食べることは生きること――あまりにもヤバい新食感グルメ番組が映し出す、世界の現実

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『ハイパーハードボイルドグルメリポート』テレビ東京
 グルメ番組といえば、心穏やかに見るものと相場が決まっている。おいしそうな料理におなかを鳴らせながら、近場なら、その店の情報をメモしたりする。テレビにおいて重要な要素である「情報」の中でも、最も幸福な種類の情報番組のひとつだ。  だが、VTRを見ている小籔一豊が思わず 「どういう気持ちで見たらいいんやろ?」 「(料理を食べて)新食感とか言うてた自分が恥ずかしい」 と顔をしかめる“グルメ番組”がある。  それが、10月3日深夜に放送された『ハイパーハードボイルドグルメリポート』(テレビ東京)だ(なお、10日深夜にも第2回が放送される予定)。  タイトルからして、不穏なムードが漂っている。  この番組がリポートするグルメは、一言で言えば「ヤバい飯」。といっても、ゲテモノの類いではない。食べている人が「ヤバい」のだ。  なるほど、サブタイトルが「ヤバい世界のヤバい奴らのヤバい飯」というのもうなずける。  まず番組は、アフリカのリベリア共和国に。  西アフリカに位置する小国で、アメリカから解放され、アフリカに戻った黒人奴隷が建国した国。そのため、共用語は英語だ。年間の日本人渡航者(民間)は限りなくゼロに近いことなどが、ナレーションを排し、テロップのみで伝えられる。  ディレクターは、街の市場に向かう。  そこで彼が目にしたのは、日の丸のマークが描かれた包み。「非売品」と記されている、とうもろこしの粉だ。それを売買している者に聞くと、やはり日本からの支援物資が横流しされ、転売されているのだという。番組では、それを手に入れて食べている人を「横流し飯」としてリポートしていくのだ。  さらに、エボラ出血熱を発症しながら奇跡的に生き残った人の食事もリポート。家族は全員エボラで死に、今は親戚の家に身を寄せている。彼女にディレクターが「生活はどう?」と尋ねると、こんな答えが返ってきた。 「変わらない。不幸なままよ。生きていけるけど簡単じゃない。食べ物がないの。叔母さんが食べ物をくれるけど、毎日じゃないから」  そして番組は、リベリアの過酷な現実を映し出す。 「元人食い少年兵の飯」というテロップ。  1989年からリベリアでは激しい内戦が行われていた。25万人以上が戦死したといわれるこの内戦で、政府軍、革命軍は共に子どもたちを拉致し、訓練を施した上で銃を持たせ、前線に送り込んだ。少年たちは現実から逃れるため、コカインを常用し、仮装して戦ったという。極限状態に置かれた彼らは、殺した敵兵の肉を食ったと伝えられている。  そんな元少年兵たちが今、どんな食事をしているかリポートしようというのだ。  2003年、内戦が終結すると、少年兵たちは居場所を失い、彼らは広大な共同墓地に住むようになった。ガイドを務める現地ジャーナリストすら、墓地の前に着くと言う。 「相当危ないぞ、近づく時は本当に気をつけないと。元少年兵が襲ってくるかもしれない」  実際、墓地の前でたむろしている男たちに声をかけると「クソ野郎、何撮ってんだ、お前!」などと罵声を浴びせられ、どんどんと人が集まってきて取り囲まれる。体をぶつけスリをしようとする者や、カメラを取り上げようとしてくる者もいる。 「とりあえず中は入れ」 と、自分たちのテリトリーに無理やり引き込もうとする元少年兵たちの迫力は、テレビでなかなか見ることのできない緊張感だった。  なし崩し的に墓地の中に入ると、ひとりの女性が頭蓋骨を掲げてほほえんでいる。両親が殺され、その復讐のため11歳から少女兵として戦ったという。今は「生きるため」に娼婦をしている。  そんな彼女に「食事を見せてくれ」と言うと、「今は食事を買う金がない」と答え、「3時間後に仕事に行くから、ついてくれば?」と言う。 「客が来て、セックスをして、客が金をくれたらご飯を買いに行くの」  暗闇の中、いつものように客を取り、金をもらって戻ってきた彼女。その報酬は、わずか200リベリアドル(約200円)。その金で、150リベリアドルの食事を買う。スープと白米だけ。1回体を売って、ほぼ1食分だ。  食べることは生きることだ。この番組は、それをあまりにも生々しく見せ、むき出しにさらしている。ほぼ白米だけのリベリアの娼婦の飯を伝えた直後に映し出されたのは、台湾マフィアの豪勢な食事。1万円以上するフカヒレまるごとスープを毎週食べている。その強烈なギャップにクラクラする。 けれど、それが現実だ。  食事は、現実を如実に表す。食事から、世界の現実の確かな一部が見えてくる。 「これはグルメ番組です」  確かにグルメ番組だ。けれど、あまりにも“新食感”なグルメ番組だった。 (文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

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笑福亭鶴瓶論 スキマさんの新刊、好評発売中です! 生きることは食べること――あまりにもヤバい新食感グルメ番組が映し出す、世界の現実の画像3

