テレビ朝日『BG』木村拓哉が「スターじゃないのにスター・システム」の弊害がモロに……

 木村拓哉主演の『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)も第6話。視聴率は14.8%(ビデオリサーチ調べ、関東地区/以下同)と、あいかわらず安定しています。この程度の数字でテレ朝的にオッケーなのかどうかは微妙なんでしょうけど……。

 それにしても、このドラマはもうほとんど物語の体をなしていません。キムタクひとりを際だたせるために周囲に記号的な人物を配置し、毎回用意されたキムタクの見せ場にたどり着くことだけを目的に脚本が作られていることは再三申し上げてきましたが、今回はキムタクに見せ場らしい見せ場もないし、事件らしい事件も起こってないし、何がやりたかったのかすら、よく見えない回でした。でも、頑張って振り返りましょうね。

(前回までのレビューはこちらから)

 

■スター不在のスター・システムが生む弊害

 

 さて、「スター・システム」という言葉があります。Wikipediaには、「高い人気を持つ人物を起用し、その花形的人物がいることを大前提として作品制作やチーム編成、宣伝計画、さらには集客プランの立案などを総合的に行っていく方式の呼称。」との説明がありました。『BG』が、キムタクというアイコンを中心としたスター・システムによって制作されていることは、もはや疑いようもないでしょう。

 今のキムタクが本来の意味でスターかどうかはさておくとして、ここまでの全話平均が14.5%くらいと“完全崩壊”に至らない程度には需要があることは確かです。物語的にヤバいくらい面白くないのに数字が残っているわけですから、この14.5%は純粋にキムタク人気とみていいのだと思います。企画として失敗しているわけではないのです。

 問題なのは、そのスター・システムの中心となるべき主人公が、作品世界の中でスターではないことです。キムタクが演じる島崎章という人物は、サッカートップ選手のボディガードだったという華やかな経歴こそあるものの、ミスって失職した後は、女房に逃げられ、ひとり息子にはナメられ、なんか冴えない、パッとしない、頼りにならなそうなキャラクターが与えられています。そうした冴えない中年が時おり見せる冴えた頭脳や冴えたアクション、冴えたセリフを発することでギャップの魅力を生み出そうという意図で構築されているわけです。

 このキャラ付け自体は、45歳になってアイドルグループを解散したばかりのキムタクにとって、特に不自然なものではありません。俳優としての新たな価値を模索しなければならない現状で、いろいろな役に挑んでみるのは必要なことだと思うし、キムタクの芝居そのものだって、そうしたオーダーに応えていると思います。

 ただ、このキャラとドラマのシステムが、絶望的に食い合わせが悪いのです。

 キムタクに見せ場を集中させなければいけない、キムタク以外を目立たせてはいけないので、あらゆるシーンやセリフはキムタクを引き立てるために用意されています。これが、見せ場の場面ではそれなりに機能するんですが、見せ場じゃない場面、いわゆる平場でキムタクが「冴えないよ」ということを表現するシークエンスになると、途端に機能不全に陥るんです。

 普通に考えて、冴えないキムタクを表現しようと思ったら、ほかの人を冴えさせればいいわけです。SPの江口洋介でもいいし、同じ民間BGチームの斎藤工や菜々緒でもいい、誰かキムタク以外の人物に見せ場を与えて、キムタク以上の活躍をさせればいい。キムタクをいったん蚊帳の外に置いて、ほかの人が活躍して、最終的にキムタクがそれを上回る活躍をすればいい。

『BG』というドラマは、それすら許さないのです。1時間なら1時間、常に周囲はキムタクを引き立て続けなければならない。なぜか、そういう縛りの中で脚本が作られている。

 そのため周囲は、キムタクが冴えない場面では「冴えないキムタク」の「冴えなさ」を引き立てなければなりません。おのずと、例えばSPの江口洋介、例えば毎回ゲストで登場するクライアント、そういう人たちが「民間なんか」「ボディガードなんか」とキムタクたちを見下す発言をすることになる。物語の流れと関係なく、無理やりそういうセリフを吐かせるので、江口や、今回でいえば子役の女の子が、単に頭と性格が悪いだけのキャラクターになってしまう。

 システムとしてヨイショしまくってるのに、設定として見下されている。この矛盾が『BG』を、すごく気持ちの悪いドラマにしてしまっている原因だと思います。

■思えば『A LIFE~愛しき人~』はよかったね

 

 前回キムタクが主演した『A LIFE~愛しき人~』(TBS系)では、「アメリカ帰りの孤高の天才外科医」という、今回の『BG』以上のスターキャラクターが与えられました。設定として、超キムタク接待ドラマです。

 しかし、1話まるまる松山ケンイチと木村文乃のエピソードに使った回があったり、最終回でも浅野忠信がキムタク以上に魅力的に描かれたりと、周囲に見せ場を振り分けたことで、最終的にはキムタク演じる外科医も魅力的なキャラクターに見えていました。脚本がキムタクに必要以上の配慮をしなかったことで作品世界が明確に立ち上がり、そこに生きる人物としての外科医に実存が宿ったのです(『A LIFE』最終話レビュー)。

『BG』の脚本を担当するのは井上由美子さん、『A LIFE』は橋部敦子さん。共に実績十分の大家です。井上さんが橋部さんに劣っているなんて全然思わないけど、橋部さんは『A LIFE』で物語を書いて、井上さんは『BG』で、キムタクだけのために、物語に似た何かを書いている。そういう状態が回を追うごとにどんどん顕著に目の前に現れてきて、なんだか、なんだろうね、悲しくなるんですよ。早く終わってほしいと思ってしまう。

 そんな『BG』第6話のレビューともいえないレビューでしたが、次回以降もよろしくお願いいたします。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

『ロボコップ』丸出しの木村拓哉『BG』見続けるのが“ストレス”になるワケ

 近未来のデトロイト。警察から治安業務を請け負っている民間の巨大複合企業オムニ社は、殉職した警官・マーフィをロボコップとして生き返らせた。オムニ社の役員であるディック・ジョーンズは、実は警察組織にも裏から手を回し、街を牛耳る大悪党。そんなジョーンズを追い詰めたマーフィだったが、「オムニ社の役員に危害を加えることができない」というプログラムのため、ジョーンズに引き金を引くことができない。オムニ社の会長を人質に取るジョーンズ。しかし、会長が機転を利かせ「ディック、おまえはクビだ!(You are fired!)」と叫ぶと、その瞬間にオムニ社の役員ではなく失業者となったジョーンズは、マーフィによる正義の銃弾に撃ち抜かれるのだった……。

 というのが、1987年公開の映画『ロボコップ』のラストシーンでした。今回の『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)におけるキムタクの見せ場は、ここからの引用です。

 クライアントからの命令を遵守すると決めているキムタクは、その仲間から凄惨なリンチを受けても、手も足も出しません。ひとしきり殴られた後、クライアントに「私をクビにしてください」と告げ、「とっくにクビだ」と吐き捨てられると、まるで覚醒した「ED-209」のごとき無敵のミラクルアタックで、一味を一網打尽にするのでした。

 そのほかにもいろいろあったんですが、実に象徴的な描き方だったので、今回は、だいたいこのシーンのお話だけで済みそうです。

(前回までのレビューはこちらから)

 

■結論から言って、『BG』は人間の感情を描こうとしてないわけです

 

 ロボコップとなったマーフィは、人間として生きていたときの記憶と感情を完全に取り戻しています。だから、自らの利益のために街の治安の悪化を利用し、警官たちの身を危険にさらすジョーンズを絶対に許せない。100%、完全に許せない。許せないけど、自分の意思ではどうしようもない無慈悲なプログラムによって身動きを封じられているわけです。そこに人造人間としての葛藤と悲しみがあり、意識と実存の間で引き裂かれる感情がある。だからこそ、ジョーンズが「fired!」された瞬間にカタルシスが生まれる。ドラマとして、華やかに昇華する。

 一方のキムタクは、なんやかんやで「クライアントには絶対服従」と自分でも言うし、仲間たちも「こいつは絶対服従してる」と言葉で強調してますが、別にプログラムを仕込まれたサイボーグでもなんでもなく、生身の人間です。なので、マーフィのケースとは「絶対服従」の意味が、まるで違います。

『ロボコップ』を引用するなら、キムタクの「絶対服従しなきゃ」という決意に、サイボーグにとっての「仕込まれたプログラム」と同等の強制力・拘束力を与えなければならない。物語によって、そのキムタクの決意に説得力を持たせなければならない。それができなければ、今回の「私をクビにしてください」という展開は成立しないわけです。

 結果、当然ですが、成立してません。なぜならマーフィは半人半ロボで、キムタクは人間だからです。

『ロボコップ』のラストシーンが美しいのは、人間が抱き得る葛藤の範疇を超えるロボなりの悲しみを描こうとしているからです。作り手が一生懸命、必死になって「ロボでコップなマーフィ」の深淵に潜り、その本質を探り当てる努力をした結果に、たどり着いた結末だったからです。

 一方で『BG』は、何をしてるのか。安易に設定だけ借りてきて、直前のシーンとのギャップだけで納得させようとしてる。キムタクの感情がどう動いて、なぜリンチに耐えているのか、考えることを放棄してる。

 初回からずっと言い続けてますが、『BG』というドラマでは、完全にキムタクを接待するためだけの脚本が作られています。1話にひとつキムタクの見せ場を作るために、全員を感情のないロボとして扱い、適当に配置して、キムタクが目立つためにジャマだと思えば画面から追い出して、ひとしきりカッコつけさせたらまた呼び込んで、そういう繰り返しを延々と見せ続けている。にもかかわらず、主人公のキムタクたったひとりに対してでさえ、真剣に向き合おうとしてない。このドラマにとって、主人公・島崎章という人物がどんな人間なのかよりも、キムタクにウサギちゃんの変なパジャマを着せて「ねむねむ……」って目をこすらせるシーンを編み出すほうが、ずっと優先順位が高いのです。

■念のため、キムタクは悪くないですよ

 

 今回、キムタクの芝居そのものは、わりとよかったと思います。以前「カッコ悪いキムタクがいないから、逆転劇なのに逆転劇に見えない」と指摘したことがありましたが、今回はキッチリ逆転劇になっていました。もとより、全然悪くないんですよ、キムタク。

 それに『BG』は、撮影もいいんです。シーンごとで、画面の意味がすごくわかりやすい構図になってるし、光もきれい。役者もよくて、意味がわかりやすくてきれいな画面が次々に現れるのに、次のシーンでそれを裏切る、ウソにする、なかったことにする、そういう脚本なので、余計にストレスなんです。全部が全部ダメダメだったら、もうちょっと気楽に鼻くそほじりながら見られるんですけど。ちなみに今回の視聴率は14.0%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)だそうです。みんな、どんな顔して見てるんだろう。

 と、今回はそんな感じでしょうか。いいかげんあらすじも紹介したいんですが、物語を追っていくと書いたそばから矛盾が発生するので、説明できないのです。今回のクライアントは悪に手を染めた元有名サッカー選手でしたが、「ホテルで注意深く証拠を隠滅している」というシーンの後に「証拠は全部、カバンに入ってる」と言い出したり、「選手時代にイタリアの永住権を取った」と言ったのに「選手として海外進出していない」ことになったり、もう無茶苦茶なんです。無茶苦茶なんですよ!

