本当にあった! アホでマヌケなアメリカ白人のトホホすぎる武勇伝『オレの獲物はビンラディン』

 9.11同時多発テロの主謀者であるオサマ・ビンラディンを捕まえるため、日本刀を持って単身パキスタンへ乗り込んだアメリカ白人がいた。まるで出来の悪いB級アクション映画のようだが、これ本当にあった実話。敬虔なキリスト教徒だった米国の一般市民ゲイリー・フォークナーは、「ビンラディンを生け捕りにしろ」という神の啓示を受け、合計7回もパキスタンに渡った挙げ句、パキスタン当局に身柄を拘束され、米国に送還されている。こんなアホでマヌケなアメリカ白人のお騒がせエピソードが、ニコラス・ケイジ主演作『オレの獲物はビンラディン』(原題『Army of One』)として映画化された。

 本作を映画化したのは『ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習』(06)や『ブルーノ』(09)といった過激な“やらせドキュメンタリー”を大ヒットさせたラリー・チャールズ監督。相変わらず、イカれたネタが大好きな米国人監督である。神を信じ、祖国アメリカを愛し、恋人とその家族を守るために、日本刀、手錠、暗視ゴーグルをパキスタンで持ち歩いていた変人ゲイリーを、チャールズ監督はどうしようもないバカだけど憎めない普遍的なアメリカ人像として描いてみせる。

 コロラド州在住のゲイリー(ニコラス・ケイジ)は元々は大工として働き、何度か刑務所のお世話になり、今は便利屋をやっている。町内で困った人がいれば手伝いに行くが、仕事がない日は昔からの仲間とバーでテレビを見ながらビールを呑み続ける生活を送っていた。ある日、ゲイリーは病院で人工透析を受けている間に、神さま(ラッセル・ブランド)からの啓示を受ける。9.11同時多発テロからすでに2年以上の歳月が流れていたが、ブッシュ政権は肝心のビンラディンを捕まえることができずにいる。「お前がパキスタンへ行って、生け捕りにしてこい」と神さまは命じる。神の啓示があれば、後は行動あるのみ。ゲイリーの約6年間に及ぶひとり十字軍がこうして始まった。

 プアホワイト層であるゲイリーは、どうやってパキスタンへ渡ったのか? まず、ゲイリーはヨットでパキスタンを目指す。自然の力で進むヨットなら、交通費がいらないから。ところがヨットはメキシコに漂着して、第一次ひとり十字軍は失敗に終わる。次はイスラエルに入国し、イスラエルの山からハングライダーに乗ってパキスタン入りを計画する。ハングライダーが墜落して、これも失敗。三度目の正直とばかりに、パキスタンの首都イスラマバードへ直行する航空便に搭乗するゲイリー。どうやって日本刀を持ち込んだのかは詳細不明。とにもかくにも、パキスタン入りを果たしたゲイリー。安宿に泊まっていたゲイリーはビンラディンを探す傍ら、持ち前の人見知りしない陽気な性格で地元の人たちと仲良くなり、パキスタン産のハッパを吸って超ハッピーに。「米国もいいが、パキスタンも素晴しい国だ」と異国での生活に溶け込んでいくゲイリーだった。

 アホでマヌケな主人公を、ニコラス・ケイジも裏表のない大らかな米国人として演じている。変人ではあるが、決してキチガイではない。50歳を過ぎているゲイリーには心から愛する恋人がいる。高校時代を一緒に過ごしたマーシ(ウェンディ・マクレンドン=コーヴィ)だ。学生の頃は人気者だったマーシはその後男運には恵まれなかったが、今でも充分に魅力的。オーバードーズで死んだ妹のひとり娘リジー(チェノア・モリソン)は生まれつき障害を持っているが、マーシは養子として引き取り、愛情いっぱいに育てている。愛するマーシの家の玄関のスロープを無償で修理するゲイリー。マーシも破天荒で情熱的なゲイリーのことを優しく受け入れる。ゲイリーとマーシのラブロマンスは映画用の創作かと思いきや、実際にゲイリーは障害を持つ子を育てていた女性をすごく愛していたそうだ。

 額がすっかり広くなったニコラス・ケイジとお下劣コメディ『ブライズメイズ 史上最悪のウェディングプラン』(11)に出演していたウェンディとのラブシーンを見ていると無性に泣けてくる。ベテラン俳優2人が演じるゲイリーとマーシは、いい年してまるでウブな高校生のようなカップルなのだ。2人とも真っすぐすぎて、大人の社会で生きていくには不器用なタイプだった。またゲイリーは、マーシとその娘リジーを愛するがゆえに、米国の平和を脅かすアルカイダとビンラディンを成敗するために何度も何度もパキスタンへ渡ろうとする。マーシもゲイリーの一本気な性格を知っているから、神からの使命に燃えるゲイリーの暴走を止めることができない。愛と使命との狭間で揺れ動くゲイリー。男ってヤツは、どの国でも幾つになってもどうしよもないバカばっかりである。

 

『ボラット』をはじめ、米国人の頭からっぽなマッチョイズムを笑い飛ばしてきたチャールズ監督は、本作の主人公であるゲイリーをこう評している。

「ゲイリーは変態的な意味でのアメリカン・ヒーローだと思う。非常に混乱していて、神の声を聞いたと信じ、パキスタンがどこかも知らずに使命感とやる気に満ち、ある意味でアメリカそのもの。なので、ゲイリーの映画を撮れば自然とアメリカそのものについて語れると思ったんだ」

 愛国心や宗教も、チャールズ監督の作品では度々言及されるキーワードだ。その2つのワードについては、このように語っている。

「愛国心という言葉は今の時代は乱用され、誤用されているように思う。不寛容であることを正当化するための言葉として使われている。本当の意味での愛国心という言葉は使われていないんじゃないか。愛すべき国そのものの正体が分からなくなっているため、愛国心という言葉はとても多くの問題を孕んでいるんだ。宗教も誤解されている。宗教は人々に安らぎを与え、生きることに絶望している人は神の存在に救われることもある。宗教や神という概念に頼ることで、心に平穏が訪れることは決して悪いことではない。でも宗教や神は実在するものではないので、そんな幻想にすがりつくことは危険だ。愛国心と同じように宗教も現代社会では誤用されている。本来は人と人とを繋ぐものなのに、人々を対立させるものになってしまっているんだ」

 おかしな映画ばっかり撮っているチャールズ監督だけど、本当はすっごいインテリな平和主義者なんですね。米国ではクリスマスシーズンになると、フランク・キャプラ監督の『素晴しき哉、人生!』(46)がよくテレビ放映される。生きることに絶望したお人よしな米国人ジョージ(ジェームズ・スチュアート)が天使の力で家族や仲間に恵まれた人生を思い出し、自殺を思いとどまるという宗教色の強いハートウォーミングコメディだ。家族を愛し、自分が正しいと思った道を突き進むゲイリーを主人公にした本作は、現代版『素晴しき哉、人生!』だと言えるんじゃないだろうか。
(文=長野辰次)


『オレの獲物はビンラディン』

監督/ラリー・チャールズ
出演/ニコラス・ケイジ、ラッセル・ブランド、ウェンディ・マクレンドン=コーヴィ、レイン・ウィルソン、デニス・オヘア、マシュー・モディーン、アメール・チャダ・パテル
配給/トランスフォーマー PG12 12月16日(土)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋ほか全国順次公開
http://www.transformer.co.jp/m/finding-binladen

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斉藤由貴“W不倫騒動”で桐谷美玲にトバッチリ!『リベンジgirl』イベントのシラケムード……

