安野モヨコ「後ハッピーマニア」、若さを失った“45歳シゲタ”が恐ろしくて笑えない

 「フィール・ヤング」(祥伝社)8月号にて掲載された、新連載「後ハッピーマニア」。かつては稲森いずみと藤原紀香主演でドラマ化もされた、安野モヨコのあの名作『ハッピー・マニア』の続編である。1995~2001年にかけて連載された同作。現在20代である筆者は後追いの読者であるため、当時の盛り上がりを知り得ないのだが、今回「フィール・ヤング」8月号が完売状態になって、そのため同誌の次号に再掲載されるといった事態から、その求心力の強さを感じることができる。

 16年ぶりに姿を現した主人公・シゲタと、友人・フクちゃんである。シゲタは45歳だし、たしかフクちゃんは彼女の6つ上、つまり51歳! よって、2人の目の周りには容赦なく小ジワが刻み込まれているし、久しぶりに姿を現す連載初回とあってか、互いの風貌に対するセリフも多い。新たな男が入れ代わり立ち代わり現れる程度には、見た目の良い若いおねえちゃんとして描かれていた、かつての2人を知っているからこそ、あまりにも克明に描かれる女の酷なリアルに怯みかけたが、美顔器でガンガンスチームを焚いていたフクちゃんが、こうなるのだ。ましてや、それを描いているのは『美人画報』(講談社)の安野先生だ。「美容にどれだけ費やそうと、老いは必ずやってくる。そこはもう抗い切れないから!」というメッセージを感じとり、前向きに開き直るマインドを授かったのは、筆者の間違いか。

 しかしとにかく、今作のキモ「後ハッピーマニア」に漂う悲壮感の在り処は、そこじゃないのだ。

 若さを失ったシゲタにハッピー要素はあるか?

 「ふるえるほどのしあわせってどこにあるんだろう これからもそれを探していくのかな」――自身にゾッコンLOVEな男・タカハシと結ばれ、結婚式を挙げようとする寸前の、シゲタのこうしたモノローグで前作『ハッピー・マニア』は終わった。そして、そのタカハシに「好きな人ができた」と離婚を申し出され、かつてのごとくフクちゃんのところへ泣きつきに行くところから、今回の「後ハッピーマニア」は始まる。

 「45歳で離婚で無職…」と、自分が身ひとつである様に肝を冷やすシーンがあったが、シゲタが丸腰なのは今に始まったことじゃない。「すてきな奥さん」になることを夢に見て、いい男とのセックスチャンスを追いかける傍らで、書店店員、陶芸家のアシスタント、美容部員、試食販売員、水商売、編集アシスタントと何のキャリアも積まず職を転々。現実にはおそらくできっこない、家賃を4カ月滞納する場面だってあったが、それらのどんなシーンも『ハッピー・マニア』がギャグマンガだから見ていられた。

 しかし、そのギャグを支えていたのは、ほかでもない20代後半女性・シゲタカヨコの若さ、そこから漲るバイタリティではなかったか。全財産が7,000円でも無職でも、ヤった男に嫁がいてもボケていられたのは、まだまだ可能性の秘められた明日がやって来たからではなかったか。若さを失ってなおガチで丸腰のシゲタを、一体誰が笑えるのだ。

 正直言って、今回の「後ハッピーマニア」、懐かしい顔ぶれに再会できること以外、ハッピー要素が皆無なのである。どーしようもない女が家庭に収まってなんとかやってると思ってたら、最悪の状態で出戻ってきたこの事態。ましてや、唯一の友人と言っても過言ではないフクちゃんとも、ここ5年ほど会っていなかったという。子どもは作っていないようだし、この15年間、マジで一体なにして過ごしてたんだよ、シゲタ……。

 現在ちょうど「ハッピー・マニア」時代のシゲタと同じ年の頃を生きる読者としては、「自分の幸せを結婚の一本柱で構成させるのはやめとけ」という教訓と共に、「失くなりゆく若さを引き換えに、何かを得なければ……」という強迫観念を連れて、じんわりとした腹痛を呼び起こさせる、恐ろしい1話なのだった。

 次回作が描かれるのは、現在連載中の「鼻下長紳士回顧録」次巻を描き上げた後、おそらく来年あたりになるとのこと。最強に焦れったいけど、首を長くして余裕で待つ!
(岡山今日子)

渡辺直美『カンナさーん!』瑛太『ハロー張りネズミ』今が旬のマンガ63作をタダ読み!