 あと、脚本家の人が『ロボコップ』見てなかったら、この文章は全部見当外れですから、そのときはスミマセン……。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

 

木村拓哉『BG』SPも大臣も、みんなが「すごくバカ」に見えてくる……

 制作陣による“キムタク推し”が全面に押し出されたドラマ『BG』(テレビ朝日系)も第4話。視聴率は13.6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、前回とほぼ横ばい。嵐・松本潤の『99.9』(TBS系)に「負けっぱなしだ」「キムタク時代も終わりだ」などと方々で話題ですが、内容的にはまあ、どっちもどっちな感じですかね。どうなんですかね。はい。振り返りましょう。

(前回までのレビューはこちらから)

 

■石田ゆり子(48)とキムタク(45)のロマンスが始まるの?

 

 このドラマの特徴は、1話にひとつ、ビシッ! とキムタクの見せ場を決めて、そこにたどり着くことだけを目標にお話が組み上げられていることです。第1話は流し目で「丸腰だから人を守れることもあるんじゃないですか?」と見得を切る場面。第2話は大塚寧々をお姫様抱っこする場面。第3話は橋からキムタクがぶら下がる場面。すべての登場人物は、この「キメのキムタク(キメタク)」にキムタクを連れていくためだけに配置され、行動するので、さまざまな矛盾をはらんで、すごくバカな人に見えています。

 今回、第4話のキメタクは、石田ゆり子との恋の始まりを予感させるシーンでした。なんやかんやでトンネルの非常通路を歩く2人。地上に出る階段を上ろうとすると、天井から水滴が垂れています。このままでは、石田ゆり子が濡れてしまう! というわけで、キムタクは着ていたスーツを脱いで「これを」と石田に手渡します。なんて優しいの! はい、1キメタク。

 キムタクのスーツを頭からかぶって階段を上る石田、何もないところで、よろけてしまいます(年齢による足腰の衰えかな)。するとキムタクが、ガシッ! と石田の腕をつかんで支えるのでした。はい、2キメタク。

 こうしたキメタクにより、石田のおめめはトロ~ンとなってしまい、ロマンチックなBGMが2人を盛り上げます。さあ、キムタク版『黄昏流星群』の始まりだ! 初老を超えた2人だって、恋したっていいじゃない! もちろんいいですよ。好きにすればいいです。

 

■無能なのに有能ぶるSPたちが超ダサい

 

『BG』では、キムタクたちが所属する民間警備会社と警視庁SPとの対立が軸として設計されています。SP側は盛んに「民間は役立たずだ」と言い続けるわけですが、ここまでSPの有能さが示されたエピソードはひとつもありません。護衛対象をすぐ取り逃がすし、見失うし、無能の極みです。

 そのくせ、自分たちはいかにも有能だという態度で「警護は民間じゃできない」「警察じゃなきゃできない」みたいなことを言い続けるし、キムタクの会社の人も「SPは有能だ」とセリフで言うだけ言うので、どうにも鼻白んでしまう。

 今回、象徴的なシーンがありました。

 石田ゆり子演じる立原愛子大臣が「SPに内緒で外出したいので、キムタクに護衛を頼みたい」と依頼する場面で、キムタクの上司である上川隆也が「SPは人員を増やして24時間警護に付いているので、SPの目をかいくぐる隙間はありません」と言います。

 いやいやいや。いやいや。今、かいくぐってるじゃないの。SPの目を盗んで、今、会ってるじゃないの。言ってることと今現在の状況が矛盾してるじゃないの。

 その後、SPさんが持ち場を離れて牛乳を飲んでいる間に、大臣に逃げられるシーンもありました。キムタクを有能なボディガードに見せるために、SPを必要以上に無能にするしかないという、この手詰まり感。

 むかし、アントニオ猪木が言いました。風車の理論です。相手を輝かせ、その上をいくことで自分がさらに輝くのです。『BG』の場合、対立するSPを有能に描けば描くほど、それを超えた民間ボディガード・キムタクの輝きが増すという構図のはずなんですが、毎度SPがバカばっかりなので、キムタクまで「SPより少しマシなバカ」にしか見えない。キムタクも損してるし、何より超カッコイイSPなのに超絶無能な江口洋介のみっともなさたるや、見るに堪えないものがあります。

 

■ウソを重ねる脚本の意味

 

 このドラマの脚本の特色として、もうひとつ。クライアントがウソを重ねているというパターンがあります。このウソも、いちいち強引だし必然性がないので、ドラマの間延び感を際だたせています。

 なぜそういう必然性のないウソを重ねる必要があるのかというと、そのウソにキムタクだけが気付いている、キムタクだけが真実を見抜ける、なぜなら彼こそが頭が切れまくる異能者だから、というアピールのためです。

 ここでも、キムタク推しを最優先する弊害が出ています。見ている側がクライアントを信用できないし、愛せないんです。ボディガードを扱う物語の場合、その対象に「主人公が命を張って守るだけの価値があるか」というのが、非常に重要な問題になります。ないんだな、これが。「ない」と感じてしまっているから、キムタクの行動に共感も感動もできない。「クライアントだから守る」なんてセリフが上滑りしていく。

 キムタクをよく見せたかったら周囲も魅力的に描いた方が絶対いいのに、逆に周囲を下げることでしかキムタクを浮き立たせることができてない。かなり厄介な部類の悪循環に陥っていると感じます。

 

■そもそもSPと大臣がレギュラーというのも厄介だよね

 

『BG』は豪華脇役陣もウリのひとつなわけですが、江口洋介と石田ゆり子をレギュラーで出さなきゃいけないという縛りも、かなり厄介に感じます。

 SPと大臣と民間警備会社を毎回絡ませなきゃいけないので、事件のバリエーションに広がりを持たせることができない。結果、作品世界がすごく狭いものに感じられる。ドラマそのものにスケール感がないのです。

 なんだか非常にもったいない要素が多くて、結果悪口を書き連ねたような感じになってしまいましたが、すみません次回もよろしくお願いいたします。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

視聴率低下の『BG』最も損をしているのは木村拓哉自身!? SMAP解散と飯島氏の退社が影響か

 木村拓哉が民間ボディガードを演じる『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)の第3話。視聴率は13.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、まあまあ下げました。大手マスコミさんは「東京は雪が降り始めた」とか「名古屋では視聴率が高い」とか、いろいろフォローを考えなくてはいけなくて、その心中、お察しするばかりです。

 さて、前回のレビューで「このドラマはキムタクに『全振り』するためだけに作られている」と書きました。今回は、言わずもがな盛んに宣伝されていた「橋のシーン」が見どころとなります。地上50メートルの橋から、宙吊りになるキムタク! 超絶アクション! そこまで、どんなふうにたどり着いたのか、さっそく振り返ってみましょう。

(前回までのレビューはこちらから)

■こんなアクション、初めて見たよ

 

 ずっと昔から、洋邦を問わず、映像作品では数多くの橋梁アクションが描かれてきました。主人公が橋から落ちそうになる。それは、アクション作品における定番中のド定番といえるでしょう。とりあえず橋から人をぶら下げておけば画がもつし、ドキドキしちゃうもんです。

『BG』第3話のコンセプトが「キムタクを橋からぶら下げてみよう」だったことは明らかです。

 結果、見たことのないアクションが画面に現れました。順を追って説明しましょう。

 キムタク、お金ではない紙束の入ったカバンを橋の欄干に置く(すごく不安定で、すぐ落ちそう)。

 風が吹く。

 カバンが落ちる。

 キムタク、「大変だ!」という顔をして欄干を勢いよく乗り越え、カバンをキャッチ!