 50代医師との“W不倫報道”で世間を騒がせた女優・斉藤由貴。当初は会見で疑惑を否定していたものの、キス写真など流出すると一転、関係を認め、来年のNHK大河ドラマ『西郷どん』への出演辞退をはじめ、CMやイベント出演もキャンセルなど、事実上の開店休業状態にまで追い込まれた。

 そんな斉藤が重要な役どころで出演しているのが、今月23日に公開される桐谷美玲主演の映画『リベンジgirl』だ。

「斉藤は、政治家を目指す主人公の手助けをする政治秘書・如月凪子という役で、エンドクレジットでもキャスト部分の最後の“トメ”となっています。公式サイトには名前が出ていますが、これまでに配布されたチラシには斉藤の名前はナシと、不倫報道の影響を生々しく感じさせるものになっていますね」(映画関係者)

 しかも、斉藤演じる凪子は映画本編でも、登場が多いものになっているのだとか。

「主人公が嘘を告白する重要なシーンがあるのですが、そのセリフを言っている隣に凪子がいたり、主人公の過去の恋愛で“炎上”する展開の中でも、凪子が諭すというシーンがあったりするんです。しかし、不倫騒動からわずか数カ月なだけに、報道がどうしても頭にチラついてしまいました。また、この作品の主題歌は“JY”こと知英の『Secret Crush~恋やめられない~』なのですが、タイトルだけ見ると斉藤のこれまでの不倫遍歴そのものですよね(笑)」(同)

 ちなみに、本作はすでに何度か公の場でイベントを行っているが、こちらでも斉藤の存在は“ないもの”とされており「先月と今月にイベントを行っていますが、壇上に並んだキャスト以外の話は聞いたことがないですね」(映画ライター)とも。

「集まったマスコミの中にも『斉藤由貴が出てくれば盛り上がるのに……』と、シラケムードを隠さない人もいますよ」(ワイドショー関係者)

 桐谷側にとっては斉藤抜きでプロモートしなければならず、とんだとばっちりを受けているよう。一方の斉藤は、この作品のように芸能界へ“リベンジ”できる日がやってくることはあるのだろうか……。

日本以外では不振が報じられる『ブレードランナー2049』は、人生のためにも観るべき作品だ

 10月末に日本公開された『ブレードランナー2049』。

 それは、すごい映画であった。あの『ブレードランナー』の続編が制作されていると聞いてから、一抹の不安はあった。もしや、名作の名前を借りたトンデモない駄作になってしまうのではないか。これまでのさまざまな続編作品へのトラウマが、そんな不安をも抱かせていた。……ちなみに、筆者の中でもっとも印象に残った続編は『ポセイドンアドベンチャー2』である(ネガティブなほうで)。

 考えてみれば、現代の30代半ばより上の世代は『ブレードランナー』によって知られるようになった近未来の世界観を享受してきたのではないか。個人的な体験だと『サイレントメビウス』を読んで『パトレイバー』を観て(新OVAの「その名はアムネジア」の回とか)、それからさかのぼるように『ブレードランナー』を観て、その世界にハマった。それからサイバーパンクの金字塔、ギブスンの『ニューロマンサー』にハマるくらいが、ある世代までの定番であった。

 それから長い年月が過ぎた。まだ、レプリカントはいない。高層ビルは建ち並んだけど、ギラギラとした広告や、うらぶれた屋台は観られない。「おかしいなあ~、まだ21世紀になっていないのか」と思いつつ、現代を生きている。

 そんな21世紀が登場した『2049』は、正当な続編であった。これからでも、未見の人に観てもらいたいのでネタバレは避けるが、前作の主人公であるデッカードの再登場はうれしかった。単に友情出演とかではなく、物語の根幹に関わっているのである。

 そして、前作との世界観の変容も見事。雨ではなく雪やら雷やらの降りしきる世界は、リアルなディストピア感を与えてくれる。

 そんな本気の続編。公開初日から、待ち構えていたファンたちの絶賛は続いた。続いたのだが……公開から1カ月半ほどを過ぎた現在。なんだか、熱気が失われているように見えるのだ。

 ふと我に返って思うのは「あれ、前作にハマった人しか、この映画を観ていないのではないか」ということである。実にそうなのだ。

 この映画は正当な続編。ゆえに前作を観ていないと、面白さがほとんど理解できない。同じことは『スターウォーズ』シリーズにもいえるわけだが、『2049』はもっとスパルタ感がある。ちゃんと観て、さまざまな解釈に基づいて知識を得ていないと凡庸な見方しかできない。

 筆者はこれまで、前作を10回ほど観ている。中でも20代の頃に、まったく客のいない深夜の名画座で『AKIRA』と前作のファイナルカット版を2回ずつ上映という、よくわからない企画で観賞したのは思い出深い。とはいえ10回程度で、ファンというには、おこがましいような気もする。

 でもね、やはり『ブレードランナー』は面白い作品である。だからこそ、ぜひ多くの人に『2049』は観てもらいたい。ようは、もっと「にわか」で観る人に増えてもらいたいのだ。

 でも「にわか」でもいいから、ちゃんと前作を観て映画館に足を運ぶべきは、日本以外の国の人々の様子を見ても明らか。なにせ、アメリカでも中国でも興行成績では不振が続いていると伝わっているからだ。

 人生で「いやあ、いい映画を観たな」と感慨に浸れる機会というのは実は少ないもの。世界のファンには、仲間うちで語り合うだけではなく、布教にいそしんでもらいたいものだ。
(文=昼間たかし)

日本以外では不振が報じられる『ブレードランナー2049』は、人生のためにも観るべき作品だ

 10月末に日本公開された『ブレードランナー2049』。

 それは、すごい映画であった。あの『ブレードランナー』の続編が制作されていると聞いてから、一抹の不安はあった。もしや、名作の名前を借りたトンデモない駄作になってしまうのではないか。これまでのさまざまな続編作品へのトラウマが、そんな不安をも抱かせていた。……ちなみに、筆者の中でもっとも印象に残った続編は『ポセイドンアドベンチャー2』である(ネガティブなほうで)。

 考えてみれば、現代の30代半ばより上の世代は『ブレードランナー』によって知られるようになった近未来の世界観を享受してきたのではないか。個人的な体験だと『サイレントメビウス』を読んで『パトレイバー』を観て(新OVAの「その名はアムネジア」の回とか)、それからさかのぼるように『ブレードランナー』を観て、その世界にハマった。それからサイバーパンクの金字塔、ギブスンの『ニューロマンサー』にハマるくらいが、ある世代までの定番であった。

 それから長い年月が過ぎた。まだ、レプリカントはいない。高層ビルは建ち並んだけど、ギラギラとした広告や、うらぶれた屋台は観られない。「おかしいなあ~、まだ21世紀になっていないのか」と思いつつ、現代を生きている。

 そんな21世紀が登場した『2049』は、正当な続編であった。これからでも、未見の人に観てもらいたいのでネタバレは避けるが、前作の主人公であるデッカードの再登場はうれしかった。単に友情出演とかではなく、物語の根幹に関わっているのである。

 そして、前作との世界観の変容も見事。雨ではなく雪やら雷やらの降りしきる世界は、リアルなディストピア感を与えてくれる。

 そんな本気の続編。公開初日から、待ち構えていたファンたちの絶賛は続いた。続いたのだが……公開から1カ月半ほどを過ぎた現在。なんだか、熱気が失われているように見えるのだ。