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『ハイパーハードボイルドグルメリポート』テレビ東京
 グルメ番組といえば、心穏やかに見るものと相場が決まっている。おいしそうな料理におなかを鳴らせながら、近場なら、その店の情報をメモしたりする。テレビにおいて重要な要素である「情報」の中でも、最も幸福な種類の情報番組のひとつだ。  だが、VTRを見ている小籔一豊が思わず 「どういう気持ちで見たらいいんやろ?」 「(料理を食べて)新食感とか言うてた自分が恥ずかしい」 と顔をしかめる“グルメ番組”がある。  それが、10月3日深夜に放送された『ハイパーハードボイルドグルメリポート』(テレビ東京)だ(なお、10日深夜にも第2回が放送される予定)。  タイトルからして、不穏なムードが漂っている。  この番組がリポートするグルメは、一言で言えば「ヤバい飯」。といっても、ゲテモノの類いではない。食べている人が「ヤバい」のだ。  なるほど、サブタイトルが「ヤバい世界のヤバい奴らのヤバい飯」というのもうなずける。  まず番組は、アフリカのリベリア共和国に。  西アフリカに位置する小国で、アメリカから解放され、アフリカに戻った黒人奴隷が建国した国。そのため、共用語は英語だ。年間の日本人渡航者(民間)は限りなくゼロに近いことなどが、ナレーションを排し、テロップのみで伝えられる。  ディレクターは、街の市場に向かう。  そこで彼が目にしたのは、日の丸のマークが描かれた包み。「非売品」と記されている、とうもろこしの粉だ。それを売買している者に聞くと、やはり日本からの支援物資が横流しされ、転売されているのだという。番組では、それを手に入れて食べている人を「横流し飯」としてリポートしていくのだ。  さらに、エボラ出血熱を発症しながら奇跡的に生き残った人の食事もリポート。家族は全員エボラで死に、今は親戚の家に身を寄せている。彼女にディレクターが「生活はどう?」と尋ねると、こんな答えが返ってきた。 「変わらない。不幸なままよ。生きていけるけど簡単じゃない。食べ物がないの。叔母さんが食べ物をくれるけど、毎日じゃないから」  そして番組は、リベリアの過酷な現実を映し出す。 「元人食い少年兵の飯」というテロップ。  1989年からリベリアでは激しい内戦が行われていた。25万人以上が戦死したといわれるこの内戦で、政府軍、革命軍は共に子どもたちを拉致し、訓練を施した上で銃を持たせ、前線に送り込んだ。少年たちは現実から逃れるため、コカインを常用し、仮装して戦ったという。極限状態に置かれた彼らは、殺した敵兵の肉を食ったと伝えられている。  そんな元少年兵たちが今、どんな食事をしているかリポートしようというのだ。  2003年、内戦が終結すると、少年兵たちは居場所を失い、彼らは広大な共同墓地に住むようになった。ガイドを務める現地ジャーナリストすら、墓地の前に着くと言う。 「相当危ないぞ、近づく時は本当に気をつけないと。元少年兵が襲ってくるかもしれない」  実際、墓地の前でたむろしている男たちに声をかけると「クソ野郎、何撮ってんだ、お前!」などと罵声を浴びせられ、どんどんと人が集まってきて取り囲まれる。体をぶつけスリをしようとする者や、カメラを取り上げようとしてくる者もいる。 「とりあえず中は入れ」 と、自分たちのテリトリーに無理やり引き込もうとする元少年兵たちの迫力は、テレビでなかなか見ることのできない緊張感だった。  なし崩し的に墓地の中に入ると、ひとりの女性が頭蓋骨を掲げてほほえんでいる。両親が殺され、その復讐のため11歳から少女兵として戦ったという。今は「生きるため」に娼婦をしている。  そんな彼女に「食事を見せてくれ」と言うと、「今は食事を買う金がない」と答え、「3時間後に仕事に行くから、ついてくれば?」と言う。 「客が来て、セックスをして、客が金をくれたらご飯を買いに行くの」  暗闇の中、いつものように客を取り、金をもらって戻ってきた彼女。その報酬は、わずか200リベリアドル(約200円)。その金で、150リベリアドルの食事を買う。スープと白米だけ。1回体を売って、ほぼ1食分だ。  食べることは生きることだ。この番組は、それをあまりにも生々しく見せ、むき出しにさらしている。ほぼ白米だけのリベリアの娼婦の飯を伝えた直後に映し出されたのは、台湾マフィアの豪勢な食事。1万円以上するフカヒレまるごとスープを毎週食べている。その強烈なギャップにクラクラする。 けれど、それが現実だ。  食事は、現実を如実に表す。食事から、世界の現実の確かな一部が見えてくる。 「これはグルメ番組です」  確かにグルメ番組だ。けれど、あまりにも“新食感”なグルメ番組だった。 (文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

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水道橋博士と太田光が18年ぶりに対峙! テレ東生放送「ビートたけし不在」の醍醐味

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 ついに、恐れていたことが起きてしまった。  あのビートたけしが朝の生放送をやるということだけで驚きだった『おはよう、たけしですみません。』(テレビ東京系)。それも5日間連続で放送するというのだから、大丈夫なのかと思っていた。  実際、たけしは初日から暴走気味。生放送でカットされないのをいいことに、得意のヅラネタをふんだんに連発し、政治ネタから自身が出演している番組のネタまでギリギリのラインで攻め続けていた。  その結果、2日目は謝罪からスタート。その後もCM明けのたびに謝罪を繰り返す、まさにたけしの真骨頂が繰り広げられていた。  そして3日目の10月4日。番組がスタートし、映し出されたのは、誰も座っていない椅子。そう、たけしが来ていないのだ。  もう生放送は始まっている。正直言って、たけしが“ズル休み”をするというのは予想できなくもなかった。事実、1日目、2日目の番組中も、本人の口から予告めいた発言はなされていた。だが、本当にやるとは……。たけしの不在に困惑しているのは、視聴者だけではない。誰も座っていない席の傍らにいる、浅草キッドの水道橋博士と、爆笑問題の太田光だ。 「いるはずの人がいないし、君とはやってられない」と博士が口を開けば、「オレだって不愉快極まりない」と太田も返す。  本番前から険悪なムードで、ひと言も口をきいていないという2人。そう、この2人は“犬猿の仲”で知られる関係なのだ。  それは30年近く前のことだ。やはり、ビートたけしの“ズル休み”が原因だった。1990年、自身がパーソナリティを務める『ビートたけしのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)をたけしが休んだ際、その代役を務めたのが、当時若手有望株として「ポスト・ツービート」などといわれていた爆笑問題だった。  そのオープニングで、血気盛んな太田は言った。 「たけしさんがとうとうですね、死んじゃいました」  さらに、ライバルの浅草キッドを挑発。それに怒った水道橋博士が生放送中に“乱入”したのだ。ちなみに玉袋筋太郎は、ちょうど入院中だったため、現場に駆けつけることができなかった。  放送中はプロの芸人同士。芸人vs芸人の対決の範疇で収めたものの、放送後、博士が太田に長時間のマジ説教をしたとも伝えられている。  また、このことで爆笑問題はニッポン放送から数年間、出演禁止処分が下された。その後も、2組のライバル関係は続く。  ともにたけしイズムを継ぐ漫才師として時事ネタに毒を吐く漫才を作り続けているが、同じ時事ネタ漫才でも考え方の違いが浮き彫りになっている。  爆笑問題は矢継ぎ早に毒を吐き、どんどん話題を変えていくことで、テレビでギリギリ使える漫才に仕立てていくのに対し、浅草キッドはその毒を深化させることで、1秒もテレビでは使えないネタをライブ限定で披露しているのだ。  そうした2組が、テレビでがっつり共演したのは、99年の『新春爆笑ヒットパレード』(フジテレビ系)のみ。この時も、つかみ合いのケンカになった(といっても、これは打ち合わせ済みのものだったという)。  2人のテレビでの共演はそれ以来、18年ぶりだ。  たけしからのオファーだから断れない2人が対峙した初日。「ここは38度線だから」と、たけしを間に挟み座る博士と太田。若干ぎこちなさを感じさせつつも、時間がたつにつれ、3人はスイングする。 「橋下徹と東国原はインチキです」などという博士の言葉に、太田が手を叩いて笑う姿は感慨深いものがあった。  そして、たけし不在の3日目。  聞くと、たけしは「2日間の苦情に耐えきれなくて」休んだという。すかさず太田が「俺たちのほうが耐えられないよ! 今日どんだけ苦情来るか」と返し、「なんで呼ばれてない講談社には来るのに、呼ばれてるテレ東には来ないの?」などと、たけしを肴に息の合った掛け合いをする2人。  こんな光景がテレビで実現するとは思わなかった。冒頭で、「恐れていたことが……」と書いたが、違う。これを期待していたのだ。  たけしが4日目も最終日も、来るか来ないかわからない。このまま博士と太田の仲がうまくいくかもわからない。この「わからない」というドキドキ感こそが、生放送の醍醐味だ。それをテレビという不特定多数の人が見る場で、しかも朝っぱらからやるからこそ面白い。「明日はちゃんとたけし来てくれ」と願う自分がいる一方で、「来なくても面白いかも」と思う自分もいる。その引き裂かれる感じがたまらないのだ。 (文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

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「お笑い」と「お笑い風」は地続き――『ゴッドタン』が開拓した、ハライチ岩井の“腐り芸”