 カバンを右手で掴みつつ、左手1本で全体重を支える。

 いつの間にか橋の手すりとキムタクの腰が手錠でつながっていて、安全。

 もう、どこからどうツッコんでいいのか、まるでわかりません。キムタクは「だから高所恐怖症だって言ったのにぃぃぃー!」とか叫んでいます。どうだ、キュートだろ! と言わんばかり。はいはい、キュートキュート。おキュート。

 逞しくて頼りになって、強くてキュート。そういうキムタクを見せることに特化して、1時間使って、それを見せた。その1時間に価値があると思えば見ればいいし、価値がないと思えば見なければいい。『BG』は、そういう性質の作品です。

 

■ちなみにストーリーは……

 

 お話としては、元ヤンの女優が地元のヤンキーと結託して事務所の社長から1億円を奪おうと狂言誘拐を企み、そのヤンキーに裏切られてピンチに陥るものの、先の橋のアレでなんとかなって女優に復帰するという話です。

 この女優が犯人と結託して事務所社長を脅したことは事実ですが、逮捕も送検もされません。このへんの犯罪行為や司法制度についての認識のユルさ・甘さは前回も指摘しましたが、それなりにたくさんの人が見るんだから、ホントちゃんとやってほしい。

 とはいえ、これも前回同様、決定的な破綻がないんです。普通に考えて、すぐにでも行き詰りそうな乱倫なプロットなんですが、みんながみんな、少しずつ変な行動をすることで、ドラマとしての全壊を逃れている。ヨレヨレになりながらも、橋のシーンまでたどり着いてる。

 今回の『BG』の脚本は、物語の矛盾を薄く伸ばして各所に忍ばせ、動機をあえて語らず、時制を乱すことも厭わず、とにかくキムタクの見せ場に視聴者を連れて行くことだけを目的に組み上げられているように見えます。結果、キムタクを見たいだけの視聴者に大きな満足をもたらすことに成功している。

 こうしたドラマは、キムタクを見たいだけじゃなくて面白いドラマを見たいと思っている視聴者に、薄い、浅い、幼い、センスがない、といった印象を与えることになりますが、「そんなの関係ねえ!」わけです。

『BG』を見続けるなら、もう、そうしたコンセプトを飲み込むしかありません。私は飲み込むことにしました。思えば、前回までより格闘は冴えてたね! ロングだと誤魔化せないと思ったのか、今回は動くキムタクを画角に“収めない”ことでスピード感が出ていたね!

 

■ここからは想像です

 

 脚本家の井上由美子さんも「これはないわなー」と思いながら書いてるんじゃないかな。去年NHKでやってた『お母さん、娘をやめていいですか?』に注いだ情熱が100だとすれば、2くらいしか使っていないように見えます。あるいは、「キムタクがカッコよければOKです」というオーダーに喜び勇んで、ノリノリで書いているかもしれませんが。

 キムタクのドラマは常々「何をやってもキムタク」「キムタクだけ目立つ」といわれていますが、ここまでほかのキャストが“お人形”だったことってあったかな、と思うんです。ちょっとやりすぎというか、作品の全体像が崩れすぎな印象がある。

 これ、SMAPの解散と飯島三智さんのジャニーズ退社が影響してるのかもしれません。ジャニーズからの「キムタクを前面に」という基本的な注文は変わってなくても、出所が飯島さんじゃなくなったことで、バランス感覚というか、押しどころ・引きどころが狂っているように見える。

 それを象徴してるのが、キムタクの苦悶のなさです。SPにバカにされても犯罪者に殴られても、全然カッコ悪く苦悶しない。なんか達観して、平然としてる。結果、毎回が逆転劇なのに、逆転劇に見えなくなってる。

 橋からぶら下がってる人が「別に大丈夫だよ」って顔をしているアクションシーンなんて、誰も見たことなかったはずです。「別に大丈夫」だったら、橋からぶら下げる必要がないからです。「うう、苦しい、落ちそう……!」って苦悶するから、全体重を支える手が震えるから、そこから這い上がる姿に心が動かされるわけです。

 キムタクファンに全振りした『BG』で最も損をしているのは、たぶんキムタクです。これじゃ熱心なファン以外、全然楽しめない。「何をやってもキムタク」のイメージだけが、どんどん色濃くなっていく。現場だって、「またキムタクとドラマを作りたい」なんて思えなくなっていく。

 もうアイドルもできないし、歌やトークが上手いわけでもないし、役者として生きていくしかない45歳にこういう企画をやらせた周囲のスタッフが、いちばんキムタクに失礼なことをしているよなーと、そんなことを感じた第3話でした。

 そんなわけで、また次回!
(文=どらまっ子AKIちゃん)

木村拓哉、強い! 15.1%好調キープの『BG』キムタクファン以外を完全に切り捨てた作劇に見どころはあるのか

 木村拓哉が民間会社に勤めるボディガードを演じているドラマ『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)の第2話。視聴率は15.1%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と好調キープ。鉄板だった『ドクターX』の後枠だけに、テレ朝としてはもう少し数字が欲しいところでしょうが、前回「くっそつまらんから視聴率ダダ下がりするだろ!(要約)」と書いてしまったことについては、ひとまず謝罪いたします。ごめんなさい。

 というわけで、第2話を振り返ります。前回はキムタクに大した見せ場がなかったと書きましたが、今回は一転してキムタク礼讃、キムタク神輿でございました。

(前回のレビューはこちらから)

 

■導入から雑だなぁ……

 

 その前に、普段このレビューは基本的に役名で書いてるんですが、このドラマ、どうにも人物たちの名前が頭に入ってこないんです。キムタクは「島崎章(しまざき・あきら)」なんですが、島崎感ゼロ。まったくもってキムタクですし、ほかの面々も、なんだか“このドラマなりの人物像”が見えてこない。なので、役名ではなくそれぞれの芸名で話を進めたいと思います。

 さて、今回キムタクがガードするクライアントは、裁判官の奥さんです。冒頭、この裁判官についてワイドショーの報道という形で紹介されました。

 いわく、老人ホームで働いていた介護士が入所中の高齢者2人を殺害。一審では死刑判決が下されたものの、二審の高裁では弁護側が新証拠を提出し、逆転無罪の予測もあるのだそうです。これに対し、ワイドショーのコメンテーターが「無罪になったら(裁判長に)批判が出る」「被告が2人の命を奪ったのは事実だ」「裁判長は“人権派”で通っていて、これまでも“疑わしきは罰せず”だった」などと好き勝手にしゃべっているわけですが、いかにも雑だなぁと思うんですよ。なんで新しく提出された証拠を調べて無罪判決を下したら批判が出るのか。なんで公判中で「無罪の予測もある」被告に対して、コメンテーター風情が軽々しく「命を奪ったのは事実だ」なんて断言できるのか。百歩譲って、一審の死刑から二審で刑が軽減されたら“死刑推進派”から批判の声が出るのも理解できるんですが、逆転無罪判決に批判が出て当然というのは、これは通らないですよ。脚本家は、三審制をなんだと思ってるのか。

 こういう適当なことをドラマが軽々しく言っちゃう理由は「そう断言しないとドラマが始まらないから」に決まってるわけですが、このような雑な設定の提示は、ドラマへの没入感を大きく妨げます。

 というわけで、没入できなかったので内容はサクサク紹介しましょう。

 なんかキムタクがゲストの大塚寧々にバカにされながら伏線らしい要素を次々に提示して、菜々緒と間宮くんが圧倒的なポカをやって、寧々姉さんがキムタクにお姫様抱っこされたり、キムタクと2人でエレベーターに閉じ込められたり、前回よりさらにヌルい格闘でキムタクが犯人を押さえ込んだり、「武器なんか、ないほうが強くなれるって、そう言っただけです!」と武器によって負傷した脚を引きずりながらキメキメで叫んだりして、一件落着でした。

■キムタクも脚本も、実はそんなに悪くない

 

 とはいえ、お話だけ振り返ってみると、そんなに悪いものじゃないと思うんです。特別よくできたストーリーじゃないし、ところどころ強引なご都合主義もあるけど、仕掛けに致命的な破綻があるわけでもない。キムタクはキムタクで、別にいつも通りだし、実年齢に似合わない“若い役”であることも、さすがに2話まるまる見れば慣れてくる。

 でも、なんだかすごく、面白くないんですよねえ。『BG』って。

 冒頭で「役名が頭に入ってこない」と書きましたが、要するにキムタク以外の人物が、みんなカキワリなのが原因なのだと思います。今回のゲストの大塚寧々にしろ、おそらく全話を通じてのヒロインになると思われる石田ゆり子にしても、江口洋介も菜々緒もですが、血が通ってる感じがしない。セットの一部みたいに思えてくる。

 それはなぜかといえば、このドラマの目指す到達点が「面白い!」ではなく「キムタクのお姫様抱っこ!」だったり「キムタクのキメ台詞!」だったりするからです。出演者たちの人物像や心の動く瞬間を、実にわかりやすく既視感バリバリのステレオタイプで見せているのも、見慣れない要素を提示して変に面白くしちゃうと、キムタクそのものの素材としての魅力が霞んでしまうからなのでしょう。おそらくはキムタクと共に育ってきたファンの年齢層を狙い撃ちにしたヒロイン・石田ゆり子、ゲスト・大塚寧々でしょうし、特に第2話は、そうした“キムタク全肯定”な視聴者以外を豪快に切り捨てた作劇だったので、そうじゃない私に刺さるわけもない。一向に冴えないアクションシーンに、例えば截拳道やシラットやKFMを取り入れることなんて、誰も期待してない。これはもう、私が楽しめなかったのも致し方ないと、あきらめるしかなさそうです。

 今回は、石田ゆり子がキムタクにプライベートなボディガードを依頼して幕を閉じました。彼女がホイットニー・ヒューストンになっていくわけです。このような「キムタクに全振り」ドラマが悪いと言いたいわけでは、決してありません。次回以降のレビューでは、そういう作品であることを理解した上で、ちゃんと「全振り」できているかどうかを楽しみたいと思います。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

木村拓哉『BG』15.7%スタートは“重い十字架”? 「幼稚なおじさん」にしか見えず、視聴率急落は必至か

 満を持して始まった元SMAP・木村拓哉主演の『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)。キムタク御大の必死すぎるバラエティ番宣の甲斐もあってか、18日に放送された第1話の視聴率は15.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、今期の初回としてはトップを飾りました。さすが、腐ってもキムタクですねえ。パチパチパチ(拍手)。

 というわけで、日刊サイゾーでは本作も張り切って全話レビューしてまいります。さっそく第1話から振り返ってみましょう。

 

■キムタクが、交通整理の冴えないオッサンに

 

 さかのぼること6年前の2012年、島崎(木村拓哉)は、どうやら優秀なガードマンだったようです。欧州に移籍するサッカーのスター選手に付き添い、空港に押し寄せたファンをさばいたり、「裏切り者ー!」とか叫んでるファンが投げつけた生卵を華麗にキャッチしたりしています。しかし、どうやらこのとき何かがあったようで、スローモーションでなんとも言えない表情を浮かべたところで、現在へ。それにしても老けた。老けました。