 ふと我に返って思うのは「あれ、前作にハマった人しか、この映画を観ていないのではないか」ということである。実にそうなのだ。

 この映画は正当な続編。ゆえに前作を観ていないと、面白さがほとんど理解できない。同じことは『スターウォーズ』シリーズにもいえるわけだが、『2049』はもっとスパルタ感がある。ちゃんと観て、さまざまな解釈に基づいて知識を得ていないと凡庸な見方しかできない。

 筆者はこれまで、前作を10回ほど観ている。中でも20代の頃に、まったく客のいない深夜の名画座で『AKIRA』と前作のファイナルカット版を2回ずつ上映という、よくわからない企画で観賞したのは思い出深い。とはいえ10回程度で、ファンというには、おこがましいような気もする。

 でもね、やはり『ブレードランナー』は面白い作品である。だからこそ、ぜひ多くの人に『2049』は観てもらいたい。ようは、もっと「にわか」で観る人に増えてもらいたいのだ。

 でも「にわか」でもいいから、ちゃんと前作を観て映画館に足を運ぶべきは、日本以外の国の人々の様子を見ても明らか。なにせ、アメリカでも中国でも興行成績では不振が続いていると伝わっているからだ。

 人生で「いやあ、いい映画を観たな」と感慨に浸れる機会というのは実は少ないもの。世界のファンには、仲間うちで語り合うだけではなく、布教にいそしんでもらいたいものだ。
(文=昼間たかし)

強制収容所にガス室は存在しなかった!? 歴史修正主義者との不毛な戦い。実録法廷劇『否定と肯定』

 ナチスドイツによるユダヤ人大量虐殺は行なわれなかった。強制収容所にガス室は存在しなかった──。今なお一部でささやかれているホロコースト否定説。日本では1995年に起きた「マルコポーロ事件」が有名だ。文藝春秋社が発行していた月刊誌「マルコポーロ」95年2月号に、「ガス室は捏造されたもの」という内容の記事が掲載された。米国のユダヤ人団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター」からの抗議と広告出稿ボイコット運動により、文藝春秋社は「マルコポーロ」の自主廃刊と社長交替を余儀なくされた。記事内容が検証されることなく文藝春秋社が早々に白旗を揚げたため、多くの日本人にはユダヤ人団体の圧力の凄まじさだけが強烈に印象づけられることになった。映画『否定と肯定』は「マルコポーロ事件」とほぼ同時期に起きていたユダヤ人歴史学者とホロコースト否定論者との闘いを描くことで、タブー視されがちなホロコーストをめぐる問題点を浮き彫りにしている。

 レイチェル・ワイズ主演の実録法廷映画『否定と肯定』は、ユダヤ人歴史学者デボラ・E・リップシュッタットが主人公だ。1994年、リップシュッタット(レイチェル・ワイズ)が米国の大学で講演会を開いているところから物語は始まる。『ホロコーストの真実』を出版したばかりのリップシュッタットはテレビ局から討論番組への出演をオファーされていたが、すべて断っていた。学生から「なんでホロコースト否定論者との討論を避けているんですか?」と質問されるが、「ホロコーストは実際に起きた事実。頭ごなしに否定する人たちと話し合っても時間の無駄」というのがリップシュッタットの考えだった。ところが彼女の講演会に「学生たちに嘘を教えるな」とひとりの男が怒鳴り込んできた。ホロコースト否定論者の英国人作家デヴィッド・アーヴィング(ティモシー・スポール)だった。学生たちの前で挑発しまくるアーヴィング。まるでプロレスの仕込みのようだが、実際に起きたリップシュッタット vs. アーヴィングの第1ラウンドだった。

 

 大胆に宣戦布告してきたアーヴィングは、96年になってから英国の裁判所へ名誉毀損の罪でリップシュッタットを訴える。彼女の著書で中傷され、作家活動に支障をきたしているというのがアーヴィングの告訴内容だった。ホロコーストがあったポーランドでもドイツでもなく、英国の法廷で闘うというのがアーヴィングの狙いだった。英国の裁判では訴えた側ではなく、訴えられた側が無罪であることを立証しなくてはならない。売られたケンカは買ってやろうじゃないかと意気込むリップシュッタットだったが、英国在住の事務弁護士アンソニー(アンドリュー・スコット)から「あなたは裁判で発言しないように」と釘を刺される。また、リップシュッタットはホロコーストからの生還者を証言台に立たせて、収容所で起きた悲劇を彼らの肉声で語らせることがこの裁判では重要だと考えていたが、これも却下されてしまう。裁判に不慣れなホロコーストサバイバーが証言台に立てば、記憶の曖昧さを揚げ足取りされる可能性があるからだった。

 アウェーである英国での裁判を前に、自分を守ってくれるはずの弁護団とうまく意志の疎通ができずにイラ立つリップシュッタット。もし万が一、この裁判に負けるようなことがあれば、自分のせいで歴史上からホロコーストが存在しなかったことになりかねない。ホロコーストで亡くなった人々や遺族すら貶めることになる。英国のユダヤ人グループの長老たちからも、裁判はやめて示談にしたほうがいいと諭される。訴訟を起こしたことでマスコミからの注目度が急上昇したアーヴィングに比べ、リップシュッタットにとっては不利な要素が付きまとう裁判だった。

 リップシュッタットの法廷弁護を引き受けた老弁護士のリチャード(トム・ウィルキンソン)と共に、アウシュビッツへ現地調査に向かう一行。アウシュビッツへのロケ撮影シーンは本作の大きな見どころとなっている。どんよりとしたアウシュビッツの空模様。終戦間際にドイツ軍が爆破したために収容所は破壊されており、跡地には寒々しい荒涼とした風景が広がるばかり。ガス室の痕跡が残る場所に立つリップシュッタットたち。ここで数十万もの罪なきユダヤ人たちが処刑されたのだ。レイチェル・ワイズの視線を通して、強制収容所跡地の禍々しさがひしひしと伝わってくる。アウシュビッツの風景を体感したことで、この後の裁判シーンに1カットだけガス室での処刑場面が挿入されるが、とても生々しいものとして目に焼き付くことになる。

 2000年、ロンドンの王立裁判所での口頭弁論が始まり、アーヴィングは自分自身が弁護人となって証言台で滔々と自説を述べる。ところが、アーヴィングの語る内容とは「アウシュビッツにはガス室はなかった。収容所で伝染病が広まるのを防ぐために、死体をガス消毒していたのである。あれはガス室ではなく、霊安室だった」というトンデモ系のものだった。死体はすぐに焼却されたのに、なぜガス消毒するのか意味不明だった。さらに「なぜ霊安室の扉に覗き穴を付ける必要があったのか?」とツッコミが入ると、「地下にあるガス室をドイツ兵が防空壕代わりに使っていたから」というこれまた珍説が返ってくる。ここに至って、リップシュッタットの弁護団は彼女やホロコーストサバイバーたちをトンデモ学説を振りかざすホロコースト否定論者と同じ土俵には立たせないという戦略をとっていたことが明らかになる。テレビの討論番組や新聞では両論並記という形がよく用いられるが、それは根拠のない自説を唱える歴史修正主義者にとっては史実と同列に並ぶことができる絶好の機会だったのだ。

 裁判が進み、アーヴィングは歴史資料の中から自分に都合のいい部分だけを抜粋し、内容を歪める形で自分の書物に引用していたことが判明する。そして判決、当然ながらリップシュッタットは勝利を収める。ではアーヴィングは歴史修正主義者の立場を改めたかというと、もちろんそんなしおらしい人間ではない。「公判結果をよく読むと、自分に有利なように読むことができる」とお得意の独自解釈をマスコミ相手に繰り広げる。裁判に負けても、彼はホロコースト否定論者であることをやめようとしない。なぜなら、「それでもホロコーストは存在しなかった」と主張したほうが、反ユダヤ主義者たちを中心に自分の出版物が売れるからだ。アーヴィングにとっては歴史的に正しいかどうかよりも、自分の本が売れることが重要だった。