「お笑い」と「お笑い風」は地続き――『ゴッドタン』で見せるハライチ岩井の腐り芸の画像1
 8月26日、『24時間テレビ』(日本テレビ)の真裏で放送された『ゴッドタン』(テレビ東京系)の「最初でたぶん最後のゴールデン3時間半スペシャル」。ゴールデンで放送されたのも「まさか」の出来事だったが、このたび、ギャラクシー賞の8月度月間賞を受賞した。  10年以上続く『ゴッドタン』が同賞を受賞するのは初めて。この手の賞は、いわゆる「お笑い」を軽視しがちだが、ギャラクシー賞に関してはそうとは言えない。そのため、初めてというのは少し意外な感じはするが、それでも快挙だ。  スペシャルではさまざまな名物企画が放送されたが、中でも印象的だったのは「マジ歌選手権」でのハライチ岩井勇気のパフォーマンスだ。 「マジ歌選手権」は『ゴッドタン』初期から続き、今年は日本武道館ライブも成功させたほどの看板企画。芸人が「マジ」でオリジナル曲を作り歌うというものだ。  岩井は相方の澤部佑を従え、「OWA LIAR」という歌を披露。キーボードを弾きながら、「今日もテレビを見てたんだ 小さい頃から夢見てた 憧れの世界ゴールデン それがいま好きになれない♪」と歌い始めると、澤部が「どうした?」とツッコミを入れる。 「芸能人が笑ってる ゲラゲラ奇妙に笑ってる まったく面白くないことでバカみたいに笑ってるよ インスタで話題……どうでもいい 大御所の自慢 聞き飽きた 番宣役者を持ち上げて 芸人たちがそれっぽく 笑いに変えて見せている そんなもの……お笑いじゃない」  澤部が「岩井!」と制す中、岩井はおもむろに立ち上がる。 「『お笑い風』……俺はそう呼ぶ!」  こんな歌詞をゴールデンタイムで歌うのだから痛快だ。  この後、岩井は踊りだし、「ヘドが出そうなこの世界でたったひとつだけ見つけた 僕が好きになれたモノ」を歌い始め、オチがつく。つまり、この「お笑い風」批判は壮大な前フリなのだが、当然、いくばくかの本音も凝縮されているだろう。  それを番組では「腐り」と形容し、キャラ付けした。  そんな「腐り芸人」を集めて行われたのが、9月16日放送の「かぶりタレントキャラ統一マッチ」第2弾だ。キャラがかぶっている芸人たちを集め、誰がNo.1なのかを決めるというもの。  集まったのは、相方との格差に「ねたむでもひがむでもなく、腐るという新ジャンルを生み出した腐り芸人のパイオニア」岩井と、相方の不祥事により「足引っ張られ腐り芸人」インパルス板倉俊之、そして「ナチュラルボーン腐り芸人」の平成ノブシコブシ・徳井健太の3人。番組では、それぞれの腐りエピソードを紹介していく。  たとえば、岩井が澤部を評し、こんなことを言ったという。 「あんな奴、1を増やすのが得意なだけで、ゼロから1を作れないからね。ゼロから1を作れない奴は、芸人じゃなくて“芸人風”なだけ」  ゼロから1を作れない奴はいわば「下請け」なのだ、と。  それに呼応し、板倉は自身の体験を元に話をつなげていく。例えば、番組の初回はコンビで呼ばれる。そこでは、板倉が相方・堤下敦を徹底的にイジり、大きな笑いを生む。しかし、次回以降、MCがそのイジり方をそのまま踏襲するのだ。すると、板倉の役割が失われ、番組には堤下だけが呼ばれることになってしまう。 「作った人に対する敬意みたいなものが一切ない」  これを受け、岩井の腐りがさらに加速していく。 「俺らの思う100点の笑いってあるじゃないですか。でも、ゴールデンの笑いって、30点出せばいい。それがちょうどいい。でも、その30点を100点だと思ってる芸人が売れるんです」  一方で板倉は、自分は今、「悟り期」なのだという。「飯食って『うまい!』、犬見て『かわいい!』、アトラクション乗って『怖かった!』と言うために芸人をやっているわけではない」と先輩の小籔千豊に相談したところ、こんな答えが返ってきた。 「お前がたとえば映画を1本撮る。警察官の役をやってほしくて呼んだ役者がいる。その役者が、『殺人鬼の役をやりたいんですよ』って言うのをやってるようなもんやで」  わかりやすいと思った。自分はスタッフのことを何も考えていなかった。何もわかっていなかったんだと思った。  しかし――。  それでもなお、自分は「かわいい!」と言いたくないと思った。 「2択を突きつけられたときに『そうだ、やろう』と思える人は売れる。でも、俺みたいに意味はわかるけど、それでもお笑いだけをやりたいって人は淘汰される。で、淘汰されることに対して抵抗してないんです」  岩井の言う「お笑い」と「お笑い風」は、確かに違うかもしれない。どちらが好きか嫌いかは、人それぞれだろう。だが、そこに優劣をつけようとするとおかしくなる。いみじくも、岩井はこうつぶやいた。 「この番組では腐りキャラなんですけど、ほかの番組では、ただの腐ってる奴なんですよ」  キャラ立てし、わかりやすくするのは、実は「お笑い風」の常套手段でもある。「お笑い」と「お笑い風」は地続きなのだ。この「お笑い」番組でのキャラ立てが“取扱説明書”になり、ほかの「お笑い風」番組に波及し、ブレークした例はいくつもある。そうなったときに、それに抗う姿も魅力的だし、ギリギリのラインを探りながら順応していくのも悪くない。その葛藤と覚悟と変化を見ることが、「お笑い風」の楽しみのひとつだ。  最後に、岩井は自嘲して言った。 「この番組で視聴者から『面白い』とか言われるんですけど、一向にほかのバラエティに呼ばれないんですよ。それってなんでかわかります? 腐ってるからです」 (文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