 7月期ドラマがスタートし、初回放送後から早くも人気作とイマイチな作品の評価が分かれてきましたね。ドラマが発表されたと同時に「絶対コケる!」といわれていた、渡辺直美主演の『カンナさーん!』(TBS系)は意外にも視聴率で健闘し、ネットでは「ハマり役!」「原作も好きだけどドラマもいい!」と評判となっている様子。瑛太主演でV6・森田剛も出演する『ハロー張りネズミ』(同)も、探偵としてタッグを組む2人の掛け合いが魅力的だとファンが増加中のよう。そして、深夜帯ながらマニアックなファンに支持されてるのは、くりぃむしちゅーの有田哲平主演の異色ドラマ『わにとかげぎす』(同)。

 これら3作品に共通してるのは、人気のコミックが原作だという点。『カンナさーん!』は「YOU」(集英社)で連載された作品で、『ハロー張りネズミ』は弘兼憲史が原作、『わにとかげぎす』も根強いファンを抱える古谷実の作品です。ドラマだけでも面白いのに、原作マンガは一体どれほど刺激的なの? と気になるのがテレビ好きの性ですが、実はこれら話題作が無料で読みちゃう裏ワザがあるんです! 

 電子書籍配信サービス「めちゃコミック」が7月28日から実施しているキャンペーンでは、これらドラマ原作マンガのほかに、豪華キャストで大ヒット中の映画『銀魂』、小栗旬主演の映画『君の膵臓をたべたい』、窪田正孝主演の映画『東京喰種 トーキョーグール』など、この夏まさに旬な映画の原作マンガを無料で公開中。ほかにも、夏にふさわしい刺激的でエッチなTLもラインナップに並び、全部でなんと63作品がタダ読み可能なんです。月間950万人が利用する電子書籍サービスだから、安心して利用できるのもうれしいところ。

 今回は、63作品の中からサイゾーウーマン的に要チェックなタイトルをピックアップしてみました!

 Hey!Say!JUMP・知念侑李主演! 映画『坂道のアポロン』原作

sakamitinoaporon

 父親を亡くし、横須賀から地方の高校へ転校した薫。寡黙で優等生の薫は、転校初日に“札付きの不良”といわれる千太郎と出会い、ジャズの魅力に引き込まれていく。1960年代後半の時代を舞台に描く、恋と友情と音楽の青春物語。主人公の薫を知念が演じ、千太郎は中川大志が務める。「このマンガがすごい!2009」オンナ編第1位、『第57回小学館漫画賞』受賞。yondemiru

 日本の風俗嬢は35万人!? 『リアル風俗嬢日記~彼氏の命令でヘルス始めました~』

riaruhuzokujyo

 ヘルスってどんな店? 風俗嬢の講習って? 女だからこそ知らない風俗の世界を、ヘルス嬢歴3年の作者がコミックエッセイでつづる。20~34歳の女性の28人に1人が風俗嬢ともいわれている現代だからこそ、知られざる仕事内容を学んでおきたい。男の生態も丸裸に。
yondemiru

名作文学をエロ仕立て! 『まんがグリム童話 金瓶梅』

kinpeibai 中国の古典で、好色文学として知られる「金瓶梅」をマンガに仕立て直した作品。資産家の西門慶はイケメンで性欲旺盛、SでもありMでもり、獣プレイも嗜む性豪。6人の妻たちは、そんな西門を自分の部屋へ呼び寄せ寝ようと、あの手この手でほかの女を蹴落とそうとする。西門家の召使や、資産に群がる情報屋なども登場し、ドロドロの人間関係と果てない性欲を描く。
yondemiru

※当記事はPR記事です

大人の女性向けBLレーベル誕生! ノンケ攻略系ストーリーが好きなアナタ必見の2作

 BL好きに朗報! 3月に電子出版レーベルのモバイルメディアリサーチから、新しいBLレーベル「caramel(カラメル)」が新装刊されます。テーマは「甘エロBL」で、20~30代の大人の女性をターゲットに、きゅんきゅんする甘いラブストーリーと、ちょっと過激なエッチが楽しめる、描き下ろしBL作品を取り揃えているそう。今回は続々とリリースが開始される作品の中から、選りすぐりの2作品を紹介します。

◎キミのお尻にフォーリンラブ!? 『お尻のお医者さんが、俺の後ろを狙ってる!?』

 先生との出会いは電車の中でした――。肛門科クリニックを開設している医師・桃木史郎は理想の尻を追い求める御尻ハンター。そんな先生と偶然出会った、尻に問題を抱えるイケメンホスト坂真仁とのちょっと変わった純愛ラブストーリー『お尻のお医者さんが、俺の後ろを狙ってる!?』。