 月刊誌「マルコポーロ」の場合は、アーヴィングたちが支持したホロコースト否定説という反ユダヤ主義者たちのプロパガンダ文書を鵜呑みにした寄稿記事を掲載したために、廃刊へと追い込まれた。歴史修正主義者たちを支える民族差別や偏見が消えない限り、アーヴィングのようなトンデモ学説は今後もささやかれ続けるに違いない。
(文=長野辰次)

『否定と肯定』
監督/ミック・ジャクソン 脚本/デヴィッド・ヘア
出演/レイチェル・ワイズ、トム・ウィルキンソン、ティモシー・スポール、アンドリュー・スコット、ジャック・ロウデン、カレン・ピストリアス、アレックス・ジェニングス
配給/ツイン 12月8日(金)よりTOHOシャンテほか全国ロードショー公開中
C)DENIAL FILM, LLC AND BRITISH BROADCASTING CORPORATION 2016
http://hitei-koutei.com


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メジャーシーンで結果を出した入江悠監督が語る埼玉ロケ作品『ビジランテ』で挑んだ新境地!!【後編】

──インタビュー後半は、入江監督に2017年を振り返ってもらえればと思います。6月に公開された『22年目の告白 私が殺人犯です』が興収1位をとったことは大きな勲章になったのではないでしょうか。

入江悠(以下、入江) 首の皮が繋がったかなと(笑)。『バトル・ロワイアル』(00)を撮った頃の深作欣二監督に「俺の頃は2~3本失敗しても、東映という会社があったからチャンスがまた貰えたけど、お前らはフリーだから1本でもコケると大変だよ」と言われたことがあったんです。メジャー映画を撮っていて、ヒット作が出せないようだと監督生命が終わってしまう―という危機感はずっとありました。『22年目の告白』が他の僕の作品とどこがどう違うという意識はないんですが、宣伝スタッフや主演の藤原竜也くんが作品のPRをすごく頑張ってくれたことにはとても感謝しています。今の日本はキラキラムービーが多いけど、『22年目の告白』のような犯罪サスペンスでもヒットすることが分かったことも大きな収穫でした。

──『22年目の告白』は地上波でテレビ放映されることは考慮せず、思い切ったバイオレンス描写を盛り込んだ。

入江 劇場公開でコケたら、地上波放送もないわけじゃないですか。あまり先のことを考えても仕方ないなと(笑)。子どもの頃からトラウマになるような殺人描写のある映画が好きだったので、そのくらい振り切ったものにしたいとはスタッフに話していました。北野武監督の『アウトレイジ最終章』も今年ヒットしているわけですし、飢えている人は多いと思うんです。テレビでは観ることができない、劇場でしか味わえないヒリヒリするような映画が観たいと思っている人はいっぱいるはずです。

──『22年目の告白』を撮る前に、デヴィッド・フィンチャー監督の『ゾディアック』(07)を見直したんですよね。

入江 はい。フィンチャー繋がりで言うと、『ビジランテ』で篠田麻里子さんに出てもらう前に、フィンチャー製作総指揮の政治サスペンス『ハウス・オブ・カード 野望の階段』(13~17)を見ておいてくださいと伝えたんです。大統領を目指すケヴィン・スペイシーの妻役のロビン・ライトの悪女ぶりを参考にしてもらえればと思って。ヒロインもの、好きなんです。『緋牡丹博徒』(68)みたいな業を背負った女性に惹かれますね。

 

■キューバへの家族旅行と2017年のベスト映画

──『22年目の告白』が大ヒットしたことで、ワーナーで祝勝会が開かれた?

入江 ないです、ないです(笑)。夏に別の映画会社でもう1本映画を撮るつもりだったんですが、それが流れてしまって。『22年目の告白』が公開された後は暇だったんで、キューバ旅行に行きました。

──『サイタマノラッパー』シリーズは自宅でロケ合宿したりと、さんざん世話になったご家族との初の海外旅行ですね。

入江 これまで、本当に親のスネを齧って生きてきましたから(苦笑)。撮影で自宅をボロボロにするわ、スタッフやキャストを泊めて、親に食事を用意させ、足りない布団をご近所から掻き集めさせて……。『ビジランテ』もそれに近いことやってました。そろそろ親孝行しないとマズいなと、思い切ってキューバへ家族旅行したんです。日本に帰ってきたら、阪本順治監督がキューバで撮影した『エルネスト』が公開されていたんですが、「よく、こんな場所で撮影できたなぁ」とすごく面白く感じられましたね。キューバ旅行以外は、いろいろ映画を観て回っていました。

──入江監督の2017年のベスト映画は?

入江 そろそろ映画雑誌向けにベスト映画を選ばなくちゃいけないので、考えているところなんですが、強く印象に残っているのはドゥニ・ヴィルヌーヴ監督のSF映画『メッセージ』ですね。恵比寿ガーデンシネマで公開されていた韓国映画『わたしたち』も好きでした。女の子たちが主人公なんですが、表情がとても豊かなんです。『新感染 ファイナルエクスプレス』もよかったんですが、後半は泣かせようとする演出が目立つのがちょっと残念。でも、あれだけ観客をぐいぐい引き込んでいく脚本は素晴しい。『22年目の告白』のオリジナルにあたる『殺人の告白』(12)もそうですが、韓国映画はじっくり時間を掛けて、丁寧に脚本を練り込んでいる。そこは日本映画も見習わなくちゃいけないところだし、負けられないなという気にもなりますね。

──熊切和嘉監督の『武曲 MUKOKU』は高校の剣道部が舞台でしたが、剣道経験者の入江監督的にはどうでした?

入江 面白かったですよ。近藤龍人さんの撮影も素晴しかったし、剣道部の雰囲気が伝わってきました。熊切監督じゃないと撮れなかった作品でしょうね。熊切監督がその前に撮った『ディアスポリス DIRTY YELLOW BOYS』(16)もよかった。僕もあの原作コミックが好きで、映画化したいなと考えていたんです。熊切監督に先にやられてしまいましたね(笑)。

 

■ 『マイクの細道』東北ロケと入江監督の新しいステージ

──2017年は『SRサイタマノラッパー マイクの細道』がテレビ東京でオンエアされたことも、大きなトピックでした。ドラマの終盤、「SHO-GUNG」が川崎クラブチッタに登場してのライブシーンをスクリーンでもう一度観たいというファンの声はよく耳にします。

入江 『マイクの細道』は、最後のライブシーンに向けて物語が進んでいくドラマでしたからね。スクリーンで観たら、より盛り上がるでしょうね。

──地元・深谷で1日限定ながら『マイクの細道』の一挙上映をやったとか。

入江 やったみたいです。テレビドラマを映画館で上映するのは許可をもらうのが面倒だったりするので、よくできたなと感心していたんですが、無料上映という形にしてテレビ東京には黙認してもらったみたいですね(笑)。

──深谷市ってフリーダムな町だなぁ。『マイクの細道』第6話の冒頭でIKKUたちは釜石の被災地で合掌するシーンが1カットだけ映ります。時間があれば、被災地でのエピソードも撮りたかったのでは?

