社長と会ってみることにしました。今回、ほぼ大半の時間を使って、この心変わりまでが描かれます。実に白々しく、間延びした展開です。

 そうして宮沢社長がうじうじしている間に、実害が出始めます。陸王のサポート契約が消滅した茂木くん(竹内涼真)は大事なレースにミズノの市販品で挑まざるを得ず、一度、陸王によって矯正したフォームが崩れ、大惨敗。一度は見捨てられた大手メーカー・アトランティスから再度サポートの打診を受けますが、意固地になって拒否したりしています。

 一度はみんなの心を動かした宮沢社長の情熱、その「陸王」という夢に縛られて、今度はみんなが不幸になろうとしている。役所広司の芝居が達者すぎることもあって、本当にフラストレーションのたまる回でした。池井戸ドラマといえば、毎回訪れる爽快感こそが魅力なんですが、今回は爽快感ゼロ。リトグリちゃんの「Jupiter」も鳴りません。制作側からしても、ゴリ押ししたい感動ポイントがなかったということです。

 

■満を持して、松岡修造です

 

 なんのかんので、ようやくFelix御園と会うことにした宮沢社長。満を持して、松岡修造の登場です。大物が来るぞ、という重々しいBGMとともに、会議室に御園が入ってきます。

 まず、風格! デカいし、顔が美しくて、目が強い。さすが、混じりっけなしの超絶ボンボンでありながら、テニスという実力社会に飛び込んで結果を残してきただけのことはあります。存在感として、役所広司にまるで引けを取りません。

 そして、演技もわりと自然! 「先じちゅは坂本さんを通して~」とか「御社の技じゅちゅ力です」とか、「つ」の発音が多少アレなことに目をつぶれば、実に堂々とした役者ぶりでした。よくよく考えてみれば、ドラマ初出演とはいえCMではさんざんお芝居してますし、なんかあの“熱血キャラ”だって芝居といえば芝居だろうし、これくらい出来て当たり前なんでしょうけど、この大詰めで松岡さんを持ってきたのはナイスキャスティングだったと思います。

 その御園社長、買収しても、こはぜ屋の名前は残していいといいます。足袋屋も続けていいし、宮沢が社長を続けてもいい。壊れちゃったシルクレイ製造機の新規調達に、3億円の資金を用意する。Felixのマーケティング力をもってすれば、これまで以上に「こはぜ屋」ブランドを広めていくこともできる。まあ、だいたい坂本ちゃんが最初に宮沢社長に相談に来たときに話していたことと同じです。

「宮沢社長、一緒にやりましょう」

 そう言って握手を求める御園の手を、あっさり握り返す宮沢社長。なんなんだよ、って感じですが、まあようやく、2話にわたって停滞していた話が進みましたので、よかったです。

 宮沢社長が帰った後、「あと一押しだな」と言ってニヤリと笑う松岡修造も、実に怪しげで素敵でした。

 あと2話、いよいよ宮沢社長のことが全然信用できなくなってしまったのと、なんだかんだでここまでで一番盛り上がったのが、話の筋に全然関係ない“平瀬(和田正人)の引退レース”だったことが心配ではありますが、あの異様な盛り上がりを超えることができるのかどうか、見守りたいと思います。
(文=どらまっ子AKIちゃん)