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 8月26日、『24時間テレビ』(日本テレビ)の真裏で放送された『ゴッドタン』(テレビ東京系)の「最初でたぶん最後のゴールデン3時間半スペシャル」。ゴールデンで放送されたのも「まさか」の出来事だったが、このたび、ギャラクシー賞の8月度月間賞を受賞した。  10年以上続く『ゴッドタン』が同賞を受賞するのは初めて。この手の賞は、いわゆる「お笑い」を軽視しがちだが、ギャラクシー賞に関してはそうとは言えない。そのため、初めてというのは少し意外な感じはするが、それでも快挙だ。  スペシャルではさまざまな名物企画が放送されたが、中でも印象的だったのは「マジ歌選手権」でのハライチ岩井勇気のパフォーマンスだ。 「マジ歌選手権」は『ゴッドタン』初期から続き、今年は日本武道館ライブも成功させたほどの看板企画。芸人が「マジ」でオリジナル曲を作り歌うというものだ。  岩井は相方の澤部佑を従え、「OWA LIAR」という歌を披露。キーボードを弾きながら、「今日もテレビを見てたんだ 小さい頃から夢見てた 憧れの世界ゴールデン それがいま好きになれない♪」と歌い始めると、澤部が「どうした?」とツッコミを入れる。 「芸能人が笑ってる ゲラゲラ奇妙に笑ってる まったく面白くないことでバカみたいに笑ってるよ インスタで話題……どうでもいい 大御所の自慢 聞き飽きた 番宣役者を持ち上げて 芸人たちがそれっぽく 笑いに変えて見せている そんなもの……お笑いじゃない」  澤部が「岩井!」と制す中、岩井はおもむろに立ち上がる。 「『お笑い風』……俺はそう呼ぶ!」  こんな歌詞をゴールデンタイムで歌うのだから痛快だ。  この後、岩井は踊りだし、「ヘドが出そうなこの世界でたったひとつだけ見つけた 僕が好きになれたモノ」を歌い始め、オチがつく。つまり、この「お笑い風」批判は壮大な前フリなのだが、当然、いくばくかの本音も凝縮されているだろう。  それを番組では「腐り」と形容し、キャラ付けした。  そんな「腐り芸人」を集めて行われたのが、9月16日放送の「かぶりタレントキャラ統一マッチ」第2弾だ。キャラがかぶっている芸人たちを集め、誰がNo.1なのかを決めるというもの。  集まったのは、相方との格差に「ねたむでもひがむでもなく、腐るという新ジャンルを生み出した腐り芸人のパイオニア」岩井と、相方の不祥事により「足引っ張られ腐り芸人」インパルス板倉俊之、そして「ナチュラルボーン腐り芸人」の平成ノブシコブシ・徳井健太の3人。番組では、それぞれの腐りエピソードを紹介していく。  たとえば、岩井が澤部を評し、こんなことを言ったという。 「あんな奴、1を増やすのが得意なだけで、ゼロから1を作れないからね。ゼロから1を作れない奴は、芸人じゃなくて“芸人風”なだけ」  ゼロから1を作れない奴はいわば「下請け」なのだ、と。  それに呼応し、板倉は自身の体験を元に話をつなげていく。例えば、番組の初回はコンビで呼ばれる。そこでは、板倉が相方・堤下敦を徹底的にイジり、大きな笑いを生む。しかし、次回以降、MCがそのイジり方をそのまま踏襲するのだ。すると、板倉の役割が失われ、番組には堤下だけが呼ばれることになってしまう。 「作った人に対する敬意みたいなものが一切ない」  これを受け、岩井の腐りがさらに加速していく。 「俺らの思う100点の笑いってあるじゃないですか。でも、ゴールデンの笑いって、30点出せばいい。それがちょうどいい。でも、その30点を100点だと思ってる芸人が売れるんです」  一方で板倉は、自分は今、「悟り期」なのだという。「飯食って『うまい!』、犬見て『かわいい!』、アトラクション乗って『怖かった!』と言うために芸人をやっているわけではない」と先輩の小籔千豊に相談したところ、こんな答えが返ってきた。 「お前がたとえば映画を1本撮る。警察官の役をやってほしくて呼んだ役者がいる。その役者が、『殺人鬼の役をやりたいんですよ』って言うのをやってるようなもんやで」  わかりやすいと思った。自分はスタッフのことを何も考えていなかった。何もわかっていなかったんだと思った。  しかし――。  それでもなお、自分は「かわいい!」と言いたくないと思った。 「2択を突きつけられたときに『そうだ、やろう』と思える人は売れる。でも、俺みたいに意味はわかるけど、それでもお笑いだけをやりたいって人は淘汰される。で、淘汰されることに対して抵抗してないんです」  岩井の言う「お笑い」と「お笑い風」は、確かに違うかもしれない。どちらが好きか嫌いかは、人それぞれだろう。だが、そこに優劣をつけようとするとおかしくなる。いみじくも、岩井はこうつぶやいた。 「この番組では腐りキャラなんですけど、ほかの番組では、ただの腐ってる奴なんですよ」  キャラ立てし、わかりやすくするのは、実は「お笑い風」の常套手段でもある。「お笑い」と「お笑い風」は地続きなのだ。この「お笑い」番組でのキャラ立てが“取扱説明書”になり、ほかの「お笑い風」番組に波及し、ブレークした例はいくつもある。そうなったときに、それに抗う姿も魅力的だし、ギリギリのラインを探りながら順応していくのも悪くない。その葛藤と覚悟と変化を見ることが、「お笑い風」の楽しみのひとつだ。  最後に、岩井は自嘲して言った。 「この番組で視聴者から『面白い』とか言われるんですけど、一向にほかのバラエティに呼ばれないんですよ。それってなんでかわかります? 腐ってるからです」 (文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

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千鳥・大悟とノンスタ・石田が即興漫才!? 『イッテンモノ!』が見せる、漫才師のすごみ

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「ほぼ20年戦士なのに、サンパチマイクの横で足がちゃんと震える!」  いまや押しも押されもせぬ実力派芸人としてテレビ界を席巻する千鳥。漫才師として、さまざまな修羅場をくぐってきた。  それでもノブは、この番組でマイクの前に立ち、漫才をした感想をそう語った。  漫才師の実力を測る舞台は『M-1グランプリ』をはじめ、いろいろある。が、これらは基本的に練りに練って完成したネタで競い合うものだ。  もちろん、それが漫才の実力を測るコンテストとしては正統だ。だが、一方で、漫才師の“すごみ”を感じさせてくれるひとつに、“即興”がある。  フリートークとは一味違う、漫才の文法に則った上で繰り広げられる漫才の即興はめったに見られるものではないが、それを見事に見せつけられると、“やっぱり漫才師って、すげーっ”とあらためて感じてしまう。  そんな驚きを毎回見せてくれるのが『イッテンモノ!』(テレビ朝日)だ。これは、もともと月曜深夜2時台の「キタイチ」という枠で放送されていたもの。「キタイチ」という名の通り、その後のレギュラー化を期待される実験番組を放送する枠。ここで『イッテンモノ!』は1カ月分、7月4日~8月8日まで全4回放送された。  しばらくは完全レギュラー化に向けてお休みかと思いきや、早くも8月26日から、土曜深夜で放送が再開された。  月曜深夜時代は、千鳥、サンドウィッチマン、三四郎の3組、8月26日の放送からは、千鳥は変わらず、ほかの2組はNON STYLEとハライチにバトンタッチ(サンドウィッチマン、三四郎は今後も登場予定だとアナウンスされている)。いずれも、漫才師として超実力派コンビだ。  この番組は、旬なゲストを招き、そのゲストとトーク。そのトークで引き出したキーワードを元に、“オーダーメイド”となるイッテンモノの漫才を仕立て披露するというもの。  漫才を披露する2人はゲストが指名する。その際、コンビは関係なくシャッフルされる。つまり、ボケ×ツッコミだけではなく、ボケ×ボケという組み合わせも、その逆もある。また、普段ネタを書いていない同士になってしまうことだってあるのだ。  指名された2人は制限時間わずか10分の間にネタ合わせをし、即興で漫才を作り上げていく。  視聴者にとっては、これまで見たことがない組み合わせの漫才が見られる“ドリームマッチ”感も楽しめるが、漫才をするほうにとっては、ネタを練りに練って完成させていくのとはまったく違う、漫才の筋力が試される過酷な番組である。 「今日ぐらいスベっておきたい」  大悟は、土曜深夜版の初回(通算5回目)のオープニングでそう語った。  月曜深夜版の初回は伊達×ノブ、2回目は富澤×小宮、3回目は富澤×大悟、4回目はノブ×相田という組み合わせで指名された。もちろん、この組み合わせで漫才をしたことなどない。小宮と富澤に至っては、これまで楽屋などでもほとんどしゃべったことはないという。にもかかわらず、それぞれが持ち味を発揮し、大きな笑いを取っていたのだ。  成功を続けると、ハードルはどんどん上がってしまう。それくらい、月曜深夜版の時の4回の漫才は見事なものだったのだ。  土曜深夜版・初回ゲストは「太眉ガール」として話題の現役女子高生タレント・井上咲楽。「オナラを我慢しない」「水虫をもらいにいく」「お笑い芸人を目指していた」「Mr.ビーンのものまねが得意」「ハニカミ笑いが好き」などといった話が引き出されていく。  そして、彼女が指名したのは、NON STYLE・石田と千鳥の大悟。ボケ×ボケの組み合わせだ。 「正直、石田が一番難しい」 と困惑する大悟が打合せの席に着くと、石田が事もなげに言ったという。 「ボケとツッコミ、どっちでもできます」  そして10分後、出来上がったのは、大悟がボケ、石田がツッコミの漫才。 「彼氏の前でもオナラを我慢しない」という漫才コントの中に、「Mr.のものまね」や「ハニカミ笑い」などキーワードを見事に取り込んだものだった。まさに漫才師のすごみを見せつけた。  だが、完璧に見える石田もサンパチマイクの前に立つと震えたのだろう。自らつかみのボケを提案したのに、それを飛ばしてしまったのだという。 『イッテンモノ!』は、漫才師のすごみと人間味を同時に見せてくれる番組なのだ。 (文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