入江 釜石は撮影の半年くらい前から何度も行って取材もしていましたし、本当はそうしたかった。でも、深夜ドラマ25分の枠では、被災地で起きたこと、そして今も続いている問題を物語に置き換えるのがすごく難しくて。せめて、東北のこの場所には来たという足跡だけは残しておきたいと思い、1カットだけ撮ったんです。

──『22年目の告白』は入江監督が10代の頃に体験した阪神淡路大震災が物語の背景になっている。今回、『マイクの細道』で東北を回って感じたことは今後の課題になる?

入江 そうなると思います。青森では原子力施設のある六ヶ所村や三沢の米軍基地なども回ってきましたし、地元に帰っていたかつての仲間が東日本大震災で家族を亡くしたりもしているんですが、そのことにはまだ向き合うことができずにいます。どうしても実際に起きた事件や事象を咀嚼して、自分の作品として描くにはかなりの時間を要してしまうので、これからの課題だと言っていいと思います。その点、ハリウッドや韓国映画は、実際に起きたことを巧みにエンターテイメント化してしまう。あの知性には憧れますね。

──2017年は『ビジランテ』の撮影&公開、『サイタマノラッパー マイクの細道』の放映とDVD化、そして『22年目の告白』の成功と、新しいステージが見えてきた1年だったのではないでしょうか?

入江 『ビジランテ』はオリジナル作品ですし、『22年目の告白』もかなり思い切って脚色させてもらい、自分のやりたい道が見えてきたようには思います。ノアール感のある犯罪サスペンスに今年は照準を絞ることができたかなと。自分の監督作が年間2本公開されるのも初めてなんです。『ビジランテ』ともども、これからもよろしくお願いします。
(取材・文=長野辰次/撮影=長谷英史)

『ビジランテ』
脚本・監督/入江悠
出演/大森南朋、鈴木浩介、桐谷健太、篠田麻里子、嶋田久作、間宮夕貴、吉村界人、菅田俊
配給/東京テアトル R15+ 12月9日(土)よりテアトル新宿ほか全国公開
C)2017「ビジランテ」製作委員会
https://vigilante-movie.com/index.php

■『ビジランテ』の公開を記念して、テアトル新宿にてトークショーを開催

ヤクザday
12月10日(日)  14:00の回上映後
ゲスト/般若、坂田聡、山口航太、龍 坐、大宮将司、蔵原 健、三溝浩二、裵ジョンミョン

ヤングday
12月16日(土)3回目上映後
ゲスト/吉村界人、間宮夕貴、大津尋葵、入江悠監督

デリヘルday
12月23日(土)4回目上映後
ゲスト/岡村いずみ、浅田結梨、市山京香、入江悠監督

●入江悠(いりえ・ゆう) 

1979年神奈川県生まれ、埼玉県深谷市出身。『JAPONICA VIRUS』(06)で長編監督デビュー。自伝的要素の強い青春映画『SRサイタマノラッパー』(09)が「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」オフシアター・コンペティション部門でのグランプリ受賞を皮切りに、自主映画として異例のロングランヒットに。『SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』(10)、『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(12)と共に『SR』北関東三部作として熱烈な支持を集めた。『日々ロック』(14)、『ジョーカー・ゲーム』(15)でメジャーシーンに進出。『22年目の告白 私が殺人犯です』(17)は3週連続興収1位を記録するヒット作となった。その他の主な監督作に『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンローロは鳴り止まないっ』(11)、『太陽』(16)など。『SRサイタマノラッパー マイクの細道』『22年目の告白』が共に現在DVDが絶賛リリース中。

メジャーシーンで結果を出した入江悠監督が語る埼玉ロケ作品『ビジランテ』で挑んだ新境地!!【前編】

 地方都市で過ごした青春時代の葛藤をラップに叩き付けた自主映画『SRサイタマノラッパー』(09)でブレイクを果たした入江悠監督。『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(12)以降はメジャーシーンでの挑戦が続いていたが、2017年はワーナー系で全国公開された『22年目の告白 私が殺人犯です』が3週連続で興収1位を飾るという躍進の年となった。最新作『ビジランテ』は『サイタマノラッパー』シリーズ以来となる久々のオリジナル劇場映画。地元・深谷市で撮影した『ビジランテ』に込めた想い、テレビ東京で深夜ドラマ化された『SRサイタマノラッパー マイクの細道』にまつわるエピソードなど、入江監督に2017年を振り返ってもらった。

──故郷や家族に対して複雑な感情を抱く3兄弟(大森南朋、鈴木浩介、桐谷健太)を主人公にした『ビジランテ』の構想はいつ頃から考えていたんでしょうか?

入江悠(以下、入江) 『ロードサイドの逃亡者』の後、『日々ロック』(14)や『ジョーカー・ゲーム』(15)と商業映画をやり、その後に寒村を舞台にした『太陽』(16)という作品を撮ったんです。僕の中では『太陽』で描かれていたテーマや問いがすごくフィットしていた。その頃からですね。

──神木隆之介&門脇麦主演の『太陽』は文明の進化から置き去りにされた集落で暮らす若者たちの愛憎劇でした。

入江 SFという設定でしたけど、ひとつのコミュニティーの中には差別があり、コミュニティーを出ていくことに反発心を抱く者もいたりと、いろんな立場の人間がいるドラマだったんです。『太陽』は前川知大さんの舞台が原作だったのですが、その独創性と冷徹な観察眼に刺激を受けて、自分なりに地元の深谷市を舞台にして書いたのが『ビジランテ』です。オリジナルで脚本を書くのはすごく時間が掛かり、気が付いたらオリジナルでの劇場作品は『ロードサイドの逃亡者』以来になってしまいましたね。

──『サイタマノラッパー』劇場版三部作の舞台挨拶で、各地を回った体験も活かされている?

入江 それはあると思います。それまでの自分が知っていた世界は狭かったけれど、『サイタマノラッパー』シリーズで全国の地方都市を北は北海道から南は九州まで回って、各地の問題に触れる機会になったんです。原発問題もあれば、『ビジランテ』で描いたような郊外型ショッピングモールの建設をめぐる問題もある。でも社会と個人というテーマは、各地に共通する問題じゃないかと感じられたんです。そういった日本全体にかかわる問題を、地元の街に置き換えて描いた感じですね。

──『サイタマノラッパー』は半径1メートルの物語でしたが、今回は間口が広まった感じがします。半径500メートルぐらいの物語?

入江 もう少し広いかな。半径1キロメートルぐらいの物語ですかね。ショッピングモールは駐車場だけでもかなり広いですから。『サイタマノラッパー』シリーズは僕個人の悩みや不安、夢と現実などをドラマ化したものでしたが、2017年でちょうど撮影から10年経つんです。年齢を重ねていく中で、僕も少しずつですが社会との関係性を考えるようになった。技術的なことや僕自身の人間的な未熟さもあって、これまでは映画として描くことができなかったんですが、もう少し視野を広げて、そこで生きている人たちの人間模様を描いてみようという気になってきたんです。

──2017年4月~6月にオンエアされたTVドラマ『SRサイタマノラッパー マイクの細道』にも劇場版三部作では描かれなかったIKKUの家族が登場しました。

入江 僕の高校時代は男子校で、剣道部だったんですが、6人いる同期はみんな結婚して家庭を持っているんです。同期の結婚式に呼ばれて、久々に集まったら、「結婚してないのは、もう入江だけだぞ」と言われて(笑)。東京にいるとあまり独身であることを意識しないんですが、たまに田舎に帰省すると気づかされますね。同級生たちはちゃんと結婚して、子育てして、親の介護なども引き受けていたんだなぁと。自分は映画を撮ることしかやらず、家族に対する責任はいっさい引き受けてこなかった。そのことは『マイクの細道』にも入っていますね。

■入江作品の中における3人の男たち

──『サイタマノラッパー』と同じ埼玉県深谷市でロケ撮影されたこともあり、『ビジランテ』に映し出される世界も同じような風景ですが、そこで繰り広げられるのはまったく異なるハードボイルドなものになっています。

入江 『サイタマノラッパー』はシリーズ化されていくことで、主人公たちがどんどんアイコン化され、中でもIKKUとTOMはコミカルな存在になっていった。それもあり、『ビジランテ』では現実感のあるキャラクターとして一郎(大森南朋)、二郎(鈴木浩介)、三郎(桐谷健太)の3兄弟を考え出したんです。3兄弟の父親役には、映画『64 ロクヨン』(16)でのコワモテの警察署長役が印象的だった菅田俊さんにお願いしました。菅田さんには真冬の冷たい川の中に入って、熱演していただきました。

──菅田俊演じる武雄は、子どもたちを容赦なく折檻する“昭和の父親”。ちなみに入江家はどんな家庭だったんでしょうか?