 18年、島崎は小雪舞い散る寒空の下、黄色いヘルメットをかぶって交通整理の仕事をしています。キャリア6年だそうですから、やっぱりあの空港の件の後、すぐに転職したようです。よほどのことがあったのでしょう。何しろ、なんともいえない表情でしたから。

 一緒に働く老人(でんでん)と「俺より若いよー」「若くないですよー」みたいなやり取りをしていることから、気さくな性格であることが示されます。

 と、そこに通りかかる1台の黒塗りセダン。運転する江口洋介は、通行禁止にもかかわらず「急いでいます、通してくれませんか」と無理を言い、後部座席の石田ゆり子も「お願いできませんか」と、口調こそ丁寧なものの聞き分けはなさそう。島崎は、またなんとも言えない表情を浮かべると、「事故を起こされても困るんで」と、あっさり規制を解いて高級車を通します。通れるなら通行禁止にするなよ! といった基本的なツッコミをしていると話が進まなくなるので自重しますが、まあ導入はだいたいこんな感じでした。ちなみに後部座席の石田ゆり子は立原愛子という名前で、女子アナ上がりの厚生労働大臣。江口はそのSP・落合。愛子大臣は、失言騒ぎで失職寸前だそうです。

 そんな折、島崎の勤める警備会社が身辺警護課(ボディガードの仕事)を発足することになり、社長の今関(永島敏行)は島崎をこの課に配属したいと言います。島崎は一度、断るものの、結局、新人ボディガードとして身辺警護課の配属になって、なまった体を鍛え直すことに。チームを組むのは、会社の各部署から、盗聴器を探すのが上手そうな沢口(間宮祥太朗)、現金輸送を任されている高梨(斎藤工)、敏腕万引きGメンの菅沼(菜々緒)と、ビル警備の仕事をしている村田(上川隆也)が選抜されました。この村田が課長だそうですが、警備会社から精鋭を集めて、この程度? という印象のメンツです。島崎は敏腕ボディガードだったようですし、後に高梨は元自衛官、村田課長は元警視庁のSPであることが明かされますが、盗聴器の沢口くんなんて訓練最終盤になってもまともに動けてないし、万引きGメンの菅沼さんが抜擢された理由はまったくわかりません。目がいいから、とかかな。

 ともあれ、そんな5人のチームが初仕事に臨む、というのが第1話でした。

■冒頭は、いかにもテレ朝な味わい

 

 本作の脚本は『ギフト』(97/フジテレビ系)、『エンジン』(05/同)、『GOOD LUCK!!』(03/TBS系)などでお馴染みのキムタク御用達ライター・井上由美子さん。この3作は、いかにも華やかなキムタクドラマでしたが、『BG』に限っていえば、すこぶる地味という印象です。キムタク本人が華やかさを失っていることもありますが、それ以上に脚本が段取りじみていて、説明としてはわかりやすいけど「面白いドラマが始まる」というワクワク感が皆無です。

 唯一、真っ白なスウェット上下で全力疾走しているキムタクの走り方だけ、なんかちょっと面白い。そういえば、キムタクはSMAPで一番足が遅いのでした。数年前に放送された『スマスマ初のスター大運動会SP!!』(フジテレビ系)の惨劇を思い出します。SMAPの5人で50メートル走をして、キムタクの余りの足の遅さに気を使った中居正広が、盛大にコケて最下位を引き受けた、あのシーン。キムタクの中で、どう処理されているのでしょう。

 それはそうと、キムタクより5歳も年上なのに華やかさにあふれているのが、SP・落合を演じる江口洋介です。雰囲気もキリリと冴えていて、背も高いし、すごく優秀に見えます。愛子大臣も、全幅の信頼を寄せている様子。

 一方、キムタクはいかにも“頼りない”という記号を与えられています。バツイチだし、中学生の息子にもナメられてる。もっとも端的なのが言葉使いで、同僚の斎藤工との会話の際に「その盾(ボディガード)が死んじゃったら、まずくない?」とか「ケガすることだってあるしさ」とか「丸腰のウチらは無力だよ、怖いでしょ?」とか、言っていることの内容以前に、語尾が幼稚すぎる。

 ここで何が行われているかというと、脚本家によるキムタクの“異物化”です。江口洋介や斎藤工には固い言い回しでハッキリキリキリしゃべらせて、キムタクの語尾をユルめることで「特別な存在である」「自由で、何者にも縛られない」「わが道をゆく男」「等身大」といったイメージを浮き立たせようとしているわけです。

 これが、完全に失敗してる。

 長年の御用達ライターを起用した弊害が、モロに出ていると感じました。15年前、20年前と同じフンニャリ言葉を使うキムタクの容姿は、明らかに年齢を重ねています。もうまったく等身大じゃない。キラメキを失った、ただ顔面が整っただけの小柄な中年俳優です。しかし、脚本家の井上さんにとっては、今でも「かわいいかわいいキムタク」なのでしょう。

 キムタクの芝居は、昨年の『A LIFE~愛しき人~』(TBS系)とさして変化していませんが、『A LIFE』は周囲の人物もユルかった。浅野忠信は自由すぎたし、松ケンはキムタク以上のフンニャリだったし、及川ミッチーはミッチーだった。だから、キムタクも“変な人集団”の1人として馴染むことができていたように見えました。『BG』はこれ、きついですよ。周りが固ければ固いほど、キムタクが「幼稚なおじさん」に見えてしまう。井上さんが「いつまでも若々しいヒーロー」を描こうとしていることは理解できるけど、この座組みでもっともキムタクの加齢を認められないでいるのが、きっと脚本家の井上さんなのだと思います。不幸なことです。

 

■事件のクオリティの低さも霞みます

 

 さて、1話完結ですし、事件の仕掛けについては特筆すべきことはないので、さくっといきましょう。

「失業問題は自己責任です」という、ものすごい失言で殺害予告を受けた愛子大臣が、SP落合らを引き連れて隅田川マラソンの開会式に出席することに。島崎たちのクライアントは、マラソンのメインスポンサーであるカップラーメン会社の社長です。

 で、なんか逆恨みしたっぽい週刊誌の記者が発煙筒を焚いて、「爆弾だー!」ってことになって、ラーメン社長は島崎たちチームの護衛によって無事逃亡。一方、SP落合は警護中に持ち場を離れて携帯をイジるという大ボケをかまし、愛子大臣とはぐれてしまいます。

 なんやかんやで犯人の記者と愛子大臣が対峙していた部屋に島崎登場。華麗に取り押さえると思いきや、記者が島崎をボコるという超絶展開。このままですと愛子大臣は殺されてしまうところでしたが、都合よく現れたSP落合と島崎の連携によって、記者の身柄は確保されました。

 島崎は格闘弱いし、有能だと思っていたSP落合は超バカだし、こっちも有能だと思っていた斎藤工はよくわからない理由で初任務前にボディガードを辞めちゃったし、犯人の動機もよくわからないし、プロットも「悲惨」の一言です。いや、わかるんですよ。丸腰の民間警備員が主人公だから「丸腰だから人を守れることもあるんじゃないですか?」というキメ台詞につなげるために、いろいろ捻じ曲げる必要があったことも理解できる。ただ、事件も、脇役も、ぜんぜんキムタクを引き立てられてない。主人公に、ろくな見せ場がないんです。

 なぜなら、脚本家が「キムタクが流し目でキメ台詞を言えば成立する」と思ってるから。全然そんなの、もう通用しないのに。

 初回の15.7%という数字は、これは重い十字架になるかもしれません。終わってみたら「連ドラ史上、最大の下げ幅」という記録を作ってしまうかもしれない。そんな不安を感じさせる第1話でしたが、仕事なので第2話以降も張り切ってレビューします! よろしくお願いいたします!
(文=どらまっ子AKIちゃん)

木村拓哉『BG』15.7%スタートは“重い十字架”? 「幼稚なおじさん」にしか見えず、視聴率急落は必至か

 満を持して始まった元SMAP・木村拓哉主演の『BG~身辺警護人~』(テレビ朝日系)。キムタク御大の必死すぎるバラエティ番宣の甲斐もあってか、18日に放送された第1話の視聴率は15.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、今期の初回としてはトップを飾りました。さすが、腐ってもキムタクですねえ。パチパチパチ(拍手)。

 というわけで、日刊サイゾーでは本作も張り切って全話レビューしてまいります。さっそく第1話から振り返ってみましょう。

 

■キムタクが、交通整理の冴えないオッサンに

 

 さかのぼること6年前の2012年、島崎(木村拓哉)は、どうやら優秀なガードマンだったようです。欧州に移籍するサッカーのスター選手に付き添い、空港に押し寄せたファンをさばいたり、「裏切り者ー!」とか叫んでるファンが投げつけた生卵を華麗にキャッチしたりしています。しかし、どうやらこのとき何かがあったようで、スローモーションでなんとも言えない表情を浮かべたところで、現在へ。それにしても老けた。老けました。

 18年、島崎は小雪舞い散る寒空の下、黄色いヘルメットをかぶって交通整理の仕事をしています。キャリア6年だそうですから、やっぱりあの空港の件の後、すぐに転職したようです。よほどのことがあったのでしょう。何しろ、なんともいえない表情でしたから。

 一緒に働く老人(でんでん)と「俺より若いよー」「若くないですよー」みたいなやり取りをしていることから、気さくな性格であることが示されます。

 と、そこに通りかかる1台の黒塗りセダン。運転する江口洋介は、通行禁止にもかかわらず「急いでいます、通してくれませんか」と無理を言い、後部座席の石田ゆり子も「お願いできませんか」と、口調こそ丁寧なものの聞き分けはなさそう。島崎は、またなんとも言えない表情を浮かべると、「事故を起こされても困るんで」と、あっさり規制を解いて高級車を通します。通れるなら通行禁止にするなよ! といった基本的なツッコミをしていると話が進まなくなるので自重しますが、まあ導入はだいたいこんな感じでした。ちなみに後部座席の石田ゆり子は立原愛子という名前で、女子アナ上がりの厚生労働大臣。江口はそのSP・落合。愛子大臣は、失言騒ぎで失職寸前だそうです。