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突然のアクシデントに鶴瓶が神対応! 演者と観客の壁を取り払う『きらきらアフロ』の特異性

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笑福亭鶴瓶公式サイト「つるべ.net」より
 笑福亭鶴瓶は、知人を集めて六本木でカラオケをしたという話を快調に語っていた。 「それはね、僕のファンの子らもいながらも、精神科医がおったり、NHKのアナウンサーがおったりとか、メイクさんがおったりとかね……」 とここまで言って、突然、鶴瓶は客席の女性に目を向け言った。 「大丈夫、自分?」  見ると、女性はハンカチを口に当て、顔色が真っ青。体調を崩していたのだろう。それにいち早く気づき、手を差し出しながら「おいでおいで」と席を立たせ、スタッフに指示を出しながら誘導していく。さらに、女性が申し訳なさそうに退室していくのに対して優しく声をかける。 「全然大丈夫、また戻っておいでや」  突然のアクシデントに、気遣いあふれる対応を見せた。まさに神対応だ。  これは、『きらきらアフロTM』(毎週水曜深夜1時~/テレビ東京系)の本番中での出来事だ。松嶋尚美が「よくわかったね。真っ青」と驚嘆の声を上げると、観客からも「すごーい」の声。「当たり前やんか」と答える鶴瓶に松嶋は言う。 「今、恋したと思うで」  これを受け、鶴瓶は以前の落語会での出来事を話し始める。人情噺を披露しているときだ。落語中は、観客席の照明を消している。だから真っ暗。鶴瓶から観客は見えない。  だが、バサーッという音がした。  誰かが倒れたのだとわかった。とっさに鶴瓶は叫んだ。 「救急車ー!」  しかし、舞台袖のスタッフは動かない。落語のセリフだと思ったのだ。すぐにそうとわかった鶴瓶は、もう一度叫び直す。 「落語違う! 早く救急車!」  ようやく異変に気づいたスタッフが対応。おばあさんが倒れたことがわかった。 「お医者さんいませんかー!」 という鶴瓶の呼びかけに観客席から名乗り出る者がいたりと、ドラマのような展開を回想する。 「全部自分でやったんやで。俺の独演会やから当たり前やけど。ほんだら、救急車が来はって、担架乗って。『ETC! ETC!』って。……ETCちゃう(笑)」  熱のこもったトークは、自らの言い間違いでぶった切られた。間髪入れず、観客のあちらこちらから「AED!」「AED!」の声が上った。 『きらきらアフロ』はよく、同じく鶴瓶が出演していた伝説の深夜番組『鶴瓶上岡パペポTV』(日本テレビ系)と比較される。どちらも基本は2人だけのトーク番組だからだ。 『パペポTV』の場合は、パートナーは10歳年上で大先輩の上岡龍太郎。『アフロ』は20歳年下で後輩の松嶋尚美。  必然的に鶴瓶の役回りは、前者は話し手、後者は聞き手となることが多くなる(もちろん、どちらも流動的に役割が入れ替わるが)。それが2つの番組の大きな違いだ。  さらに、上岡の場合、豊富な知識と記憶力で、鶴瓶に間違いがあれば即座にツッコむことができるが、『きらきらアフロ』の場合、そうはいかない。松嶋の素っ頓狂な間違いを訂正する役回りの鶴瓶もまた、記憶があやふや。結果、それを正すのが観客、というシーンをよく見る。  実はこの光景こそ、『きらきらアフロ』を唯一無二たらしめているのではないだろうか? つまりこの番組は、演者と観客との間に、壁が一切ないのだ。いわば、一緒に集まって話している感じ。その中心に、鶴瓶と松嶋がいるにすぎない。  実際、この日も、鶴瓶は自分が死んだら「密葬」がいいと言うと、観客席から「そんな有名なのに、密葬なんてもったいない」という声が自然と上がり、「なんでお前に言われなあかんねん」と笑いながら答える一幕があった。  観客から演者に声が上がるという光景は、認知欲求の強いファンがいるライブなどで見かけることがあるが、多くの場合、それは場の空気を壊し、ほかの観客からすると迷惑行為でしかない。  しかし、『きらきらアフロ』の場合は違う。  それは鶴瓶と『きらきらアフロ』が、観客との壁を取っ払い、日常の延長のように一緒にしゃべるという空気を作っているからだろう。それこそが、この番組の特異性なのだ。だから、観客の異変にも、すぐに気づくことができる。  ところで、前述の落語会で倒れたおばあさんの件だが、鶴瓶はその後が心配だったため、わざわざ座席から連絡先を調べ、自ら電話をかけたという。 「『(医師から)どない言われたんですか?』って聞いたら、『極度のストレス』やて(笑)。どんな落語やねん!」  客を客として以上に、一人の人間として接する。そのきめ細かい神対応な気遣いこそ、笑福亭鶴瓶の真髄なのだ。 (文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

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自分が好きなものを、いかに人に伝えるか――『有田と週刊プロレスと』という伝え方の教科書