 出会いは電車の中でのちょっとしたイザコザ。お尻のトラブルから苛立つ仁は桃木先生にイチャモンをつけてしまいます。しかし、その後すぐに患者と医師としてクリニックで再会。患者となった仁のお尻を診察した桃木先生は、いままで探し求めていた理想の美尻にゾッコンラブ! 一方、肛門を好きなように弄られる仁は、初めて感じる刺激に何度もイカされ意識を飛ばしてしまう。「美しいお尻はナカまで美しい」と仁のお尻を堪能する桃木先生。

 そんなある日、仕事帰りに病院を訪れた仁のTバック姿に、ノックダウン寸前の桃木先生はお尻弄りをエスカレート! いつも以上に感じてしまった仁は、とうとう「もっと奥に――」という欲求を吐露してしまいます。その言葉を聞いた桃木先生の感情は大爆発! 理想の美尻に顔を埋め、恍惚の表情を浮かべる先生。そして2人はついに一線を越えてしまうのです。

 めでたく結ばれたものの、2人の関係は必ずしも順風満帆とはいかないようで……。意外に純な2人の気持ちは、どんな終着点へとたどり着くのでしょうか?

◎夢の扉を開いた先はピンクの世界でした!『ポルノスターは言うこときかない。』

 お次は、映画監督を夢見るノンケ青年を落とす、ゲイAV男優のお話『ポルノスターは言うこときかない。』です。

 映画監督になるのが夢の青年が飛びついた扉の先に広がっていたのは、AVの世界でした。半ば騙された形でゲイAVの監督になるように仕向けられた青年、武藤。そこで出会ったのは、ガウンにノーパンという出で立ちで現れた看板男優の咲間。映像作品としてのAVのあり方で対立する両者。「口だけ立派なやつ」と咲間に言われた武藤は、その場を逃げ出してしまいます。しかし、撮影してくれる監督が必要な咲間は、武藤の家を訪れるのです。

 会社との契約書類を持って家の前で待っていた咲間。「家に上げろ! 上げなければ契約書を破くぞ」という彼に押し切られ、しぶしぶ家に上げる武藤。最初は「ゲイを家に上げるなんて……」と思っていた武藤ですが、お互いマイナーな海外ドラマを好きだということで意気投合。友人のような雰囲気になり、武藤は咲間に「どうしてゲイのAV男優をやっているのか」と聞いてしまうのです。「なりゆき」と答える咲間は、マイノリティーであることについて語り出します。意外にきちんと考えている咲間に感心する武藤。

 この作品の萌えポイントは、「試してみよう」という咲間に押し切られる形でキスをした武藤が、「別に普通なんだな」と言うところではないでしょうか? それまで「ゲイなんて!」と思っていた武藤が新しい扉を開けた瞬間です。

 さらに、監督と脚本家を兼任しなければいけないということが発覚。ゲイのAVなんか全然わからないという武藤を助けるため、家にやってきた咲間に道具で攻められて――。

 夢見る青年がイケメンAV男優に翻弄されるストーリー。萌えポイントが無数に点在しています。ノンケ落ち好きな人にオススメの作品です!

 『お尻のお医者さんが、俺の後ろを狙ってる!?』『ポルノスターは言うこときかない。』この2作品は、ノンケがネコに転身するシチュ萌えモノ。ノンケのネコ落ちが好きな人、必見です!

※この記事はPR記事です

『東京タラレバ娘』で“説教芸”に興じる東村アキコは、愚かなお笑い芸人のようだ

3月22日に最終回を迎える『東京タラレバ娘』(日本テレビ系)。ドラマの内容が話題になる中、漫画は発売当初からそのメッセージ性に対する議論が巻き起こってきました。8巻が4月に発売予定で、ドラマが最終回を迎えようとする中、同漫画について少女マンガ研究家の小田真琴が語ります。

◎女性を罰しつつ、言い訳を繰り返す東村
 筆が重いし、気も重い。東村アキコ先生のことは大好きだった。おしゃれすることの喜びに溢れた『きせかえユカちゃん』(集英社)、ウイング関先生という稀代のオタクキャラを創造した『ひまわりっ ~健一レジェンド~』(講談社)、そして最高傑作と言っても過言ではない『かくかくしかじか』(集英社)。どれもマンガ史上に残る傑作であるし、個人的にも思い出深い作品ばかりだ。ところが『東京タラレバ娘』(講談社/以下、タラレバ)と来たらどうだろう。これは女性を罰し、自己責任を押しつけ、主体性を奪うマンガではないのか。私には今の東村先生が、売れた途端にスーツをまとい、万能感を持って偉そうに世相を斬り始める愚かなお笑い芸人のように見える。