入江 うちは全然違います。もっと、ダラッとしてました。父はフリーランスの物書きなんです。父の仕事がないときは、母が稼いでいました。菅田さんみたいな厳格な父親ではなかったんですが、それもあって昔ながらの家庭像への憧れがあったみたいです(笑)。

──大森南朋、鈴木浩介、桐谷健太はどういう順番でキャスティングを?

入江 同じ空気を吸って育ったことを匂わせるような3人であることが必要でしたし、年齢差もそれぞれないといけないので、誰が最初ということはなく、バランスを考えて3人同時に決めていった感じですね。

──日刊サイゾーだからお聞きしますが、大森南朋と鈴木浩介はよく共演OKしたなと。

入江 大森さんと鈴木さんなら大丈夫だろうなと思ってオファーしました。僕はあまりテレビドラマは見ないんですが、鈴木さんが出演していたドラマを幾つか見たところ、すごくいい。もっと映画に出てほしい人だなと思いました。オファーすると、鈴木さんは映画出演をとても喜んでくれた。3人とも現場では仲良かったですよ。真冬の深谷はかなり寒く、カメラが回っていない間は3人ともヒーターの前に集まって、ずっと雑談していました。3人とも初共演だったんですが、昔からの顔なじみのようでした。

──大森南朋のふてぶてしい姿は、お父さん(舞踏家の麿赤兒)に似てきましたね。これまでは全然似てない親子だなぁと思っていたんですが、『ビジランテ』では受け継いでいる業みたいなものが全身から滲み出ています。

入江 あると思います、そういうのって。麿赤兒さん、高田馬場の喫茶ノワールでお見かけしたことがあったんですが、「昭和の怪人」がお店に現われたような怖さを感じました。麿さんからすごい殺気が漂っていたんです。大森南朋さんにもそれに近いものを感じました。本人はそのことを意識していたかどうかは分かりませんが、ちょっと近寄りがたい雰囲気がある。でも、逆にひょうきんな面も併せ持っている。顔のシワとかも年輪っぽい感じがして、大人の顔を見せていますよね。

──桐谷健太はCMですっかりメジャーになりましたが、撮影現場ではムードメーカー役も買って出る好人物。

入江 彼とは同い年なんです。井筒和幸監督の『ゲロッパ!』(03)や『パッチギ!』(05)に出ていたのを観て、「いい役者が出てきたなぁ」と思っていたんです。同世代の役者と一緒に仕事をする機会って、『サイタマノラッパー』シリーズ以外ではなかなかなくて、いつか自分の作品に出てほしいなと思っていました。脚本を渡したところ、「ぜひ、やりたい」と言ってもらえ、うれしかったですね。

──女優陣の脱ぎっぷりも素晴しい。入江作品で、ここまで本格的な濡れ場があるのは初めて。『ジョーカー・ゲーム』では深田恭子が荒縄で縛られて吊るされるシーンがありましたけど。

入江 ハハハ、「少年ジャンプ」に出てくるような緊縛シーンでしたね(笑)。濡れ場シーンは、仙台短編映画祭から“愛”をテーマにした作品を依頼されて、『サイタマノラッパー』のTOM役の水澤紳吾を主演にした短編映画『狂人日記』(14)を撮ったことがあるんです。誘拐した女性を監禁してしまうというハードな内容で、仙台で上映されて物議を呼び、門外不出になってしまった(苦笑)。本格的な濡れ場は、それ以来ですね。今回は前半ずっとバイオレンスシーンかSEXシーンばかり撮っていたので、感覚が麻痺していました。でも、女優陣は肝が据わっていて、やるとなるとバンッと脱ぎっぷりよくやってくれた。間宮夕貴さんは石井隆監督の『甘い鞭』(09)や塩田明彦監督の『風に濡れた女』(16)がとても良くて、僕から出演をお願いしました。間宮さんは脱ぎっぷりだけでなく、脱いだ上でしっかり演技ができる素晴しい女優です。

──物語を大きく左右するファムファタール役は元AKB48の篠田麻里子。カーセックスシーンや枕営業シーンにも挑んでみせた。

入江 30歳前後で、こういう悪女役をできる女優って意外といないんです。彼女は身長があるし、品のある顔立ちなので、悪い女を演じさせるとハマる。難しい役だから受けてくれるか心配だったんですが、「リハーサル、いっぱいやらせてください」「何かあったら、すぐ言ってください」と現場ではすごく謙虚でしたね。初日が鈴木浩介さんとのカーセックスシーンだったんですが、物怖じせずにやってくれました。最初にそういうシーンを演じ切ったことで、鈴木さんと距離感なく、うまく夫婦役になったように思います。

──『サイタマノラッパー』シリーズはIKKU、TOM、MIGHTYという3人の男たちの物語でしたが、今回の『ビジランテ』も3兄弟の物語。男3人というキャラクターでも共通していますね。

入江 自分自身の分身を3つに分けた感じですね。3人という人数が好きみたいです。地元を飛び出したい気持ちが今回は一郎になり、地元の街のメインストリームを歩きたいという想いが二郎になり、2人の間で揺れ動く感情が三郎になっている。矛盾を1人のキャラクターに抱え込ませると物語化しにくいけれど、3人に分散させてぶつかり合うことで物語が動いていく。あと数本オリジナル脚本を書いたら、いつも同じ内容なことがバレると思います(笑)。

──町の再開発が始まる前に不審火が起き、ショッピングモール建設の利権に裏社会が絡んだりと、地方都市の不穏なリアリティーを感じさせるドラマが展開されていく。

入江 『サイタマノラッパー』の舞台挨拶で、各地のいろんな話を聞いてきたことが役立ちました。『ビジランテ』の脚本を書いていた頃、深谷市でもショッピングモールの建設計画が進んでいたらしくて、「お前、よく知ってたな」と勘ぐられたんですが、まったくの偶然でした。深谷市でも実際にショッピングモールの建設に賛成か反対かの市民集会が開かれ、脚本を書きながらざわっとしました。

──映画と現実は不思議とシンクロする。

入江 シンクロしちゃいますね。『22年目の告白』の製作を進めているときも、『絶歌 神戸連続殺傷事件』(太田出版)が出版されましたし。『22年目の告白』の脚本を書いたほうが早かったんですが、フィクションで書いていたことが現実化していくみたいな怖さを感じましたね。 
(インタビュー後編に続く/取材・文=長野辰次/撮影=長谷英史)

 