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『有田と週刊プロレスと』公式サイトより
「プロレスとは人生の教科書」  そんな言葉を聞いた時点で、拒否反応を示す人は多いだろう。プロレス好きでもない人にとって、プロレスファンのそういった物言いは圧が強すぎるし、実際に話を聞いたとしても、「ああ、そうですか」としか反応できない。  自分が好きなものを、それに興味がない人に話すのは、とても難しいことだ。  そんな中、冒頭の言葉がキャッチフレーズになっている番組がある。それがAmazonプライム・ビデオで配信されている『有田と週刊プロレスと』(毎週水曜更新)だ。  番組はその名の通り、くりぃむしちゅー・有田哲平が「週刊プロレス」(ベースボール・マガジン社)を元に語り、その中から人生の教訓を導き出していくというもの。 「だったら、私はプロレスファンじゃないし、結構です」となってしまうのは、あまりにもったいない。  番組は昨年11月からシーズン1が始まり、今年5月まで全25回配信された。それが好評を博し、早くも7月26日よりシーズン2の配信が開始されたのだ。  アシスタントは元AKB48の倉持明日香。小橋建太の大ファンだ。現在のプロレスには詳しいが、昭和のプロレスはそれほど知識がないという。  ゲストは、ピース・綾部や宮澤佐江のようなまったくのプロレス初心者から、武井壮やアンガールズ・田中のように一時期だけプロレスを見ていた人、そしてケンドーコバヤシや水道橋博士のようなプロレスマニアまでさまざま。  もちろん、プロレスマニアがゲストの回は話がスイングして面白いが、何よりも面白いのは、プロレスに対し、あまり知識のない人がゲストの時だ。そんな時、有田の驚異的な解説力が浮き彫りになるのだ。  有田はまず、時系列を簡潔かつ丁寧に説明する。そして、マニアックで激似なモノマネを駆使しながら、表舞台で起こったことはもとより、裏で交わされた話も、あたかも現場にいたかのような臨場感たっぷりに話していく。  最初は、“お仕事”的に話を聞いていたゲストが、徐々に前のめりになり、最後には有田の語り口に魅了され、興奮していく。実際、番組を見終わると、そこで語られたことや試合をネットで検索せずにはいられなくなってしまう。  番組では、最初に有田に封筒が渡される。そこに入っているのは1冊の「週刊プロレス」。どの時期のどんな号が入っているかは、事前に知らされてはいない。その場で見て、それをテーマに語るのだ。  いきなり渡されて語れるというだけでもスゴいが、それだけではない。とかくプロレスファンは、昔であれば「新日本プロレス派」「全日本プロレス派」など思い入れのある団体以外は見ないということになりがちだが、有田は新日、全日、UWF……なんでも見ている。好みに濃度の違いはあったとしても、優劣をつけて語ったりはしない。  そしてなにより、昭和プロレスファンと現在のプロレスファンの断絶がいわれる中、今も現役で見続けているという強みがある。昭和プロレス好きは、最近のプロレスは語れないという人が多いが、有田は最近の「週刊プロレス」がお題でも、難なく解説してみせるのだ。  また、この番組が特異なのは、プロレスを語る番組を作ろうという時、そのテーマをたとえば「長州力」だとか「新日本プロレス」だとか個人や団体、あるいは「長州力vs藤波辰爾」のようなある一戦などにしがちだが、そうではなく1冊の「週刊プロレス」にしたということだ。  日本のプロレスは、独自の進化を遂げた。もちろん、アントニオ猪木やジャイアント馬場をはじめ、プロレスラーや団体運営者の力が大きかったのは言うまでもないが、それとは別の側面から見ると、「週刊プロレス」などのような活字メディアの力が大きかった。  それは「活字プロレス」と呼ばれ、試合だけではなく、その背景や心情などを伝えることで、プロレスに奥行きを生み、ファンの想像力を膨らませていった。いわば、活字メディアがプロレスファンを育てていったのだ。  個人的な話をすれば、僕も「プロレスファン」というよりは「プロレス雑誌ファン」だった。実際の試合を見るよりは、そのレポートやコラム、インタビューなどを読むことが主眼になるという本末転倒な状態にもなった。  けれど、そういうファンが多いからこそ、プロレスは、歴史をひもとき、背景を探りながら「語る」べき対象になったのだ。    だから「週刊プロレス」は、たとえ1冊だけでも、さまざまなことが語れてしまうのだ。その語り部に、全方位のプロレスファンであり、いまだに「週刊プロレス」を毎週読み込んでいるという有田ほど、うってつけな人材はいない。  たとえば、2017年2月22日号をテーマにした回。札幌でのオカダ・カズチカvs鈴木みのる戦が表紙だ。そこには「もう事件はいらない!」という意味深なコピーが添えられている。 「アジャ・コング?」  と、オカダ・カズチカの写真を見て言ってしまうほどプロレスに疎い宮澤佐江を相手に、そのコピーの意味を有田が解説してくのだ。  まず有田は、オカダや鈴木がどんな存在なのか、また現在の新日本プロレスの勢力図を、AKBなどを例えに出しながら、わわかりやすく示していく。その上で、コピーに書かれている「事件」とはどういう意味なのかを語り始める。  それは1983(昭和58)年までさかのぼる。そこで有田がプロレスを見始めるきっかけとなった長州力vs藤波辰爾戦が行われ、初めて長州が藤波を破り、王者となった。そして翌84年2月、札幌で長州vs藤波の再戦が組まれたのだ。選手自身もファンも待ち望んだ試合だったが、入場時に長州が藤原喜明に襲撃を受け、試合が不成立になってしまうのだ。いわゆる「雪の札幌テロ事件」である。 「その後、藤波さんは控室に戻らずに、そのまま雪の街を歩いてパンツ一丁で。記者が追っかけていって『大丈夫ですか、藤波さん?』と。藤波さん、ちょっと泣いてるんですよ。『こんな会社辞めてやる』って言って。それくらい藤波さんはこの試合をやりたくて、(できなかったのが)悲しかったの」 と、有田は現場で見ていたかのように生々しく語り、それ以降、札幌は新日本プロレスにとって「事件が起こる場所」になったということをひもといていく。 「だから、札幌、『もう事件はいらない!』なんです!」と、再び「週刊プロレス」の表紙を見せる有田。  オカダと戦ったのは、長州を襲撃した藤原の直系の弟子筋に当たる鈴木。彼自身も試合前のインタビューなどで「事件」をにおわせていた。だが、「事件」は起こらなかった。 「この日、オカダ・カズチカと鈴木みのるは事件をまったく起こさず、普通に試合をして、めちゃくちゃ盛り上げたんです!」  つまり、現在の新日本は、「事件」に頼らずとも、試合内容そのもので盛り上げることができる。そのことを表現した表紙だった。その短いコピーの中に、それだけの歴史と意味が詰まっていることを、有田は鮮やかに解説するのだ。  好きなものを伝える時、熱すぎても相手は冷めてしまう。逆に冷静に客観視しても、相手は引き込まれない。ならば、どうすればいいのか? そのお手本が『有田と週刊プロレスと』の有田の解説だ。自分の知識をひけらかしたり、自分の好みと物事の優劣とを混同したりは決してしない。いかに相手に伝わるかを第一に考え、提示する情報を取捨選択していく。その上で思い入れを加えることでメリハリが生まれ、話自体が面白く、聞きやすくなる。 「プロレスとは人生の教科書」と番組は言うが、『有田と週刊プロレスと』の有田の語り口こそ、人への伝え方の教科書なのだ。 (文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