 序盤こそ強く、切れ味鋭いメッセージを次々と繰り出して、いかにも瞬発力の作家である東村先生らしい作品だと感じ入ったのだ。ところが物語が続くうちに疑問ばかりが募りゆく。それは主に卑劣なダブルスタンダードによるものだ。

 たとえばあとがき。東村先生の「おまけマンガ」と言えば、バルセロナ五輪男子マラソン銀メダリスト・森下広一選手への一方的な愛を『海月姫』(講談社)1巻から3巻にわたって描いた「クラゲと私とバルセロナ」をはじめとして名作揃いなのだが、タラレバのそれにおいては醜悪な言い訳が冗長に展開される。いわく、「別に私は『女は結婚しなきゃダメ』とか『女の幸せは男で決まる』とか『結婚できない女はかわいそう』なんて全く思ってません」とのこと。

 一方、本編では平気でこんなことを言ってのける。「30過ぎたら女は『愛する』よりも『愛される』幸せを選ぶんタラ!!」「酔って転んで男に抱えて貰うのは25歳までだろ。30代は自分で立ち上がれ。もう女の子じゃないんだよ? おたくら」「才能なんて関係ないんタラレバーッ。そうレバ、この世は金とコネと……そして女は若さと美しさタラ!!!」「女は結婚すればセコンドにまわって、旦那さんや子供をサポートしながら応援して生きていくレバ」。

 縄文人もびっくりの時代錯誤な言動である。主人公・倫子の妄想の中に現れるキャラクター・タラとレバや、ヒーロー役らしきイケメンモデル・KEYのこれらの言葉に、アラサー女性が打ちのめされるというのが本作の基本的な構図だが(一応は「女性蔑視だよ、それ」なんて反論したりもするが、その声はすぐにかき消される)、どうやら作者は「おまけマンガ」で言い訳をすれば何を言ってもいいものと勘違いしている様子だ。たとえば『キングダム』(集英社)の原泰久先生が、あとがきで「でも人殺しはよくないよ!」などと書くだろうか。あるいは、『あなたのことはそれほど』(祥伝社)のいくえみ綾先生が「不倫絶対ダメ!」などと書くだろうか。それは本編で引き受けるべき問題であり、作品のクオリティに直結する問題である。

 タラレバのメッセージらしきものの大半は明らかに女性差別であり、完全にアウトだ。しかしこうした保守反動的な言葉は、一部の読者には熱狂的に受け容れられた。「刺さる~刺さる~」と彼女らは言う。しかし彼女らは「刺さる~」と言いたいだけではないのか。作者との説教プレイに興じたいだけではないのか。それが証拠にテレビドラマの視聴率は、恋愛パートが比重を増した第7話で視聴率が2%近く下降し、1ケタ台が目前となった。

 そもそもからしてこの作品はキャラクターもストーリーも非常に弱い。さんざん引っ張ったKEYのトラウマ話も驚くほど陳腐で、世界的な映画監督とされる堂越はてっきり『メロぽんだし!』(講談社)のトミーさん的なお笑いキャラだと思ってしまったほどである。男性キャラは総じて書き割りのようで、女性キャラの生臭さとのバランスは至極悪い。

◎陳腐な色恋展開、設定間違いの雑さが目につく
 極めつきは本筋となるべき倫子とKEYの色恋沙汰である。1巻でKEYは倫子の脚本を「あまりにもご都合主義でおめでたくて、なんで30越えたおばさんがこの2人の男に一方的に言い寄られるのか、あまりにもリアリティがなさすぎだなって、そう思っちゃったんですけど」と評しているが、これは昨今のタラレバの展開にこそ当てはまる話だ。あまりにも露骨なので、もしかしたらこれが何らかの伏線になっているのかもしれないが、だからと言って展開の陳腐さが許容されるわけではない。ちなみに「ユリイカ」(青土社)平成29年3月臨時増刊号「総特集☆東村アキコ」の本人インタビューによると、KEYが「私自身の化身というか、もし自分がこういう美青年だったら、タラレバ娘たちにこう言ってただろうな、という想像で描いています」とのことである。となると、本作はなかなかに入り組んだメタ構造を抱えているということにはなる。

 細部の詰めも甘く、単行本1巻ACT1では大卒の設定だった倫子が、「KISS」3月号に掲載された「番外編 ビフォータラレバ娘」では専門卒になっていたり、「ビオのシャルドネ」がどうのこうのと言っていた早坂が、7巻ACT23ではカヴァも知らない男に成り下がっていたりと、雑な仕事ぶりが目につく。