『ビジランテ』
脚本・監督/入江悠
出演/大森南朋、鈴木浩介、桐谷健太、篠田麻里子、嶋田久作、間宮夕貴、吉村界人、菅田俊
配給/東京テアトル R15+ 12月9日(土)よりテアトル新宿ほか全国公開
C)2017「ビジランテ」製作委員会
https://vigilante-movie.com/index.php

■『ビジランテ』の公開を記念して、テアトル新宿にてトークショーを開催

ヤクザday
12月10日(日)  14:00の回上映後
ゲスト/般若、坂田聡、山口航太、龍 坐、大宮将司、蔵原 健、三溝浩二、裵ジョンミョン

ヤングday
12月16日(土)3回目上映後
ゲスト/吉村界人、間宮夕貴、大津尋葵、入江悠監督

デリヘルday
12月23日(土)4回目上映後
ゲスト/岡村いずみ、浅田結梨、市山京香、入江悠監督

●入江悠(いりえ・ゆう)

1979年神奈川県生まれ、埼玉県深谷市出身。『JAPONICA VIRUS』(06)で長編監督デビュー。自伝的要素の強い青春映画『SRサイタマノラッパー』(09)が「ゆうばり国際ファンタスティック映画祭」オフシアター・コンペティション部門でのグランプリ受賞を皮切りに、自主映画として異例のロングランヒットに。『SRサイタマノラッパー2 女子ラッパー☆傷だらけのライム』(10)、『SRサイタマノラッパー ロードサイドの逃亡者』(12)と共に『SR』北関東三部作として熱烈な支持を集めた。『日々ロック』(14)、『ジョーカー・ゲーム』(15)でメジャーシーンに進出。『22年目の告白 私が殺人犯です』(17)は3週連続興収1位を記録するヒット作となった。その他の主な監督作に『劇場版 神聖かまってちゃん ロックンローロは鳴り止まないっ』(11)、『太陽』(16)など。『SRサイタマノラッパー マイクの細道』『22年目の告白』が共に現在DVDが絶賛リリース中。

キラキラした青春(性春)に復讐してやりたい!! 捻れ曲がったピュアすぎる官能映画『青春夜話』

 1993年に刊行された『怪獣使いと少年』(宝島社)は、怪獣ブームを体験した世代の心を揺さぶる評論集だった。活字で組まれたタイムマシンに乗って、時間旅行に連れ出されたような高揚感を味わうことができた。『ウルトラマン』『ウルトラセブン』、そして『帰ってきたウルトラマン』(いずれもTBS系)といった1960~70年代の特撮ドラマや異形の怪獣たちに夢中になっていた少年時代を、大人の視点を交えた形で再体験させてくれた。『怪獣使いと少年』や『宮崎駿の〈世界〉』(筑摩書房)など、様々なサブカル系評論で知られる切通理作(きりどおし・りさく)氏だが、53歳にして映画監督デビューすることになった。キラキラした青春時代の思い出がない主人公たちが夜の高校に忍び込み、一夜限定でタイムトリップしようとする『青春夜話 Amazing Place』がその処女作である。

 評論集『怪獣使いと少年』が読者を少年時代へとタイムトリップさせてくれたように、映画『青春夜話』は主人公たちと共に観客を多感だった10代の頃へと連れ戻してくれる。しかも、大人の視点を交えた形で。老舗映画誌「キネマ旬報」で20年以上にわたって「ピンク映画時評」を連載している切通氏ゆえに、映画の中で疑似体験させてくれる青春時代はフェティシュなエロ描写満載となっている。切通監督は“怪獣使い”ならぬ“官能使い”として未知なる才能を発揮してみせた。

 

 主人公は20代後半の冴えないサラリーマン・喬(須森隆文)と4歳年下のやはりパッとしないOLの深琴(深琴)。路上に座り込んでいたホームレス(切通理作)へツバを吐く中年サラリーマン(川瀬陽太)に喬がカチンと来たことからひと揉めしているとき、自転車で通りかかった深琴は状況を察して初対面の喬を後ろに乗せてその場から逃げ出す。かなり地味めなボーイ・ミーツ・ガールの物語だ。

 お互いに表向きはおとなしいけど裏で毒づく性格で、酒を呑んでいるうちに意気投合する喬と深琴。同じ高校の出身だが、喬は4つ年上なのでスレ違いの青春を過ごしていたことが分かる。「見たかったなぁ、深琴さんのセーラー服姿」と控えめに盛り上がる2人。酔った勢いでラブホへ行って、ドンキあたりで買った制服を深琴に着せてJKプレイでもするのかなと思いきや、喬は深琴を夜の母校へと誘う。誰もいない校舎の中へと忍び込み、ロッカーにあったセーラー服、チアガール衣装、スクール水着を深琴に着せ、喬は青春時代に果たせなかった欲望の数々を叶えようとする。

 喬のド変態プレイに最初は引き気味だった深琴だったが、「キラキラした青春に復讐したい」という喬の想いには共感を覚える。喬と同様に、深琴も学校ではまるで目立たない生徒だった。華のない自分とは真逆の象徴であるチアリーダーのミニスカ衣装に着替え、夜の教室で踊り出す深琴。イケてなかったあの頃の喬と自分自身にエールを送るために。嫌っていたはずのキラキラした青春だが、羞恥プレイとして演じているうちに次第に気持ちよくなっていることに深琴は気づく。

 53歳にして、自身の脳内エロイメージを赤裸々に74分間の映像世界にしてみせた切通監督。初めての映画撮影に挑んだ切通監督をサポートしたのは製作総指揮の友松直之氏。『AI高感度センサー搭載 メイドロイド』のタイトルでDVD化された『老人とラブドール 私が初潮になった時…』(09)などピンク映画の監督として人気が高い。ピンク映画を専門に上映している上野オークラ劇場あたりで『青春夜話』を上映すれば、それこそアメージングに感じるシニア世代も多いのではないだろうか。本作を語る上で、撮影監督をつとめた黒木歩嬢の存在もはずせない。AV監督やミュージシャンとしても活躍中の才媛で、本作の喬と深琴のフェティッシュな官能場面を実にエロティックかつポップなものに撮り上げてみせている。

 

 普段は自分の意見を他人にはっきり言うことができない深琴だが、高校時代をリプレイしているうちに喬がずっと傍観者なままなことであることに不満を感じるようになる。深琴にばかり着替えさせ、喬はスーツ姿のままだ。「俺は見てるだけでいいんだ」「エッチをさせてくれる女の子は、男にとっては天使」と喬は言うが、それでは深琴の体を張ったトラウマ浄化体験は喬の性的欲求を満たすだけのマスネタ扱いではないか。柔和な性格の喬だが、深琴のことを生身の女としては見ていないことになる。

「タダマン野郎が一丁前に女の価値を評論してんじゃねぇ。この無銭飲食野郎!」

 ただでセックス、しかもコスプレセックスできたことを喜んでいるおめでたい喬に対して、深琴は自分と同じリングに上がってこいと挑発する。高校時代のイケてなかった暗い記憶、心の中にずっと溜め込んできたドス黒い欲望、性に対する無理解と異性への怒り……。様々な感情をぶつけ合いながら、喬と深琴はこの夜何度目かのセックスを交わす。いくつもの夢や感情が重なり合い、2人にとって忘れられない一夜となる。