アイドル愛を語り、杉作J太郎を絶賛、クラブで号泣……フジ『真夜中』が暴く、指原莉乃の本性

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撮影=後藤秀二
「Jさんに会いたいですもん、もはや!」  指原莉乃が、ラーメンをすすりながら言った。 「Jさん」とは、あの杉作J太郎。かつて、彼が地上波の番組で、女性アイドルにこれほど求められたことがあっただろうか?  この少し前まで指原は、苦手な渋谷のクラブ(踊るほう)に連れていかれ、ついには泣きだしてしまっていた。  気分転換に、と入ったラーメン屋で、アイドルとしての節制で何年も食べていなかったというラーメンを食べて、ようやく落ち着きを取り戻した。 「ラーメンなかったら、『真夜中』嫌いになって帰ってた」 『真夜中』(日曜深夜1時25分~/フジテレビ系)は、今年4月から始まった指原とリリー・フランキーのロケ番組。その名の通り、“真夜中”に活動するさまざまな場所に赴き、そこにうごめく人々の話を聞くという内容だ。  街での移動は、帯同するスタッフも少人数で、カメラはほぼスマホのみという完全ゲリラ撮影だという。  たびたび指原が「人生初めて」と口にする通り、超がつくほどインドアな彼女にとっては、未体験で未知の世界。それをナビゲートするのが、“深夜”を中心に何十年も活動をしてきたリリー・フランキーというのは、まさにうってつけのキャスティングといえるだろう。  最初は、ピエール瀧を迎えた「銀座」編(第1~3夜)。銀座の高級クラブ(踊らないほう)で、夜の女の極意やお酒について語り合った。  次に訪れたのは「新宿2丁目」(第4~7夜)。ミッツ・マングローブがガイドする形でゲイバーなどを訪れ、ゲイカルチャーの歴史を聞く。マツコ・デラックスの編集者時代など興味深い話も連発で、指原も前のめりになって質問をしていた。  そして、やや趣が変わった「ファミレス」編(第8~11夜)。この収録の直前、指原は親知らずを一気に4本抜いたばかり。顔が腫れ、食べることはもちろん、笑うこともツラそうな最悪のコンディション。そんな中、ファミレスで待ち構えていたのは、吉田豪、杉作J太郎、土屋大樹、岩岡としえという、テレビとは思えない濃厚なメンバーだった。指原も、プロインタビュアーの吉田以外は、まったくの初対面だ。恐る恐るといった感じで、席に着く。  しかし、リリーが「夜中でみんなが集まってする話といえば、趣味の話」というように、趣味の話をし始めると、それが一変する。指原とほかの4人はみな、女性アイドルファンなのだ。  4人の話を聞きながら、みるみるテンションが上っていき、「懐かしー!」「ヤバい!」「泣きそうになる!」と大興奮の指原。  特に杉作のアイドルの愛し方やそのエピソードの数々に、笑うと痛む歯に「痛い、痛い!」と言いながら大爆笑。 「最近出会った人間の中で一番面白い」 と、絶賛していた。  指原は子どもの頃からアイドルファン。きっかけは、モーニング娘。の後藤真希だったという。大分に住んでいた指原はまだ小・中学生だったから、東京まで後藤を追っかけることはできない。だが、ハロー!プロジェクトのアイドルが、福岡など九州でライブをやるとなれば駆けつけた。その結果、いわゆる「ハロヲタ」になったのだ。  そして、トップアイドルになった今でも、現役のアイドルヲタだという。極力現場へ赴き、移動中や家ではアイドルのDVDを見て過ごす。  それがまったくウソではないことは、すぐに証明された。  番組では、ファミレスからイベントスペースの「渋谷ロフト9」へ移動。アパッチとケンケンというアイドルファンも合流し、アイドル映像鑑賞会をやるという。まずハロヲタのケンケンが紹介したDVDの映像を見始めると、紹介者よりもテンションが上がり、「一番泣けるところ!」「かわいい!」などと絶叫しながら踊りだす。 「誰よりもヤバい奴じゃん」  リリーが苦笑する中、指原は紹介者のお株を奪うように解説を始め、「このDVDなら、私が一番見せたいのがあります!」と言って、別のシーンを再生。  繰り返し見ているという指原は、そのシーンのどこがいいのかを「キャー、エモい!」と興奮しながら伝えるのだ。 「一回自分がアイドルを応援してきたからこそ、アイドルはこうあるべきとかがわかる」 と、リリーは指原のアイドルとしての強さを語ったが、まさにそれを如実に表すハイテンションな放送だった。  しかし、次の回(第12夜)では、そのテンションが一変することになる。前述の通り、渋谷のクラブに行くというのだ。  これも、指原にとって「人生で初めて」の体験。「偏見」だと自覚しつつも、「一番苦手」「クラブとかフェスに行くような人と、友達にもなりたくない」「信用できない」と、道中に嫌悪感をあらわにしている。  番組では、FPM・田中知之、高木完、川辺ヒロシらが、クラブシーンやDJの歴史の変遷などを指原にレクチャーしていく。  この3人は、いずれも落ち着いた雰囲気。指原が抱くクラブやDJの人のイメージとは離れているため、素直に話を聞き、凝り固まった偏見が徐々にほぐれていく。  高木指導のもと、ラップにも初挑戦。 「人生でやった仕事で一番恥ずかしい」 と言いながらも、なんとか仕事を全うしている感じだった。  そうやって、偏見を解いていき、最後には「新しい世界が好きになりました!」みたいな展開が、よくテレビで見かける流れだ。  しかし、いざ実際にクラブを訪れると、やはり顔がこわばってしまう指原。プロのダンサーの踊りに圧倒されながらも、それ以上に「酔っ払って踊ってる人が怖い」と、その場の客の雰囲気になじめない様子。  実は、何軒かクラブを回った後、最後にDJがAKB48の「恋するフォーチュンクッキー」を流し、そこで指原がステージに上り、みんなで一緒に踊るというプランがあった。 「怖い」と繰り返す指原に、リリーは「人と出会ったり、みんなでパーティーを楽しみたいっていう人のイベントが大箱であるっていうことは、そういうのが求められているってこと。そこで楽しんでいる人も、今日の指原みたいに、最初は怖い、嫌だって思っているうちに、そうじゃないって誤解を解いていく瞬間がある」などと、実際に経験すると変わることもあると言って、エンディングのプランを話すと、指原は一層顔をこわばらせた。 「怖い……。シンプルに……」  そう言うと、みるみる目に涙がたまっていき、「ごめんなさい」と、ついに我慢できずにないてしまうのだ。結局、指原は番組が用意したプランを実行することができないまま、ラーメン屋のシーンにつながっていくのだ。  それはテレビ的な予定調和ではない、指原莉乃のドキュメントだった。たとえ、偏見が緩和されても、「好き」や「嫌い」は簡単に変わることはない。番組の冒頭には、雑誌「真夜中」発行人・孫家邦(リトルモア代表)の言葉が引用されている。 「真夜中に、陽のあたる場所で言えなかったことを言おう  真夜中に、陽のあたる場所でできなかったことをしよう」  真夜中は、そこでうごめく人たちの昼間では見せない本性が暴かれる時間だ。取り繕うことをやめ、「好き」や「嫌い」に忠実になって、むき出しになる。それを『真夜中』は切り取っていくのだ。 「Jさんに会いたい」と指原がつぶやいた直後、次回予告的に杉作J太郎が自転車で真夜中の街を疾走するシーンが挟み込まれた。  まさにそれは、指原を助けにくる救世主のようだった。  しかし、実際に杉作が再登場すると、指原は「この番組は杉作J太郎しか呼べないの?」と、うれしそうに笑った。 (文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから

アイドル愛を語り、杉作J太郎を絶賛、クラブで号泣……フジ『真夜中』が暴く、指原莉乃の本性

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撮影=後藤秀二
「Jさんに会いたいですもん、もはや!」  指原莉乃が、ラーメンをすすりながら言った。 「Jさん」とは、あの杉作J太郎。かつて、彼が地上波の番組で、女性アイドルにこれほど求められたことがあっただろうか?  この少し前まで指原は、苦手な渋谷のクラブ(踊るほう)に連れていかれ、ついには泣きだしてしまっていた。  気分転換に、と入ったラーメン屋で、アイドルとしての節制で何年も食べていなかったというラーメンを食べて、ようやく落ち着きを取り戻した。 「ラーメンなかったら、『真夜中』嫌いになって帰ってた」 『真夜中』(日曜深夜1時25分~/フジテレビ系)は、今年4月から始まった指原とリリー・フランキーのロケ番組。その名の通り、“真夜中”に活動するさまざまな場所に赴き、そこにうごめく人々の話を聞くという内容だ。  街での移動は、帯同するスタッフも少人数で、カメラはほぼスマホのみという完全ゲリラ撮影だという。  たびたび指原が「人生初めて」と口にする通り、超がつくほどインドアな彼女にとっては、未体験で未知の世界。それをナビゲートするのが、“深夜”を中心に何十年も活動をしてきたリリー・フランキーというのは、まさにうってつけのキャスティングといえるだろう。  最初は、ピエール瀧を迎えた「銀座」編(第1~3夜)。銀座の高級クラブ(踊らないほう)で、夜の女の極意やお酒について語り合った。  次に訪れたのは「新宿2丁目」(第4~7夜)。ミッツ・マングローブがガイドする形でゲイバーなどを訪れ、ゲイカルチャーの歴史を聞く。マツコ・デラックスの編集者時代など興味深い話も連発で、指原も前のめりになって質問をしていた。  そして、やや趣が変わった「ファミレス」編(第8~11夜)。この収録の直前、指原は親知らずを一気に4本抜いたばかり。顔が腫れ、食べることはもちろん、笑うこともツラそうな最悪のコンディション。そんな中、ファミレスで待ち構えていたのは、吉田豪、杉作J太郎、土屋大樹、岩岡としえという、テレビとは思えない濃厚なメンバーだった。指原も、プロインタビュアーの吉田以外は、まったくの初対面だ。恐る恐るといった感じで、席に着く。  しかし、リリーが「夜中でみんなが集まってする話といえば、趣味の話」というように、趣味の話をし始めると、それが一変する。指原とほかの4人はみな、女性アイドルファンなのだ。  4人の話を聞きながら、みるみるテンションが上っていき、「懐かしー!」「ヤバい!」「泣きそうになる!」と大興奮の指原。  特に杉作のアイドルの愛し方やそのエピソードの数々に、笑うと痛む歯に「痛い、痛い!」と言いながら大爆笑。 「最近出会った人間の中で一番面白い」 と、絶賛していた。  指原は子どもの頃からアイドルファン。きっかけは、モーニング娘。の後藤真希だったという。大分に住んでいた指原はまだ小・中学生だったから、東京まで後藤を追っかけることはできない。だが、ハロー!プロジェクトのアイドルが、福岡など九州でライブをやるとなれば駆けつけた。その結果、いわゆる「ハロヲタ」になったのだ。  そして、トップアイドルになった今でも、現役のアイドルヲタだという。極力現場へ赴き、移動中や家ではアイドルのDVDを見て過ごす。  それがまったくウソではないことは、すぐに証明された。  番組では、ファミレスからイベントスペースの「渋谷ロフト9」へ移動。アパッチとケンケンというアイドルファンも合流し、アイドル映像鑑賞会をやるという。まずハロヲタのケンケンが紹介したDVDの映像を見始めると、紹介者よりもテンションが上がり、「一番泣けるところ!」「かわいい!」などと絶叫しながら踊りだす。 「誰よりもヤバい奴じゃん」  リリーが苦笑する中、指原は紹介者のお株を奪うように解説を始め、「このDVDなら、私が一番見せたいのがあります!」と言って、別のシーンを再生。  繰り返し見ているという指原は、そのシーンのどこがいいのかを「キャー、エモい!」と興奮しながら伝えるのだ。 「一回自分がアイドルを応援してきたからこそ、アイドルはこうあるべきとかがわかる」 と、リリーは指原のアイドルとしての強さを語ったが、まさにそれを如実に表すハイテンションな放送だった。  しかし、次の回(第12夜)では、そのテンションが一変することになる。前述の通り、渋谷のクラブに行くというのだ。  これも、指原にとって「人生で初めて」の体験。「偏見」だと自覚しつつも、「一番苦手」「クラブとかフェスに行くような人と、友達にもなりたくない」「信用できない」と、道中に嫌悪感をあらわにしている。  番組では、FPM・田中知之、高木完、川辺ヒロシらが、クラブシーンやDJの歴史の変遷などを指原にレクチャーしていく。  この3人は、いずれも落ち着いた雰囲気。指原が抱くクラブやDJの人のイメージとは離れているため、素直に話を聞き、凝り固まった偏見が徐々にほぐれていく。  高木指導のもと、ラップにも初挑戦。 「人生でやった仕事で一番恥ずかしい」 と言いながらも、なんとか仕事を全うしている感じだった。  そうやって、偏見を解いていき、最後には「新しい世界が好きになりました!」みたいな展開が、よくテレビで見かける流れだ。  しかし、いざ実際にクラブを訪れると、やはり顔がこわばってしまう指原。プロのダンサーの踊りに圧倒されながらも、それ以上に「酔っ払って踊ってる人が怖い」と、その場の客の雰囲気になじめない様子。  実は、何軒かクラブを回った後、最後にDJがAKB48の「恋するフォーチュンクッキー」を流し、そこで指原がステージに上り、みんなで一緒に踊るというプランがあった。 「怖い」と繰り返す指原に、リリーは「人と出会ったり、みんなでパーティーを楽しみたいっていう人のイベントが大箱であるっていうことは、そういうのが求められているってこと。そこで楽しんでいる人も、今日の指原みたいに、最初は怖い、嫌だって思っているうちに、そうじゃないって誤解を解いていく瞬間がある」などと、実際に経験すると変わることもあると言って、エンディングのプランを話すと、指原は一層顔をこわばらせた。 「怖い……。シンプルに……」  そう言うと、みるみる目に涙がたまっていき、「ごめんなさい」と、ついに我慢できずにないてしまうのだ。結局、指原は番組が用意したプランを実行することができないまま、ラーメン屋のシーンにつながっていくのだ。  それはテレビ的な予定調和ではない、指原莉乃のドキュメントだった。たとえ、偏見が緩和されても、「好き」や「嫌い」は簡単に変わることはない。番組の冒頭には、雑誌「真夜中」発行人・孫家邦(リトルモア代表)の言葉が引用されている。 「真夜中に、陽のあたる場所で言えなかったことを言おう  真夜中に、陽のあたる場所でできなかったことをしよう」  真夜中は、そこでうごめく人たちの昼間では見せない本性が暴かれる時間だ。取り繕うことをやめ、「好き」や「嫌い」に忠実になって、むき出しになる。それを『真夜中』は切り取っていくのだ。 「Jさんに会いたい」と指原がつぶやいた直後、次回予告的に杉作J太郎が自転車で真夜中の街を疾走するシーンが挟み込まれた。  まさにそれは、指原を助けにくる救世主のようだった。  しかし、実際に杉作が再登場すると、指原は「この番組は杉作J太郎しか呼べないの?」と、うれしそうに笑った。 (文=てれびのスキマ http://d.hatena.ne.jp/LittleBoy/「テレビ裏ガイド」過去記事はこちらから