 これらの瑕疵が悪目立ちするのは、ひとえに本作においては東村先生の最大の武器であるギャグ要素が希薄であることが原因である。決して恋愛が描けない作家ではない。『ひまわりっ ~健一レジェンド~』や『主に泣いてます』(講談社)で見せた、恋する者の感動的な愚直さは、あのギャグの奔流の中でこそ描き得たものなのだ。ところが恋愛要素だけで勝負しようとすると途端に風景は寒々しくなる。これは同時連載中の『海月姫』にも言えることであり、ラブストーリーではないものの最近作の『雪花の虎』(小学館)や『美食探偵 明智五郎』(集英社)がぱっとしない一因でもある。

 女性差別的なセリフを乱発した不愉快な前半から、陳腐なラブストーリーを物語る退屈な後半へ。現在までのタラレバを要約するならばそういうことになるだろう。どちらがマシかと言えば作者の語り口が活きていたという点において前半ではあるのだが、それすらもまどろっこしいエクスキューズのせいで相殺されている。東村先生は一体何がしたいのだろうか。

◎「刺さる~」と言いたい人だけが読めばいい
 おそらく周囲が、読者が喜んでくれるからそうしているだけなのだ。結婚や恋愛に関して一貫した強いメッセージがあるわけではない。それは「おまけマンガ」で自ら述べているとおりである。では本編のあの言葉たちは何なのかと言えば、求められるからやっただけの(おそらくは『ひまわりっ ~健一レジェンド~』の副主任をルーツとする)説教芸なのだ。その様子もやはり「おまけマンガ」で言い訳されている。1巻では東京オリンピックが決まった直後に「結婚したい」と言い始めたという周囲の女性が、2巻では本作を読んで不安になったという女性芸人たちとの交遊録が(以前はこんなもの描く人じゃなかったのに……)、4巻や7巻では結婚したいと言う女性に道端で突然声を掛けられるエピソードが描かれている。いずれも「求められて仕方なくやった」という体だ。

 余談だが、ある女友達がこんなことを言っていた。「年下の女が年上の女とコミュニケートするときって『結婚したいんです~』とか言っておくのがいちばんラクなんだよ」と。確かにそれは社会的地位も結婚歴もある年上の女性に対して、下手に出つつ、先輩を立てつつ、円滑なコミュニケーションを成立させるためのよい方法であるように思える。特に酒席においては。

 タラレバを読んで腹が立った、傷ついた、ショックを受けたという人は、どうか今すぐ読むのをやめてほしい。これはあなたたちのための物語ではない。「刺さる~」と言いたい人だけが読めば良い。これは単なる酒の席での与太話だ。それは作者が批判する「女子会」にも劣る、人を不快にさせるだけの不毛な交流である。世界にはもっとすてきなマンガがたくさんある。

 タラレバをたまたま読んで我が意を得たりとニヤついている中高年男性は、勘違いをしないでいただきたい。アラサー/アラフォー女性の現実であり総意であるかのように描かれているが、実際はそうではない。あなた方が周囲の女性とうまくコミュニケートできないのだとしたら、それは女性の側の問題ではなく、あなたの雑な現状認識に起因するものだ。

 マンガはマジョリティのエンタテインメントでありコミュニケーションツールであると同時に、はぐれ者たちにとっての自由の王国でもある。かつて『ひまわりっ ~健一レジェンド~』ではぐれ者たちの底抜けに楽しい日々を描いたのは、ほかならぬ東村先生ではなかったか。他者の生を罰し、毀損し、自由に対して制限をかけようとするマンガを、私は心底軽蔑する。今後タラレバが自己肯定と自由のマンガとなるわずかばかりの可能性を願いつつ、筆を置く。

小田真琴
(おだ・まこと)
女子マンガ研究家。1977年生まれ。男。片思いしていた女子と共通の話題が欲しかったから……という不純な理由で少女マンガを読み始めるものの、いつの間にやらどっぷりはまって、ついには仕事にしてしまった。自宅の1室に本棚14竿を押しこみ、ほぼマンガ専用の書庫にしている。「SPUR」(集英社)にて「マンガの中の私たち」、「婦人画報」(ハースト婦人画報社)にて「小田真琴の現代コミック考」連載中。