 そんな折、島崎の勤める警備会社が身辺警護課(ボディガードの仕事)を発足することになり、社長の今関(永島敏行)は島崎をこの課に配属したいと言います。島崎は一度、断るものの、結局、新人ボディガードとして身辺警護課の配属になって、なまった体を鍛え直すことに。チームを組むのは、会社の各部署から、盗聴器を探すのが上手そうな沢口(間宮祥太朗)、現金輸送を任されている高梨(斎藤工)、敏腕万引きGメンの菅沼(菜々緒)と、ビル警備の仕事をしている村田(上川隆也)が選抜されました。この村田が課長だそうですが、警備会社から精鋭を集めて、この程度? という印象のメンツです。島崎は敏腕ボディガードだったようですし、後に高梨は元自衛官、村田課長は元警視庁のSPであることが明かされますが、盗聴器の沢口くんなんて訓練最終盤になってもまともに動けてないし、万引きGメンの菅沼さんが抜擢された理由はまったくわかりません。目がいいから、とかかな。

 ともあれ、そんな5人のチームが初仕事に臨む、というのが第1話でした。

■冒頭は、いかにもテレ朝な味わい

 

 本作の脚本は『ギフト』(97/フジテレビ系)、『エンジン』(05/同)、『GOOD LUCK!!』(03/TBS系)などでお馴染みのキムタク御用達ライター・井上由美子さん。この3作は、いかにも華やかなキムタクドラマでしたが、『BG』に限っていえば、すこぶる地味という印象です。キムタク本人が華やかさを失っていることもありますが、それ以上に脚本が段取りじみていて、説明としてはわかりやすいけど「面白いドラマが始まる」というワクワク感が皆無です。

 唯一、真っ白なスウェット上下で全力疾走しているキムタクの走り方だけ、なんかちょっと面白い。そういえば、キムタクはSMAPで一番足が遅いのでした。数年前に放送された『スマスマ初のスター大運動会SP!!』(フジテレビ系)の惨劇を思い出します。SMAPの5人で50メートル走をして、キムタクの余りの足の遅さに気を使った中居正広が、盛大にコケて最下位を引き受けた、あのシーン。キムタクの中で、どう処理されているのでしょう。

 それはそうと、キムタクより5歳も年上なのに華やかさにあふれているのが、SP・落合を演じる江口洋介です。雰囲気もキリリと冴えていて、背も高いし、すごく優秀に見えます。愛子大臣も、全幅の信頼を寄せている様子。

 一方、キムタクはいかにも“頼りない”という記号を与えられています。バツイチだし、中学生の息子にもナメられてる。もっとも端的なのが言葉使いで、同僚の斎藤工との会話の際に「その盾(ボディガード)が死んじゃったら、まずくない?」とか「ケガすることだってあるしさ」とか「丸腰のウチらは無力だよ、怖いでしょ?」とか、言っていることの内容以前に、語尾が幼稚すぎる。

 ここで何が行われているかというと、脚本家によるキムタクの“異物化”です。江口洋介や斎藤工には固い言い回しでハッキリキリキリしゃべらせて、キムタクの語尾をユルめることで「特別な存在である」「自由で、何者にも縛られない」「わが道をゆく男」「等身大」といったイメージを浮き立たせようとしているわけです。

 これが、完全に失敗してる。

 長年の御用達ライターを起用した弊害が、モロに出ていると感じました。15年前、20年前と同じフンニャリ言葉を使うキムタクの容姿は、明らかに年齢を重ねています。もうまったく等身大じゃない。キラメキを失った、ただ顔面が整っただけの小柄な中年俳優です。しかし、脚本家の井上さんにとっては、今でも「かわいいかわいいキムタク」なのでしょう。

 キムタクの芝居は、昨年の『A LIFE~愛しき人~』(TBS系)とさして変化していませんが、『A LIFE』は周囲の人物もユルかった。浅野忠信は自由すぎたし、松ケンはキムタク以上のフンニャリだったし、及川ミッチーはミッチーだった。だから、キムタクも“変な人集団”の1人として馴染むことができていたように見えました。『BG』はこれ、きついですよ。周りが固ければ固いほど、キムタクが「幼稚なおじさん」に見えてしまう。井上さんが「いつまでも若々しいヒーロー」を描こうとしていることは理解できるけど、この座組みでもっともキムタクの加齢を認められないでいるのが、きっと脚本家の井上さんなのだと思います。不幸なことです。

 

■事件のクオリティの低さも霞みます

 

 さて、1話完結ですし、事件の仕掛けについては特筆すべきことはないので、さくっといきましょう。

「失業問題は自己責任です」という、ものすごい失言で殺害予告を受けた愛子大臣が、SP落合らを引き連れて隅田川マラソンの開会式に出席することに。島崎たちのクライアントは、マラソンのメインスポンサーであるカップラーメン会社の社長です。

 で、なんか逆恨みしたっぽい週刊誌の記者が発煙筒を焚いて、「爆弾だー!」ってことになって、ラーメン社長は島崎たちチームの護衛によって無事逃亡。一方、SP落合は警護中に持ち場を離れて携帯をイジるという大ボケをかまし、愛子大臣とはぐれてしまいます。

 なんやかんやで犯人の記者と愛子大臣が対峙していた部屋に島崎登場。華麗に取り押さえると思いきや、記者が島崎をボコるという超絶展開。このままですと愛子大臣は殺されてしまうところでしたが、都合よく現れたSP落合と島崎の連携によって、記者の身柄は確保されました。

 島崎は格闘弱いし、有能だと思っていたSP落合は超バカだし、こっちも有能だと思っていた斎藤工はよくわからない理由で初任務前にボディガードを辞めちゃったし、犯人の動機もよくわからないし、プロットも「悲惨」の一言です。いや、わかるんですよ。丸腰の民間警備員が主人公だから「丸腰だから人を守れることもあるんじゃないですか?」というキメ台詞につなげるために、いろいろ捻じ曲げる必要があったことも理解できる。ただ、事件も、脇役も、ぜんぜんキムタクを引き立てられてない。主人公に、ろくな見せ場がないんです。

 なぜなら、脚本家が「キムタクが流し目でキメ台詞を言えば成立する」と思ってるから。全然そんなの、もう通用しないのに。

 初回の15.7%という数字は、これは重い十字架になるかもしれません。終わってみたら「連ドラ史上、最大の下げ幅」という記録を作ってしまうかもしれない。そんな不安を感じさせる第1話でしたが、仕事なので第2話以降も張り切ってレビューします! よろしくお願いいたします!
(文=どらまっ子AKIちゃん)

20.5%『陸王』最終回に見たスポ根ドラマとしての完成度と「感動の押し売り感」の正体

 日曜劇場『陸王』(TBS系)も最終回。視聴率は20.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、最後の最後で大台に乗せました。おめでとうございます。数字に恥じない、熱のこもった最終回だったと思います。そんなわけで、振り返りです。

前回までのレビューはこちらから

 世界的アウトドアメーカー・Felixの御園社長(松岡修造)から提案された買収計画を、ギリギリで断った足袋業者・こはぜ屋の宮沢社長(役所広司)。代わりに考えてきた業務提携案には色よい返事をもらえず、新たな取引先を探すべく奔走中です。

 こはぜ屋には独自の技術であるシルクレイがありますが、先日製造機がぶっ壊れたので、最低でも1億円くらいないと生産を再開できません。とあるヘルメットメーカーが話を聞いてくれたりもしましたが、天敵であるアトランティス社(以下、ア社)の小原(ピエール瀧)が裏から手を回し、結局ご破算に。そんな折、例の御園社長から電話がかかってきます。

「ということは、Felixは我々を支援してくれるということでしょうか?」

 一度は断った業務提携を、御園社長は飲むといいます。3億円の融資をすると。ただしその条件は厳しく、返済期限は5年。最初の3年間はFelixからの発注を確約するが、それ以降は一切の保証なし。で、5年で返せなければ、こはぜ屋を乗っ取ると。

 悩む宮沢でしたが、やはり陸王への思いは断ち切れず、この融資を受けることにしました。

 

■アトランティスの茂木、RIIを履く

 

 一方、実業団ランナーの茂木くん(竹内涼真)は、再びア社とサポート契約を結びました。ケガをしたらサポートを打ち切り、治ったら今度は実業団チームそのものを人質にとって契約を迫るア社のやり方には不満タラタラですが、カリスマシューフィッターの村野さん(市川右團次)も「今度のRII(アール・ツー=ア社の看板シューズ)は悪くない」と言ってるので、再起をかける豊橋国際マラソンにはRIIを履いて出場することになります。

 そんな茂木くんを、こはぜ屋一同は応援に行くことに。宮沢社長にとって豊橋国際といえば、レース中にケガに倒れた茂木くんを目の当たりにし、陸王開発に乗り出した思い出の大会。たとえ茂木くんが陸王ではなくRIIを履くとしても、応援したい気持ちに変わりはありません。

 ところで、こはぜ屋にはまだ1足だけ、茂木モデルの陸王が残っています。飯山さん(寺尾聰)が開発したシルクレイに、社長の息子・大地(山崎賢人)が探してきたアッパー素材を、あけみさん(阿川佐和子)たち縫製おばちゃん軍団が縫い付け、カリスマシューフィッター村野さんがカリスマ的な調整を施したスペシャルな陸王です。しかし、今や茂木くんはア社と契約の身。豊橋国際で陸王を履くことは許されません。

 それでも、こはぜ屋一同の思いを知った村野さんは、こっそりこの陸王を茂木に手渡します。「持っていてくれるだけでいいからと。RIIを履くことを知りながら、お前のことを応援したいと、そういう連中の気持ちそのものだ」と。

「心が温かくなります……」

 茂木くんもうれしそうです。

 

■アトランティスの茂木、陸王を履く

 