 本作のヒロインである深琴が、「浦島太郎」の絵本を持った白髪のホームレスと出逢った際の台詞が印象的だ。「玉手箱って開けちゃったら、それまでですよね」。また、喬を相手に「玉手箱、開けないでくれって無理だよね。その前に年をとったらバカみたいだし」とも呟く深琴。評論家であり、映画監督として処女作を撮り上げた切通氏にとっては評論集を編むことも、映画を撮ることも、竜宮城の楽しい思い出がぎっしり詰まった玉手箱をこしらえるような行為であるらしい。この玉手箱を開けてしまえば懐かしい思い出と引き換えに、自分にとって少年時代や青春時代はもはや遠い過去になったことを痛感させられる。それでも、この玉手箱は開けずにはいられない。
(文=長野辰次)

『青春夜話 Amazing Place』

監督・脚本/切通理作 
製作総指揮/友松直之 撮影監督/黒木歩 撮影・照明/田宮健彦 美術/貝原クリス亮 録音・MA/石川二郎 編集/長田直樹、西村絵美、切通理作 音楽/KARAふる
出演/深琴、須森隆文、飯島大介、安部智凛、松井理子、友松直之、川瀬陽太、中沢健、櫻井拓也、石川雄也、黒木歩、衣緒菜、晴野未子、和田光沙、佐野和宏
配給/シネ☆マみれ 12月2日(土)より新宿K’s cinemaにてレイトショー公開
※ 初日舞台挨拶および期間中トークショーあり
http://seishunyawa.com

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A級戦犯は脚本家・監督の板尾創路? 又吉直樹の大ヒット作『火花』がドラマに続き、映画も爆死!

 お笑いコンビ・ピースの又吉直樹が執筆した小説『火花』(文藝春秋)を原作とした同名映画(菅田将暉、桐谷健太主演)が、11月23日に公開されたが、大爆死でのスタートとなってしまった。

 初週の「週末観客動員ランキング」(興行通信社調べ)は初登場3位にランクインしたものの、土日2日間の観客動員は8万2,400人で、10万人にも届かず。興行収入も1億1,100万円どまりだった。初日から4日間で見ても、動員16万2,400人、興収2億1,900万円にしかいかなかった。最近では、5週目を過ぎてもヒット中の『ミックス。』(新垣結衣、瑛太主演)の第1週の週末観客動員が18万人、興収2億3,500万円で、ざっと計算して、『火花』は、その半分にも満たなかった。

 改めて説明するまでもないが、小説『火花』は、2015年3月に発表され、またたく間にベストセラーとなり、又吉は「第153回芥川賞」を受賞。単行本と文庫本の累計発行部数は300万部を超える大ヒットとなった。

 原作は、漫才の世界に身を投じたものの、鳴かず飛ばずの生活を送っていた青年・徳永が、強い信念を持った4歳年上の先輩芸人・神谷と出会い、現実の壁に阻まれ、才能と葛藤しながら、歩み続ける青春物語。

 小説のヒットを受け、昨年春から、Netflixでドラマがネット配信され、それを再編集したものが、今年2月から4月まで、NHK総合で放送された(主演は林遣都)。ところが、前評判とは裏腹に、視聴率は初回でさえ4.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)どまり。第2話で2.9%と急降下し、第3話では1.5%まで落ち込んだ。以後、1~3%台をさまよい続け、平均2.7%と爆死していた。日曜午後11時放送開始というハンディを考慮しても、あまりにも低い視聴率に終わった。

 ドラマはキャストが地味だったが、この度、公開された映画版は、今をときめく菅田と桐谷のW主演で、ヒロインは木村文乃という豪華版。菅田は4月に公開された主演映画『帝一の國』では、まずまずの動員を見せたが、その菅田をもってしても、『火花』は、この体たらくとなった。

「原作が、これだけ大ヒットしたのに、ドラマや映画が惨敗を喫したのは、脚本の悪さが考えられます。ドラマはネット上で、『つまらない』『暗い』などとバッシングを受けていましたが、その悪評が映画の動員に響いたのかもしれません。映画を見た観客の評判も、あまりかんばしくないようです。映画の脚本と監督を担当したのは、ドラマの脚本協力もした板尾創路。その責任は重大かもしれません」(エンタメ誌編集者)

 板尾といえば、公開直前、写真週刊誌「FLASH」(光文社)で、映画に出演したグラドル・豊田瀬里奈とのラブホ不倫が報じられ、ミソを付けた。その意味では、映画版爆死のA級戦犯は板尾なのかもしれない。とはいえ、まだ2週目に入ったばかり。原作の知名度は抜群なだけに、ここからの巻き返しに期待したいものだ。ドラマも映画も爆死では、原作者の又吉も報われないだろう。
(文=田中七男)

A級戦犯は脚本家・監督の板尾創路? 又吉直樹の大ヒット作『火花』がドラマに続き、映画も爆死!

 お笑いコンビ・ピースの又吉直樹が執筆した小説『火花』(文藝春秋)を原作とした同名映画(菅田将暉、桐谷健太主演)が、11月23日に公開されたが、大爆死でのスタートとなってしまった。

 初週の「週末観客動員ランキング」(興行通信社調べ)は初登場3位にランクインしたものの、土日2日間の観客動員は8万2,400人で、10万人にも届かず。興行収入も1億1,100万円どまりだった。初日から4日間で見ても、動員16万2,400人、興収2億1,900万円にしかいかなかった。最近では、5週目を過ぎてもヒット中の『ミックス。』(新垣結衣、瑛太主演)の第1週の週末観客動員が18万人、興収2億3,500万円で、ざっと計算して、『火花』は、その半分にも満たなかった。

 改めて説明するまでもないが、小説『火花』は、2015年3月に発表され、またたく間にベストセラーとなり、又吉は「第153回芥川賞」を受賞。単行本と文庫本の累計発行部数は300万部を超える大ヒットとなった。

 原作は、漫才の世界に身を投じたものの、鳴かず飛ばずの生活を送っていた青年・徳永が、強い信念を持った4歳年上の先輩芸人・神谷と出会い、現実の壁に阻まれ、才能と葛藤しながら、歩み続ける青春物語。

 小説のヒットを受け、昨年春から、Netflixでドラマがネット配信され、それを再編集したものが、今年2月から4月まで、NHK総合で放送された(主演は林遣都)。ところが、前評判とは裏腹に、視聴率は初回でさえ4.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)どまり。第2話で2.9%と急降下し、第3話では1.5%まで落ち込んだ。以後、1~3%台をさまよい続け、平均2.7%と爆死していた。日曜午後11時放送開始というハンディを考慮しても、あまりにも低い視聴率に終わった。

 ドラマはキャストが地味だったが、この度、公開された映画版は、今をときめく菅田と桐谷のW主演で、ヒロインは木村文乃という豪華版。菅田は4月に公開された主演映画『帝一の國』では、まずまずの動員を見せたが、その菅田をもってしても、『火花』は、この体たらくとなった。

「原作が、これだけ大ヒットしたのに、ドラマや映画が惨敗を喫したのは、脚本の悪さが考えられます。ドラマはネット上で、『つまらない』『暗い』などとバッシングを受けていましたが、その悪評が映画の動員に響いたのかもしれません。映画を見た観客の評判も、あまりかんばしくないようです。映画の脚本と監督を担当したのは、ドラマの脚本協力もした板尾創路。その責任は重大かもしれません」(エンタメ誌編集者)

 板尾といえば、公開直前、写真週刊誌「FLASH」(光文社)で、映画に出演したグラドル・豊田瀬里奈とのラブホ不倫が報じられ、ミソを付けた。その意味では、映画版爆死のA級戦犯は板尾なのかもしれない。とはいえ、まだ2週目に入ったばかり。原作の知名度は抜群なだけに、ここからの巻き返しに期待したいものだ。ドラマも映画も爆死では、原作者の又吉も報われないだろう。
(文=田中七男)