『東京タラレバ娘』で“説教芸”に興じる東村アキコは、愚かなお笑い芸人のようだ

3月22日に最終回を迎える『東京タラレバ娘』(日本テレビ系)。ドラマの内容が話題になる中、漫画は発売当初からそのメッセージ性に対する議論が巻き起こってきました。8巻が4月に発売予定で、ドラマが最終回を迎えようとする中、同漫画について少女マンガ研究家の小田真琴が語ります。

◎女性を罰しつつ、言い訳を繰り返す東村
 筆が重いし、気も重い。東村アキコ先生のことは大好きだった。おしゃれすることの喜びに溢れた『きせかえユカちゃん』(集英社)、ウイング関先生という稀代のオタクキャラを創造した『ひまわりっ ~健一レジェンド~』(講談社)、そして最高傑作と言っても過言ではない『かくかくしかじか』(集英社)。どれもマンガ史上に残る傑作であるし、個人的にも思い出深い作品ばかりだ。ところが『東京タラレバ娘』(講談社/以下、タラレバ)と来たらどうだろう。これは女性を罰し、自己責任を押しつけ、主体性を奪うマンガではないのか。私には今の東村先生が、売れた途端にスーツをまとい、万能感を持って偉そうに世相を斬り始める愚かなお笑い芸人のように見える。

 序盤こそ強く、切れ味鋭いメッセージを次々と繰り出して、いかにも瞬発力の作家である東村先生らしい作品だと感じ入ったのだ。ところが物語が続くうちに疑問ばかりが募りゆく。それは主に卑劣なダブルスタンダードによるものだ。

 たとえばあとがき。東村先生の「おまけマンガ」と言えば、バルセロナ五輪男子マラソン銀メダリスト・森下広一選手への一方的な愛を『海月姫』(講談社)1巻から3巻にわたって描いた「クラゲと私とバルセロナ」をはじめとして名作揃いなのだが、タラレバのそれにおいては醜悪な言い訳が冗長に展開される。いわく、「別に私は『女は結婚しなきゃダメ』とか『女の幸せは男で決まる』とか『結婚できない女はかわいそう』なんて全く思ってません」とのこと。

 一方、本編では平気でこんなことを言ってのける。「30過ぎたら女は『愛する』よりも『愛される』幸せを選ぶんタラ!!」「酔って転んで男に抱えて貰うのは25歳までだろ。30代は自分で立ち上がれ。もう女の子じゃないんだよ? おたくら」「才能なんて関係ないんタラレバーッ。そうレバ、この世は金とコネと……そして女は若さと美しさタラ!!!」「女は結婚すればセコンドにまわって、旦那さんや子供をサポートしながら応援して生きていくレバ」。

 縄文人もびっくりの時代錯誤な言動である。主人公・倫子の妄想の中に現れるキャラクター・タラとレバや、ヒーロー役らしきイケメンモデル・KEYのこれらの言葉に、アラサー女性が打ちのめされるというのが本作の基本的な構図だが(一応は「女性蔑視だよ、それ」なんて反論したりもするが、その声はすぐにかき消される)、どうやら作者は「おまけマンガ」で言い訳をすれば何を言ってもいいものと勘違いしている様子だ。たとえば『キングダム』(集英社)の原泰久先生が、あとがきで「でも人殺しはよくないよ!」などと書くだろうか。あるいは、『あなたのことはそれほど』(祥伝社)のいくえみ綾先生が「不倫絶対ダメ!」などと書くだろうか。それは本編で引き受けるべき問題であり、作品のクオリティに直結する問題である。

 タラレバのメッセージらしきものの大半は明らかに女性差別であり、完全にアウトだ。しかしこうした保守反動的な言葉は、一部の読者には熱狂的に受け容れられた。「刺さる~刺さる~」と彼女らは言う。しかし彼女らは「刺さる~」と言いたいだけではないのか。作者との説教プレイに興じたいだけではないのか。それが証拠にテレビドラマの視聴率は、恋愛パートが比重を増した第7話で視聴率が2%近く下降し、1ケタ台が目前となった。

 そもそもからしてこの作品はキャラクターもストーリーも非常に弱い。さんざん引っ張ったKEYのトラウマ話も驚くほど陳腐で、世界的な映画監督とされる堂越はてっきり『メロぽんだし!』(講談社)のトミーさん的なお笑いキャラだと思ってしまったほどである。男性キャラは総じて書き割りのようで、女性キャラの生臭さとのバランスは至極悪い。