 そうして迎えたレース当日。RIIを履いて準備に余念のない茂木くんに、大学時代からのライバル・毛塚(佐野岳)が声をかけます。

「おい、完走はしろよ。この前みたいに棄権なんていう無様なオチは許さねえ」

 2年前の豊橋国際で明暗が分かれた茂木と毛塚。それ以降、2人の差は広がるばかりでした。その間、ニューイヤー駅伝で茂木が毛塚に勝る結果を残したこともありましたが、世間の評価は覆っていません。日本人トップなら世界陸上への出場が約束されるこのレース。毛塚にとっては、単なる通過点でしかありませんでした。

 ちなみに、こはぜ屋は会社を休んで社員全員で応援に来ていますが、大地だけはまだ現場についていません。就活中の大地はこの日、当初からの第一志望だった大手企業・メトロ電業の最終面接なのです。終わったら新幹線で来るそうです。

 レース前、練習している茂木くんに、宮沢社長は、神社で願掛けしてもらったという手編みの靴ひもを手渡します。「お守り代わりに、持っててください」と。

 またいたく感動してしまった茂木くん、RIIを脱ぎ捨て「俺はこの陸王を履きます」とア社・小原に宣言。当然、契約違反ですし小原は激怒しますが、どうやら本気のようです。

「今のこはぜ屋さんは、2年前の俺なんです」

 陸王を履いてスタート地点に現れた茂木くんを見て、こはぜ屋一同は超びっくり&大感動。何しろ、履く履かない以前に、この陸王が茂木くんの手に渡っていることすら知らなかったので、ほぼ全員号泣のままレースがスタートします。

 

■マラソンドラマとして見どころ満載

 

 レースは、先行するケニア勢を毛塚と茂木が追う展開。先頭集団から、同大会2連覇中のサイラス・ジュイ(本人)が飛び出すと、毛塚と茂木も集団を置き去りにして三つ巴の状態に。

 40キロ過ぎにサイラスが脚を痛めてリタイア。毛塚と茂木の一騎打ちとなり、最後は茂木が毛塚をかわして優勝を果たします。

 このレースシーンが、単純にスポ根の魅力に満ちていて非常に楽しかったです。

 スタート直前、毛塚は、茂木がRIIから陸王に履き替えていることに気付きます。

毛「結局、そっち履いたんだ」

茂「ああ」

毛「いい靴なんだな、それ」

茂「最高だ」

 これまで、毛塚は陸王を見るたびにバカにしてきました。そして、陸王を履く茂木のこともバカにしてきました。しかしここにきて、ようやく茂木を、そして陸王を認めたのでした。静かなやり取りでしたが、大きな意味を持つシーンです。

 30キロ過ぎ、毛塚は給水を一度飛ばし、勝負に出ます。茂木も毛塚も、かつて箱根を制した登りのスペシャリスト。ゆるい登りが続くこの区間が勝負どころでしたが、給水のタイムロスを嫌ってリスクを取った毛塚がリードします。

 35キロ。先行する毛塚が、今度は給水に失敗。ボトルを落としてしまいます。30キロ地点の給水を飛ばしている毛塚にとっては、致命的なミス。しかし茂木はこれをチャンスと受け取らず、自分のボトルを毛塚に手渡します。なんてフェアな! 実際、マラソン中継ではしばしば見られる光景ですが、ドンピシャな演出です。これで盛り上がらないはずがありません。

 38キロ。もっとも苦しい距離ですが、並走する2人は実に楽しそうです。互いの実力を認め合ったアスリート同士の、2人だけの世界が描かれます。もはや経済ドラマを見ていることも忘れそうです。どこのシューズを履いてるとか、どうでもよくなってきました。

 40キロ。2年前に茂木が倒れた同じ地点で、トップを走るサイラスが脚を痛めました。路上に這いつくばるサイラスを見て、茂木は動揺を隠せません。しかしそこには、宮沢社長と息子・大地の姿がありました。

 茂木にとっても、こはぜ屋にとっても、すべてはこの場所から始まったのでした。

 宮沢が叫びます。

「陸王を信じて走れ、茂木──!」

 ああ、お見事。茂木が勝つことはドラマ的に当然なんですが、ここまで説得力を持ってマラソンシーンを描かれたら、もう感服するしかありません。

 レース後、敗者となった毛塚は茂木に握手を求めます。茂木には、ケガで低迷していたときにサポートスタッフとして参加したレースで、好成績を残した毛塚に握手を求めて無視された記憶があります。その毛塚が、自ら茂木に握手を求めてくるのです。

「つええな……。次は、俺が勝つ」

 なんて爽やか! 清々しいスポ根! 面白かったー!

 

■『陸王』全話における“感動と約束事”のトレードオフ

 

 レース後、勝利者インタビューで茂木くんは、陸王を掲げて「この陸王に支えられました」と、堂々と話します。「こはぜ屋のみなさんに、今日の優勝は捧げたいと思います」と。

 ア社の契約ランナーなのに。まだ契約破棄の手続きだってしてないはずなのに。レースでRIIを履かないだけでも大問題なのに、よりによって競合他社製品を大々的に宣伝している。結果、陸王は大ヒット商品になり、こはぜ屋は工場を増築。Felixからの融資にも返済の目処が立ったようです。一方、ア社の小原は左遷されてしまいました。契約不履行された上に職を解かれる小原さん、かなり不憫です。

 もちろん、インタビューで陸王に感謝を述べる茂木くんの姿はカッコいいし、感動的なんです。だけど、これはないですよ。片方でFelixとこはぜ屋の「買収か業務提携か」という契約の話を何週にも渡って条件の細部までシビアに語っておいて、もう片方で茂木とア社、茂木が所属するダイワ食品とア社との契約について、茂木の「謝罪します」の一言で済ましちゃうというのは、まるで筋が通ってないですよ。

『陸王』では、こうした感動と約束事のトレードオフがしばしば行われてきました。第1話では、おばちゃんたちの行動を献身的な美談として語るために「サービス残業」を肯定する描写がありました。

 第9話では、大地の頑張りを強調しつつ「最後の陸王」を演出するために、タチバナラッセルとの「3月までの契約」をウヤムヤにし、残っているはずのアッパー素材の在庫を消失させてしまいました。

 最終回の茂木の行動も、社会人としてあるまじき行為であることに疑いの余地はありません。ア社や小原のやり方を汚く描いておいて、それをやっつければ、社会通念上むっちゃ非常識な判断を行ったとしても許される、感動できる、という論法です。

 少なくとも上記3つの例は、原作では描かれていません。なぜなら、こうした約束事の破棄は、一方で宮沢が戦っているビジネス上の「清濁併せ飲もうよ感」や「時には妥協も必要だよ感」「契約だからしょうがないよ感」と同居できないからです。一本の作品の中で、求められるビジネスマナーの水準や仕事上の倫理感が一貫していなければ、経済小説として成立しないからです。

 これらの設定を、ドラマの脚本家が追加しました。結果、物語に振り幅が生まれ、見応えのあるシーンが演出されました。エモーショナルでリッチなドラマの一丁上がりです。これ、どちらがいいとか悪いとかいう話ではないです。好みの問題として、このやり方は好みじゃなかった。もっと視聴者を信じていいと思うし、もっと原作を信じていいと思うんです。なんか評判がよろしくないリトグリちゃんの歌なんかより、こういう「感動の押し売り」的なあざとさのほうが、よっぽど没入を妨げる要素だったと思います。

 

■後半の間延び感について

 

 結局最後まで見ていて、もっとも盛り上がったのは第6話のニューイヤー駅伝と今回の豊橋国際マラソンでした。宮沢社長を演じる役所広司は終始すばらしい、まったくすばらしいとしかいいようのない芝居でしたし、トリックスター気味に投入された松岡修造の、なんと達者なことか。風格で役所広司に対抗できる俳優が誕生したというのは、日本の映画・ドラマ界において大きな収穫だと思います。

 それでも、マラソンシーンの興奮には勝らなかった。特に7話以降の間延び感については、ちょっと見ていられないくらいでした。

『陸王』は宮沢社長が判断を繰り返す物語です。ひとつ判断すれば、次の危機が来る。それを判断で乗り越えれば、また新しい危機が来る。その繰り返しの中で、宮沢社長の中に成長が訪れ、判断基準や決断のプロセス、結果に対する熱量が変化していくのが面白いところなんですが、ドラマは宮沢社長目線ではなく、基本的には息子・大地と茂木くん目線で進むので、宮沢社長の内面描写がおざなりになっていた部分があると思うんです。

 深く悩んだり、それなりに周囲に感謝しながら判断を下しているそのプロセスの中で、何度も「ただのヒステリックおじさん」に見えてしまう場面があった。これは物語の構造的な問題なので、作りようによって解決できたかどうかは難しいところだと思うんですが、主人公周辺が盛り上がりに欠けたのは、そんなところが原因なのかなと思います。

 とはいえ、面白かったし、好きな作品ではあるんですよ。第1話からチャキチャキ阿川さんはずっとキュートでしたし、第5話の馬場徹さんの「新しい陸王、完成したら、私、買います」には心底痺れたし、第6話の音尾くんの「バテるに決まっとろうが!(号泣)」には私も泣かされました。大手への就職が決まったのに、こはぜ屋に残ると言った大地と、その大地を諭す社長でもあり父親でもある宮沢の姿もよかった。正直、このレベルで作り込まれた作品って、少ないと思います。豪腕、達人、巨匠……福澤克雄監督と福澤組のみなさんには、どんな賛辞だって惜しくない。だからこそ、なんというか、もうちょい視聴者を信じてほしいと思っちゃうんですよねえ。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

20.5%『陸王』最終回に見たスポ根ドラマとしての完成度と「感動の押し売り感」の正体

 日曜劇場『陸王』(TBS系)も最終回。視聴率は20.5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、最後の最後で大台に乗せました。おめでとうございます。数字に恥じない、熱のこもった最終回だったと思います。そんなわけで、振り返りです。

前回までのレビューはこちらから

 世界的アウトドアメーカー・Felixの御園社長(松岡修造)から提案された買収計画を、ギリギリで断った足袋業者・こはぜ屋の宮沢社長(役所広司)。代わりに考えてきた業務提携案には色よい返事をもらえず、新たな取引先を探すべく奔走中です。