◎陳腐な色恋展開、設定間違いの雑さが目につく
 極めつきは本筋となるべき倫子とKEYの色恋沙汰である。1巻でKEYは倫子の脚本を「あまりにもご都合主義でおめでたくて、なんで30越えたおばさんがこの2人の男に一方的に言い寄られるのか、あまりにもリアリティがなさすぎだなって、そう思っちゃったんですけど」と評しているが、これは昨今のタラレバの展開にこそ当てはまる話だ。あまりにも露骨なので、もしかしたらこれが何らかの伏線になっているのかもしれないが、だからと言って展開の陳腐さが許容されるわけではない。ちなみに「ユリイカ」(青土社)平成29年3月臨時増刊号「総特集☆東村アキコ」の本人インタビューによると、KEYが「私自身の化身というか、もし自分がこういう美青年だったら、タラレバ娘たちにこう言ってただろうな、という想像で描いています」とのことである。となると、本作はなかなかに入り組んだメタ構造を抱えているということにはなる。

 細部の詰めも甘く、単行本1巻ACT1では大卒の設定だった倫子が、「KISS」3月号に掲載された「番外編 ビフォータラレバ娘」では専門卒になっていたり、「ビオのシャルドネ」がどうのこうのと言っていた早坂が、7巻ACT23ではカヴァも知らない男に成り下がっていたりと、雑な仕事ぶりが目につく。

 これらの瑕疵が悪目立ちするのは、ひとえに本作においては東村先生の最大の武器であるギャグ要素が希薄であることが原因である。決して恋愛が描けない作家ではない。『ひまわりっ ~健一レジェンド~』や『主に泣いてます』(講談社)で見せた、恋する者の感動的な愚直さは、あのギャグの奔流の中でこそ描き得たものなのだ。ところが恋愛要素だけで勝負しようとすると途端に風景は寒々しくなる。これは同時連載中の『海月姫』にも言えることであり、ラブストーリーではないものの最近作の『雪花の虎』(小学館)や『美食探偵 明智五郎』(集英社)がぱっとしない一因でもある。

 女性差別的なセリフを乱発した不愉快な前半から、陳腐なラブストーリーを物語る退屈な後半へ。現在までのタラレバを要約するならばそういうことになるだろう。どちらがマシかと言えば作者の語り口が活きていたという点において前半ではあるのだが、それすらもまどろっこしいエクスキューズのせいで相殺されている。東村先生は一体何がしたいのだろうか。

◎「刺さる~」と言いたい人だけが読めばいい
 おそらく周囲が、読者が喜んでくれるからそうしているだけなのだ。結婚や恋愛に関して一貫した強いメッセージがあるわけではない。それは「おまけマンガ」で自ら述べているとおりである。では本編のあの言葉たちは何なのかと言えば、求められるからやっただけの(おそらくは『ひまわりっ ~健一レジェンド~』の副主任をルーツとする)説教芸なのだ。その様子もやはり「おまけマンガ」で言い訳されている。1巻では東京オリンピックが決まった直後に「結婚したい」と言い始めたという周囲の女性が、2巻では本作を読んで不安になったという女性芸人たちとの交遊録が(以前はこんなもの描く人じゃなかったのに……)、4巻や7巻では結婚したいと言う女性に道端で突然声を掛けられるエピソードが描かれている。いずれも「求められて仕方なくやった」という体だ。

 余談だが、ある女友達がこんなことを言っていた。「年下の女が年上の女とコミュニケートするときって『結婚したいんです~』とか言っておくのがいちばんラクなんだよ」と。確かにそれは社会的地位も結婚歴もある年上の女性に対して、下手に出つつ、先輩を立てつつ、円滑なコミュニケーションを成立させるためのよい方法であるように思える。特に酒席においては。

 タラレバを読んで腹が立った、傷ついた、ショックを受けたという人は、どうか今すぐ読むのをやめてほしい。これはあなたたちのための物語ではない。「刺さる~」と言いたい人だけが読めば良い。これは単なる酒の席での与太話だ。それは作者が批判する「女子会」にも劣る、人を不快にさせるだけの不毛な交流である。世界にはもっとすてきなマンガがたくさんある。

 タラレバをたまたま読んで我が意を得たりとニヤついている中高年男性は、勘違いをしないでいただきたい。アラサー/アラフォー女性の現実であり総意であるかのように描かれているが、実際はそうではない。あなた方が周囲の女性とうまくコミュニケートできないのだとしたら、それは女性の側の問題ではなく、あなたの雑な現状認識に起因するものだ。

 マンガはマジョリティのエンタテインメントでありコミュニケーションツールであると同時に、はぐれ者たちにとっての自由の王国でもある。かつて『ひまわりっ ~健一レジェンド~』ではぐれ者たちの底抜けに楽しい日々を描いたのは、ほかならぬ東村先生ではなかったか。他者の生を罰し、毀損し、自由に対して制限をかけようとするマンガを、私は心底軽蔑する。今後タラレバが自己肯定と自由のマンガとなるわずかばかりの可能性を願いつつ、筆を置く。