 こはぜ屋には独自の技術であるシルクレイがありますが、先日製造機がぶっ壊れたので、最低でも1億円くらいないと生産を再開できません。とあるヘルメットメーカーが話を聞いてくれたりもしましたが、天敵であるアトランティス社(以下、ア社)の小原(ピエール瀧)が裏から手を回し、結局ご破算に。そんな折、例の御園社長から電話がかかってきます。

「ということは、Felixは我々を支援してくれるということでしょうか?」

 一度は断った業務提携を、御園社長は飲むといいます。3億円の融資をすると。ただしその条件は厳しく、返済期限は5年。最初の3年間はFelixからの発注を確約するが、それ以降は一切の保証なし。で、5年で返せなければ、こはぜ屋を乗っ取ると。

 悩む宮沢でしたが、やはり陸王への思いは断ち切れず、この融資を受けることにしました。

 

■アトランティスの茂木、RIIを履く

 

 一方、実業団ランナーの茂木くん(竹内涼真)は、再びア社とサポート契約を結びました。ケガをしたらサポートを打ち切り、治ったら今度は実業団チームそのものを人質にとって契約を迫るア社のやり方には不満タラタラですが、カリスマシューフィッターの村野さん(市川右團次)も「今度のRII(アール・ツー=ア社の看板シューズ)は悪くない」と言ってるので、再起をかける豊橋国際マラソンにはRIIを履いて出場することになります。

 そんな茂木くんを、こはぜ屋一同は応援に行くことに。宮沢社長にとって豊橋国際といえば、レース中にケガに倒れた茂木くんを目の当たりにし、陸王開発に乗り出した思い出の大会。たとえ茂木くんが陸王ではなくRIIを履くとしても、応援したい気持ちに変わりはありません。

 ところで、こはぜ屋にはまだ1足だけ、茂木モデルの陸王が残っています。飯山さん(寺尾聰)が開発したシルクレイに、社長の息子・大地(山崎賢人)が探してきたアッパー素材を、あけみさん(阿川佐和子)たち縫製おばちゃん軍団が縫い付け、カリスマシューフィッター村野さんがカリスマ的な調整を施したスペシャルな陸王です。しかし、今や茂木くんはア社と契約の身。豊橋国際で陸王を履くことは許されません。

 それでも、こはぜ屋一同の思いを知った村野さんは、こっそりこの陸王を茂木に手渡します。「持っていてくれるだけでいいからと。RIIを履くことを知りながら、お前のことを応援したいと、そういう連中の気持ちそのものだ」と。

「心が温かくなります……」

 茂木くんもうれしそうです。

 

■アトランティスの茂木、陸王を履く

 

 そうして迎えたレース当日。RIIを履いて準備に余念のない茂木くんに、大学時代からのライバル・毛塚(佐野岳)が声をかけます。

「おい、完走はしろよ。この前みたいに棄権なんていう無様なオチは許さねえ」

 2年前の豊橋国際で明暗が分かれた茂木と毛塚。それ以降、2人の差は広がるばかりでした。その間、ニューイヤー駅伝で茂木が毛塚に勝る結果を残したこともありましたが、世間の評価は覆っていません。日本人トップなら世界陸上への出場が約束されるこのレース。毛塚にとっては、単なる通過点でしかありませんでした。

 ちなみに、こはぜ屋は会社を休んで社員全員で応援に来ていますが、大地だけはまだ現場についていません。就活中の大地はこの日、当初からの第一志望だった大手企業・メトロ電業の最終面接なのです。終わったら新幹線で来るそうです。

 レース前、練習している茂木くんに、宮沢社長は、神社で願掛けしてもらったという手編みの靴ひもを手渡します。「お守り代わりに、持っててください」と。

 またいたく感動してしまった茂木くん、RIIを脱ぎ捨て「俺はこの陸王を履きます」とア社・小原に宣言。当然、契約違反ですし小原は激怒しますが、どうやら本気のようです。

「今のこはぜ屋さんは、2年前の俺なんです」

 陸王を履いてスタート地点に現れた茂木くんを見て、こはぜ屋一同は超びっくり&大感動。何しろ、履く履かない以前に、この陸王が茂木くんの手に渡っていることすら知らなかったので、ほぼ全員号泣のままレースがスタートします。

 

■マラソンドラマとして見どころ満載

 

 レースは、先行するケニア勢を毛塚と茂木が追う展開。先頭集団から、同大会2連覇中のサイラス・ジュイ(本人)が飛び出すと、毛塚と茂木も集団を置き去りにして三つ巴の状態に。

 40キロ過ぎにサイラスが脚を痛めてリタイア。毛塚と茂木の一騎打ちとなり、最後は茂木が毛塚をかわして優勝を果たします。

 このレースシーンが、単純にスポ根の魅力に満ちていて非常に楽しかったです。

 スタート直前、毛塚は、茂木がRIIから陸王に履き替えていることに気付きます。

毛「結局、そっち履いたんだ」

茂「ああ」

毛「いい靴なんだな、それ」

茂「最高だ」

 これまで、毛塚は陸王を見るたびにバカにしてきました。そして、陸王を履く茂木のこともバカにしてきました。しかしここにきて、ようやく茂木を、そして陸王を認めたのでした。静かなやり取りでしたが、大きな意味を持つシーンです。

 30キロ過ぎ、毛塚は給水を一度飛ばし、勝負に出ます。茂木も毛塚も、かつて箱根を制した登りのスペシャリスト。ゆるい登りが続くこの区間が勝負どころでしたが、給水のタイムロスを嫌ってリスクを取った毛塚がリードします。

 35キロ。先行する毛塚が、今度は給水に失敗。ボトルを落としてしまいます。30キロ地点の給水を飛ばしている毛塚にとっては、致命的なミス。しかし茂木はこれをチャンスと受け取らず、自分のボトルを毛塚に手渡します。なんてフェアな! 実際、マラソン中継ではしばしば見られる光景ですが、ドンピシャな演出です。これで盛り上がらないはずがありません。

 38キロ。もっとも苦しい距離ですが、並走する2人は実に楽しそうです。互いの実力を認め合ったアスリート同士の、2人だけの世界が描かれます。もはや経済ドラマを見ていることも忘れそうです。どこのシューズを履いてるとか、どうでもよくなってきました。

 40キロ。2年前に茂木が倒れた同じ地点で、トップを走るサイラスが脚を痛めました。路上に這いつくばるサイラスを見て、茂木は動揺を隠せません。しかしそこには、宮沢社長と息子・大地の姿がありました。

 茂木にとっても、こはぜ屋にとっても、すべてはこの場所から始まったのでした。

 宮沢が叫びます。

「陸王を信じて走れ、茂木──!」

 ああ、お見事。茂木が勝つことはドラマ的に当然なんですが、ここまで説得力を持ってマラソンシーンを描かれたら、もう感服するしかありません。

 レース後、敗者となった毛塚は茂木に握手を求めます。茂木には、ケガで低迷していたときにサポートスタッフとして参加したレースで、好成績を残した毛塚に握手を求めて無視された記憶があります。その毛塚が、自ら茂木に握手を求めてくるのです。

「つええな……。次は、俺が勝つ」

 なんて爽やか! 清々しいスポ根! 面白かったー!

 

■『陸王』全話における“感動と約束事”のトレードオフ

 

 レース後、勝利者インタビューで茂木くんは、陸王を掲げて「この陸王に支えられました」と、堂々と話します。「こはぜ屋のみなさんに、今日の優勝は捧げたいと思います」と。

 ア社の契約ランナーなのに。まだ契約破棄の手続きだってしてないはずなのに。レースでRIIを履かないだけでも大問題なのに、よりによって競合他社製品を大々的に宣伝している。結果、陸王は大ヒット商品になり、こはぜ屋は工場を増築。Felixからの融資にも返済の目処が立ったようです。一方、ア社の小原は左遷されてしまいました。契約不履行された上に職を解かれる小原さん、かなり不憫です。

 もちろん、インタビューで陸王に感謝を述べる茂木くんの姿はカッコいいし、感動的なんです。だけど、これはないですよ。片方でFelixとこはぜ屋の「買収か業務提携か」という契約の話を何週にも渡って条件の細部までシビアに語っておいて、もう片方で茂木とア社、茂木が所属するダイワ食品とア社との契約について、茂木の「謝罪します」の一言で済ましちゃうというのは、まるで筋が通ってないですよ。

『陸王』では、こうした感動と約束事のトレードオフがしばしば行われてきました。第1話では、おばちゃんたちの行動を献身的な美談として語るために「サービス残業」を肯定する描写がありました。

 第9話では、大地の頑張りを強調しつつ「最後の陸王」を演出するために、タチバナラッセルとの「3月までの契約」をウヤムヤにし、残っているはずのアッパー素材の在庫を消失させてしまいました。

 最終回の茂木の行動も、社会人としてあるまじき行為であることに疑いの余地はありません。ア社や小原のやり方を汚く描いておいて、それをやっつければ、社会通念上むっちゃ非常識な判断を行ったとしても許される、感動できる、という論法です。

 少なくとも上記3つの例は、原作では描かれていません。なぜなら、こうした約束事の破棄は、一方で宮沢が戦っているビジネス上の「清濁併せ飲もうよ感」や「時には妥協も必要だよ感」「契約だからしょうがないよ感」と同居できないからです。一本の作品の中で、求められるビジネスマナーの水準や仕事上の倫理感が一貫していなければ、経済小説として成立しないからです。

 これらの設定を、ドラマの脚本家が追加しました。結果、物語に振り幅が生まれ、見応えのあるシーンが演出されました。エモーショナルでリッチなドラマの一丁上がりです。これ、どちらがいいとか悪いとかいう話ではないです。好みの問題として、このやり方は好みじゃなかった。もっと視聴者を信じていいと思うし、もっと原作を信じていいと思うんです。なんか評判がよろしくないリトグリちゃんの歌なんかより、こういう「感動の押し売り」的なあざとさのほうが、よっぽど没入を妨げる要素だったと思います。

 

■後半の間延び感について

 

 結局最後まで見ていて、もっとも盛り上がったのは第6話のニューイヤー駅伝と今回の豊橋国際マラソンでした。宮沢社長を演じる役所広司は終始すばらしい、まったくすばらしいとしかいいようのない芝居でしたし、トリックスター気味に投入された松岡修造の、なんと達者なことか。風格で役所広司に対抗できる俳優が誕生したというのは、日本の映画・ドラマ界において大きな収穫だと思います。

 それでも、マラソンシーンの興奮には勝らなかった。特に7話以降の間延び感については、ちょっと見ていられないくらいでした。

『陸王』は宮沢社長が判断を繰り返す物語です。ひとつ判断すれば、次の危機が来る。それを判断で乗り越えれば、また新しい危機が来る。その繰り返しの中で、宮沢社長の中に成長が訪れ、判断基準や決断のプロセス、結果に対する熱量が変化していくのが面白いところなんですが、ドラマは宮沢社長目線ではなく、基本的には息子・大地と茂木くん目線で進むので、宮沢社長の内面描写がおざなりになっていた部分があると思うんです。

 深く悩んだり、それなりに周囲に感謝しながら判断を下しているそのプロセスの中で、何度も「ただのヒステリックおじさん」に見えてしまう場面があった。これは物語の構造的な問題なので、作りようによって解決できたかどうかは難しいところだと思うんですが、主人公周辺が盛り上がりに欠けたのは、そんなところが原因なのかなと思います。

 とはいえ、面白かったし、好きな作品ではあるんですよ。第1話からチャキチャキ阿川さんはずっとキュートでしたし、第5話の馬場徹さんの「新しい陸王、完成したら、私、買います」には心底痺れたし、第6話の音尾くんの「バテるに決まっとろうが!(号泣)」には私も泣かされました。大手への就職が決まったのに、こはぜ屋に残ると言った大地と、その大地を諭す社長でもあり父親でもある宮沢の姿もよかった。正直、このレベルで作り込まれた作品って、少ないと思います。豪腕、達人、巨匠……福澤克雄監督と福澤組のみなさんには、どんな賛辞だって惜しくない。だからこそ、なんというか、もうちょい視聴者を信じてほしいと思っちゃうんですよねえ。
(文=どらまっ子AKIちゃん)

15.7%『陸王』ストーリー停滞、最終回直前で「こはぜ屋」の誰もが信用できなくなっていく……

 17日に放送された日曜劇場『陸王』(TBS系)最終回直前の第9話は25分の拡大版でした。視聴率は15.7%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と好調ではあるものの、ちょっと伸び悩みな感じです。

 そして視聴率以上に、お話は停滞しています。正直、第6話のニューイヤー駅伝のくだりから急激に進展しなくなった物語にイライラが募るばかりです。瞬間瞬間の画面の強さや俳優さんたちの芝居の良さはあるので、ドラマが出力を失ったわけではありません。だからこそ、フラフラしてる宮沢社長以下こはぜ屋の面々が信用できなくなっていくのがつらいところです。

 というわけで、振り返りましょう。

前回までのレビューはこちらから

 世界的スポーツメーカーFelixの御園社長(松岡修造)に買収話を持ちかけられ、「すぐにでも3億出資する」と言われてホイホイと固い握手をかわしてしまった宮沢社長(役所広司)でしたが、社内からは当然のように猛反発。さらに、銀行の融資担当・大橋さん(馬場徹)からも「(買収されれば)相手の思い通りにするしかなくなる」と諭され、再びフラフラと迷いだします。いわく「買収を受け入れて陸王を続けるか、足袋屋に戻るか」の選択肢しかないといい、「俺は陸王を続けたいんだ」と決意を述べます。

 もっとも強く反発しているのが、これまで宮沢社長に理解を示してきた縫製おばちゃん軍団のリーダー・あけみさん(阿川佐和子)でした。

「私が会社を売ることに賛成することは絶対にない、絶対にない」

 と、大切なことなので2回言ったりします。今回、こはぜ屋パートでは、このあけみさんを説得するだけで、フルに1時間半を使います。長いよ。

 そもそもこのドラマは、こはぜ屋という老舗足袋業者が「100年の暖簾」とやらを“もう守れない”という状況から始まっています。足袋の需要が減って、もうこのままでは先も長くない。だから新規事業を始めなければいけない。よし、「陸王」で頑張ろう。そういう話だったのに、最終回前の大詰めまで来て「足袋屋に戻る」ことへの逡巡が語られる。「足袋屋に戻る」ことは、ドラマの序盤で「イコール倒産」と、すでに定義されているはずなのに、社員がそれを求め、社長も迷う。そりゃ気持ちがわからないわけじゃないけど、3話も引っ張られたら、さすがに嫌気が差してしまいます。あんなにキュートだった阿川さんも、なんだか憎たらしく見えてくる始末です。「感情論じゃどうしようもない」ということを視聴者に一度飲み込ませておいて、今さらそこをグチグチ言われても、ねえ……。

 

■急にアッパー素材が手に入りました

 

 一方、宮沢社長以上に陸王をあきらめられないのが、社長の息子・大地(山崎賢人)です。織物業者・タチバナラッセルの不義理によってアッパー素材の供給が止まることになって以来、一人であちこちの繊維業者、織物業者へ折衝に訪れては、門前払いされる日々。それでも、大地は陸王を作りたくて仕方ありません。初めて自分の人生に意味を与えてくれたのが陸王だった、ということは、ここまで丁寧に描写されているので、よくわかります。この人の行動は、信用できるんです。

 でも、この人はいつも結果が信用できないんだ。この日、アポを取って訪れたタテヤマ織物という会社で、担当者にドタキャンされ、受付で夕方まで待ち続けた大地。その姿をチラ見していたおじさんに会議室に招かれると、いきなり「お手伝いさせていただきます」とアッパー素材の提供を申し出られました。こはぜ屋の財務状況も、現状ソール材であるシルクレイを作る算段がないことも、説明したのかどうか知りませんが、「ある意味ブレイクスルーだ」と、実に物わかりのいいおじさん。社内で検討する必要もないそうです。なぜなら社長だから。しかも、サンプル材を持って帰ってみたら、タチバナ以上の優秀な素材なんだとか。もう、おとぎ話の世界です。

 大地は、1足分だけ残っている茂木モデルの陸王を作りたいといいます。茂木(竹内涼真)といえば、そもそも陸王プロジェクトのきっかけになった実業団選手。ケガこそ克服したものの、記録的には伸び悩んでいる様子。しかも、一度は陸王でサポート契約をしたのに、こはぜ屋の都合でご破算にしてしまった過去もある。まだ応援している気持ちを伝えたいから、陸王を1足作って贈りたいと。そのために、アッパー素材を探してきたのだと。

 あれー? と思ったんですよ。タチバナは確か、こはぜ屋との契約を切るときに「3月までは納品する」と言ってなかったっけと。結果、シルクレイ製造機が火を噴いたことで陸王の製造はストップしましたが、その時点で大量生産をかけているということは、タチバナからの納入も止まってないはず。現時点で「タチバナの素材の在庫がない」という状況があるとすれば、宮沢社長が「製造機がブッ壊れたから、もう素材は買えない。今あるものも返品する」とタチバナに申し出た以外には、あり得ないケースです。あれほど「裏切り者!」と面罵したタチバナに対して、そういう仕打ちをしているわけで、やっぱり信用できない人だよなぁとなってしまう。些末なことではあるんですが、会社と会社との契約云々で散々引き延ばされている中での出来事なので、どうしても気になってしまいました。

■村野さんも坂本さんも信用できなくなった

 

 ただ1足の陸王を茂木くんに納入するため、こはぜ屋はシューフィッター・村野さん(市川右團次)を呼び戻すことに。最初は「茂木を迷わすだけだ」と協力を固辞していた村野さんでしたが、飯山ちゃん(寺尾聰)に何か言われたら、あっさり翻意。出来上がった陸王を見て「1mmカカトを深くして!」とか指示を出したり「完璧です!」と感動してみたり、こちらもブレブレです。

 さらに、買収話を持ってきたベンチャーキャピタルの坂本ちゃん(風間俊介)も手落ちがひどい。宮沢社長が買収ではなく業務提携を模索することにした段になって初めて、これまでFelixに買収された企業がどうなったかを調べる有様です。それまで「買収は有益」「これしかない」「こはぜ屋を守れる」と言い続けてきた坂本ちゃん、実は何も調べてなかったことが露呈しました。坂本ちゃんの提案通り買収されてたら、あっという間に、こはぜ屋はなくなっていたということです。

 こうしたブレを、このドラマでは、セリフの“振り返しの一撃”で逆転させようとしています。誰かのひと言で誰かの心変わりを促し、説得力を生もうとしている。まだ物語の全容が見えていなかった序盤は、それも効果的だったんです。大地が、大橋さんが、あけみさんが、ギュッと力を込めて発するセリフのひとつひとつが、ドラマに大きな展開を与えていたし、そこに爽快感があった。

 でも、ここまで状況が煮詰まっている終盤では、セリフひとつで状況を逆転させる手法に無理が生じているように感じます。物語が、どんどんほころんでいくように見えるのです。

 

■唯一信用できる男・松岡修造

 

 そんな中、Felixの御園社長だけはブレていません。威風堂々とした振る舞いは迫力がありますし、妻の命を奪ったハリケーンの名前を社名にしたというエピソードもサイコっぽくて素敵です。業務提携を持ちかけられたときに「買収の方が簡単」と繰り返す様も、信念が感じられて実に信用できる。なぜ御園社長が信用できるかといえば、まだ出てきたばっかりでよくわからない人だからというだけなんですが、ともあれ『陸王』の最終盤を下支えする見事な配置ですし、松岡さんの演技も要求に十分応えていると感じます。

 ともあれ、次回は最終回。いろんなモヤモヤは忘れて、ただ画面に身を委ねたいと思います。いろいろ書いたけど、楽しんで見ていることだけは間違いないのですよ。ホントに。
(文=どらまっ子AKIちゃん)