小田真琴
(おだ・まこと)
女子マンガ研究家。1977年生まれ。男。片思いしていた女子と共通の話題が欲しかったから……という不純な理由で少女マンガを読み始めるものの、いつの間にやらどっぷりはまって、ついには仕事にしてしまった。自宅の1室に本棚14竿を押しこみ、ほぼマンガ専用の書庫にしている。「SPUR」(集英社)にて「マンガの中の私たち」、「婦人画報」(ハースト婦人画報社)にて「小田真琴の現代コミック考」連載中。

精神状態が悪化しながらも寄り添う中高年の愛――『人間仮免中つづき』が感動の嵐を呼ぶ理由

 セックスワーカーでありAV女優、舞台女優、そしてマンガ家でもある卯月妙子。長年、統合失調症を患い、その症状によって歩道橋から投身、顔面崩壊し、右目を失明したことを綴った『人間仮免中』(イースト・プレス)は、壮絶な内容とユーモラスな語り口で大きな反響を呼んだ。それから約4年半ぶりの続編『人間仮免中つづき』(小学館)は、小泉今日子が帯に「愛ってすごい!愛って尊い!」とのコメントを寄せており、精神状態が悪化しながらも寄り添う中高年男女の姿が大きな感動の嵐を巻き起こしている。

■精神状態が悪化する中高年の同棲生活

 前作『人間仮免中』は、寺山修司の詩『ロング・グッドバイ』の一節とともに、歩道橋から飛び降りる衝撃のシーンからスタート。一方、今作『人間仮免中つづき』は25歳年上の恋人「ボビー」との穏やかな日常風景から始まる。前作は、ボビーの仕事の都合で、彼女がひとりで北海道に引っ越すエピソードで終わっていた。北海道と東京は行き来できない距離ではないが、仕事と病気を抱えたふたりは年に2回会えればいい方で、最後の1年は電話とメールのみ。彼女の病状も悪化し、寝たきりに近い状態だったと明かされる。

 そして、いよいよボビーが仕事を退職し、北海道でのふたり暮らしが始まる。食卓を囲み晩酌をして笑い合う。10月の北海道で、まだ生き延びているハエを見つけて応援する。ささいなことだが喜びに満ちた日常だ。その間にも、統合失調症の陰性症状である幻聴と幻覚が現れたり、些細なことで癇癪持ちのボビーと衝突したりするが、病状は次第に安定する。

 それが一変する出来事が起きる。彼女が新薬を試すことになり、その副作用で極度のハイ状態に。1晩に30通もLINEを送り、妄想をノートに書き続ける。更年期も重なり、ますます精神状態は混乱を極めていく。暴走する彼女と意思疎通が取れず、介護に疲れたボビーは、1日中お酒を飲んで、パソコンを眺めるだけの、無気力な状態になる。一方、幻覚・幻聴が激しく、外出もままならない卯月は、トイレットペーパーが残り1個というだけで錯乱状態に陥るほど。さらに、体が限界を迎え救急搬送される事態に。まともな会話がなかったふたりは、これがきっかけで、年齢的にも病状的にも、これが最後のタイミングかもしれないとお互いに向き合う覚悟を決める。

■死ぬまで一緒に生きるとは

 巻末に、番外編として東日本大震災のエピソードが収録されている。卯月は岩手県宮古市生まれ。地震発生から、親しい身内や友達の生存が確認できるまで、そしてそれによって精神のバランスを崩す様子を、記憶のみを頼りに一気に描いたという。生と死は紙一重。そのどちらになるのか、決定権は自分にはない。卯月妙子は、自ら死に向かって突進しているように見えることもあるが、『人間仮免中』『人間仮免中つづき』の2作を通して読むと、生きようとあがき、子どものように愛に手を伸ばし続けているのだとわかる。それを支える強靭なボビーとの出会いは、奇跡だったのかもしれない。

 本作には、ボビーの寝顔が何度か登場するのだが、顔の輪郭をなぞるようにして描くその絵からは、ボビーへの愛しい思いがあふれている。本作の最後に、ふたりは入籍した。離婚歴もあるふたりがなぜ「結婚」を選んだのか? 中高年の結婚は、見栄や世間体のためでもない。ふたりで死ぬまで生きるとはどんなことか、深く考えさせてくれる作品だ。
(松田松口)

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